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  シーカー 作者:安部飛翔
第5章
8話その1
 早朝。
 スレイはわざと生命活動を極限まで低下させていた肉体を活性化させていく。
 同時にシャルロットと繋がり合い、心地良さを感じていた魂の同調、接続を緩やかに切り離していく。
 僅かばかり名残惜しさを感じながらの擬似的な目覚め。
 それに気付いたシャルロットの意識が覚醒していくのもスレイは感じる。
 肉体の感覚を取り戻していくと同時、胸の上に乗るシャルロットの頭の軽い重さを感じる。
 胸の上に広がる縦ロールなんて髪型でありながら、絹のようになめらかな感触の髪は、くすぐったくも気持ちよい。
 目を開くと同時、同じく目を開いたシャルロットの真紅の瞳と至近距離で見詰めあう。
 どこか恥ずかしげでくすぐったそうなシャルロットの表情。
 それでいてそこにはどこか寂しげな色も含まれている。
「どうした?」
 端的に尋ねるスレイ。
 あまりにも漠然とした質問だが、先程まで魂まで繋がりあっていた身、当然のようにその意図は伝わった。
「いや、まるで母親の胎内から放り出された赤子のように頼りない心地での。なにせスレイは大きかったからのう」
「ふむ」
 スレイは頷き、わざと自らの下半身を見やると、ふざけて笑って告げる。
「確かに俺の物はそこらじゃ見られないような名刀だという自信があるが、女の身でそういうネタを振るのは感心しないな」
「ば、馬鹿者がっ!!」
 その白すぎる肌を真っ赤に染め、怒鳴るシャルロット。
 同時に両手でスレイを責めるように叩いてくる。
 軽く防ぎながら笑うスレイ。
 どこまでも余裕のある、まるで子供をあしらうようなスレイの態度にどこか膨れながらシャルロットは告げる。
「そのような物の話である訳がなかろう……。いや、確かにそれはそれで大層立派なおかげで最初は酷く痛かったがのう。……って違うわっ!!魂の話じゃ、魂のっ!!」
「吸血姫殿のノリツッコミとは、これまた珍しい物を見れたな」
 どこまでも楽しげなスレイに、シャルロットはますます膨れながら続ける。
「ええいっ、そのような事はどうでも良いっ!!しかしスレイの魂……妾とて5000年を超える時を生きた身、人と比してこの魂大海にも値すると自負しておったが、妾が大海とするならスレイの魂はまるで宇宙の如く、全てが包まれ許されているかのような心地であった。本当に人とは思えぬ存在じゃの」
 どこか呆れさえ含まれたその台詞にスレイは軽く肩を竦めた。
「何、俺は特別だからな、そもそも宇宙という程度で例えている事自体シャルにはまだ俺の魂の全てを測る事は出来なかった証拠だ。まあ、何にせよ、これでまだ成長途上だ。この先色々と期待してくれていいぞ?」
「お、お主はっ」
 その言葉に含まれた艶のある意味に気付き、ますます顔を赤く染めるシャルロット。
 あまりにも赤過ぎるその顔を見てますます楽しげに含み笑うスレイ。
 そうしてその日は始まった。

「これは」
「また」
『何と』
 スレイ、フルール、ディザスターと呆れたような声が響く。
「この200年程忙しかったのだ、仕方あるまい」
 どこか恥ずかしそうにしながらも、胸を張って威張るように告げるシャルロット。
「開き直るな」
 頭を抑えてスレイは突っ込んだ。
 ヘル王国。
 シャルロットの城の前。
 あれから軽く宿で朝食を摂った後、すぐに2人と二匹はこの地へ転移していた。
 このメンバーにとってみれば軽いものである。
 ちなみに朝食時、スレイが姿を見せただけで宿の食堂は騒然とした。
 恐らくは既にスレイの情報が知れ渡っていたのだろう。
 探索者をやる以上情報に敏いのは当然の事だ。
 その日公開されたばかりの情報だろうと、朝すぐに知っていてもむしろ当然の事だ。
 だが、フレイヤ目当てに男探索者ばかりが泊まる宿屋の事。
 男共なんぞに注目されようが嬉しくないと、スレイは切って捨て、全く気にせず優雅に朝食を楽しんだ。
 むしろ闇の種族でありながらシャルロットの方が気にしていたほどである。
 何にせよSS級相当探索者、最短到達記録保持者というだけでは無い。
 クロウの16歳という前例があるとは言え僅か18歳というのも充分に異常。
 ましてやたったレベル50でSS級相当のステータスというのはもはや異常を通り過ぎてあまりに馬鹿げている。
 そして止めに神獣二匹を従える神獣使いという情報。
 当然ディザスターとフルールの二匹にも注目は集まっていた。
 ここまで来るとありえなさ過ぎて逆に驚きも麻痺していたのだろう。
 畏怖の感情も見せず、好奇の視線が中心だった。
 クロウは生きたまま伝説と呼ばれたが、スレイは生きたまま神話になったに等しい。
 尤も実際は神話などまだ温いような化物なのだが。
 ともかくそんな調子で朝食を終え、気にしないとは言え煩わしいものは煩わしいので、とりあえず今はすぐにシャルロットの居城にと転移してきた一行。
 そして見たシャルロットの居城の姿に漏れた感想が最初の言葉だ。
 なんというかあまりにも荒れ果てていた。
 いや、城自体はその魔導科学の技術の賜物だろう、全く古びた様子すらない。
 ただ周囲の植物や、その他まあ色々と。
 お化けでも出そうな雰囲気を醸し出している。
「というか、シャルだったら自律型の掃除道具でも作り出していそうな物だと思ったんだが?」
 眉を顰めて尋ねるスレイに、シャルロットは罰の悪そうな顔をする。
「それがのう……確かに掃除用の魔神マシンも多数作っておるのじゃが、ついつい忙しくてそれを起動するのも忘れておった」
「……本末転倒な」
 流石に呆れ果てて溜息を吐くスレイ。
 だが気を取り直したように再び尋ねる。
「しかし、だ。ここを乗っ取った猿は、そいつらを起動していないのか?」
「いや、起動はしておるようなのじゃが、どうも警備用の魔神と同様の侵入者撃退用の機能を持たせて使っておるようで、本来の用途に使っておらんようでのう。まあ、もともと掃除用とはいえ少し動作に改良を加えるだけでそこらの魔物よりよほど物騒な戦闘能力を持てる代物じゃから、まあ上手い活用法といえばそうなんじゃろうが」
「邪神から力を与えられていながらどれだけ臆病なんだその猿は?」
 もはや呆れて物も言えないとばかりに頭を左右に振るスレイ。
「そもそもこんな辺鄙な場所に本来の主であるシャル以外のどこのどいつが好んで侵入しようとするんだ?……ああ、その猿自身がその変わり物か」
「辺鄙な場所とは失礼なっ!!確かにヘル王国の王都からは大分離れておるし、妾が統べる吸血鬼達の街からも離れてはおるが、それは研究の為にと、後は妾の立場を考慮してじゃの……」
「わかったわかった」
 言い募るシャルロットを無碍にあしらうスレイ。
 むぅ、とばかりに膨れるシャルロット。
「なんにせよ、だ。城に突入、猿を倒してその研究成果を保護。基本方針はこれで問題無いな?」
「……うむ、それで問題は無い」
 不服げながらも渋々と頷くシャルロット。
「なら話は単純だな。さて、先にも言ったように俺はこれで忙しい。とっとと片付けてしまうとするか」


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