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橋下徹大阪市長ひきいる大阪維新の会が、次の総選挙で国政進出をめざすという。民主、自民など既成政党の体たらくを見るにつけ、「古い政治を一掃し、新しい政治をつくる」という橋[記事全文]
企業統治への信頼を高めるため、会社法の見直し作業をすすめてきた法制審議会が、近く法相に改正要綱を答申する。一定の条件を満たす会社は、取締役に社外の人間を少なくとも1人起[記事全文]
橋下徹大阪市長ひきいる大阪維新の会が、次の総選挙で国政進出をめざすという。
民主、自民など既成政党の体たらくを見るにつけ、「古い政治を一掃し、新しい政治をつくる」という橋下氏の主張は確かに新鮮だ。
各種の世論調査で期待が高いのもそのためだろう。
一方で、国民の支持を得た新党が、あっという間に失速して姿を消す。そんな例をこれまで何度も見てきた。
今回は違う、と橋下氏はいうのだろう。ならばまず、ふたつのことを問うておきたい。
ひとつは、橋下氏自身の身の振り方である。
総選挙では300人規模を擁立し、過半数の獲得が目標という。当然、第1党になって政権をとったり、連立政権に加わったりする覚悟があるのだろう。
ところが、党首である橋下氏自身は立候補せず、市長にとどまるという。
府知事から市長に転じてわずか9カ月、持論の大阪都構想も道半ばで市長職を放り出しては市民の納得はえられまい。
他方、国政は片手間でできるような仕事とは思えない。
政党としての責任の所在があいまいになる心配もある。さらに、税財源の配分など、国と地方の利害がぶつかる場合はどうするのか。
党首と市長にどう折り合いをつけるのか、説明してほしい。
ふたつめは、政策集「維新八策」についてだ。
もっとも目を引くのは「統治機構の作り直し」である。
「動かない政治」をどう動かすかが、目下の政治の重要課題であるのはその通りだ。
八策にはその答えとして、首相公選制、参院の廃止、憲法改正発議要件の緩和など憲法改正が必要な項目が並んでいる。
政党が憲法改正を掲げること自体を否定するつもりはないが、肝心なのは政治を動かして実現する政策の中身だ。
日本は少子高齢化や低成長、巨額の財政赤字といった難題に直面している。原発事故を受け、新たなエネルギー政策をどう描くかも急務だ。
八策には、消費税の地方税化と地方交付税の廃止、年金の積み立て方式化、脱原発依存体制の構築などの政策が並ぶ。
しかし、こうした個別の政策をどう実現していくのかも、本当に難題の解決に結びつくのかもまだ見えない。さらに、その先にどんな社会像、国家像があるのかもわからない。
その展望を、橋下氏はもっと具体的に語る責任がある。
企業統治への信頼を高めるため、会社法の見直し作業をすすめてきた法制審議会が、近く法相に改正要綱を答申する。
一定の条件を満たす会社は、取締役に社外の人間を少なくとも1人起用しなければならない。法律でそう定めるかどうかをめぐって活発な議論があったが、「いきすぎた規制は活力をそぐ」などとする経済界の強い反対で見送りとなった。
その会社とは異なる文化や風土で育った人が取締役会に入り、違う視点から経営を監視することが、会社の発展につながる。私たちは社説でそのように主張してきた。
この考えに照らすと、残念な結論といわざるを得ない。
一方で要綱には、有価証券報告書の提出義務がある会社が社外取締役を置かない場合、「置くことが相当でない理由」を株主らに報告しなければならないことが明記される。
「置かない理由」ではない点に注目したい。人々を納得させる十分な説明が求められるし、かりに企業統治のあり方が問われる事態が起きたとき、注がれる目は従来以上に厳しくなることを覚悟する必要がある。株主の判断と責任も問われる。
法制審はあわせて各証券取引所に対し、「上場会社は社外取締役を1人以上確保するよう努める」という自主ルールの制定を要請する方針だ。
国内経済がなかなか元気を取り戻せないなか、外国の投資家に目を向けさせ、資金を呼びこむことは、多くの企業にとって重要な課題である。それなのに「当社に社外取締役はおりません」でどうするのか。
グローバル化に伴い、好むと好まざるとにかかわらず、企業統治でも国際標準への対応が求められている。証券取引所もそのことを痛感しているだろう。すみやかに上場規則の改定を進めてもらいたい。
もちろん外形を整えるだけでは十分でない。社外取締役がいても不祥事を防げなかった会社は多い。人選に問題はないか。会社としてチェック機能が働くしくみや人員配置をとっているか。法改正を機に足元を点検する作業も欠かせない。
要綱にはこのほか、「社外」の定義を厳しくすることや、グループ経営の規律を強める策が盛りこまれる。これらの論点も経済界の抵抗で後退した面はあるが、現実をふまえた制度でなければ動かないのも事実だ。
運用を重ねるなかで問題点が浮上すれば、また手当てする。そんな不断の取り組みで企業統治の実をあげていきたい。