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先日の地方自治法改正で、自治体から地方議員に支給される「政務調査費」の使いみちを広げることが認められた。当初の政府案にはなかったが、民主、自民などの提案で修正された。[記事全文]
政局混迷のあおりでたなざらしになった法案のひとつに、刑法改正案がある。実刑か執行猶予かの選択肢しかない制度を見なおし、刑の一部について執行を猶予する新たなしくみを導入しようというものだ。[記事全文]
先日の地方自治法改正で、自治体から地方議員に支給される「政務調査費」の使いみちを広げることが認められた。
当初の政府案にはなかったが、民主、自民などの提案で修正された。
内容はこうだ。政務調査費を「政務活動費」とし、調査研究だけでなく、選挙や後援会活動をのぞく「その他の活動」にも使えるようにする。使える活動の内容は、条例で定める。
政務調査費は、都道府県では議員1人あたり月30万円ほど支給されている議会が多い。
しかし、各地の自治体で飲食代など不適切な使い方が次々と発覚していることから、市民オンブズマンなどが住民監査や訴訟などで返還を求める例が相次いでいる。
先日も、大阪維新の会の大阪市議団が昨年の市長選前に開いた集会の費用の一部にしていたことがわかり、問題になった。
今回の改正は、全国都道府県議会議長会が、住民の声を聞く相談会を開く費用や陳情の旅費など、広く議員活動一般に使えるように自民党などに要望したものだ。
非常識な使い方が目につくことも考えれば、市民オンブズマンが改正法を「驚くべき悪法」と反発するのは無理もない。衆院での採決直前に修正案が出てきたことも、総選挙を前に地方議員の要望にこたえたい政党側の思惑もうかがわせる。
ただ、改正によって、これまで議長が決めていた使途基準を各自治体に条例で定めるように改め、議長に透明性を確保する努力義務も盛り込んだ。
つまり、あいまいだった使いみちを明確にする責任を、議会に負わせるかたちにしたのだ。
議会によっては、お手盛りの条例案が出てくることも十分に考えられる。一方で、それを許さないよう、住民が条例制定の過程を監視することもまたできるようになる。
都道府県議会では、これまでも政務調査費の収支報告は議長に提出され、住民にも公開されてきた。とはいえ、すべての支出の領収書の添付を義務づけているところもあれば、1件につき5万円以上の支出に限っているところもある。
住民の税金から支給されていることを考えれば、すべての領収書を公開するのが望ましい。金額が妥当なのかも考え直す余地がある。
今回の改正を機に、まずは議員みずからが襟を正していかねばならない。さらに無駄な出費をなくすよう、住民も監視の目を光らせたい。
政局混迷のあおりでたなざらしになった法案のひとつに、刑法改正案がある。実刑か執行猶予かの選択肢しかない制度を見なおし、刑の一部について執行を猶予する新たなしくみを導入しようというものだ。
昨年末に全会一致で参院を通過しながら、衆院での審議がようやく始まったところで、国会は事実上閉会してしまった。
政治の機能不全にならう必要はない。法務省や厚生労働省など関係する省庁は、近い将来の成立をみこして準備を進め、実務面への悪影響を少しでも減らすよう努めてもらいたい。
法律が施行されると、たとえば懲役2年のうち1年6カ月は刑務所で服役するが、残り6カ月については2年間の執行猶予とし、その間、法務省の職員である保護観察官の監督下におくものとする――といった判決を言い渡せるようになる。
統計によると、刑期いっぱい塀の中にいるよりも、社会に復帰して周囲の指導と支援をうけるほうが、立ち直りの可能性が高い。一部猶予の対象者は懲役3年以下の軽い罪を犯した人だが、なかでも再犯率の高い薬物使用者が想定されている。
ただし、狙いどおりの効果をあげるには、更生保護行政だけでなく、医療や福祉など関連する施策を、あわせて着実に進めていくことが欠かせない。
毎年6千人以上が新たに服役する薬物犯罪の場合、息の長いフォローが更生のカギを握る。薬への依存を絶たせ、相談にも応じる態勢が大切だが、きわめて貧弱なのが現実である。
この仕事に取り組む専門の精神科医は、参考人として呼ばれた参院で、みずからを「絶滅危惧種に近い」と嘆いた。
依存症を病気ととらえ、それをどう克服するかという意識を社会全体でもたなければ、問題は解決しない。それなのに受け皿となる医者や病院は限られ、診療報酬も低いという。見過ごせない指摘である。
薬物の広がりは社会の安定をゆるがす。本人はもちろん、ときに幻覚が引きおこす重大事件は落ち度のない被害者を生み、犯罪組織の資金源にもなる。
ことし7月、犯罪対策閣僚会議が「再犯防止に向けた総合対策」をとりまとめたが、そこでも薬物犯罪者に対する継続的な指導と支援がうたわれている。これを書類のうえだけでなく、予算や人員の裏づけを伴うものにしなければならない。
医師や支援スタッフの育成、施設の充実は一朝一夕にはできない。少しでも早く、少しでも前に。この姿勢でのぞみたい。