2008年10月02日
中世ヨーロッパを思わせるファンタジー世界。
ループを繰り返しながらキーワードを集め、悲劇を回避してくというゲーム性。
作りこまれたキャラクターたち。
世のアドベンチャーゲーム好きに、ぜひともプレイしていただきたい作品であります。
まぁ、弊社的に一番のツボはイラストを担当された不破大輔氏の描く美しいキャラクター&CGだったりするわけですが……。
そんなわけで、かなり個人的なわがままにより、行ってまいりました日本一ソフトウェア(所在地:岐阜)。
インタビューしてまいりました、不破大輔氏!
↑受付では日本一ソフトウェアの人気キャラ“プリニー”が応対。
最近は新作ゲームの主人公に抜擢されたそうで、祝!1日24時間労働とのこと。おめでとうございます。
「インフィニットループ」は発売後2カ月以上たっているということもあり、かなり深いところまで色々と聞いておりますよ。そして、気合を入れすぎてかなり長くなっております……。
さらに前置きを長くするとさすがに苦情が出ますので、さっそくですが不破大輔氏ロングインタビューをどうぞ。
【不破大輔氏インタビュー】

―本日はよろしくお願いします。今回がコンシューマソフトで初のメインイラスト担当ということで、まずは自己紹介からお願いいたします。
不破氏 はい、よろしくお願いします。
これまでの経歴としては、日本一ソフトウェアに入社する前にフリーの漫画描きとして、美少女ゲーム関連のお仕事もお手伝いさせていただいていました。PCゲームのメーカーさん的に言うと、名古屋にあるWILLさんと懇意にさせていただいてましたね。今でも関係者の方とは仲が良く、交流があります。不破大輔ではない方の絵描きが、今でもお手伝いさせていただくこともあります(笑)。
―不破さんではない方の絵描きさんは、コアなファンが今でも居ますよね(笑)。
不破氏 大変ありがたいことです。
―そして日本一ソフトウェアに入社されるわけですが、これはどういった経緯だったんでしょう。
不破氏 もともと自分は名古屋に住んでいるんですが、岐阜に日本一ソフトウェアという会社があることは知っていました。以前当社に勤めていた野村良治さん(『マール王国の人形姫』シリーズなどを担当)の絵がかなり好きだったということもあり、まだいるかなと思い入社したらすでに辞められていたという(笑)。
―それは残念ですね(笑)。野村さんが辞められたのって、何年前くらいでしたっけ?
不破氏 PS2に参入した後には辞められてましたね。
他に入社しようと思ったきっかけは、入社が2年前の9月なんですが、実はそのころに結婚を考えていたんです。でも、結婚をするには社会的な地位を安定させなければいけないと話に聴いたもので(笑)。
―コンシューマゲームの絵を描いてみたいという気持ちはあったんでしょうか。
不破氏 希望としてはありましたね。でも、どちらかというと入社当時の感覚としてはドット絵を打ちたいなと思っていたんです。
―日本一ソフトウェアといえばドット絵! ですからね。
不破氏 そうですよね。裏方の大道具・小道具といったものにあこがれが強かったもので、そっちの方の仕事をしてみたいなと。ただ、募集要項の職種の中で応募出来そうなのがキャラクターデザイナーとエフェクトデザイナーという募集だったんです。それで、自分に出来ることで応募した方が有利かなと思い、キャラクターデザイナーとして応募しました。
―入社後にキャラクターデザインとしてお名前が出るのは、今回の『インフィニットループ』が初ですよね。
不破氏 はい、それ以前の仕事は入社した時に開発していた『ソウルクレイドル』のイベント画を描かせていただきました。その作品のグラフィックを担当されていたtoi8さんがスケジュール的に厳しいということで、お手伝いしたという形です。ただ、それで名前を前面に出すわけにはいかなかったので、エンドクレジットに名前を載せただけでしたね。
―なるほど。コンシューマゲームのお仕事を始められた経緯がわかったところで、イラストに関することを聞いていきたいと思います。
◆イラストを描き始めたきっかけ
不破氏 ファミコンがブームになっていた頃、『ドラゴンクエスト』で初めてファンタジーという世界を知り、それにガツンとやられたのがきっかけですね。同時期にテーブルトークRPGも日本に上陸したという流れがあったんですけど、そちらはすこし遊んだくらいです。それよりも、以降メインになっていったファミコンっぽいファンタジー、ある意味すこしインチキくさいファンタジーが好きになっていったんです(笑)。
―TRPGではD&Dシリーズなどが流行っていましたけど、そちらとは別路線のファンタジーということですかね。
不破氏 D&Dも遊んでいたんですけど、その後に生まれた「ロードス島戦記」あたりから少し付いていけなくなってしまい、ノベルですけど「スレイヤーズ」あたりから完全に路線から外れてましたね。(本人注:今では普通に好きです。“リナ”可愛い!)
―ゲーム以外でもかまいませんので、そのあたりで熱中された作品というとなんでしょうか。
不破氏 ちょっと古い話になりますよ(笑)。
―全然大丈夫です。ウチはマニア向けに書いてますので(笑)。
不破氏 作品単体という話じゃないんですけど、ゲームブックの影響が強いです。双葉社や恵文社のゲームブックを何回も遊びながら、落書きしてました。当時は見田竜介先生(「ドラゴンハーフ」など)が別名義(不敵万歳)で挿絵を描いていたり……。実家にはまだ50冊くらいゲームブックを保管してますが、その中の思い出の1冊「メトロイド」の著者で、編集・ライターの塩田信之さんが実は知人の知人くらいの距離に居たりして、世界の狭さを感じます。
あと、それほど著名じゃない作家さんや絵描きさんの作品を好きになるようなへそまがりなので、上手で線が多くて細かい絵は自分に真似できそうになかったので苦手でしたね(笑)。
ファンタジーブームの流れは「本格派」だったんですけど、そちらにはついていけずに肩身の狭い思いもしました。今でも鎧を描く時は「肩パットでもついてりゃいいじゃん」と思ったり(笑)。実際、『タクティクスオウガ』系のデザインよりも『ファイアーエムブレム』系のデザインに心ひかれますね。『タクティクスオウガ』は凄いな〜、と思うんですが自分には描けそうにない(笑)。ああいう絵を描ける人じゃないと、描いちゃいけない気がする(笑)。
イラストとしては昔は先ほど話に出たD&Dのラリー・エルモア氏とかすごく好きだったんですけど、ある一枚の絵に出会って「王道なんてないのかも」って気づいたんですね。モーニングスターを持った西洋甲冑の騎士が馬に乗って崖を疾走している絵なんですけど、その崖がグランドキャニオンなんですよ(笑)。その絵は今でも大好きなんですけど、「この絵の歴史的な様式は、アメリカ人が勝手に考えたものなんだな」って気づかされて、ファンタジーはもっと自由なんだと思いました。
―その影響はずっとあり続けているんでしょうか?
不破氏 本当のことを調べて描くというのも大事なことなんでしょうけど、それで面白みがなくなるんなら意味がないよな、って思ってますね。この時代にこの鎧は無いから、こういう風に描かなきゃいけない、って結果作品が面白くなくなっちゃったら、意味がないです。そういうものは、エッセンスとして取り込めればそれでいいんじゃないかと。
―絵を描いている人は割と漫画などに影響を受けて描き始める、という方が多いと思いますが、不破さんは漫画よりもそういったイラストが入口だったんですね。
不破氏 そうですね、どっちかというと背景と人物が一緒に描かれている絵が好きだった記憶があります。あとは、同業者でもある妹の存在が大きいんですかね。
ただ、そのころは信じられないくらいヘタだったんです(笑)。実際本格的に描き始めたのは大学に入ってからなので、自分自身相当に遅れを感じていますし、耳年増な割に力が伴っていないので、今でも苦労しています。よく仕事で来てるなと(笑)。
―いやいや(笑)。十二分に上手いですし、ご自分の世界観を持っていらっしゃる絵を描くと思います。
不破氏 もっと精進したいと思います。
―きっかけの時点で海外のファンタジーなイラストですが、日本では影響を受けたイラストレーターさんとかはいないんでしょうか?
不破氏 それは、もちろんいますよー。
―それでは、事前に応えていただいたアンケートを見つつ、行きましょう。
◆影響を受けた漫画家&イラストレーター
漫画家
・小原愼司先生
悩んでいる時に「ぼくはおとうと」「菫画報」に救われた。特に読み切り版「二十面相の娘」が最高。
・長谷川裕一先生
「マップス」はもちろんだが、読みきりの「キャプテンオーマイガー」が傑作。奈須きのこ氏も大ファンだそうで。
・新沢基栄先生
心のマンガ「奇面組」
・永野のりこ先生
「みんな以外のうた」は墓場まで持っていく。
イラストレーター
・桜瀬虎姫先生
特に『暴れん坊プリンセス』前後からの独特の“大口”になったあたりが好き。
・関修一先生
「ペリーヌ」「フローネ」「あしながおじさん」「ブッシュベイビー」「ワンワンセレプー それゆけ!徹之進」と、常に僕の心を離さない。
・渡辺はじめ先生
表情がころころ変わるアニメキャラたちが好き。モノ作ってるなら「アニメーター制作進行くろみちゃん」は必見。
・AKIMAN(安田 朗)先生
ラフ、デザイン、仕上げ……同一人物であるとは信じられない差異があるが、どれも魅力的。
不破氏 アンケートには書かなかったんですが、僕の世代が影響を受けたものというとやっぱりガイナックスの「王立宇宙軍〜オネアミスの翼」が一番じゃないでしょうか。作品全体を通しての完成度というか……。当時は観てもよくわからなかった情報の塊というものが、年を取って改めてわかるようになる。例えば、電光掲示板。作品中ではニキシー管というデジタルになる前の技術が使われていて、その知識を持って作品を見るとそれがわかる。
僕がそういうことを考えるようになったのは大学生の時ですが、自分と同じような年の人間がこういう作品を作ったのかと思うと……。
―アニメ史に残る名作ですよね。影響を受けた漫画というと……アンケートには色々書いて頂いてますが。
不破氏 漫画では新沢基栄先生の「奇面組」が最初に浮かびますね。そんなに真似をしているわけじゃないんですけど、フッと頭に浮かぶシーンは「奇面組」が多い気がします。
―イラストレーター方面では?
