馬鈴薯のうす紫の花に降る
雨を思へり
都の雨に
馬鈴薯の花咲く頃と
なれりけり
君もこの花を好きたまふらむ
石川啄木『一握の砂』(朝日文庫 2008年)
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石川啄木は、明治19年(1886)岩手県に生まれ、21歳のとき北海道函館に渡り、代用教員や新聞社の記者となります。その後、上京した啄木は、たくさんの歌を作りました。二首のうちの上は、東京に降る雨を見て、ジャガイモ(馬鈴薯)のうす紫色の花が雨に濡れている北海道の様子を思い出して詠んだものでしょう。
啄木は、明治45年(1912)3月に亡くなった母親の後を追うように、同年4月13日、結核のために26歳の若さでこの世を去ります。今年は石川啄木没後100年です。【啄木の啄の字は、実際はこの字体とは異なりますが、ホームページ上はこの字体を使わせていただきました。】
6月、7月は雨が多い季節ですが、植物が生き生きと育つ季節でもあります。北海道では昔も今もジャガイモの花が夏の風物詩なのでしょう。神奈川では、この季節を代表する花といえば、私は紫陽花だと思います。
以前勤務していました高校の外国人講師が、箱根の登山電車に乗って沢山の紫陽花を見た時に話してくれた「感想」を思い出します。「校長先生、この間箱根に行って登山鉄道に乗りました。 電車は狭くて急な坂道を登っていきます。ちょっと High danger。でも、周りは綺麗な Hydrangeas(紫陽花)で面白かったです。」ちょっとした言葉遊びですが、適切なユーモアはコミュニケーションの潤滑油になります。
さて、本校の部活動は躍進を続けています。次の生徒達がインターハイに出場することになりました。フェンシング部団体では、上田祐莉桂さん、海野珠理さん、林奈緒子さん、後藤奏さん、松本芽衣さん(全員3年)。フェンシング部女子エペ部門とフルーレ部門(個人)で上田祐莉桂さん(3年)。陸上競技部では女子やり投げで齊藤瞳さん(3年)。水泳部では、女子平泳ぎ100Mで髙崎有紀さん(1年)。
文化部の活躍も素晴らしいものがあります。放送部は、第59回NHK杯全国高校放送コンテスト神奈川県大会テレビドキュメント部門で第3位となり、東京で行われる全国大会に出場します。合唱部は、第53回神奈川県高等学校合唱祭(平成23年度 神奈川県総合文化祭)で教育長賞を受賞し、第36回全国高等学校総合文化祭富山大会合唱部門に神奈川県代表として出場します。美術部は、第58回神奈川県高等学校美術展(平成23年度 神奈川県総合文化祭)で、遠藤純一郎君(2年)が教育長賞を、金井花さん(2年)が高文連会長賞を受賞しました。それにより、第36回全国高等学校総合文化祭富山大会美術・工芸部門に出場することになりました。生物研究部は、「甘利山とみずがき山の動物相の比較」により、幸重さわ子さん(3年)と太田知宏君(3年)が県理科部研究発表大会で最優秀賞を受賞し、第36回全国高等学校総合文化祭富山大会自然科学部門に出場します。物理情報通信部は、花井智海さん(3年)、松野俊文さん(3年)がアマチュア無線に関する全国高等学校ARDF競技大会への出場が決まりました。
さらに、島彰吾君(2年)はアイルランド ダブリンで行われます「世界ジュニアアルティメット選手権大会2012」に出場します。この大会は、アルティメット(フライングディスク競技の一つ)ジュニア部門における世界一を競う最も権威のある大会です。
インターハイや全国大会、世界大会に出場する生徒達の活躍を期待しています。
先日、本校のPTA図書委員会から推薦図書の依頼がありました。私は『イスラームから考える』(師岡カリーマ・エルサムニー 白水社)『とりあえず日本語で』(荒川洋平 スリーエーネットワーク)の2冊を選びました。
前任の横浜国際高校開校にあたり、私はこれからの時代は、イスラーム世界を抜きに国際問題を語ることはできないと考え、外国語の選択科目に「アラビア語」を導入しました。そのご縁で知り合ったのが師岡カリーマさんです。朝日新聞の日曜版に「読書」というコーナーがありますが、この本は、そこでも紹介されました。
師岡カリーマさんは、獨協大学、慶應義塾大学で非常勤講師を勤めながら、NHKワールドラジオ日本アラビア語放送キャスターとしてもご活躍です。お父様がエジプト人で、お母様が日本人という出自もあり、イスラーム問題に公正な考え方で接しています。湘南生はイスラームの基本的な知識を持っていると考えてこの本を推薦しました。私は彼女の「宗教を抜きにしても、表現の自由には限界がある。その境界線を引くのは、私たち人間の品位だ。人の品位に文化の違いはない。」(31頁)という考え方が気に入っています。表現の自由という概念を、法律などでがんじがらめにする前に「人間の品位」で線引きするという考え方は素晴らしいセンスだと思いませんか。
