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尖閣有事のシミュレーション(2) - 台湾の立場と論理
今日(9/3)の朝日の1面は尖閣の記事で、都による昨日の洋上調査の内容が載っている他に、野田政権による地権者との間の購入交渉が大詰めを迎えていて、政権は港湾整備に応じない方針だと報じている。早朝にネットに上がったNHKのニュースには、「政府 尖閣購入で地権者と大筋合意」と速報が出て、国が島を20億5000万円で買い取ると具体的な金額まで示されていた。今月中に契約して国有化とある。政府によるリークだ。週末(9/8-9)の日中首脳会談に向けて、政府が尖閣の買収を急いでいる様子が分かる。これまで、地権者である栗原家は、ずっと東京都(石原慎太郎)でないと売らないと言い張っていたが、ここへ来て急転直下で政府への売却で話が纏まった。栗原家の石原慎太郎へのラブコールは、政府に売りつける金額を釣り上げるタクティックスだったのだろうか。都に集まった寄付金は15億円。よく考えてみれば、尖閣のような領土紛争が起きている国境の島を所有できるのは政府しかなく、1自治体が永久に維持管理できるものではない。都知事が別の人間に変われば、その時点で政府に売却されるのが当然だ。どうやら、栗原家の思惑は最初からカネで、利得のために石原慎太郎を利用し、国と都を天秤にかける工作をしていたとしか思えない。寄付金の15億円は返却されるのだろうか。それとも、石原慎太郎のネコババだろうか。


日中首脳会談について、朝日の2面記事には、「中国政府は日中首脳会談を実現させるべきかどうかについても、慎重に見極めようとしている」という北京特派員の報告があり、新華社など国内の報道で、中国政府がウラジオでの日中首脳会談の予定を告げていない状況が窺える。日本政府が尖閣国有化を確定させ、石原慎太郎をしっかり黙らせるのを見届けてから、日中首脳会談の正式発表をする思惑なのだろう。日本政府の方はマスコミに積極的にリークしていて、石原慎太郎の機先を制すると共に、この問題について合意の形成に逸っている姿勢が看取される。東郷和彦が戦争回避のために政府と政権を動かしている。中国政府が日中首脳会談を「慎重に見極め」ているということは、8/28に中国政府が日本側に示した、(1)上陸させない (2)(資源・環境)調査をしない (3)開発しない(建造物を造らない)の「対日3条件」での最終合意が固まっておらず、今週さらに時間をかけて調整するという意味だろうか。政府には、ぜひ3条件を受け入れて欲しい。この3条件が平和の鍵だ。そして、山田吉彦がマスコミに登場するのを阻止して欲しい。海洋専門家としてテレビに登場するこの男は、日本財団出身の生粋の右翼で、尖閣問題で日本を中国との戦争へと導いている水先案内人だ。橋本内閣とか小渕内閣の頃なら、この男が平然と専門家の肩書きでテレビに出演することはなかっただろう。

前回、「尖閣有事のシミュレーション」の記事を書き、この尖閣問題では台湾の動向が帰趨を握るのだと説明した。尖閣有事は、台湾にとって主権防衛のために軍事出動する(しなければならない)事態なのだという問題に焦点を当てた。この決定的な事実について、日本のマスコミは全くと言っていいほど触れようとせず、台湾の存在を捨象して尖閣を日中の枠組みでのみ捉えている。少し気になり、台湾はこの緊迫した情勢にどう対応しようとしているかを調べた。そうすると、馬英九が8/5に発した「東シナ海平和イニシアチブ」の声明と、野田佳彦の8/24の官邸会見での領土発言に対する台湾政府による反論の情報を見つけた。「東シナ海平和イニシアチブ」の方は、何とも台湾らしいマイルドさで、関係各国が争議を棚上げし、平和的方法で問題を解決せよと提唱している。しかし、主権はあくまで台湾だという点は譲っていない。馬英九はNHKとの8/22のインタビューの中で、「私は日本に対し、争議の事実を直視し、話し合いを通して、必要な場合には、国際法を用いて国際司法裁判所に提訴し、争議を解決するよう呼びかけるものである」と言っている。通常、われわれ日本人は、尖閣については竹島以上に日本の領土であることが確実で、歴史的にも、国際法上も一点の隙もないものと思っている。戦後の中国の地図(尖閣を日本領と認めている)や、戦前に中華民国が沖縄に送った漁船員救助の感謝状などを証拠にそう確信している。

