九電副本部長 原発資料の破棄指示____中日新聞2011年8月10日(水曜日)
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福島第ニも一時冷却不能 震災後3日間____中日新聞2011年8月11日(木曜日) |
福島の学校――被ばく語れぬ 空気 「危険」叫べず 教諭は辞めた ____中日新聞2011年8月11日(木曜日) |
再生エネは地産地消 飯田哲也さん____中日新聞2011年8月12日(金曜日) |
もんじゅ廃炉検討 原発共存の街 動揺____中日新聞2011年8月12日(金曜日) |
原発コスト最も高い 立命大・大島教授試算____中日新聞2011年8月16日(火曜日) |
「水素爆発 事前に予測せず」東電、調査委に説明___中日新聞2011年8月18日(木曜日) |
稼動40年 美浜2号機延命焦点 老朽原発 募る不信___中日新聞2011年8月18日(木曜日) |
泊原発再開は必然の流れ?蜜月 北海道電力と知事___中日新聞2011年8月19日(金曜日) |
福島第1新浄化装置が稼動 汚染水 なお外国頼み___中日新聞2011年8月22日(月曜日) |
■やらせ発覚後 2度の証拠隠滅 |
東日本大震災発生後の津波で、福島第ニ原発の原子炉を冷やす機能の一部が3日間失われていたことが10日、東京電力が公表した資料などで分かった。核燃料の過熱で原子炉格納容器が破損する恐れもあり、増田尚宏所長は国の事故調査・検証委員会の調査に「人海戦術でかろうじて対応できた。人手が足りなければ無理だった。危機一髪だった」と説明。福島第ニも危機的な状況に陥っていたことが浮かんだ。 |
福島県で一人のベテラン高校教諭が先月、退職した。原発事故後、被ばくを避けるように生徒らに再三指導していたが、管理職から「動揺を与えるな」と注意された。被ばくの不安を抱えつつも、仕事の事情などで避難できない県民が大半という現実。そこでは「被ばく」という話題そのものへのいら立ちが募っている。高校教諭が直面したのも、そうした無言の壁だったのだろうか。 (篠ケ瀬祐司、中山洋子) |
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■不安あおるな
「危険を知りながら、子どもたちへ伝えられない自分に耐えられない。彼らが被ばくするのを見ているのもつらい」 福島第一原発から約60キロ離れた県立福島西高校(福島市、生徒数871人)を退職してから1週間足らず。宍戸俊則さん(48)は苦し気な表情を浮かべ、同校を辞めた経緯を語り始めた。 宍戸さんは原発事故発生直後はできる限り、表に出ずに過ごした。 新学期が始まると、生徒らに「健康を害する恐れがあるから教室の窓を閉め、マスクをした方がいい」と呼びかけた。 |
顧問を務めたソフトテニス部の屋外練習も最大2時間に限るようにした。 |
被ばく防止に努力したが、高校教諭を辞めた宍戸さん=福島市で |
たしかに県は危険の広報に消極的だった。 「県は放射線量が高い時に『安心』を強調する学者を呼び、その話はマスコミを通じて繰り返された。結果的に多くの県民が被ばくした。住民も被爆後の不安を認めると、いたたまれなくなってしまう。だから『不安がって暮らしていけない』と言うしかない」 宍戸さんは学校を去る際「生徒たちには不安があったら手伝うよ、不安は表現してもいいんだと伝えた」。 こう語る宍戸さんの目に光るものが浮かんだ。 ←JR福島駅前では暑さもあってか、マスクをつけた人はほとんど見かけない=5日、福島市で |
管理職・県は圧力否定 | |
宍戸さんが務めていた福島西高校では、グラウンドの表土をはがす工事が続いていた=5日、福島市で |
■20ミリシーベルトが呪縛 宍戸さんが勤めていた福島西高校は先月下旬からグラウンドの表土を削り、新たな土を入れる工事が進められている。 同校の井戸川方志教頭は「(宍戸さんに)長そでを着てマスクをつけるように言ってはいけない、と指導したことはない。授業内容が薄手になっているという苦情が生徒や保護者から入っていると伝え、話の仕方や授業時間の使い方に気を付けてほしい、生徒に動揺を与えないように、という話をした」と説明する。 「宍戸さんは教員会議で放射線量が高いと指摘していた。それぞれの物差し(判断基準)で高い低いはあると思う。しかし、学校としては文部科学省の基準で判断するしかない」(同教頭) 文科省は4月19日、子どもの年間被ばく線量限度を20ミリシーベルト(毎時3.8マイクロシーベルト)と規定。同校は限度を下回っていることを確認し、屋外での体育を再開した。 |