イスラームの入門書からという場合は、『イスラーム文化』(井筒俊彦 岩波文庫)』『不思議の国サウジアラビア』(竹下節子 文藝春秋)『イスラームの日常世界』 (片倉もとこ 岩波新書)は如何でしょうか。「建築文化」からイスラームを知るということでは、『世界のイスラーム建築』(深見奈緒子 講談社現代新書)はお勧めです。
尚、『イスラームの日常世界』の著者である片倉もとこさんは、湘南高校の卒業生(31回生)です。
『とりあえず日本語で』の著者である東京外国語大学准教授の荒川洋平先生には、高校生対象の講演会をお願いしたことがあります。難しいテーマをユーモアたっぷりに分かりやすく講演していただきました。
この本の大きな特徴は「日本語を母語とする私たちが、外国人と日本語でやりとりすること、さらに外国人どうしが日本語でやりとりすることを『対外日本語コミュニケーション』と名づけて、その問題点や解決法を探っていきます。」(4頁)にあると思います。日本語が国際語になるとしたら、という逆転の発想に立っているところが出色です。
校長室の春夏秋冬を読んでくださっている皆さんは、「本当に日本語は国際語になるのだろうか?」と疑問に思っていませんか。そうなるかならないかは、実はイギリス(人)の考え方に学ぶところがあります。「イギリス人にとっては、自分たちの母語が世界中で使われていく過程で、その単語の使い方は正しくない、そんなことばの組み合わせはない、何てひどい英語だ、と感じることは、限りなくあったと思います。しかし、自分たちの正統性こそ控えめに主張しながらも、自国のことばが変化しながら世界に広がっていくのを後押しし、認めた度量というのは、改めて尊敬に値します。」(274頁)
国際語になるためには、言語(文法)に関しての柔軟性はもちろんのこと、文化への柔軟性も必要であると私は思っています。チーズやウインナーソーセージを巻いた寿司を、「これも寿司である」と認めることができる度量を日本人は持っているでしょうか。
さて、今月のタイトルは、“Another Legend”です。これは、今年の6月16日・17日に開催された第64回文化祭のテーマでした。全日制文化祭実行委員長である百武昌哉君の「100周年へ向け新たなスタートを切った湘南の『伝説の始まり』を感じさせる事が出来たらと思います!」(第64回文化祭パンフレットより)という言葉が、生徒達のこの文化祭にかける思いを表しています。初日は雨に泣かされたものの、二日目は持ち直し、生徒達の頑張りで大盛況のうちに終わりました。
本校の文化祭の大きな特徴は2つあります。第一に、生徒達が様々な役割を担いながら、文化部の活動の集大成として取り組むこと。第二に、全日制と定時制の生徒達が合同で取り組むことにあります。全・定の生徒が合同で行った後夜祭は見事なものでした。全・定それぞれの生徒達のダンスも楽しめました。最後に司会の生徒が言った言葉も光りました。「みなさん、明日の片付けが終わるまでは文化祭は終わりません!」何と素敵な生徒達なのでしょうか。
校長室の机の中には、本校の文芸部が2012年度文化祭号として作った文芸誌『羅針盤』があります。そこにある井上文矢君(ペンネーム)の「即ち其れ件の如し」の書き出しを次に記します。
「雲の向うに薄黄の大きな陽が見えた。色ばかりで、光は無い。もしかしたら月なのかもしれないなと幸吉は呆けた様に思った。その薄黄の円の中心を、ふらふらとこちらを馬鹿にしながら蜻蛉が通り過ぎる。過ぎるやいなや、蜻蛉の影は灰の中に溶け込み一切の見分けがつかなくなった。」(『羅針盤』2頁) |
全文を紹介できないのが残念なほど優れた作品です。『羅針盤』は他に「夏空と始まりの日」「花のラプソディ」「もしも・・・・・・」「帝国記―クーデター編(後編)」「金のなる木」「素」「逃亡者からの手紙」「しがらみ」「寂しい魂」「7」「それいけボーエン卿!」「アルミの檻のピーターパン」といった作品がおさめられています。題名を見ただけでも読みたくなるものばかりと言ったら校長の欲目でしょうか。
湘南高校の“Another Legend”は続きます。来月もお楽しみに。
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湘南高校の庭に咲く紫陽花 |
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「第93回全国高等学校野球選手権神奈川大会」開会式で旗を持って行進する本校の生徒達 |