不破氏 影響を受けた方は、やっぱり全体的に線が少なめの人ですね。関修一さんは子供のころから今に至るまで、通じて尊敬しています。「あしながおじさん」あたりで絵が変わり、「ブッシュベイビー」でさらに変わって、最近は「ワンワンセレプー それゆけ!徹之進」(笑)。
―ずっと追いかけていらっしゃるんですね。
不破氏 そうですね。あとは一連の大地丙太郎監督作品で描かれることが多い渡辺はじめさん。やっぱり、「こどものおもちゃ」や「カレイドスター」など、観ているアニメのスタッフを確認すると、常に渡辺はじめさんだったりします。
思い返すと、中学校くらいの絵を落書き程度ですが描いていた頃に影響を受けているなと思うのはAKIMANさんですね。『ファイナルファイト』がブームだった頃、目を引くリキテックス(アクリル絵具)の塗り方をされる方だと思って、そこから作品が変わるたびどんどん絵柄が変わっていくのに毎回驚かされました。
◆現在意識している漫画家&イラストレーター
漫画家
・石黒正数先生
「ネムルバカ」が特に良い。
・篠原健太先生
「SKET DANCE」が、とにかく絵もお話もキャラも全部好き! でもなんだか80sテイスト。……往年のマッチ茨木路線?
イラストレーター
・ワダアルコ先生
80s回帰ブームの先鞭
・星野リリィ先生
夏コミで買い物列の中に男が自分しかいなくて、すごく恥ずかしかった。
―こちらは影響というより、現在意識されている絵描きさんということで……。対抗意識を持っている方とかいらっしゃいますか?
不破氏 ビッグな方ばかりなので、対抗意識を持っちゃいけないんですけど(笑)。石黒正数先生の「ネムルバカ」という作品が「月刊COMICリュウ」で連載されていたんですけど、これがすごいショックを受けましたね。
部分的には中学生テイストな話があり、流れとしては「アフタヌーン」に載ってるような漫画、という感じですよね。沙村広明先生の「おひっこし」とかと同系統の日常を描いた作品。
以前、漫画の持ち込みをしていた時に日常の話の企画を出したんですが、「日常の話が面白いわけがない」って言われたことがありまして(笑)。そんなはずはない、と思ったんですが、今考えるとその頃の自分には日常の話をかける技量もアイディアもなかったんですね。そう考えると、日常の話を面白い一つの作品に仕上げている方はすごいと思います。
―不破さんは漫画を描かれていることもあり、イラストだけでなくストーリー面も注目されているんですね。
不破氏 それはあります。僕が言うと完全に負け惜しみなんですけど(笑)、時々ストーリーの邪魔をしちゃってる絵、ってあるじゃないですか。描き込みすぎているというか、リアルすぎたり。ここはもっと崩した方がいいのに、とか。そういう作品はちょっと違うかなと思うんですよ。僕の好きな作品は漫画家さんのものであることが多くて、特に好きな漫画家さんはその都度に応じて絵の描き込みが変化するんです。
「週刊少年ジャンプ」で連載されている「SKET DANCE」という作品の篠原さんも、そうですね。今、雑誌の後ろの方に来ているのでドキドキしているんですけど(笑)。
―「週刊少年ジャンプ」は、好きになった作品に限って掲載順が後ろになったりしますね(笑)。イラストレーターでは、意識している方は居ますか?
不破氏 「コミッカーズ」や「季刊エス」といったイラスト系雑誌で活躍されているワダアルコさんとか、漫画家の星野リリィさんが好きですね。イラストでは、どちらかというと女性的なものが好きなのかもしれません。
―夏コミで並ばれたとのことですが。
不破氏 はい、夏コミで(笑)。外周サークルだったんですけど、熱い日差しの中長蛇の列に並びました。男が売り子をされているイケメンの方が1人しかいなくて、後は僕以外全員女性という。白い目で見られましたね(笑)。
◆お仕事の環境
―自分があまり詳しくないのですが、使用されているイラストソフトなどもお聴きしておきたいのです。
不破氏 そうですね、今は「Photoshop」がメインです。会社では「CS2」、個人では「CS3」と変わっていますが、基本的にはフォトレタッチソフトしか使っていません。ペインター系も色々ありますが、使う機会に恵まれずに。社内でも使ってないんですよね。
仕事面では3Dの勉強中で、会社では「LightWave9」を使い、個人では「メタセコイア」をいじっています。
―作業はすべてPC上で行うんですか?
不破氏 今回の『インフィニットループ』ではPC上ですべて描きました。構図を決めるラフの段階は紙に描いた方がいいことが多くて、アイディアは紙に落書きしますが、いったん決まったらあとはすべてPC上です。
―それでは『インフィニットループ』の話が出たことですし、ゲームについてお訊ねします。
◆『インフィニットループ』のキャラクターデザイン
―今までの経験というのはもちろんあると思いますが、コンシューマゲームのキャラデザは初ということで、なにか気を付けたことなどありますか?
不破氏 アニメーションをすることが初めから決まっていたので、外注さんに彩色を任せることを考慮しつつ、装飾を単純化して、色を多く使いすぎないように努めました。実はキャラクターセクションに僕1人しかいなくなってしまい、結果として全部自分でやる個人作業だったんですけど(笑)。ただ、それでもストレートなアニメではなくて、静止画がアニメーションするということだったので、ある程度の線の多さにはしました。
同じ大学だった同輩の本庄雷太君がPS3ソフト『戦場のヴァルキュリア』のキャラデザインをしていたんですが、細かいパーツも使い放題で、他人がポリゴンデータ作るからって好き勝手やっていたので、うらやましかったですね(笑)。同じことができるかというと、出来ないんですけど(笑)。
―『インフィニットループ』のデザインとしては、ファンタジーの世界ではありつつ、現代に近いものになっているのかなとは思いますが。
不破氏 当初イメージスケッチを提出した中では、貴族服だと男性は下半身が全員タイツだったり(笑)、女性は全員コルセットをつけていたり、そういう路線で行く案も最初はあったんですよ。
でも、コルセットを付けたシルエットだとみんな同じになってしまったり、男性が全員タイツだとやっぱり間抜けですからね(笑)。なので、当時のファッション関係の本を調べつつ、キャラによってはある程度時代を前後させたりして、差別化を図りました。女性陣は意図してデザインを現代風にしたりしました。
各キャラクターごとに、食べ物や花、民族衣装みたいにモチーフを決めて持たせたり。11人もキャラクターが入り混じるので、記憶に残りやすいデザインを心がけましたね。
―描く上で苦労したキャラクターは?
不破氏 ダントツで宰相の“ネルズ”ですね。金の飾りをつけているんですが、あれを1個1個描いてアニメーションさせるのは、もう「殺す気か!」と(笑)。あとは衛兵の“ジミー”は、同じ理由で鎧のアニメーションを描くのが大変でした。
―やはり描く時にアニメーションまで考えるのが大変そうですね。
不破氏 そうですね、1日1カットというペースで作業したんです。ただ、カット数自体は普通のアニメーターさんより全然少ないんですよ。アニメをやったことがない人間がムリクリひねり出して、描いたんです。しかも、それを自分が塗らなきゃいけないと思うと(笑)。尻すぼみにモチベーションが下がっていくので、先に面倒そうな“ネルズ”とかから掛かりました。
それでも、現場からこのアニメが足りない、あのアニメが欲しいと要望が後から来たので、そういうものにはすでにあるカットをパズルみたいに組み替えて新しいものを作りました。やっぱりメモリ容量も限られていますので。
メイドの2人は描きやすいので、後回しにしたんですけど、最後の最後に仕上がった妹姫の“ヴィーネ”がまた(笑)。ドレスがカラフル、さらに髪の毛が後ろで手を前に出す立ち絵なんですけど、アニメーションでいろんなパーツが前後するんですよね。そのパーツをレイヤー分けして組み上げるのが地獄で(笑)。地味に色数が1番多いキャラなんですよ。でもここら辺は他のグラフィックスタッフが半分くらい彩色を手伝ってくれたので、かなり助かりました。
↓今回特別に、初期デザイン案とキャラデザのラフを掘り起こしてもらっちゃいました! これは眼福!! クリックして全身図をご確認ください。










◆イベントシーンについて
―『インフィニットループ』には数多くのイベントシーンが用意されているわけですが、ぶっちゃけエロくないですか(笑)。
不破氏 実は、エロは指示されていなかったんです(笑)。ゲームの設定上、キャラクターの私生活を覗くシーンがあるということだったので、それは裏テーマとして推していかなければと思っていたし、やはりユーザーさんからの受けも良かったんですね。
当初、上司の簗瀬と話していた時に想定していたプレイスタイルは、憑依するキャラクターをまたいでいくのはまれだろう、と。電車の乗り継ぎみたいに憑依対象を変えたりはせず、お気に入りのキャラクターに密着していけるところまで行って、続きを見るために他のキャラクターのシーンでキーを回収して、さらに先を見る、というプレイスタイルになると考えたんです。
―なるほど、自分もそのスタイルでした(笑)。
不破氏 本当ですか(笑)。おそらく、こちらが思っている以上にキャラクターへの愛着を後押しする必要があると考えたので、その後押しのきっかけとしての覗きイベント。ひいては、お色気的なシーン、という形で入れたんですが……。どこまでやるかは一任されていました(笑)。主人公の“ウィリアム”は完全無欠という設定で、死んでるからいいけどこんな奴がいたらたまったもんじゃない、という完璧超人なんです。なので、“ウィリアム”というキャラクターの表情や目線からは、エッチなものを見て興奮している、という要素は無くしています。
現実の情勢的にロリを避ける必要があったので、元々素っ裸だった“ヴィーネ”のお風呂シーンにタオルを着せたりしましたね。
―“ヴィーネ”はイベントシーンは絶対に必要だけど、エロくするのはバランスが大変そうですね。
不破氏 いわゆる妹萌えの感情を主人公に抱かせてしまうのは、違う気がするんですよ。兄である“ウィリアム”は完全に妹として接していますが、“ヴィーネ”の中には恋愛と家族愛が混ざっていますね。
―立ち絵も含めて、寝起きのシーンがわりとどのキャラクターも個性が出ていて良かったです。
不破氏 当初は寝起きの立ち絵差分って無かったんですよ。バストアップをすべて作り終わった後に、「この人たちは普段着のまま寝てるんですか」という意見があり、このままじゃ良くないなと思って描きました。それで初めは1枚の立ち絵だけだったんですけど、動きも欲しくなってほんのちょっとだけアニメーション出来る部分を作りました。
―寝間着はキャラクターごとに個性的ですよね、“ジミー”は裸(パンツははいてる)だったり(笑)。印象深い寝間着ってありますか。
不破氏 やっぱり“アイシャ”ですかね。“アイシャ”は寝間着のチェンジがゲーム中にあるということを完全に忘れていて、後で困っちゃったな〜(笑)。たしか先にバストアップを描いて、お色気ということでボディスーツっぽいものを描き、それにあわせて後からイベント画を描き起こしたという形でした。僕はてっきりCEROさんかSCEさんから再提出があると思っていたんですけど(笑)、チェック後も特に問題なかったですね。



←↑“アイシャ”の寝間着チェンジ。ゲーム中では「見せる相手がいない」というようなことを言ってましたが、王子(プレイヤー?)が見てました。
―『インフィニットループ』のCEROレーティングはBなので、年齢12歳以上推奨ですね。まぁ、最近の子はこのくらいなんともないぜ! ということで(笑)。
自分が特にエロいな! と思ったのがラストシーン近くの“セレス”の泣き顔なんですが…。

↑弊社が選ぶ「ティンと来た! 画像」。どうですか? エロくない?