文科省は5月に「年間1ミリシーベルト以下を目指す」としたが「努力目標」にすぎない。
一方、県は6月、教育委員長名で各市町村や県立校あてに熱中症予防に関する通知を出した。 通知には「放射線の影響から夏服の着用を控える傾向が見られるが、そのことによって引き起こされる熱中症や心身のストレスによる体調不良を予防するように」「窓を開けて活動しても差し支えない」などとある。 県教育庁では「長袖を着たりマスクをしたりしてはいけないとの指導はしたことはない」(学校生活健康課)と、強制でないと説明するが、県からの通知と違うことをするのは容易ではない。 文科省では福島では校庭の表土除去も始まり、学校での被ばく線量が低減されていると強調。 今月初めには、福島県内で年間被ばく線量が1ミリシーベルトを超える学校は「ゼロ」と発表した。ただ、この線量は学校で過ごす8時間のみの推計だ。 ■避難に白い目 子どもたちを放射能から守る福島ネットワークの佐藤幸子さん(53)は「結局、文科省の20ミリシーベルト基準に従う学校が多い。これが現場の被ばく予防の取り組みをはばんでいる。本心では、安全と思えない場所で教育活動をさせられている先生はほかにもいる」と語る。 学校現場では放射能汚染を話題にすることがはばかられる"空気"が広がっているという。ネットワークに参加し、被ばくを学んでも「学校では口にできない」という教師も少なくないという。 7月下旬から、2人の子どもを連れて札幌市のサマーキャンプに参加している福島市の父親(37)も「福島では放射能が怖いと言えない空気がある」と漏らす。3月に県外へ一時避難した知人から「戻ってきて、周りから白い目で見られる」と打ち明けられた。 「逃げたくても逃げられない人たちが、危険を直視でいないでいる」 実際、被ばく予防の話をしていて、親戚に「うんざりだ」と言われたこともある。「その親戚もマンションを買ったばかりで、どこにも行けなかった。福島で働き続けるしかなく、震災直後に生まれた赤ん坊に『おれんどごに生まれて悪かったな』と謝っていた」 その気持ちも痛いほど分かるだけに、周囲にはそれ以来、もう何も言え亡くなっているという。それと同じ構図はいま福島の教室にもある。宍戸さんはこう話した。 「学校には、みんなと同じでなければ行けないという"同調圧力"がある。男子は弱さを見せたくない。女子はファッションの面からも、自分だけマスクをしたり、窓を閉めたりはしにくい」 |
「不要」言えぬ ■ 子どもの将来心配 | |
もんじゅから1キロ離れた敦賀市白木地区に暮らす橋本昭三さん(82)は、管首相の「廃炉」発言に憤っている。「国策に協力してきた地元を無視して、あんなことを言うなんて。この辺で『もんじゅはいらん』って言う人はおらん」 もんじゅの建設が始まった1980年代、市街地に通じる道路もなく、働き場所もなかった。もんじゅによって救われたとの思いが橋本さんにはある。 市の人口69000人のうち1万人が原発関連の仕事に携わる。その家族を含めれば、多くの市民が「原発関係者」だ。市の歳入(2009年度)の13%強が原発関連の交付金や固定資産税。この20年余、原発依存率が10%を切ったことはない。交付金はハコモノだけでなく、議員の給料やコミュニティーバスの運営費、子どもや障害者の医療費助成などにも充てられている。 地元の時計店主、田代牧夫さん(59)は「ここで原発にもの申すのは大変なリスクを伴う」と話す。「反原発」を口にすれば、周りからは"危ない人"とみられ、つきあいを絶たれるという。実際、何人もが取材へのコメントを避けた。ただ脱原発の流れは地元にも広がりつつある。 ピアノ講師豊田美穂香さん(52)は福島の事故後、避難所生活を送る被災者に自分たちの姿を重ねる。「脱原発」への世論の高まりに「自分たちの代わりに、世界を動かしてくれる気がする」と期待する。 |
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匿名を条件に、取材に応じてくれた2児の母の女性(41)は「原発より、自然エネルギーの開発を進めてほしい」と願う。「やっぱり、子どもの将来が心配。原発は段階的に減らしていくべきだ」
