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視点・論点 「読書のすすめ」2012年08月20日 (月)
読書普及協会理事長 清水克衛
読書のすすめの清水と申します。読書のすすめという屋号の書店をやり始めてお陰様で17年になります。東京の江戸川区篠崎という町でやり始めました。東京の端っこで、駅からも徒歩10分くらいのところです。この場所で書店なんかやっても無理だと色々な方に言われました。そして、こうも言われました。「江戸川区で本なんて読む人いないよ」
このとき屋号を「読書のすすめ」という名前にしようと思いました。当時から読書離れと言われており、本の魅力を失っていたのではないかと思います。しかし、1冊の本の出会いで人生が大きく変わる。読書とはとても魅力的なものの筈である。そう思っております。
私自身もそのような経験をいくつかしています。
小学生の頃、いじめに遭っている子を助けた時、次の日に待ち伏せされ逆に袋だたきにあってしまいました。その時子供心に悔しくて「強くなりたい」と思い空手を習うことにしました。そうすると、空手家や武道家などの本を読みたくて仕方なくなりました。それに続き、宮本武蔵の本や、吉川英治の本に興味が湧いて片っ端から読みたくて読みたくて。
このように読書とは、読まなければならないものではなく、まず読みたいと思うことが大事なのだと思うのです。しかし、どうも読書にたいするイメージが「読まなければならないもの」と考えてカタッ苦しくなっているのではないでしょうか。
明治の初め頃、学問のすすめという福沢諭吉が書いた本が当時大ベストセラーになりました。人口が3000万人と言われている時代に、なんと300万部も読まれたと聞きます。この本を読んだ当時の若者たちは、学問をすることによって、未来に大きな夢や希望を持つことを知ったのです。
今のように電気も電話もガスもなく電車も飛行機も遊園地やテーマパークなど、何もなかった所に僕らが作り出そうと、そう考えたのです。当時の若者たちは相当な読書欲があったのではないかと思っています。学びたいもので溢れていたのではないでしょうか。しかし、今の子供たちは未来に対する夢や希望が余りにも少ないような気がいたします。昔の日本人は今の子供たちのように娯楽が多くありませんでした。なので、子供の頃から伝記や講談などに接して、僕の憧れを持ちました。憧れを持つとその人に近づきたいという意欲が湧き、自ら成長しようと努力し始めます。例えば野口英雄に憧れた子は、医者になろうと自ら学び、努力します。近頃ですとイチローの伝記などが出版されています。野球が好きな子供がイチローの伝記を読んで、その中でイチローが子供の頃から毎日千回素振りをしたとあれば、自ら喜んで素振りをするでしょう。メジャーリーガーになろうと思えば英語も自ら学ぶでしょう。大工さんになりたい子供がいれば、数学を勉強するのがとても楽しいことになるでしょう。大工の棟梁が書いた本など読みたくて仕方なくなるにちがいありません。
このように小学校の低学年のうちになるべく伝記などにふれる機会を持たせてあげれば、読書はしたくてしたくてしかたないものになるのではないでしょうか。
もう一つ伝記の良いところは、諦め方が決して書かれていないところです。
伝記に登場するような人物は必ず大きな挫折にあいます。そして、それを乗り越えます。
ところで皆さんはイソップ寓話のウサギとカメのお話はご存知でしょうか?ウサギとカメが競争をし、ウサギがサボってる間にカメが先にゴールをしてしまうというお話でした。
ここで皆さんに質問です。
ウサギとカメが競争をしたわけですが、ウサギとカメ、どちらが先に競争しようよと言ったでしょうか?
この問題の正解はカメでした。
「もしもし亀よ亀さんよ」という童謡の2番の歌詞で答えが言われています。
「なんと おっしゃる うさぎさん そんなら おまえと かけくらべ むこうの おやまの ふもとまで どちらが さきに かけつくか」
この質問をいろいろなところでしているのですが、だいたい7割から8割の方が「ウサギ」と答えられます。「ウサギ」と答えた方は、カメが自分が不利な勝負を自らするわけがないと考えたのではないでしょうか。
今の子供たちには、カメ的な生き方を教えてあげたい。夢や希望を持ったら、そのゴールに向かって、人と比較せずコツコツとその道を楽しく歩んで行く。そうすれば、勉強も読書も楽しく自ら進んでするようになります。
それを阻んでいるのは大人ではないでしょうか。
先日、大きくなったらアンパンマンになりたいという可愛い女の子がいました。
そこで私は「君ならなれるよ!」と言ったら、横にいたお母さんが「バカなこと言わないでよ」と叱っておられました。
先日聞いた話ですが、阪神淡路大震災で被災した当時の子供達は、17年たって大人になり、消防士や警察官、お医者さんなどの職につかれた方がたいへん多いそうです。彼らは子ども心に、そういった職業にあこがれを持たれたのでしょう。とっても素敵なことですね。
さて「本は心の栄養」という言葉があります。いま、多くの方は体の栄養についてはとても関心を持っておられますが、心の栄養についてはほとんど無関心なのではないでしょうか。例えば食事を一食抜いたとしたら、私なんかはお腹がペコペコになってイライラしてしまいます。もし1日何も食べなかったら、もう動けなくなってしまうでしょう。また、一ヶ月何も食べない、栄養をとらなかったら干からびて死んでしまうかもしれません。(笑)
これを「本は心の栄養」という言葉に照らし合わせてみますと、1日本をまったく読まなかったら、心が元気をなくして動けなくなってしまうかもしれません。
この番組をご覧の方にはいらっしゃらないと思いますが、一ヶ月に一冊も本を読んでないなんていう方の心は、もしかして干からびちゃってカサカサになっているかもしれません。
いま私たちの国、日本では毎年3万人を下らない自殺者がいて、うつ病になってしまう方も増え、原発の問題や経済の問題などを考えてみますと、明るい未来を描くためには、心の栄養を満タンにしておきたいものです。そんなこと考えると、いまこそ読書のしがいがある時代なのではないかと強く思います。
ここに紹介したい本を1冊持ってまいりました。
『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』
喜多川泰さんという方が書かれた本です。
著者の喜多川さんは、いつも始めて本を読む人が読書を好きになってほしいということをイメージして書かれているそうです。
確かに、本をいままで読んだことがないという人にすすめると、みなさん本が大好きになってくれます。心の栄養が足りないかなーと、思う方はぜひ読んでみてくださいね。
本の出会いと人との出会いは似ています。
どうか素敵な出会いがありますように。
それでは、またどこかでお会いいたしましょう。