不破氏 このシーンはイベントビューアーに登録されないので、僕自身どんな顔を描いたかなと思って確認したんですが……、確かにそれっぽいですね(笑)。
ちょっと“セレス”は顔が安定しなかったので、悔やまれます。ただ、普通に流せる表情より多少は顔が崩れていた方が感情が伝わるなと思ったんですね。自分がイベントCGを担当した『ソウルクレイドル』メインルートのラストシーンで、ヒロインの“ダネット”が泣くシーンを描いたんですけど、その時も崩しました。シーンのテキストを読みながら観ないと、すこし間抜けに見えちゃうくらいにした方が可愛いんじゃないかと思っています。
“セレス”の泣き顔は、赤めのペイントが強すぎたような……、エロくみえちゃうのはそれが理由かな(笑)。


↑こちらがお話に出てきた『ソウルクレイドル』の“ダネット”泣き顔。普通に可愛いです。声を担当しているのが斎藤千和さんなので、可愛さ倍増です。
―イベントシーンでは、やっぱり表情に気を使われていますか?
不破氏 そうですね、第一にプレイヤーに罪悪感を感じさせないように描いています。嗜虐心を誘うというか、そういう方面のエロの探求もあるんでしょうけど、一緒になって笑っちゃうようなシチュエーションの方がいいですね。クラスメイトのスカートが風で舞っちゃった時、その場で笑ったり怒ったりで済ませられるようなものがいいかなと、個人的な趣味としても思います。ゲームとしてのエロさって、嫌なことをさせようと思えばいくらでもできちゃうじゃないですか。そういう風に考えてましたね。
なんというか、男の深読みでエロく見えてしまうけど、女性からは別に頓着していないという方が面白いと思いますね。
―そんなお話の後になんですが、足の裏的な話も(笑)。
不破氏 (笑)
―訊かなくてもわかるような気がしますが、不破さんは足の裏にこだわりというものがあるんでしょうか?
不破氏 大好きです! 小学校のころからですが(笑)。
僕にとっては! 足の裏は「そんなもの見せられたら、困っちゃうよ!!」というパーツなのに、女の子は全然気にしない。CEROさん的にもSCEさん的にも足の裏は審査対象ではないので、「じゃあ、いくらでも描いちゃえ」とたくさん描きました(笑)。
つまるところ「靴下は下着か服か」ということです。セックスアピールになる部分だと、それを包むのは“下着”になるんです。でも世間一般では、靴下は“服”。ならば、“服”として描けば大丈夫なんじゃないかと(笑)。ガーターベルト付きのパンティストッキングも「いや、これは“服”だ!」ということで、突っ込まれたらそういう風に言い訳しようと考えていました(笑)
当初は上司の簗瀬も困惑していたんですけど、途中からはなにも言わなくなりました(笑)。
―『インフィニットループ』でも、たくさん足の裏が!?




↑こちらの画像は不破氏オススメ足の裏イベントCG。足の裏と一緒にスカートの中が見えちゃっているものも……。
不破氏 隠れた売りに出来ないかなと(笑)。
自分の就職前の仕事を知っている方も、ありがたいことに何千人単位でいらっしゃるので、その人たちへのアピールポイントにもなるかなと思いました。自分を見ていてくださる方と『インフィニットループ』というゲームの層が被っていないとしたら、新たにお客さんを呼び込めるかなと。
あと、全体的に地味なタイトルになりそうな雰囲気だったんです。ホームページに来ていただければ、ゲームの中でキャラがアニメーションしているのを見ていただけるんですが、静止画だとすごく気合が入ったポリゴンとかには負けてしまうので、そういう部分(足の裏)で話題を作れないかな、と考えました。
ただ、詳細なプレイ日記をwebで書いて頂いていたとある女性ユーザーさんには「サービスカットはいらない」と書かれてしまいました。別のユーザーさんの感想では、女性キャラクターを減らして男性キャラクターを増やせと書かれていたのですが「それはどうかな」と思いましたが(笑)。サービスカットのせいで女性の友達に勧めにくくなっているという意見もあって、ちょっと反省をしないとな、と。
―それはただの趣味嗜好の違いな気もしますね(笑)。逆にわき役として男性キャラクターはこんなにいらないよ、という意見もあるとは思いますし。
不破氏 あ、それは僕も思いましたね。どちらかに固め撃ちした方がいいという気持ちもありました。
―でも、『インフィニットループ』ではあえて固め撃ちしない、という選択をしたわけですよね。ゲームの方向性としてそういう道を選んだんだと思いますが。
不破氏 そうですね、ディレクターでもあり、ゲームの企画を考えた上司の簗瀬の中に確固たるイメージがあったようです。群像劇、かつ貴族の風俗にある程度つっこんだ話がやりたい、ということだったんです。いろいろな企画がある中で、企画会議で承認を勝ち取った人間の言うことは優先するべきだと思っていたので、その上でユーザーを獲得できるものを、と考えました。
―ADVはキャラ萌えが主流になっているところがあるので、その中で独自の立ち位置を模索するのは決して悪くないと思います。営業的には難しいかも知れませんが(笑)。
不破氏 同時期にDS「どきどき魔女神判2」の情報が雑誌に載っていたんですが、見ていると「いいなー、こういうの描きたいなー」とは思っちゃいますね(笑)。こっちはおっさんの筋肉を描き描きしながら(笑)。
◆筋肉、そして成長
―そういえば男性キャラは筋肉すごいですよね。実はお好きだったり?
