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基準値の根拠を追う:放射性セシウムの暫定規制値のケース
2011/05/23 岸本充生
はじめに
半減期の短いヨウ素はあまり検出されなくなったので、半減期が30年と長いセシウム137を含む放射性セシウム(Cs-134とCs-137)の基準値の根拠を確認しておく。放射性セシウムの暫定規制値は表1のとおりとなっている。暫定規制値は、成人、幼児、乳児の中から最も低い濃度(赤字)を参考にして設定された。これだけ見ると、穀類は1000Bq/kgでも良い数字となっていることが分かる。
表1 放射性セシウムの暫定規制値と、その元の計算データ(単位はBq/kg)
出典)須賀・市川(2000)の第1表、第8表
また、放射性セシウムの年間許容量は実効線量としての年間5mSvとされている。この数字は3月末に食品安全委員会において、「かなり安全側に立ったもの」として追認された。この「5mSv」を表1の5カテゴリの飲食品に1/5ずつ割り振り、各カテゴリの制限値は年間1mSvとされた。
導出過程
環境中に放出されるCs-134とCs-137には放射性ストロンチウム(Sr-89とSr-90)が伴っているとして計算には含まれており、放射性セシウム(Cs-134とCs-137の合計)の規制値には放射性ストロンチウムも考慮されていることになる。計算に使うパラメータを表2に示した。初期存在量は炉内同位体割合に基づき、Cs-134とCs-137の合計を1としたときの値である。崩壊定数は、ヨウ素の場合と同様、LN(2)/半減期で求める。
表2 放射性セシウムとストロンチウムに関する計算パラメータ
出典)須賀・市川(2000)の第3表、第4表から作成
計算式は放射性ヨウ素の場合と原則的に同じであるが、Fという係数が付く点が異なる。これは、(年平均濃度)/(ピーク濃度)の値であり、希釈効果を表している。半減期が短いヨウ素には適用されないが、半減期が長いセシウムとストロンチウムにはF=0.5が適用される。摂取期間は365日である。また、1日あたり摂取量を表3に示す。赤字は放射性ヨウ素の場合と異なる数字を示す。野菜の摂取量が大きいのは、放射性ヨウ素の場合は葉物野菜のみであったが、表3ではすべての野菜が対象だからである。
実効線量=F×(実効線量換算係数mSv/Bq)×(食品の放射線量Bq/kg)×(1日あたり摂取量)×[1-exp{-(物理的崩壊定数)×(摂取期間)}]/(物理的崩壊定数)
表3 飲食物カテゴリと摂取量(セシウムとストロンチウムに対して)
出典)須賀・市川(2000)の第5表から作成
これらのパラメータを上の式に代入し、4種類の放射性核種の数字を、表2の初期存在量と掛け合わせて合計すると、表1の値をほぼ再現できる。
暫定規制値の意味
放射性ヨウ素と違って、半減期が長いことから、1日あたりの摂取量が多い成人の値の方が乳幼児の値よりも厳しくなる。そのため、セシウムの暫定規制値は、乳児の摂取量が多い牛乳・乳製品を除くと、成人について導出された値である。
放射性セシウムの暫定規制値の特徴は、半減期が長いことから、「希釈効果」が考慮されていることである。希釈効果とは、(年平均濃度)/(ピーク濃度)の値とされ、0.5が使われている。事故直後は、周辺住民は地産の飲食物ばかり食べるが、時間が経てば遠方からの飲食物も入ってくるという想定だと思われる。希釈効果を含めなければ暫定規制値は現在の半分の値となる。
目標値の年間5mSvの是非はここでは議論しないが、この数字を飲食品5カテゴリにどのように配分するかは科学的に決めようがない。ここでは、均等配分という方法がとられているが、表3のように、摂取量は「飲料水」カテゴリが圧倒的に多いため、飲料水への配分を多めにすることも可能である。そうすると、飲料水の規制値は緩くなるかわりに、他の4カテゴリの値は厳しくなる。すなわち、配分の仕方によって暫定規制値は変わりうるし、「1/5ずつ配分」というのはそのうちの1つの配分方法にすぎないことに注意すべきである。このことは放射性ヨウ素の場合にもあてはまる。
放射性セシウムの場合も、放射性ヨウ素の場合と同様に、1回限りの排出イベントを想定した値となっているが、半減期が長いため、「1年間(同じ濃度で)食べ続ける」ことを前提とした「1年間摂取し続けた場合の線量限度」としても値はあまり変わらない。例えば野菜については244Bq/kgとなり少しだけ小さい値となる。しかし「1年間摂取し続けた場合の線量限度」とする場合は希釈効果を含めないため、仮に設定してみると、表4のように値は暫定規制値の半分程度となる。
表4 「現行の暫定規制値」と「1年間摂取し続けた場合の線量限度」
参考文献
須賀新一、市川龍資(2000).防災指針における飲食物摂取制限指標の改定について、保健物理、35(4)、449-466.