JR駅構内で女性のスカート内を盗撮したとして、東京都迷惑防止条例違反容疑で警視庁四谷署の取り調べを受けていた日本アイ・ビー・エム(IBM)の大歳(おおとし)卓麻前最高顧問(63)。近く書類送検される見通しだが、“脱線行為”の代償は大きく、メガバンクの社外取締役など数々の要職もフイにすることになった。10年以上もトップに君臨した華麗な経歴のエリートに何が起こったのか。
前最高顧問は今月22日午前8時ごろ、JR四ツ谷駅構内のエスカレーターで、携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」内蔵のカメラで女性のスカート内を盗撮した疑い。容疑を認め「盗撮に興味があった」と話しているという。
日本IBMによると、事件後、「個人の都合」として最高顧問を辞任。社外取締役を務めていた三菱UFJフィナンシャル・グループ、明治安田生命保険、花王、TOTO、カルビーの5社も辞めたほか、経済同友会には本人から退会の申し出があった。総務省の諮問機関、情報通信審議会の会長も辞任した。
東大工学部卒で、71年にIBMに入社。米国本社に赴任した際には、カリスマ経営者、ルイス・ガースナーの社長補佐を務め、IBMの大改革を目のあたりにした。
「上からの信頼が厚く、社長レースでも本命中の本命だった」(IBM関係者)という評判通り99年に社長就任、2008年に会長を兼務、09年に会長専任となった。
人心掌握術については評価する声もある。
「女性や非正規雇用の活用、ワークシェアなどダイバーシティ(多様化)推進の先頭に立っていた。実際、大歳さんが社長になってから、同じ能力なら圧倒的に女性の方が早く出世する会社になった」と同社中堅社員は明かす。
一方、業績面では「IBM崩壊の道筋をつけてしまった人」(同)との厳しい評価もある。
「日本法人は約10年にわたり業績悪化が続いている。全社的にはハード(機器)からソフトやサービスへの路線転換で成功しており、日本法人の地盤沈下が目立った」(ITジャーナリスト)
日本人トップの下で独立路線を歩んできた日本法人も今年5月には56年ぶりに外国人社長が就任、大歳会長も最高顧問に退いた。
それから約3カ月後の事件。「仕事が終わってホッとしてしまったのか」と前出のIBM関係者はため息をつく。
自身のフェイスブックでは、今年2月の東京マラソンで両手を挙げてピースサインをしながら力走する様子や、キリマンジャロ登頂など健全な姿が掲載されているが、ランナーズハイでも得られない快感があったのだろうか。