不破氏 いやー、もともと筋肉描けないんですよ。資料を見ながら描いたんですけど、ところどころ間違えて描いてしまったのが気になってます。僕の絵全般に言えるんですけど、かなり不安症で絵のうまい人にいつツッコミを入れられるかビクビクしてるんです。
でも、ゲームでは筋肉が筋肉っぽく見えればそれでいいかなと。どちらかというと、筋肉の盛り上がりやつながりよりも“肉質”にこだわりましたね。
筋肉のキャラは3人いるんですけど、“ジミー”はタンパク質いっぱい摂って育ったボディビルダー型。
“ドレン”は、生き残るために余分な肉を削いだブルース・リー型。
“ネルズ”は、昔“ジミー”のような体つきだったのが年波でこけた感じ。戦争経験があるので傷だらけ。
でも、まぁ、自分の売りに出来る程の画力がそもそもないですので(笑)。どうしても必要なので泣きながら描いたと思っていただければ。




↑むくつけき男の世界。それが筋肉。ゲーム中では“ジミー”の筋肉に興味を示した“ネルズ”ですが、エンディングでは“ドレン”と仲良し。
―なるほど……。でも、その割に男性キャラの露出(素肌的な意味で)は多いですね(笑)。
不破氏 多いですねー、本当に(笑)。プロットを描いた簗瀬の意向です。宰相の“ネルズ”が男色家というのも、この時代だったらあってもおかしくない設定ですし……、ちょっとびっくりしましたが(笑)。
いわゆる物語の中での成長というか、登場人物をより高みに上げる要素というのが『インフィニットループ』は希薄だと思うんですね。主人公で中心になる“ウィリアム”が不在なので、キャラクターたちの存在が一段高くなるということは無いんです。そのかわり、一人の人間としての多面性というか、普段はこうだけど実は、というものが見える作りになっています。そこを補強するためにも、“ネルズ”は男色家である必要があったのかな(笑)。
―見た目通りじゃないよ、ということですかね。
不破氏 男色といえば回教徒という印象があったので、アラブっぽいデザインにしましたが(笑)。デザインを決める時に頭の中でシミュレートしましたね。おじさんで実は男色家ということを知っても、嫌な気分にならないデザインってなんだろうと考えると、やっぱり死ぬほどカッコいい人かな、と考えたんです。なので、美男子ではないけど厳格さが見えてくるように務めて描きました。
―“ネルズ”は、パッケージのイラストを見るとラスボスみたいに描かれてるんですが(笑)。
不破氏 パッケージはですね、5時間くらいしかラフを考える余裕がなかったんですよ。本当は“ネルズ”も前にいるキャラたちのひとりで、後ろには雷の光に照らし出されるお城という絵を考えていたんです。ですが、もう少し左右対称感が欲しいということになって、じゃあひとり悪者にしようと(笑)。結果、悪の魔王みたいになってしまいました。
―パッケージを見た後にゲームを始めると、“ネルズ”はそんなキャラクターじゃなかったと(笑)。自分はおじさんキャラが好きなんですが、『インフィニットループ』の男性キャラは年齢層高めですよね。
不破氏 男性最年少の“ウィリアム”も20歳という設定で、全員20歳以上です。一番困ったのが、“グラント”の30歳という設定。“ウィリアム”のライバルということで、同年代のイメージだったんですね。30代の男を絵で描くのは難しいなと思いました。登場人物を年齢順に並べて、間に入るくらいの外見ということで考えていきました。
―女性ユーザーとしては、若い男の子が多いのとおじさんが多いのは、どちらがいいんでしょう? 一般的には、若い方が受けがよさそうですが。
不破氏 そうですね、一番最初に企画を聞いた時に思い描いていたのは、「ファイアーエムブレム」みたいな人物関係で、おじさんはおじさんだけどすごく美男子。男の人はみんな若武者みたいな感じ、って考えていたんですが、そのイメージスケッチで提出すると「ちょっと違う」ということでした。イメージをつかむまで、ちょっと時間がかかりましたね。いっそのこと、BL系も狙っていけばいいのに、とは思ってました(笑)。
―“ウィリアム”の相手として、もう一人美男子がいればいけますね(笑)。
不破氏 普通のゲームと違って、おじいさんやおばあさんがレギュラーキャラとして当然のようにいますからね(笑)。
◆お気に入りのキャラクター&イベントCG
不破氏 お気に入りのキャラクターというと、やっぱり“アイシャ”と“メアリ”のメイドコンビですね。当初のプロットを聞いた時に思い浮かべたのが、「幽霊探偵」だったんですね。本来なら王子である“ウィリアム”と絡むことのない、下々の者であるメイドの“アイシャ”が、王子と協力しながら城内の事件を何とかする。そういうイメージが浮かんだので、てっきりヒロインは“アイシャ”だと思ってイラストを描いていたんです。でも、よくよく聞いてみると「全員が脇役であり、主役」ということがわかってきて、最初とギャップがありました。
そういう経緯のため思い入れが強くって、完成版ではメイド2人の活躍が少ないかな、という印象があります。メインのストーリーとしては、死体にキスしたりと「これは無いだろう」という展開があるじゃないですか。そういう意味でも、メイドの2人は現実感が損なわれない範囲で軽口を叩いているキャラなので、お気に入りですね。
―まだ描き足りない感じですか。
不破氏 もっと描きたかったですねー。おっさん連中はともかくとして(笑)。
―男性キャラでお気に入りは居ないんでしょうか。
不破氏 “ネルズ”と“ルケス”は、こういったデザインが初めての割によく動いてくれました。“ルケス”が頭にのっけている帽子は、実はザルなんです(笑)。“ルケス”が「何かください」って、頭の上のザルを手にとり差し出すアニメーションを作る予定だったんですよ。でもそういう遊びのアニメを入れる部分が無くなっちゃった後も、帽子が実はザル、という設定が僕の心の中に残ったまま、デザインが決まりました(笑)。
“ルケス”はパターンアニメというか、手とかのパーツを動かすアニメーションしか作っていないんですよね。それが思いのほか上手くいき、手間がかかったけど最終的に万々歳で気に入っています。
―“ルケス”は、奥さんが美人だったりして驚きますね(笑)。

↑エンディング後に登場する“ルケス”の奥さん(写真のみだけど)。
不破氏 “ルケス”の奥さんは、デザインの参考としてイメージしたのが「トラップ一家物語」のマリア先生(デザイン:関修一先生)なんですね。ある程度発言力のある活発なタイプじゃないと、こういう人の伴侶にはならないかな、と思いまして。
―やっぱり家では尻に敷かれているんですかね?
不破氏 尻に敷かれていると思います。で、現在は別居中らしいです(笑)。“ルケス”は嫌な奴じゃないんで、嫌わないでください(笑)。
ちょっと裏の話なんですが、ゲームはいつも続編の可能性も含みつつエンディングを作るので、あまり後日談というのはやりたくないんですよね。ユーザー的には嬉しいかも知れないけど、誰かと誰かが結婚したり、くっついたりというのは、やってしまうとそこから続編を作れなくなってしまうんですね。そうならない程度には、キャラクターを気に入ってくれたユーザーに対するお礼という形でイラストを描きました。
エンディングの“ルケス”は、ちょこちょことあの寝顔が可愛いという意見も聴くので、よかったです(笑)。
―色々と想像が広がりますね。イベントCGではお気に入りの物ってありますか?
不破氏 “ヴィーネ”のシーンが、ロリっぽくならないように気をつけつつ、ある程度色気も感じさせないといけないというところで、苦労したんですが上手くいったかなと。ちょっとしたカットなんですが、のぼせて目がグルグルになって倒れる“ヴィーネ”のカットインとかも、どうでもいい所にこだわらせてもらって楽しかったです。絶対にPSPの画面じゃ小さすぎてわからないんですけど、グルグルになった目の中心を“ヴィーネ”の眼の色の赤にしてみたり(笑)。自己満足のこだわりですが、楽しかったですね。


↑“ヴィーネ”の入浴シーン。髪をおろしているので大人っぽい?
のぼせてグルグル目は、ちゃんと真ん中赤いです。
―“ウィリアム”の復活シーンもお気に入りとのことですが。
不破氏 あれを描いた時期はスケジュールが押してて、余裕が全くなかったんですよ(笑)。ゴールデンウィークは最初から無いものと思っていたんですが、描くのも自分、塗るのも自分だと、絶対値的なものが見えてくるじゃないですか。そんな中で、最後の1、2枚としてムリクリ入れたのがこのCGだったんですよね。シーンとしては絶対に1枚絵が必要なんですけど、そこに動きは必要ないんじゃないか、と自分の中でなりそうだったんですが、ユーザーからすればキスする絵の前に、その予備動作の絵がないと盛り上がらないのではないかと思い、かなり無理をして入れました。
あと、結婚式のシーンもキスシーンの使い回しをして、服装も通常と変わらない予定だったんですけど、そんなんじゃ僕がユーザーだったら納得しないと思って(笑)。スケジュールを何とかひねり出してやりました。絵的な完成度としてはもう少し何とか出来たとは思うんですけど、なんとか入れて良かったなと。


↑感動的なキスシーン。やっぱり、止め絵といっても動きがわかると、その感動も倍増ですね。
―アニメーション部分ではいかがでしょう。
不破氏 後半で死神が消滅するようになるんですが、そのアニメーションが気に入っています。半日くらいで作ったんですけど、社内で使っているアニメーションツールの性能が結構良くて、その機能を使って納得が出来るものができました。
◆キャラデザ・イベントCG・アニメ以外に携わった部分
―『インフィニットループ』ではグラフィック全般に携わったとのことですが、まだお話を聞いていない部分についてお願いします。
不破氏 その他の部分としては、キーワードアイテムのドット打ちとか、コンフィグ画面のドット打ちとか、メッセージウィンドウのデザインとか、色々。なにしろ、デザイナーが2人しかいなかったので(笑)。開発期間の割に、2人で頑張ったな〜、としみじみ思います。
余談ですが、“ヴィーネ”の読書イベントは『シャイニング アンド ザ ダクネス』、改行アイコンは『ウルティマ』シリーズにオマージュをささげてみました(笑)。イラストを描き始めたころにハマったゲームなんですが、当時「パソコンサンデー」という番組があったんですが、その中で『ウルティマ』の画面のアイコンが渦巻き状にクルクル回っていたのが、すごく記憶に残っていたんです。なので、改行アイコンを『ウルティマ』にしよう! と誰にも相談せずにやりました(笑)。最初にデザインして提出した時は、出来上がったものは点滅するだけだったんですが、「すいません、これ回転させてください」と頼んだりしました(笑)。

↑こちらが例の改行アイコン。ぐるぐる。
―作業として大変だったのは、やっぱりアニメなんでしょうか。
不破氏 大変ではあったんですけど、『インフィニットループ』の前に開発していた『流行り神2』での経験が生かせたので、どうすればいいか、どのくらいの時間で出来るか、という見通しが立ったのが大きかったですね。すべてをゼロから作らずに、写真などの素材を加工して行けば早く作れるということがわかっていたので。
一番つらかったのは、ドット打ちですね。ドットは完全に我流で打っているので、社内の主流とは外れてしまっているんです。仲良しのドッターからは、「俺はキャラクターの周りに黒フチがついているのは、嫌いだな」とかやんわりと言われたり(笑)。それぞれこだわりがすごいんですが、僕は黒フチが好きなのでつけました(笑)。
―ドットについて、社内でも意見が分かれているんですね。
不破氏 そうですね、話を聞くと本当にこだわっているのが分かります。同じドッターでも、全然話が合わなかったりしますしね(笑)。
―ドット絵といえば日本一ソフトウェアさん! ですからね。
『インフィニットループ』を終えての感想などありますか?
