木語:どうした、アーさん=金子秀敏
毎日新聞 2012年08月30日 東京朝刊
<moku−go>
アーミテージ元米国務副長官は、日本では「アメリカのアーさん」で通用するほど有名な知日派である。最近、ナイ元国防次官補と共同で「第3次アーミテージ・ナイ報告」をまとめた。そのなかで、米国は日韓関係の修復を仲介すべきだと提言している。とても韓国寄りの内容だ。アーさん、どうしたのか。
日経新聞の春原剛編集委員がアーミテージ氏にインタビューした記事がわかりやすい(8月25日付「日経」朝刊)。
韓国の李明博(イミョンバク)大統領が竹島に上陸したのは日本の「従軍慰安婦問題」の対応に不満があったから。そこで、この問題を解決するため日米韓3カ国の有識者で非政府間会合を積み重ね、その後、政府関係者を交えた準政府間会合に格上げするという。
日韓は歴史教科書問題で専門家の対話を試みたが、大きな成果はなかった。だが第三国の米国が加われば、議論がまとまるかもしれない。それには米国の中立性が前提だ。ところがアーミテージ氏は春原氏にこう言った。
「事実はただ一つ。それは悪いことであり、実際に起こった。そして日本人の何人かが責任を負っている。それで話は終わりだ」
韓国の認識とほぼ同じだ。日本側がこだわるのは、「実際に起こった」という証拠が見つからないことである。アーミテージ氏が言う「何人かの責任を持つ日本人」とは、どこの誰なのか。何か根拠があるのか。
韓国だって、「実際に起こった」と判定されたら「それで終わり」ではない。「そこが次の問題の始まり」になるだろう。だからこの仲裁は成立しない。
なぜ米国は従軍慰安婦問題で韓国寄りになったのか。前々回の本欄で触れたように、アジアに回帰した米国は、いま中国、北朝鮮の弾道ミサイルを防ぐためのミサイル防衛システムを急いでいる。
ミサイル発射を探知するためのXバンド早期警戒レーダーを日本の南の島とフィリピンに増設するとした一方で、東シナ海や日本海では日米韓のイージス艦の情報共有を促している。それには、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を結ぶ必要がある。
李大統領は、締結と従軍慰安婦問題をからめた。野田佳彦首相が拒否し、GSOMIAは宙に浮いた。困ったのは米国だ。アーミテージ氏は「両国には長期にわたる戦略的な目的を常に頭に置いてほしい」と正直だ。要するに、GSOMIAを早く締結するために日本は韓国の言い分をのめという米国の「天の声」ではないか。時には変な声もある。(専門編集委員)
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