2012年9月4日(火)

シリアの対立 ゴラン高原に飛び火

傍田
「シリア情勢の今後を左右するとも言われる北部の主要都市アレッポでの戦闘は、政府軍の地上部隊が街の中心部に入り、大規模な攻撃に乗り出しました。」
 

鎌倉
「市民の犠牲がさらに増えることが懸念され、国連などの新たな特使に任命されたブラヒミ氏も停戦の可能性について厳しい見方を示しています。」

内戦状態続くシリア 特使“停戦の可能性薄い”

爆弾を投下する戦闘機。
シリアの反政府勢力がインターネット上に公開した映像です。



 

3日、シリア北部の主要都市アレッポでは政府軍が住宅地を狙って激しい空爆を加え、35人が死亡しました。

シリア国内にいる反政府勢力の活動家によりますと、政府軍は、現地時間の4日朝、アレッポ中心部に地上部隊を進め、ヘリコプターも投入して、陸と空から大規模な攻撃を開始したということです。

こうした中、反政府勢力の有力幹部がNHKのインタビューに応じ、アレッポでの戦闘について「市街地の6割を制圧した」と述べる一方、政府軍による激しい空爆で一進一退の攻防が続いていることを明らかにしました。

自由シリア軍 マリキ・クルディ副司令官
「政府軍から極めて激しく破壊的な反撃を受けている。
戦闘機による攻撃が非常に活発に行われている。」


 

一方、シリア国内の情報を集めている人権団体によりますと、先月、8月にシリア全土で死亡した人の数は4960人で、シリアで反政府運動が始まった去年(2011年)3月以来、1か月間の死者数が最悪となったということです。

シリア情勢の悪化を受け、国連などの新たな特使に任命されたブラヒミ氏も、停戦の見通しについて厳しい見方を示しました。

シリア問題担当 ブラヒミ特使
「いかに困難な任務か理解しています。
不可能に近いでしょう。
重責に身が縮む思いです。」

シリア対立 ゴラン高原に飛び火

傍田
「そして、内戦状況で深まる対立は周辺にも飛び火しています。」

鎌倉
「隣国のイスラエルに占領されているシリア領のゴラン高原では、これまでアサド政権支持で結束してきた住民の間に亀裂が生じています。」

辻記者
「街のいたるところにあるのは、このようにアサド大統領の写真やシリアの国旗。
しかし、ここはシリアと最も敵対するイスラエルが占領しているゴラン高原です。」

 

1967年の第3次中東戦争で、イスラエルがシリアから奪ったゴラン高原。

イスラエルが一方的に併合を宣言した今も、人々はイスラエル国籍を取得するのを拒み、シリア人としてのアイデンティティーを守ってきました。 アサド政権がゴラン高原をイスラエルから取り返してくれると信じていたからです。

精肉店を営むハッサン・ファハルディーンさん。
シリア国内で起きている戦闘は、欧米や湾岸諸国など、外国勢力が引き起こしたものだと考えています。

アサド派 ファハルディーンさん
「今、シリアで起きていることはアメリカやトルコ、湾岸諸国などによる謀略です。
シリアは本来1つにまとまっていたのに、こうした国が分裂をもたらしたのです。」


 

「頑張れ、アサド」

この日、窮地に立たされるアサド政権を支持する大規模な集会が行われました。

ファハルディーンさんは、集会の主催者の1人として、改めて政権への強い支持を訴えました。

ファハルディーンさん
「ここに集まった多くの人が、みなアサドを支持している。」



 

一方で、今、アサド政権支持で団結していた住民の間に、亀裂が生じています。

辻記者
「シリアで弾圧を続けるアサド大統領に対する沈黙の抗議が行われています。
参加者が持つ白いプラカードは、『流血の事態を止めよ。それ以上言うことはない』というメッセージだということです。」

 

シリア国内が内戦状態に陥り、犠牲者が増える中、アサド大統領をこれ以上支持出来ないと、公けに表明する人たちが現れているのです。
ろうそくで表したのは、『自由』という言葉でした。


 