不破氏 雑誌関係で好き勝手をやらせてもらったので、またこういう仕事があったらありがたいなと。開発期間が短かったので、かなり無理はしましたが(笑)。
今回パブリシティにかける時間がほとんどなくって、やばかったです。ゲームの開発が終わると、本来なら僕もデバックに入るんですけど、今回はそのままパブリシティのイラストを描いてました。こそこの描き込みのものを2日間で1枚を仕上げるペースで描いてました。入社前のフリーの時でも、2日でラフ描いて塗りまで仕上げるなんてことは生まれてこの方なかったので(笑)。
◆今後のお話
―言える範囲で結構ですので、現在携わっているお仕事についてお願いします。
不破氏 発表前なのでタイトルはまだ言えないんですけど、次は裏方です。『流行り神2』の時もそうだったんですけど、裏方として背景を描いたり、アニメーションをやったりしています。まぁ、アートディレクションとしての立場は変わらないので、グラフィック全般は見ていくつもりです。
『インフィニットループ』のディレクターの簗瀬がさらに次のソフトの企画を練っているので、その作品では自分がデザインを担当するか、または他の人間になるかはまだ未定ですが。どちらにしろ、面白いものを作っていきたいと思いますので、お楽しみに。
―なるほど。詳細は正式な発表をお待ちします(笑)。不破さんとしては、ゲーム以外のお仕事というのはどうなんでしょう。
不破氏 『インフィニットループ』のパブリシティ展開として、「電撃PS」さんに漫画を描かせてもらいました。会社内にトレース台とペンとインクを持ち込んで描くのは、なかなか無い経験でした。やっぱり漫画は描いていると楽しいので、広報業務としてぜひ今後も描きたいですね。僕には一銭も入らないんですが(笑)。
―せっかくの機会ですので、その他にこんなことをやってみたいということがあれば、表明していただければ(笑)。
不破氏 3DダンジョンRPGが作りたいです!
『世界樹の迷宮』の日向悠二さんの絵もすばらしいんですが、ゲームとしても昔親しんだ、すごくソリッドなRPGですよね。しかもゲームブックみたいなテキストが随所にちりばめられているんです。「君はここにとどまってもいいし、とどまらなくてもいい」みたいなね、ああいうテキストがたまらない(笑)。
『世界樹の迷宮』のようなRPGなら少人数でもなんとか作れるんじゃないかと……。一番うれしかったのが、モンスターもキャラクターもアニメーションする今の流れと真逆をいってるじゃないですか。イラストは用意されているけど、『ディスガイア』で言うところの汎用キャラという形で、うまく作っているなと。
―そのあたりも『ウィザードリィ』っぽくて、古いゲーマーとしては嬉しいですよね(笑)。こちらに想像の余地を残してくれているというか。
不破氏 会社的には、僕が所属している第3開発はADV専門となっているので、現実的ではないかもしれませんね。でも、第3開発としてはアイディア勝負でやっていきたいとは思っているので、やりたいですね。
―それでは、最後にファンの方へメッセージをお願いします。
不破氏 なかなか難しい質問ですね(笑)。
本来プロの開発者が言うことではないのかもしれませんが、自分が素人時代に感じていた感想や掲示板などで上がっている疑問などは、開発側もおそらく一回は考えていることだったんだなって、この仕事に就いて初めて知りました。
ちょっと言い訳がましいですが、いろいろな制約の中でユーザーのことを精一杯考えて、作っているということだけは、嘘ではないとお伝えしたいです。会社として作っていて、スケジュールというものに束縛されている以上、すべてを実現することは難しいのかもしれませんが、なるべく成し遂げる方向で取捨選択して作っています。ここが気になる、どうしてもここは直してほしかった、ということがあればアンケートハガキを送っていただければ、我々一同は喜んで読みます。逆にここが良かった、というのもすごく嬉しいですし(笑)。
心をこめてゲームを作っていますので、よろしくお願いいたします。
―ありがとうございましたっ!
インタビュー終了後、不破氏に「インフィニットループ」特典グッズにイラスト&サインを描いて頂きました。

こちらのグッズは、10月のGetchu.com会員プレゼントにて、抽選で3名様にプレゼントいたします。現在受付中ですので、奮ってご応募くださいな。
◆「インフィニットループ 〜古城が見せた夢〜」
メーカー:日本一ソフトウェア
プラットフォーム:PSP
ジャンル:ミステリアスファンタジーアドベンチャー
発売日:2008年7月24日
価格:5,040円(税込)
(C)2008 NIPPON ICHI SOFTWARE INC.
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日本一ソフトウェア
―本日はよろしくお願いします。今回がコンシューマソフトで初のメインイラスト担当ということで、まずは自己紹介からお願いいたします。
不破氏 はい、よろしくお願いします。
これまでの経歴としては、日本一ソフトウェアに入社する前にフリーの漫画描きとして、美少女ゲーム関連のお仕事もお手伝いさせていただいていました。PCゲームのメーカーさん的に言うと、名古屋にあるWILLさんと懇意にさせていただいてましたね。今でも関係者の方とは仲が良く、交流があります。不破大輔ではない方の絵描きが、今でもお手伝いさせていただくこともあります(笑)。
―不破さんではない方の絵描きさんは、コアなファンが今でも居ますよね(笑)。
不破氏 大変ありがたいことです。
―そして日本一ソフトウェアに入社されるわけですが、これはどういった経緯だったんでしょう。
不破氏 もともと自分は名古屋に住んでいるんですが、岐阜に日本一ソフトウェアという会社があることは知っていました。以前当社に勤めていた野村良治さん(『マール王国の人形姫』シリーズなどを担当)の絵がかなり好きだったということもあり、まだいるかなと思い入社したらすでに辞められていたという(笑)。
―それは残念ですね(笑)。野村さんが辞められたのって、何年前くらいでしたっけ?
不破氏 PS2に参入した後には辞められてましたね。
他に入社しようと思ったきっかけは、入社が2年前の9月なんですが、実はそのころに結婚を考えていたんです。でも、結婚をするには社会的な地位を安定させなければいけないと話に聴いたもので(笑)。
―コンシューマゲームの絵を描いてみたいという気持ちはあったんでしょうか。
不破氏 希望としてはありましたね。でも、どちらかというと入社当時の感覚としてはドット絵を打ちたいなと思っていたんです。
―日本一ソフトウェアといえばドット絵! ですからね。
不破氏 そうですよね。裏方の大道具・小道具といったものにあこがれが強かったもので、そっちの方の仕事をしてみたいなと。ただ、募集要項の職種の中で応募出来そうなのがキャラクターデザイナーとエフェクトデザイナーという募集だったんです。それで、自分に出来ることで応募した方が有利かなと思い、キャラクターデザイナーとして応募しました。
―入社後にキャラクターデザインとしてお名前が出るのは、今回の『インフィニットループ』が初ですよね。
不破氏 はい、それ以前の仕事は入社した時に開発していた『ソウルクレイドル』のイベント画を描かせていただきました。その作品のグラフィックを担当されていたtoi8さんがスケジュール的に厳しいということで、お手伝いしたという形です。ただ、それで名前を前面に出すわけにはいかなかったので、エンドクレジットに名前を載せただけでしたね。
―なるほど。コンシューマゲームのお仕事を始められた経緯がわかったところで、イラストに関することを聞いていきたいと思います。
◆イラストを描き始めたきっかけ
不破氏 ファミコンがブームになっていた頃、『ドラゴンクエスト』で初めてファンタジーという世界を知り、それにガツンとやられたのがきっかけですね。同時期にテーブルトークRPGも日本に上陸したという流れがあったんですけど、そちらはすこし遊んだくらいです。それよりも、以降メインになっていったファミコンっぽいファンタジー、ある意味すこしインチキくさいファンタジーが好きになっていったんです(笑)。
―TRPGではD&Dシリーズなどが流行っていましたけど、そちらとは別路線のファンタジーということですかね。
不破氏 D&Dも遊んでいたんですけど、その後に生まれた「ロードス島戦記」あたりから少し付いていけなくなってしまい、ノベルですけど「スレイヤーズ」あたりから完全に路線から外れてましたね。(本人注:今では普通に好きです。“リナ”可愛い!)
―ゲーム以外でもかまいませんので、そのあたりで熱中された作品というとなんでしょうか。
不破氏 ちょっと古い話になりますよ(笑)。
―全然大丈夫です。ウチはマニア向けに書いてますので(笑)。
不破氏 作品単体という話じゃないんですけど、ゲームブックの影響が強いです。双葉社や恵文社のゲームブックを何回も遊びながら、落書きしてました。当時は見田竜介先生(「ドラゴンハーフ」など)が別名義(不敵万歳)で挿絵を描いていたり……。実家にはまだ50冊くらいゲームブックを保管してますが、その中の思い出の1冊「メトロイド」の著者で、編集・ライターの塩田信之さんが実は知人の知人くらいの距離に居たりして、世界の狭さを感じます。
あと、それほど著名じゃない作家さんや絵描きさんの作品を好きになるようなへそまがりなので、上手で線が多くて細かい絵は自分に真似できそうになかったので苦手でしたね(笑)。
ファンタジーブームの流れは「本格派」だったんですけど、そちらにはついていけずに肩身の狭い思いもしました。今でも鎧を描く時は「肩パットでもついてりゃいいじゃん」と思ったり(笑)。実際、『タクティクスオウガ』系のデザインよりも『ファイアーエムブレム』系のデザインに心ひかれますね。『タクティクスオウガ』は凄いな〜、と思うんですが自分には描けそうにない(笑)。ああいう絵を描ける人じゃないと、描いちゃいけない気がする(笑)。
イラストとしては昔は先ほど話に出たD&Dのラリー・エルモア氏とかすごく好きだったんですけど、ある一枚の絵に出会って「王道なんてないのかも」って気づいたんですね。モーニングスターを持った西洋甲冑の騎士が馬に乗って崖を疾走している絵なんですけど、その崖がグランドキャニオンなんですよ(笑)。その絵は今でも大好きなんですけど、「この絵の歴史的な様式は、アメリカ人が勝手に考えたものなんだな」って気づかされて、ファンタジーはもっと自由なんだと思いました。
―その影響はずっとあり続けているんでしょうか?