ただ敦賀市は、震災後も原発推進の方針を変えていない。敦賀原発3、4号機の増設計画も進む。河瀬一治市長は「日本全体で原子力の割合を減らすことは大事だが、3、4号機は絶対に必要」と強調。固定資産税など地元に落ちる現金は原発が古くなるほど減り、新設されれば額はまた増える。 今は停止しているもんじゅの安全性をどうみているのか。「ナトリウム漏れ事故後、いろんな対策がとられた。地元で、過度な心配をしている人は多くはいない」。河瀬市町はそう言い切った。 |
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ナトリウム事故相次ぐ 各国が開発断念 |
高速増殖炉は通常の原発と異なり、水ではなくナトリウムが炉内を満たしている。燃料から出た熱をナトリウムに伝え、ナトリウムが水を蒸発させ、タービンを回して電力を作る仕組みだ。 ナトリウムは、核分裂でプルトニウムを増殖させるために最適な冷却材とされる。熱伝導が良いため効率よく熱を取りだせる上、水と比べはいかんなどの金属を腐食しない、沸点が高く加圧の必要がないなどの利点がある。 一方で空気や水に触れると激しい発火や爆発を引き起こす恐れがある。1995年のナトリウム漏えい事故では火災が発生。フランスやロシアの高速増殖炉でも火災事故が起きている。 ナトリウムは熱しやすく冷めやすい特徴があり、配管を厚くすると温度差が激しくなり破損しやすくなる。このため通常の原発なら7センチほどの配管も、1センチ前後と薄い。もんじゅ周辺には活断層も走っており、地震で配管が破損する恐れも指摘される。 小林圭二・元京都大原子炉実験所講師(原子核工学)は、「データ自体がない米国分を除いても、海外では138回もナトリウム漏れの事故が起き、多くの国は開発を断念している」と指摘。さらに「事故が起きると、核分裂反応が加速して暴走しやすい。爆発してプルトニウムが飛散し、半径100キロや200キロを超える範囲に降り注ぐ可能性がある」と警告する。 プルトニウムは呼吸などで体内に取り込まれると、肺や骨に吸着し、発がん性も強い。放射性物質の寿命を意味する半減期は、プルトニウム239で2万4000年。 |
敦賀原発直下 断層動く恐れ 原電「影響を再検討」 | |
福井県敦賀市の日本原子力発電(原電)敦賀原発で、原子炉の真下に延びた「破砕帯」と呼ばれる断層が、活断層「浦底うらそこ断層」の影響で動く可能性のあることが分かった。破砕帯はこれまで「活動性はない」とされ、原発の耐震設計の際に考慮されなかったが、東日本大震災で同種の断層が動いたことが判明。原電側は「原子炉への影響を再検討し、8月中に見解を出す」と話している。 原電が2006年の耐震設計審査指針改定時などに実施した地質調査によると、敦賀原発の敷地内には4000年以内に動いたとされる浦底断層が縦断。さらに岩盤が押しつぶされた軟弱な複数の破砕帯が、1号機と2号機の原子炉の直下にも通っている。 浦底断層について、原電は「断層が動いて地震が起きても、耐震設計をした施設は耐えられる」との見解を示してきた。また、原子炉下の破砕帯は、水平方向に地盤が引っ張られてずれた「正断層」型で、それ自体では「動かない」とされてきた。陸地での地震は地盤が双方から押される「逆断層」や、「横ずれ断層」によるものがほとんどと考えられてきた。 |
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しかし福島県で4月11日、東日本大震災に誘発され、正断層が動いたことが確認された。原発の耐震性などを検討する経済産業省の審議会委員を務める宇根寛・国土地理院関東地方測量部長は、本紙に「正断層は動かないとの通説が崩れた」と指摘。「浦底断層が動けば、敦賀原発の正断層型の破砕帯も連動して動く可能性がある」と警鐘を鳴らす。 高速増殖原型炉「もんじゅ」(敦賀市)でも近くに活断層「白木しらき―丹生にゅう断層」があり、原子炉下煮は正断層型の破砕帯が確認されている。渡辺満久東洋大教授(変動地形学)は「正断層型だから考慮しないのは間違っており、見直すべきだ」と話している。 |
地震大国・日本にある54基の原発が、次々に建設された理由の一つに発電費用(コスト)の安さがある。ところが、エネルギー対策特別会計(エネ特会)から原発の立地自治体に流れ込む巨額の交付金など国の財政支出は、このコスト計算にほとんど含まれていない。立命館大の大島堅一国際関係学部教授(環境経済学)は独自の試算を基に「財政支出も加えれば原発はむしろ最もコストが高い」と指摘する。(聞き手・桐山純平) | |