ところが馬英九は、国際司法裁判所への提訴と判決で帰属を明確にさせようと提案しているのであり、これはまさに竹島をめぐる日本の立場に他ならない。すなわち、根拠と自信が台湾側にあるという意味だ。その中身が、8/24の野田佳彦の会見発言に対する反論の中に短く記されている。それによると、明の永楽帝の時代に書物の中に釣魚台の記述があり、また明清時代に琉球に勅使を派遣する際の航海の目印になっていたと主張、1905年以前はどの国にも所属しない無主の島だったという歴史的事実から領有の正当性を言う日本側の主張を一蹴している。台湾は尖閣領有の理論武装に自信満々だ。尤も、独立国(主権国家)として世界で承認されていない台湾だから、国際司法裁判所への提訴ということを気楽に、無責任に主張できるという背景もあると言えるかもしれない。いずれにせよ、台湾は尖閣は自国領だとする主張を崩さず、日中の対立については第三者の中立を宣言している。尖閣の問題の解決について、大陸中国と協力することはないと明言し、中国と歩調を合わせて日本と対峙する選択はないと日本にメッセージを送っている。しかし、実際に尖閣で有事となったときは、台湾もこうしたマイルドな姿勢で傍観できるはずがない。台湾は日中を調停できない。調停できるのは米国だけだが、米国は日本を改憲させる必要上、(エスカレートさせない管理的範囲での)尖閣有事の出来をむしろ歓迎している。台湾は否応なしに軍事衝突に巻き込まれてしまう。

尖閣有事が日中で起きた場合、それは戦争だから、台湾が採る行動は基本的に三つしかない。第一は日本と連携して中国と戦う、第二は中国と連携して日本と戦う、第三は日本・中国の両軍と三つ巴で戦う、である。選択は三つしかない。自国領をめぐる紛争だから局外中立はできない。許されない。軍事出動しなければ、それは主権防衛の放棄である。仮に、台湾がこの有事に介入せず傍観し、そしてホルムスの予想のとおり尖閣海戦で自衛隊が決定的勝利を収め、米国の仲介で講和となり、尖閣の領有に(暫定的な)決着がついたときを考えよう。バーチャルな想定だが、中国が尖閣放棄を国家文書で明言する事態(講和条約)になるわけだから、尖閣は日本の排他的領有で永久に固定され、台湾は尖閣に対して二度と領土主張できない立場になる。蚊帳の外に置かれる。台湾としてその選択はあり得ないし、第三の日本と中国の両軍を相手に戦う三国志的構図もあり得ない。結局のところ、第一か第二か、どちらかを選ぶしかないのだ。となると、第二の選択の可能性が高くなるのは必然だろう。日本や中国と同じく、台湾国内にも世論がある。日中台とも、政府は戦争を避けるべく外交で動く。しかし、世論は逆で、特に日本ではマスコミが戦争の方向へ煽っている。台湾の世論が過熱するとすれば、第二(中国と連携)を選ぶ方向へ流れるだろう。中国(北京)とすれば、尖閣は台湾領でよいのである。北京直轄とか福建省に帰属させる必要はないのだ。

領土問題(紛争)の政治でプレイヤーとして動くのは、政府と世論の二つ以外にもう一つ、軍の存在がある。中国の人民解放軍、日本の自衛隊、台湾の国軍。政府は戦争を避けるべく動き、世論は戦争を呼び込むべくナショナリズムに動きがちだが、軍は、その二つと距離をとったりくっついたりしながら、相対的に独自に動く立場となる。軍は、戦争になったら敵軍を撃退して講和に持ち込む使命と任務がある。政府の動き(戦争回避の和平交渉)とぴったり同期はできない。今、自衛隊も人民解放軍も、懸命に尖閣有事をシミュレーションし、諜報で情報を収集分析し、様々なパターンとフェーズを想定して、どう尖閣の防衛を完遂させるかの作戦構想を練っているだろう。それは、政府(外交当局)の動きとは別の論理のものだ。ここで、中国軍の立場を考えると、当然、尖閣有事に突入した際は台湾軍との連携を実現させたいと考えるはずで、諜報戦略の一環として台湾の参謀本部との接触を図っているに違いない。尖閣の一戦で共同して自衛隊を挟撃するとなれば、情報と軍略と目標を共有する必要がある。戦争するとき、共に戦う二軍はバラバラに作戦行動してはならず、司令部を一つにして意思統一する必要がある。尖閣戦での中国の前線司令部は、台湾と一つでなければならないし、尖閣戦が国家の一大事である台湾は、国防部参謀本部がそのまま前線司令部だ。おそらく、福州あたりに両国軍による大本営が臨時設置され、そこで戦争指導が行われる展開になるのではないか。

今回もまた、イデオロギーの戦争の本論に入れなかった。 前段で足踏みしている。


by thessalonike5 | 2012-09-03 23:30 | Trackback | Comments(0)
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