不破氏 本当のことを調べて描くというのも大事なことなんでしょうけど、それで面白みがなくなるんなら意味がないよな、って思ってますね。この時代にこの鎧は無いから、こういう風に描かなきゃいけない、って結果作品が面白くなくなっちゃったら、意味がないです。そういうものは、エッセンスとして取り込めればそれでいいんじゃないかと。
―絵を描いている人は割と漫画などに影響を受けて描き始める、という方が多いと思いますが、不破さんは漫画よりもそういったイラストが入口だったんですね。
不破氏 そうですね、どっちかというと背景と人物が一緒に描かれている絵が好きだった記憶があります。あとは、同業者でもある妹の存在が大きいんですかね。
ただ、そのころは信じられないくらいヘタだったんです(笑)。実際本格的に描き始めたのは大学に入ってからなので、自分自身相当に遅れを感じていますし、耳年増な割に力が伴っていないので、今でも苦労しています。よく仕事で来てるなと(笑)。
―いやいや(笑)。十二分に上手いですし、ご自分の世界観を持っていらっしゃる絵を描くと思います。
不破氏 もっと精進したいと思います。
―きっかけの時点で海外のファンタジーなイラストですが、日本では影響を受けたイラストレーターさんとかはいないんでしょうか?
不破氏 それは、もちろんいますよー。
―それでは、事前に応えていただいたアンケートを見つつ、行きましょう。
◆影響を受けた漫画家&イラストレーター
漫画家
・小原愼司先生
悩んでいる時に「ぼくはおとうと」「菫画報」に救われた。特に読み切り版「二十面相の娘」が最高。
・長谷川裕一先生
「マップス」はもちろんだが、読みきりの「キャプテンオーマイガー」が傑作。奈須きのこ氏も大ファンだそうで。
・新沢基栄先生
心のマンガ「奇面組」
・永野のりこ先生
「みんな以外のうた」は墓場まで持っていく。
イラストレーター
・桜瀬虎姫先生
特に『暴れん坊プリンセス』前後からの独特の“大口”になったあたりが好き。
・関修一先生
「ペリーヌ」「フローネ」「あしながおじさん」「ブッシュベイビー」「ワンワンセレプー それゆけ!徹之進」と、常に僕の心を離さない。
・渡辺はじめ先生
表情がころころ変わるアニメキャラたちが好き。モノ作ってるなら「アニメーター制作進行くろみちゃん」は必見。
・AKIMAN(安田 朗)先生
ラフ、デザイン、仕上げ……同一人物であるとは信じられない差異があるが、どれも魅力的。
不破氏 アンケートには書かなかったんですが、僕の世代が影響を受けたものというとやっぱりガイナックスの「王立宇宙軍〜オネアミスの翼」が一番じゃないでしょうか。作品全体を通しての完成度というか……。当時は観てもよくわからなかった情報の塊というものが、年を取って改めてわかるようになる。例えば、電光掲示板。作品中ではニキシー管というデジタルになる前の技術が使われていて、その知識を持って作品を見るとそれがわかる。
僕がそういうことを考えるようになったのは大学生の時ですが、自分と同じような年の人間がこういう作品を作ったのかと思うと……。
―アニメ史に残る名作ですよね。影響を受けた漫画というと……アンケートには色々書いて頂いてますが。
不破氏 漫画では新沢基栄先生の「奇面組」が最初に浮かびますね。そんなに真似をしているわけじゃないんですけど、フッと頭に浮かぶシーンは「奇面組」が多い気がします。
―イラストレーター方面では?
不破氏 影響を受けた方は、やっぱり全体的に線が少なめの人ですね。関修一さんは子供のころから今に至るまで、通じて尊敬しています。「あしながおじさん」あたりで絵が変わり、「ブッシュベイビー」でさらに変わって、最近は「ワンワンセレプー それゆけ!徹之進」(笑)。
―ずっと追いかけていらっしゃるんですね。
不破氏 そうですね。あとは一連の大地丙太郎監督作品で描かれることが多い渡辺はじめさん。やっぱり、「こどものおもちゃ」や「カレイドスター」など、観ているアニメのスタッフを確認すると、常に渡辺はじめさんだったりします。
思い返すと、中学校くらいの絵を落書き程度ですが描いていた頃に影響を受けているなと思うのはAKIMANさんですね。『ファイナルファイト』がブームだった頃、目を引くリキテックス(アクリル絵具)の塗り方をされる方だと思って、そこから作品が変わるたびどんどん絵柄が変わっていくのに毎回驚かされました。
◆現在意識している漫画家&イラストレーター
漫画家
・石黒正数先生
「ネムルバカ」が特に良い。
・篠原健太先生
「SKET DANCE」が、とにかく絵もお話もキャラも全部好き! でもなんだか80sテイスト。……往年のマッチ茨木路線?
イラストレーター
・ワダアルコ先生
80s回帰ブームの先鞭
・星野リリィ先生
夏コミで買い物列の中に男が自分しかいなくて、すごく恥ずかしかった。
―こちらは影響というより、現在意識されている絵描きさんということで……。対抗意識を持っている方とかいらっしゃいますか?
不破氏 ビッグな方ばかりなので、対抗意識を持っちゃいけないんですけど(笑)。石黒正数先生の「ネムルバカ」という作品が「月刊COMICリュウ」で連載されていたんですけど、これがすごいショックを受けましたね。
部分的には中学生テイストな話があり、流れとしては「アフタヌーン」に載ってるような漫画、という感じですよね。沙村広明先生の「おひっこし」とかと同系統の日常を描いた作品。
以前、漫画の持ち込みをしていた時に日常の話の企画を出したんですが、「日常の話が面白いわけがない」って言われたことがありまして(笑)。そんなはずはない、と思ったんですが、今考えるとその頃の自分には日常の話をかける技量もアイディアもなかったんですね。そう考えると、日常の話を面白い一つの作品に仕上げている方はすごいと思います。
―不破さんは漫画を描かれていることもあり、イラストだけでなくストーリー面も注目されているんですね。
不破氏 それはあります。僕が言うと完全に負け惜しみなんですけど(笑)、時々ストーリーの邪魔をしちゃってる絵、ってあるじゃないですか。描き込みすぎているというか、リアルすぎたり。ここはもっと崩した方がいいのに、とか。そういう作品はちょっと違うかなと思うんですよ。僕の好きな作品は漫画家さんのものであることが多くて、特に好きな漫画家さんはその都度に応じて絵の描き込みが変化するんです。
「週刊少年ジャンプ」で連載されている「SKET DANCE」という作品の篠原さんも、そうですね。今、雑誌の後ろの方に来ているのでドキドキしているんですけど(笑)。
―「週刊少年ジャンプ」は、好きになった作品に限って掲載順が後ろになったりしますね(笑)。イラストレーターでは、意識している方は居ますか?
不破氏 「コミッカーズ」や「季刊エス」といったイラスト系雑誌で活躍されているワダアルコさんとか、漫画家の星野リリィさんが好きですね。イラストでは、どちらかというと女性的なものが好きなのかもしれません。
―夏コミで並ばれたとのことですが。
不破氏 はい、夏コミで(笑)。外周サークルだったんですけど、熱い日差しの中長蛇の列に並びました。男が売り子をされているイケメンの方が1人しかいなくて、後は僕以外全員女性という。白い目で見られましたね(笑)。
◆お仕事の環境
―自分があまり詳しくないのですが、使用されているイラストソフトなどもお聴きしておきたいのです。
不破氏 そうですね、今は「Photoshop」がメインです。会社では「CS2」、個人では「CS3」と変わっていますが、基本的にはフォトレタッチソフトしか使っていません。ペインター系も色々ありますが、使う機会に恵まれずに。社内でも使ってないんですよね。
仕事面では3Dの勉強中で、会社では「LightWave9」を使い、個人では「メタセコイア」をいじっています。
―作業はすべてPC上で行うんですか?
不破氏 今回の『インフィニットループ』ではPC上ですべて描きました。構図を決めるラフの段階は紙に描いた方がいいことが多くて、アイディアは紙に落書きしますが、いったん決まったらあとはすべてPC上です。
―それでは『インフィニットループ』の話が出たことですし、ゲームについてお訊ねします。
◆『インフィニットループ』のキャラクターデザイン
―今までの経験というのはもちろんあると思いますが、コンシューマゲームのキャラデザは初ということで、なにか気を付けたことなどありますか?
不破氏 アニメーションをすることが初めから決まっていたので、外注さんに彩色を任せることを考慮しつつ、装飾を単純化して、色を多く使いすぎないように努めました。実はキャラクターセクションに僕1人しかいなくなってしまい、結果として全部自分でやる個人作業だったんですけど(笑)。ただ、それでもストレートなアニメではなくて、静止画がアニメーションするということだったので、ある程度の線の多さにはしました。
同じ大学だった同輩の本庄雷太君がPS3ソフト『戦場のヴァルキュリア』のキャラデザインをしていたんですが、細かいパーツも使い放題で、他人がポリゴンデータ作るからって好き勝手やっていたので、うらやましかったですね(笑)。同じことができるかというと、出来ないんですけど(笑)。
―『インフィニットループ』のデザインとしては、ファンタジーの世界ではありつつ、現代に近いものになっているのかなとは思いますが。
不破氏 当初イメージスケッチを提出した中では、貴族服だと男性は下半身が全員タイツだったり(笑)、女性は全員コルセットをつけていたり、そういう路線で行く案も最初はあったんですよ。
でも、コルセットを付けたシルエットだとみんな同じになってしまったり、男性が全員タイツだとやっぱり間抜けですからね(笑)。なので、当時のファッション関係の本を調べつつ、キャラによってはある程度時代を前後させたりして、差別化を図りました。女性陣は意図してデザインを現代風にしたりしました。
各キャラクターごとに、食べ物や花、民族衣装みたいにモチーフを決めて持たせたり。11人もキャラクターが入り混じるので、記憶に残りやすいデザインを心がけましたね。
―描く上で苦労したキャラクターは?