■自治体交付金や処理費用 「巨費含め是非議論を」 水力11.9円、石油10.7円、原子力5.3円。この数字は国の総合資源エネルギー調査会の小委員会が2004年に試算した電力1キロワット時を起こすのに必要な経費だ。電気事業連合会はこれを引用し「原発コストは安い」と宣伝してきた。 「新たに発電所を造った場合、いくらかかるのかを計算した仮定のコストにすぎない。それに対し、私は1970〜2007年度の間、電力会社がどの発電所に費用を使ったのかを調べ、さらに政府が原発を推進してきた税金を加えて、いわば実績値をはじき出した。原子力10.68円、石油、石炭、天然ガスを含めた火力9.9円、水力3.98円が本当のコストになる」 大島教授によると、74〜07年度のエネ特会は、全身の電源開発促進対策特別会計と石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計時代を含み、総額10兆5380億円。このうち3分の2の7兆円が原子力に使われた。同時期に一般会計からも5兆576億円がエネルギー対策の一環として原子力関連に流れた。 「原子力への財政支出は他の発電所に比べ圧倒的に多いのに、国や電力会社はコストに含めなかった。国策として原発を推進するからというのが言い分だろう。しかし、電気料金も税金も結局は国民負担だ。原発にいったい、いくらかかるのか、正確な数字を示さないと、国民の判断をゆがめる」 「財政支出で、最大の問題は立地対策のために自治体へ支給している交付金だ。使い道もコミュニティーバスの運行や外国人英語教師の給与など、原子力とは関係のないものに広がっている。目的があるから金を使うのではなく、金があるから目的をつくっている印象。本末転倒で、すぐにでも廃止すべきだ」 |
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おおしま・けんいち 1967年福井県生まれ。97年、一橋大大学院経済学研究科博士課程単位を取得。高崎経済大助教授などを経て2008年から立命館大国際関係学部教授。専門は環境・エネルギー政策。昨年9月の原子力委員会で、自身が試算した発電コストを紹介した。 |
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原発は、放射性廃棄物の処理や使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルなど発電後にもコストがかかる。国は04年、18兆円と試算したが、青森県六ケ所村の再処理施設でさえ一部が稼動しただけだ。 |
「六ケ所村で再処理できるのは全原発の使用済み核燃料の半分ほど。高速増殖炉もんじゅや、プルサーマル発電で燃やしたMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料を再処理する費用も含まれておらず、さらに膨らむ可能性は大きい。核燃料サイクルは世界に例がなく、専門家も発電後のコストがどれだけになるのか見当すらつかない」 |
原発コストは政府の試算より2倍
政府試算は総合資源エネルギー調査会による試算。
単位:円/キロワット時、事故の賠償は含まない |
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「福島第一原発事故による放射能汚染や住民避難、風評被害など予想される巨額の損害賠償を考慮すれば、コストはさらに高くなる。事故対応や国民理解など原発の社会、経済的な負担は重く、欧州では原発はコストが高いというのは常識だ。原発の是非を技術論からだけではなく、社会コストを含めて議論する時期だ」 |
福島第一原発の事故で、東電側が政府の事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)に、「3月12日に起きた水素爆発は事前に予測していなかった」と説明していることが分かった。
