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「支え合いマップ」を知っていますか?数十世帯単位のご近所で、住民一人ひとりが参加し、「おつき合い」の相手を線で結ぶ。いわば「共助の地図」だ。全国で[記事全文]
ロシアが世界貿易機関(WTO)に正式加盟した。旧ソ連の崩壊から間もない93年、前身の関税貿易一般協定(GATT)に加盟申請して約20年。ようやく自由貿易体制への組み込み[記事全文]
「支え合いマップ」を知っていますか?
数十世帯単位のご近所で、住民一人ひとりが参加し、「おつき合い」の相手を線で結ぶ。いわば「共助の地図」だ。
全国で地域福祉のアドバイスをしている木原孝久さん(71)が20年前から提唱し、市町村や社会福祉協議会の担当者や民生委員らの間で広がってきた。
合言葉は「助けられ上手になる」である。
マップで線が引けない人は地域で孤立し、災害時に逃げ遅れたり、病気で孤独死したりするリスクが高いことがわかる。
そんな事態を防ぐには、住民が常日頃から、自ら「助けて」と声をあげる必要がある。それが本当の意味で、自分の命を自分で守る「自助」だ。
「自分の困りごとを表に出すのは恥ずかしい」と思いがちだが、「助けられる人」がいて初めて、「助けたい人」の力が引き出される。自助と共助は裏表の関係なのだ。
最大の壁は「人に迷惑をかけてはいけない」という意識である。日本人は、問題を自分や家族のなかで解決することが自助と教え込まれてきた。
たとえば自民党が、5月にまとめた社会保障に関する「基本的な考え方」には、そんな常識が色濃い。
「家族内の精神的、経済的、物理的な助け合い、すなわち『家族力』の強化により『自助』を大事にする」とうたう。
まずは家族内でなんとか始末をつけよ、と読める。
だが、現実はどうか。
高度成長期、大量の労働力が地方から都市へと流入した。地縁・血縁が薄れ、核家族化がすすみ、さらに高齢化で単身世帯が急速に広がっている。
「家族は大事だ」という道徳論で、きずなが復活し、孤独死や虐待が解消するだろうか。
むしろ、プライバシー尊重の名のもとで「引きこもり」を助長し、共助を妨げるおそれさえあると、現場の経験は教える。
かたや財政悪化を背景に、税金による公助にも限界が見えている。「家族内の自助」の強調は、裏づけのないまま「福祉の充実」を言い募ってきた政治の敗北宣言という側面もある。
「自助・共助・公助の最適バランスに留意し、自立を支援する」。民主、自民、公明の3党は、こんな考え方の社会保障制度改革推進法を成立させたが、中身の議論を深めないまま、国会は機能を停止した。
こんな時だからこそ、有権者自ら、「自助」や「自立」の意味を考えたい。
ロシアが世界貿易機関(WTO)に正式加盟した。
旧ソ連の崩壊から間もない93年、前身の関税貿易一般協定(GATT)に加盟申請して約20年。ようやく自由貿易体制への組み込みが完了した。
ロシアはもともと貿易障壁が少ない資源エネルギー輸出の比率が高い。このため、WTO加盟で貿易摩擦が広がるような事態は考えにくい。工業製品の輸出が多い中国とは対照的だ。
焦点は、手厚く保護されてきた国内市場の開放によるロシア向け輸出や直接投資の拡大である。日本の期待もここにある。例えば、自動車の関税は現在の30%から7年かけて15%まで引き下げられる。リーマン危機後に国内産業を守るために自動車の関税を引き上げたようなことはもう許されない。
通信、金融、流通などの外資規制も緩和・撤廃される。これまで2国間協定で図られてきた投資家保護や紛争解決の手だても、WTOの国際的な枠組みによってさらに手厚くなる。
プーチン・メドベージェフ体制は、WTO加盟をテコに外国からの直接投資を増やし、製造業を中心に国内産業を強化しようとしてきた。その方向性は正しい。
エネルギー輸出に依存する今のロシア経済は、仮に原油相場が下落すれば、国家財政が圧迫され、国民経済が被る痛手も大きいからだ。外国から流入していたマネーの引き上げによる金融の収縮といった複合的な危機に見舞われる懸念がある。
むろん、国内では市場開放による競争激化と国内産業の衰退への警戒も根強い。
政権のもくろみ通りに進むかどうかは、ロシアへの直接投資を妨げている劣悪なビジネス環境をロシア自身が改善できるかどうかにも左右される。
官僚主義の行き過ぎや汚職の横行、政治とビジネスの癒着、不透明な法制や税制、政治の圧力に左右される裁判――と、外国の投資家が訴える問題点は切りがない。世界銀行の調査でもビジネス環境は183カ国中120位。91位の中国にも水をあけられている。
こうした問題になかなかメスが入らない理由を突き詰めれば、これも原油高がもたらす「慢心」に行き当たる。平時の改革は難しいが、WTO加盟とそれに伴う外圧は抵抗を押し切る数少ない切り札だ。
中国の今日に至る高成長の背景には、WTO加盟のために断行した国内改革があった。ロシアも国内経済の強化と安定に向けた道筋をつけてほしい。