不破氏 ダントツで宰相の“ネルズ”ですね。金の飾りをつけているんですが、あれを1個1個描いてアニメーションさせるのは、もう「殺す気か!」と(笑)。あとは衛兵の“ジミー”は、同じ理由で鎧のアニメーションを描くのが大変でした。
―やはり描く時にアニメーションまで考えるのが大変そうですね。
不破氏 そうですね、1日1カットというペースで作業したんです。ただ、カット数自体は普通のアニメーターさんより全然少ないんですよ。アニメをやったことがない人間がムリクリひねり出して、描いたんです。しかも、それを自分が塗らなきゃいけないと思うと(笑)。尻すぼみにモチベーションが下がっていくので、先に面倒そうな“ネルズ”とかから掛かりました。
それでも、現場からこのアニメが足りない、あのアニメが欲しいと要望が後から来たので、そういうものにはすでにあるカットをパズルみたいに組み替えて新しいものを作りました。やっぱりメモリ容量も限られていますので。
メイドの2人は描きやすいので、後回しにしたんですけど、最後の最後に仕上がった妹姫の“ヴィーネ”がまた(笑)。ドレスがカラフル、さらに髪の毛が後ろで手を前に出す立ち絵なんですけど、アニメーションでいろんなパーツが前後するんですよね。そのパーツをレイヤー分けして組み上げるのが地獄で(笑)。地味に色数が1番多いキャラなんですよ。でもここら辺は他のグラフィックスタッフが半分くらい彩色を手伝ってくれたので、かなり助かりました。
↓今回特別に、初期デザイン案とキャラデザのラフを掘り起こしてもらっちゃいました! これは眼福!! クリックして全身図をご確認ください。
◆イベントシーンについて
―『インフィニットループ』には数多くのイベントシーンが用意されているわけですが、ぶっちゃけエロくないですか(笑)。
不破氏 実は、エロは指示されていなかったんです(笑)。ゲームの設定上、キャラクターの私生活を覗くシーンがあるということだったので、それは裏テーマとして推していかなければと思っていたし、やはりユーザーさんからの受けも良かったんですね。
当初、上司の簗瀬と話していた時に想定していたプレイスタイルは、憑依するキャラクターをまたいでいくのはまれだろう、と。電車の乗り継ぎみたいに憑依対象を変えたりはせず、お気に入りのキャラクターに密着していけるところまで行って、続きを見るために他のキャラクターのシーンでキーを回収して、さらに先を見る、というプレイスタイルになると考えたんです。
―なるほど、自分もそのスタイルでした(笑)。
不破氏 本当ですか(笑)。おそらく、こちらが思っている以上にキャラクターへの愛着を後押しする必要があると考えたので、その後押しのきっかけとしての覗きイベント。ひいては、お色気的なシーン、という形で入れたんですが……。どこまでやるかは一任されていました(笑)。主人公の“ウィリアム”は完全無欠という設定で、死んでるからいいけどこんな奴がいたらたまったもんじゃない、という完璧超人なんです。なので、“ウィリアム”というキャラクターの表情や目線からは、エッチなものを見て興奮している、という要素は無くしています。
現実の情勢的にロリを避ける必要があったので、元々素っ裸だった“ヴィーネ”のお風呂シーンにタオルを着せたりしましたね。
―“ヴィーネ”はイベントシーンは絶対に必要だけど、エロくするのはバランスが大変そうですね。
不破氏 いわゆる妹萌えの感情を主人公に抱かせてしまうのは、違う気がするんですよ。兄である“ウィリアム”は完全に妹として接していますが、“ヴィーネ”の中には恋愛と家族愛が混ざっていますね。
―立ち絵も含めて、寝起きのシーンがわりとどのキャラクターも個性が出ていて良かったです。
不破氏 当初は寝起きの立ち絵差分って無かったんですよ。バストアップをすべて作り終わった後に、「この人たちは普段着のまま寝てるんですか」という意見があり、このままじゃ良くないなと思って描きました。それで初めは1枚の立ち絵だけだったんですけど、動きも欲しくなってほんのちょっとだけアニメーション出来る部分を作りました。
―寝間着はキャラクターごとに個性的ですよね、“ジミー”は裸(パンツははいてる)だったり(笑)。印象深い寝間着ってありますか。
不破氏 やっぱり“アイシャ”ですかね。“アイシャ”は寝間着のチェンジがゲーム中にあるということを完全に忘れていて、後で困っちゃったな〜(笑)。たしか先にバストアップを描いて、お色気ということでボディスーツっぽいものを描き、それにあわせて後からイベント画を描き起こしたという形でした。僕はてっきりCEROさんかSCEさんから再提出があると思っていたんですけど(笑)、チェック後も特に問題なかったですね。
←↑“アイシャ”の寝間着チェンジ。ゲーム中では「見せる相手がいない」というようなことを言ってましたが、王子(プレイヤー?)が見てました。
―『インフィニットループ』のCEROレーティングはBなので、年齢12歳以上推奨ですね。まぁ、最近の子はこのくらいなんともないぜ! ということで(笑)。
自分が特にエロいな! と思ったのがラストシーン近くの“セレス”の泣き顔なんですが…。
↑弊社が選ぶ「ティンと来た! 画像」。どうですか? エロくない?
不破氏 このシーンはイベントビューアーに登録されないので、僕自身どんな顔を描いたかなと思って確認したんですが……、確かにそれっぽいですね(笑)。
ちょっと“セレス”は顔が安定しなかったので、悔やまれます。ただ、普通に流せる表情より多少は顔が崩れていた方が感情が伝わるなと思ったんですね。自分がイベントCGを担当した『ソウルクレイドル』メインルートのラストシーンで、ヒロインの“ダネット”が泣くシーンを描いたんですけど、その時も崩しました。シーンのテキストを読みながら観ないと、すこし間抜けに見えちゃうくらいにした方が可愛いんじゃないかと思っています。
“セレス”の泣き顔は、赤めのペイントが強すぎたような……、エロくみえちゃうのはそれが理由かな(笑)。
↑こちらがお話に出てきた『ソウルクレイドル』の“ダネット”泣き顔。普通に可愛いです。声を担当しているのが斎藤千和さんなので、可愛さ倍増です。
―イベントシーンでは、やっぱり表情に気を使われていますか?
不破氏 そうですね、第一にプレイヤーに罪悪感を感じさせないように描いています。嗜虐心を誘うというか、そういう方面のエロの探求もあるんでしょうけど、一緒になって笑っちゃうようなシチュエーションの方がいいですね。クラスメイトのスカートが風で舞っちゃった時、その場で笑ったり怒ったりで済ませられるようなものがいいかなと、個人的な趣味としても思います。ゲームとしてのエロさって、嫌なことをさせようと思えばいくらでもできちゃうじゃないですか。そういう風に考えてましたね。
なんというか、男の深読みでエロく見えてしまうけど、女性からは別に頓着していないという方が面白いと思いますね。
―そんなお話の後になんですが、足の裏的な話も(笑)。
不破氏 (笑)
―訊かなくてもわかるような気がしますが、不破さんは足の裏にこだわりというものがあるんでしょうか?
不破氏 大好きです! 小学校のころからですが(笑)。
僕にとっては! 足の裏は「そんなもの見せられたら、困っちゃうよ!!」というパーツなのに、女の子は全然気にしない。CEROさん的にもSCEさん的にも足の裏は審査対象ではないので、「じゃあ、いくらでも描いちゃえ」とたくさん描きました(笑)。
つまるところ「靴下は下着か服か」ということです。セックスアピールになる部分だと、それを包むのは“下着”になるんです。でも世間一般では、靴下は“服”。ならば、“服”として描けば大丈夫なんじゃないかと(笑)。ガーターベルト付きのパンティストッキングも「いや、これは“服”だ!」ということで、突っ込まれたらそういう風に言い訳しようと考えていました(笑)
当初は上司の簗瀬も困惑していたんですけど、途中からはなにも言わなくなりました(笑)。
―『インフィニットループ』でも、たくさん足の裏が!?
↑こちらの画像は不破氏オススメ足の裏イベントCG。足の裏と一緒にスカートの中が見えちゃっているものも……。
不破氏 隠れた売りに出来ないかなと(笑)。
自分の就職前の仕事を知っている方も、ありがたいことに何千人単位でいらっしゃるので、その人たちへのアピールポイントにもなるかなと思いました。自分を見ていてくださる方と『インフィニットループ』というゲームの層が被っていないとしたら、新たにお客さんを呼び込めるかなと。
あと、全体的に地味なタイトルになりそうな雰囲気だったんです。ホームページに来ていただければ、ゲームの中でキャラがアニメーションしているのを見ていただけるんですが、静止画だとすごく気合が入ったポリゴンとかには負けてしまうので、そういう部分(足の裏)で話題を作れないかな、と考えました。
ただ、詳細なプレイ日記をwebで書いて頂いていたとある女性ユーザーさんには「サービスカットはいらない」と書かれてしまいました。別のユーザーさんの感想では、女性キャラクターを減らして男性キャラクターを増やせと書かれていたのですが「それはどうかな」と思いましたが(笑)。サービスカットのせいで女性の友達に勧めにくくなっているという意見もあって、ちょっと反省をしないとな、と。
―それはただの趣味嗜好の違いな気もしますね(笑)。逆にわき役として男性キャラクターはこんなにいらないよ、という意見もあるとは思いますし。
不破氏 あ、それは僕も思いましたね。どちらかに固め撃ちした方がいいという気持ちもありました。
―でも、『インフィニットループ』ではあえて固め撃ちしない、という選択をしたわけですよね。ゲームの方向性としてそういう道を選んだんだと思いますが。
不破氏 そうですね、ディレクターでもあり、ゲームの企画を考えた上司の簗瀬の中に確固たるイメージがあったようです。群像劇、かつ貴族の風俗にある程度つっこんだ話がやりたい、ということだったんです。いろいろな企画がある中で、企画会議で承認を勝ち取った人間の言うことは優先するべきだと思っていたので、その上でユーザーを獲得できるものを、と考えました。
―ADVはキャラ萌えが主流になっているところがあるので、その中で独自の立ち位置を模索するのは決して悪くないと思います。営業的には難しいかも知れませんが(笑)。
不破氏 同時期にDS「どきどき魔女神判2」の情報が雑誌に載っていたんですが、見ていると「いいなー、こういうの描きたいなー」とは思っちゃいますね(笑)。こっちはおっさんの筋肉を描き描きしながら(笑)。
◆筋肉、そして成長
―そういえば男性キャラは筋肉すごいですよね。実はお好きだったり?