事故調関係者によると、現場は原子炉への対応に終われて爆発を想像できず、3月12日午後3時36分に1号機の原子炉建屋で水素爆発が起きた。過熱した核燃料と水が反応して発生した水素が、格納容器から漏れ出したことが原因とみられている。 本紙のこれまでの取材で、東電は2002年と04年、格納容器での水素爆発を「考慮する必要がない」と結論付けた報告書をまとめていたことが判明。二つの報告書では、格納容器から水素が漏れる可能性はまったく検討していなかった。事前の想定の甘さが事故対応でのもたつきにつながった格好になる。 関係者によると、事故調は福島に職員を常駐させ、同原発の吉田昌郎所長ら現場の東電社員らから聴取を続けている。 ■線量測定者ら養成 工程表改定版 福島第一原発事故で、政府と東京電力は17日、収束に向けた工程表の改定版を発表した。作業の長期化により、放射線測定や作業管理を担当する要員が不足してくる可能性があることから、計画的に養成することを新たに掲げた。 東電は年内をめどに約40回の研修を行い、測定要員計4000人を育成する予定。5月末からこれまでに1900人への研修を終えたとしている。政府も、測定や管理の要員250人の育成研修を行うという。 通常の作業人についても、電力やプラントメーカーなど原子力関連企業が加盟する日本原子力産業協会のネットワークを活用し、人材を集める仕組みも導入するという。 一方、東電は汚染水の浄化システムから排出される高濃度の放射性汚泥の量は、最終的には2000立方メートルに上ると推計。現在の保管容量は800立方メートルだが、既にほぼ半分が埋まっており、近い将来に不足することから、貯蔵タンクの増設を急ぐ考えを示した。 |
原発の新規建設が難しくなり、古い原発を延命運転させる動きが相次いでいる。関西電力は7月、美浜原発2号機(福井県美浜町)を40年以上運転できるよう国に申請。東京電力福島第一原発の事故で原発の安全性への不安が高まる中、認められるかどうかが焦点になっている。延命か廃炉か。老朽炉の未来は、今が分岐点を迎えている。(原発問題取材班・佐藤航、榊原智康)
■新規立地難航 「後継機はいつになるか分からない。安全確認できたプラントは有効活用すべきだ」 美浜2号機は来年7月で運転開始40年を迎える。先月下旬、継続運転について説明するため福井県庁を訪れた関電の豊松秀己副社長は、延長運転に意欲を示した。 関電は機器の劣化などを調べ、保守管理を徹底すれば安全だと結論。日本原子力発電敦賀原発、美浜原発の各1号機に続いて40年超の認可を経済産業省原子力安全・保安院に申請した。 国内の商業炉54基のうち19基が運転開始から30年以上たつ。原発の寿命は40年程度とされてきた。だが、今回の事故で新規立地・建設はますます難しくなり、古い原発に頼らざるを得ないのが現状だ。 ■運転可能見解 老朽化した炉は大丈夫なのか。国は「工学的に無理のない範囲」として60年まで運転は可能との見解だ。かつては米国の旧基準にならって40年を想定していたが、1996年に方針転換した。 「30年以降は、10年ごとに老朽化を評価させて安全を確認している。米国も95年には20年の延長を認めている」。保安院の担当者は妥当性を強調する。 だが、今回の事故の影響もあり、老朽炉への不信感は根強い。福井県は、国が老朽化対策を見直さない限り、美浜2号機の継続を認めない方針。満田誉副知事は「福島第一では最も古い1号機の炉心損傷が早かった」と指摘、「老朽化の影響を検証すべきだ」と主張する。 電力会社は、炉内に入れた鋼鉄の試験片を定期的に取り出し、もろさの指標となる「脆性ぜいせい遷移せんい温度」を推測。この温度が高いほど炉が劣化していることを示し、緊急時に炉内を急激に冷やせば、温度変化に炉が耐えられない可能性がある。 社団法人日本電気協会は、新設炉の脆性遷移温度の基準を93度未満と定めており、九州電力玄海原発1号機は98度と高い。 福島第一4号機の圧力容器を設計した元技術者の田中三彦氏は一般論として「事故で緊急炉心冷却装置が働けば、今も急激な温度の変化に耐えられるか疑問だ」と警告する。 ■ストレステスト 国は不信感をぬぐうため、欧州のストレステスト(耐性評価)を参考に安全評価を導入。シミュレーション試験で想定を上回る地震や津波などに対する安全性の「余裕度」を調べる。海江田万里経産相は記者会見で「高経年(老朽)化の問題がデータに表れれば、廃炉の方向のステップになる」と述べた。 安全性は、原発の現在の状態で評価するのがルール。配管の厚みや圧力容器の脆性遷移温度も評価の基礎データになるという。ただ、保安院は「古い配管などは交換しているし、緊急炉心冷却装置が作動して割れるような容器はそもそも安全基準を満たしていない」と説明している。 古い原発を動かし続けるか、止めるか。30年超の19基の出力は1400万キロワットあり、国内全54基の3割近くを占める。来年7月までに出される美浜2号機延長の判断は、菅直人首相が打ち出した「脱原発依存」の試金石ともなる。 |
