外岡秀俊 3.11後の世界

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<<   作成日時 : 2011/11/08 10:10   >>

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 2011年11月8日(火)記

 一昨日、札幌市内に住む高校教師の宍戸俊則さん(49)にお目にかかった。

 宍戸さん一家がお住まいになる公営住宅には、原発事故で自主避難してきた160世帯、約500人の方が暮らしている。宍戸さんもその一人だ。

 震災当日、宍戸さんは福島市内の県立高校にいた。校舎は無事だったが、渡り廊下の天井にヒビが入り、理科の実験器具が壊れてガラスが散乱した。お隣の伊達市にある自宅まで、ふだんは車で1時間で着くところが、停電で信号が停まり、渋滞に巻き込まれて3時間かかった。

 原発事故で放射性物質が漏れたことを知り、妻の隆子さんと、「いつかは避難しなくてはならなくなる」と話し合った。政府は、避難の区域を次々に拡大していった。放射線は、同心円状ではなく、北西に沿って伸びていた。浪江町から飯舘村へと伸びるその先の山沿いが、宍戸さんの自宅で、のちに近くの伊達市小国周辺では、「特定避難勧奨地点」に指定されたところもある。


 恵子さんは、いくつかの避難先を探し、就職口が比較的多い札幌を選んだ。北海道が、就職先案内を兼ねて、避難受け入れの説明会を開き、これに参加したことが、背中を押した。
 恵子さんは5月末に勤めをやめ、6月中旬、中2の息子、小5の娘さんを連れて札幌に来た。道が公営住宅を斡旋してくれたが、あったの家具はちゃぶ台などわずか。近くのリサイクルショップで冷蔵庫や洗濯機を買って運び入れた。後任が決まるまで待っていた宍戸さんも、8月8日は伊達市を出て、札幌に向かった。

 札幌の人たちが心配して勤め先を見つけ、道立高校で教えることが決まった。隆子さんは、公営住宅に住む人々の自治組織の代表になって、新たに入居する人々のお世話などをしている。


 自主避難してきたのは、福島県からに限らない。東北一帯、それに首都圏の1都5県にわたっている。ホット・スポットなどで線量の高い地域などからの避難だ。線量が低くなって帰った人や、二重生活で費用がかさむために帰った人もいれば、その後線量が高いことがわかって、新たに避難してくる人もいる。出入りを併せて、その数はほぼ変わりがない。この公営住宅に住む人々は自主避難してきた方々で、政府による避難指示で移住してきた人々は、借り入れ住宅などにいるので、実数はつかめない。

 就職先が見つかった宍戸さんは、まだ幸運だったといえるかもしれない。公営住宅に住む避難家族の6、7割は、母子だけの避難世帯だ。勤め先のある郷里で夫が働き、仕送りで二重生活を支えている。札幌で勤め先を探そうとしても、北海道の就職事情は、依然として厳しい。

 自主避難は、政府による指示で避難した人々と違って、東電の賠償からはずれている。政府による補償も、検討の対象にはなっているが、見通しは立っていない。多くの家庭は、夫や両親と離れ、二重、三重の生活を続けている。

 宍戸さんは、「残った多くの人は、『なぜ避難するのか』と問われ、返事ができず、避難をためらっているのではないか」という。避難しないリスクもあれば、避難することによって抱えるリスクもある。避難しないと危険、避難すれば安全という確証があれば動けるが、その判断は難しい。避難を呼びかけたり、避難受け入れを伝えようとしても、福島県やマスコミは、ほとんどその場を提供してくれない。

 「私は、補償の問題よりも、政府に『あなた方の避難は間違っていない』と認めてほしい」と宍戸さんはいう。自主的に避難することを邪魔せず、その権利を選択肢のひとつとして、認めてほしい、という考えだ。

 避難者を支える団体が、催しなどで支援の品を集め、届けてくれる。先日も「あったかいどう」というイベントで、子どもがスキー授業で使う暖房着などを届けてくれた。

 「いつごろ、帰ることができると思いますか」

 そう尋ねると、宍戸さんが答えた。「ほんとうは、線量が下がれば帰りたい。でも、山林まで除染することは難しいと思う。私が集めた情報でみる限り、10年以内はまず、無理ではないでしょうか。そのころには、定年になっていますが」

 福島県内や山形、新潟などの隣県、首都圏などに避難した人々を考えれば、膨大な数にのぼるだろう。ひとつの事故で、これほど多くの人々が動いた例は稀だ。しかも、その避難は家族を引き離し、見通しがきかないほど長期にわたると考えられる。

 「自主避難は最終的に個人の責任」というのは、なるほどその通りだと思う。リスクは自分で引き受ける、というのが、今の社会の原則だ。しかし、そのリスクは、政府の施策と、東電の原発操業の結果がもたらした人為によるリスクであることを、忘れてはならないと思う。残った人々が抱えるリスク、避難した人々が抱えるリスクを、等価のものとしてみつめ、支えることが必要ではないだろうか。

 政府は、すぐにでも調査をして、その実態を把握し、今人々が抱えている問題を、直視するべきだと思う。


 写真は宍戸さん


  



 
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