参加者
「弾圧や独裁者に対抗している人々が求める革命や自由、平等の価値観を支持します。」

デモに参加した、マフムード・アマーシャさんです。

ふるさとを流血の地に変えてしまったアサド政権は支持出来ない、と考えるようになりました。

反アサド派 アマーシャさん
「やるべきことはアサド政権を葬り去ることです。
人々が政権による犯罪行為を知るにつれ、ゴラン高原でも反アサドの動きは止められなくなってきているのです。」

 

しかし、反対の声をあげることは、容易ではありません。
アサド大統領の支持者から、自宅に石を投げられるなどの嫌がらせを受けるようになりました。

さらにアマーシャさんは、アサド政権を支持する若者に車ではねられ、腰の骨を折る大けがをしました。
相手は単なる事故だと主張していますが、アマーシャさんは反対の声をあげたことへの報復だと感じています。

イスラエルにふるさとを占領され、共に耐えてきた同胞との関係にもひびが入る中、アマーシャさんは深い悲しみと憤りを感じています。

反アサド派 アマーシャさん
「私たちの間で互いに殺し合うことは、絶対に避けなければいけません。
イスラエルの占領だけで、もう十分苦しみを味わっているのですから。」


 

シリア国内での対立が飛び火したゴラン高原。
これまで占領下でまとまってきた人々の間に、対立の火がくすぶり始めています。

ゴラン高原 アサド政権との関係

鎌倉
「ここからは現地で取材にあたった辻記者に聞きます。
ゴラン高原に住むシリアの人たちは、そもそもはアサド政権に対してどのような立場を取ってきていたんでしょうか?」

辻記者
「イスラエルに占領されたあとも、ゴラン高原のシリア人は、いつかはアサド政権が占領から解放してくれるだろうと信じて、親アサドの立場を貫いてきました。
また、ゴラン高原のシリア人の多くは、イスラム教シーア派の流れをくむドルーズ派と呼ばれる人々で、アサド大統領らのアラウィ派との共通点も多いんです。
さらに、同じ少数派としてアサド政権の崩壊は、自分たちに影響が及びかねないと心配しています。
また、アサド政権に反発を持っている人でも、シリア側に留学や結婚などで親戚がいる人は、政権側による報復が親戚に及ぶ恐れがあるために、抗議の声をあげるのは簡単ではありません。
こうしたことから反アサドの声はあがり始めてはいますが、現時点ではデモに参加する人の数も限られ、それも比較的穏やかな抗議の仕方となっているんです。」

シリア情勢 イスラエルの懸念

傍田
「一方で気になるのがイスラエルの側なんですけれども、イスラエルはシリアの今の状況がゴラン高原、そしてイスラエルとの関係に、どういった影響を及ぼすというふうに見ているのでしょうか?」

辻記者
「イスラエルはアサド政権の崩壊は避けられないという見方です。
その上で大きく2つのことを懸念しています。
まず1つは、トルコやヨルダンのように、シリアからの大量の避難民がゴラン高原に押し寄せてくるというシナリオです。
ゴラン高原は1973年の第4次中東戦争以降、国連の平和維持部隊が展開して、日本の自衛隊も加わって、平穏な状態が保たれてきました。
しかし去年(2011年)、パレスチナ難民のグループが国境に押し寄せ、フェンスを破って越境し、死者が出る事件も起きています。
ゴラン高原に駐留する国連の司令官も、シリア情勢の悪化で、平和維持活動が困難になる事態を懸念しています。」

国連PKO部隊 ナタリオ・エカルマ司令官
「国連部隊が直接攻撃されたことはまだないが、戦闘の巻き添えになる可能性はある。」


 

辻記者
「もう1つイスラエルが心配しているのは、アサド政権が崩壊した場合に、シリアが持っている化学兵器などの武器が、イスラム過激派などの武装勢力に渡ってしまうことです。
なかでもイスラエルが特に懸念しているのが、シリアの隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの手に渡ることです。
多くの勢力や宗派が交錯するシリア情勢の行方は、イスラエルだけではなく、中東全体の安定にとって、目が離せないものとなっています。」

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