北海道電力泊原発3号機は17日、営業運転を再開したが、最終判断をした高橋はるみ北海道知事の、北海道電力との蜜月ぶりには驚かされる。同社幹部からの政治献金は毎年の恒例。北海道電力元会長が資金管理団体の会長も務める。原発「全基停止」の自体を避けたかった経済産業省にとって、これほどの"人材"はなかったはずだ。 (小国智宏、篠ケ瀬祐司) |
社の役員 毎年個人献金 就任以降 道幹部"天下り" |
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北海道電力泊原子力発電所=4月、北海道泊村で、本社機「おおたか二世」から |
「安全性の信頼を確保するため原子力安全・保安院の最終検査に加えて原子力安全委員会の確認プロセスを得たことは評価したい」。16日の道議会産炭地域振興・エネルギー問題調査特別委員会。高橋知事は泊原発3号機の安全性について、こう説明した。「地元町村には速やかに情報提供をしていく。道民には記者会見で説明したい」とも。 この自転で運転再開容認の流れはできた。「今日中にも海江田万里経済産業相に了承の電話を入れたいらしい」と関係者の間で、ささやきが広がった。 高橋知事は当初、原子力安全・保安院が早急に北海道電力に対し最終検査を受けるよう指導したことに対し、「地 |
方軽視だ」と反発した。ただ、海江田経産相から釈明の電話があると、一転して十何姿勢に転じ、営業運転再開に前向きな姿勢を示した。議会関係者からは「知事の反発はポーズにすぎない。初めから容認するつもりだった」との声が漏れた。 北海道議会で特別委員会が開かれた同日午後、市民約40人が東京・丸の内の北海道電力東京支社を訪れ、泊原発3号機の営業運転再開断念を申し入れた。「9.11再稼動反対・脱原発! 全国アクション」実行委員会の杉原浩司さんは「国や道知事の判断とは別に、事業者としての責任も重大だ。最低限ストレステストを受けるべきだ」と、同支社担当者に迫った。 もともと高橋知事は原発を推進してきた経産省の官僚だった。 富山県出身。祖父の高辻武邦氏は富山県知事を1期務めた。父親は経産省の関係が深い地元のガス会社の元社長。弟は現社長だ。 一橋大学を卒業後、旧通産省に入省。中小企業庁課長などを経て、2001年、経産省北海道経済産業局長に就いた。これが、北海道との縁になった。 旧通産省で先輩にあたる北海道選出の町村信孝衆院議員に誘われ、03年の知事選に自民党など推薦で出馬し初当選。町村氏の父親で衆院議員や北海道知事を務めた町村金五氏は、高橋知事の祖父の高辻氏と旧内務省で同期という間柄だった。 |
北海道電力東京支社の担当者に泊原発再開の中止を求める要請書と質問書を手渡した市民グループの代表者=16日、東京・丸の内で |
今年4月10日の知事選では新人3氏を大差で破って3選を果たした。 新人候補は揃って「脱原発」を掲げた。民主党など推薦の候補は「原発に頼らない自然エネルギーの開発推進が重要」と強調。共産党推薦候補も泊原発3号機のプルサーマル計画反対や同1、2号機の廃炉を目指すと明言した。元民主党道議の無所属候補も「知事が脱原発発言を出すべきだ」と訴えた。 これに対し高橋知事は事故やトラブル発生時への対応について「しっかり検討していきます」(北海道新聞のインタビュー)と「検討」を口にするだけ。 |
泊原発3号機の営業運転再開容認を表明する北海道の高橋はるみ知事=17日午後、北海道庁で |
逆に「ただ、泊原発は1993年の北海道南西沖地震の際も影響なく、稼動停止すらしませんでした」(同)と安全性を強調した。 |
さらには道幹部が北海道電力や関連会社に再就職していたことも真下道議らの調べで分かった。 高橋知事が知事に就任した以降に始まっており、少なくとも4人が再就職していた。元議会事務局長が06年に北海道電力調査役に就任し、昨年退職。lほかに同建設部参事が子会社の技術顧問に就くなど、3人が子会社に再就職し現在も在職している。 ■経産省 避けたい国内全機停止 運転再開へ向けてレールは敷かれていたわけだが、NPO法人「原子力資料情報室」の伴英幸共同代表は「地震、津波の想定が甘かったため福島で事故が起きた。泊原発でも(耐震安全性評価などの)バックチェックや活断層の影響の検討が不可欠だ」と、時期尚早だとみる。 なぜ、これほど急ぐ必要があったのか。 福島第一原発の事故以来、定期点検が終了して運転再開した原発はない。このままの状態が続けば現在稼働中の原発も定期点検に入り、来年3月には日本中の全ての原発が止まる「全機停止」となるはずだった。 その瞬間に「日本の電力の3割を原発が担う」というもう一つの神話は崩壊する。全電力の中で原発の電力が占める割合を操作して発表するのは不可能になる。 ところが、泊3号機の運転再開により、同機が次の定期点検に入る13カ月後まで、この事態は先送りされたのだ。 前出の伴氏は「『全機停止』は避けたいというのが原子力安全・保安院の意向なのだろう。玄海原発がやらせ問題で再開できなくなり『では泊原発を』となったのだろうが、規制当局が運転を促すのはおかしなはなしだ」と憤る。その上で「い間は様子見をしていても、泊原発が突破口となり、営業運転再開を認める自治体が出てくるかもしれない」と、連鎖の可能性を指摘した。 |
東京電力福島第一原発の事故収束作業の鍵を握る汚染水処理。水漏れやポンプ故障が相次いだフランス製と米国製の浄化装置を補うため、東芝が製造した新浄化装置「サリー」が18日に本格稼動した。まだフル稼動ではないが、21日までの運転は順調。工程表通りに汚染水を減らす切り札として期待されている。国産サリーも設計は米企業で、原発事故に立ち向かう技術の核心は「外国頼み」の印象が強い。専門家から「日本は事故対策の技術の用意が不十分だった」と反省の声が上がっている。 |
福島第一原発の汚染水浄化システムに加わった新装置サリーの設置作業=7月30日(東京電力提供) |
■簡略化システム 「豪雨などで急激に水位が上がっても対応できる。サリーに期待するところはおおきい」 東京電力の松本純一原子力・立地本部長代理は、既設の装置よりポンプが少ないなど簡略な構造のサリーは故障の可能性も小さいと説明、水処理能力の向上へ自信を見せる。 6月中旬に始まった汚染水処理は、米キュリオン社、フランスのアレバ社の二つの装置を組み合わせ、放射性物質濃度を100万分の1に低下させた上で、原子炉を冷やす水として再び利用する。だが、システムが急ごしらえだったため水漏れなどトラブルが32件に上り、稼働率も低迷した。 東電は当初、サリーの導入目的を「あくまでもバックアッ |
プ」と説明していたが、最近になって「常に運転させる」と方針を転換。既設の2台とともに、1日の処理量を2倍まで増やせるよう今後も作業を進める。 |
■米事故で実績 サリーは米ショー社が設計した。名称は「水回収回復簡略化システム」を意味する英語の頭文字SARRY。直径1.4メートル、高さ3.6メートルの吸着塔の中で、鉱物ゼオライトなどが放射性セシウムを吸着する。処理能力は1日当たり1200トンで、既設の装置2台分の仕事をこなす。 ゼオライトは、1979年の米スリーマイルアイランド(TMI)事故で使われた実績がある。TMIでは、今回よりもはるかに少ないが、1万トン以上の汚染水処理が必要だった。 ■事故想定せず 外国に技術を頼る水処理について、元原発設計技師の田中三彦さんは「日本には基本的に原発は壊れない |
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という錯覚があった。大量の汚染水を処理する技術がなく、事故を想定しながら技術的な研究も進めていた海外に頼るしかなかったのだろう」と厳しく指摘する。 汚染水の出どころは、1〜3号機の原子炉を冷やすために入れる毎時計15トン前後の水だ。注入された水は、原子炉圧力容器の底に溶けてたまった燃料と混ざり、1立方センチ当たり100万ベクレルの高濃度汚染水となって漏出。収束作業を阻む壁となって立ちはだかる。汚染水が減らないと、原子炉への注水を増やし「冷温停止」状態にする工程表の目標実現はおぼつかない。 東電や政府は、事故収束の鍵となる汚染水処理のため、内外の企業多数の情報を収集。その結果、契約にたどり着いたのはTMI事故や旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(86年)の処理に関わった経験を持つ米国やフランスの企業だった。 日本原子力学会の沢田隆副会長は「米国、フランスは軍事研究が進んでいるほか、フランスの核燃料サイクルでは汚染水の処理が伴うため技術の蓄積がある。日本も危機管理としてきちんと用意しておくべきで、準備不足だった点は反省しなければいけない」と話す。 |