不破氏 いやー、もともと筋肉描けないんですよ。資料を見ながら描いたんですけど、ところどころ間違えて描いてしまったのが気になってます。僕の絵全般に言えるんですけど、かなり不安症で絵のうまい人にいつツッコミを入れられるかビクビクしてるんです。
でも、ゲームでは筋肉が筋肉っぽく見えればそれでいいかなと。どちらかというと、筋肉の盛り上がりやつながりよりも“肉質”にこだわりましたね。
筋肉のキャラは3人いるんですけど、“ジミー”はタンパク質いっぱい摂って育ったボディビルダー型。
“ドレン”は、生き残るために余分な肉を削いだブルース・リー型。
“ネルズ”は、昔“ジミー”のような体つきだったのが年波でこけた感じ。戦争経験があるので傷だらけ。
でも、まぁ、自分の売りに出来る程の画力がそもそもないですので(笑)。どうしても必要なので泣きながら描いたと思っていただければ。
↑むくつけき男の世界。それが筋肉。ゲーム中では“ジミー”の筋肉に興味を示した“ネルズ”ですが、エンディングでは“ドレン”と仲良し。
―なるほど……。でも、その割に男性キャラの露出(素肌的な意味で)は多いですね(笑)。
不破氏 多いですねー、本当に(笑)。プロットを描いた簗瀬の意向です。宰相の“ネルズ”が男色家というのも、この時代だったらあってもおかしくない設定ですし……、ちょっとびっくりしましたが(笑)。
いわゆる物語の中での成長というか、登場人物をより高みに上げる要素というのが『インフィニットループ』は希薄だと思うんですね。主人公で中心になる“ウィリアム”が不在なので、キャラクターたちの存在が一段高くなるということは無いんです。そのかわり、一人の人間としての多面性というか、普段はこうだけど実は、というものが見える作りになっています。そこを補強するためにも、“ネルズ”は男色家である必要があったのかな(笑)。
―見た目通りじゃないよ、ということですかね。
不破氏 男色といえば回教徒という印象があったので、アラブっぽいデザインにしましたが(笑)。デザインを決める時に頭の中でシミュレートしましたね。おじさんで実は男色家ということを知っても、嫌な気分にならないデザインってなんだろうと考えると、やっぱり死ぬほどカッコいい人かな、と考えたんです。なので、美男子ではないけど厳格さが見えてくるように務めて描きました。
―“ネルズ”は、パッケージのイラストを見るとラスボスみたいに描かれてるんですが(笑)。
不破氏 パッケージはですね、5時間くらいしかラフを考える余裕がなかったんですよ。本当は“ネルズ”も前にいるキャラたちのひとりで、後ろには雷の光に照らし出されるお城という絵を考えていたんです。ですが、もう少し左右対称感が欲しいということになって、じゃあひとり悪者にしようと(笑)。結果、悪の魔王みたいになってしまいました。
―パッケージを見た後にゲームを始めると、“ネルズ”はそんなキャラクターじゃなかったと(笑)。自分はおじさんキャラが好きなんですが、『インフィニットループ』の男性キャラは年齢層高めですよね。
不破氏 男性最年少の“ウィリアム”も20歳という設定で、全員20歳以上です。一番困ったのが、“グラント”の30歳という設定。“ウィリアム”のライバルということで、同年代のイメージだったんですね。30代の男を絵で描くのは難しいなと思いました。登場人物を年齢順に並べて、間に入るくらいの外見ということで考えていきました。
―女性ユーザーとしては、若い男の子が多いのとおじさんが多いのは、どちらがいいんでしょう? 一般的には、若い方が受けがよさそうですが。
不破氏 そうですね、一番最初に企画を聞いた時に思い描いていたのは、「ファイアーエムブレム」みたいな人物関係で、おじさんはおじさんだけどすごく美男子。男の人はみんな若武者みたいな感じ、って考えていたんですが、そのイメージスケッチで提出すると「ちょっと違う」ということでした。イメージをつかむまで、ちょっと時間がかかりましたね。いっそのこと、BL系も狙っていけばいいのに、とは思ってました(笑)。
―“ウィリアム”の相手として、もう一人美男子がいればいけますね(笑)。
不破氏 普通のゲームと違って、おじいさんやおばあさんがレギュラーキャラとして当然のようにいますからね(笑)。
◆お気に入りのキャラクター&イベントCG
不破氏 お気に入りのキャラクターというと、やっぱり“アイシャ”と“メアリ”のメイドコンビですね。当初のプロットを聞いた時に思い浮かべたのが、「幽霊探偵」だったんですね。本来なら王子である“ウィリアム”と絡むことのない、下々の者であるメイドの“アイシャ”が、王子と協力しながら城内の事件を何とかする。そういうイメージが浮かんだので、てっきりヒロインは“アイシャ”だと思ってイラストを描いていたんです。でも、よくよく聞いてみると「全員が脇役であり、主役」ということがわかってきて、最初とギャップがありました。
そういう経緯のため思い入れが強くって、完成版ではメイド2人の活躍が少ないかな、という印象があります。メインのストーリーとしては、死体にキスしたりと「これは無いだろう」という展開があるじゃないですか。そういう意味でも、メイドの2人は現実感が損なわれない範囲で軽口を叩いているキャラなので、お気に入りですね。
―まだ描き足りない感じですか。
不破氏 もっと描きたかったですねー。おっさん連中はともかくとして(笑)。
―男性キャラでお気に入りは居ないんでしょうか。
不破氏 “ネルズ”と“ルケス”は、こういったデザインが初めての割によく動いてくれました。“ルケス”が頭にのっけている帽子は、実はザルなんです(笑)。“ルケス”が「何かください」って、頭の上のザルを手にとり差し出すアニメーションを作る予定だったんですよ。でもそういう遊びのアニメを入れる部分が無くなっちゃった後も、帽子が実はザル、という設定が僕の心の中に残ったまま、デザインが決まりました(笑)。
“ルケス”はパターンアニメというか、手とかのパーツを動かすアニメーションしか作っていないんですよね。それが思いのほか上手くいき、手間がかかったけど最終的に万々歳で気に入っています。
―“ルケス”は、奥さんが美人だったりして驚きますね(笑)。
↑エンディング後に登場する“ルケス”の奥さん(写真のみだけど)。
不破氏 “ルケス”の奥さんは、デザインの参考としてイメージしたのが「トラップ一家物語」のマリア先生(デザイン:関修一先生)なんですね。ある程度発言力のある活発なタイプじゃないと、こういう人の伴侶にはならないかな、と思いまして。
―やっぱり家では尻に敷かれているんですかね?
不破氏 尻に敷かれていると思います。で、現在は別居中らしいです(笑)。“ルケス”は嫌な奴じゃないんで、嫌わないでください(笑)。
ちょっと裏の話なんですが、ゲームはいつも続編の可能性も含みつつエンディングを作るので、あまり後日談というのはやりたくないんですよね。ユーザー的には嬉しいかも知れないけど、誰かと誰かが結婚したり、くっついたりというのは、やってしまうとそこから続編を作れなくなってしまうんですね。そうならない程度には、キャラクターを気に入ってくれたユーザーに対するお礼という形でイラストを描きました。
エンディングの“ルケス”は、ちょこちょことあの寝顔が可愛いという意見も聴くので、よかったです(笑)。
―色々と想像が広がりますね。イベントCGではお気に入りの物ってありますか?
不破氏 “ヴィーネ”のシーンが、ロリっぽくならないように気をつけつつ、ある程度色気も感じさせないといけないというところで、苦労したんですが上手くいったかなと。ちょっとしたカットなんですが、のぼせて目がグルグルになって倒れる“ヴィーネ”のカットインとかも、どうでもいい所にこだわらせてもらって楽しかったです。絶対にPSPの画面じゃ小さすぎてわからないんですけど、グルグルになった目の中心を“ヴィーネ”の眼の色の赤にしてみたり(笑)。自己満足のこだわりですが、楽しかったですね。
↑“ヴィーネ”の入浴シーン。髪をおろしているので大人っぽい?
のぼせてグルグル目は、ちゃんと真ん中赤いです。
―“ウィリアム”の復活シーンもお気に入りとのことですが。
不破氏 あれを描いた時期はスケジュールが押してて、余裕が全くなかったんですよ(笑)。ゴールデンウィークは最初から無いものと思っていたんですが、描くのも自分、塗るのも自分だと、絶対値的なものが見えてくるじゃないですか。そんな中で、最後の1、2枚としてムリクリ入れたのがこのCGだったんですよね。シーンとしては絶対に1枚絵が必要なんですけど、そこに動きは必要ないんじゃないか、と自分の中でなりそうだったんですが、ユーザーからすればキスする絵の前に、その予備動作の絵がないと盛り上がらないのではないかと思い、かなり無理をして入れました。
あと、結婚式のシーンもキスシーンの使い回しをして、服装も通常と変わらない予定だったんですけど、そんなんじゃ僕がユーザーだったら納得しないと思って(笑)。スケジュールを何とかひねり出してやりました。絵的な完成度としてはもう少し何とか出来たとは思うんですけど、なんとか入れて良かったなと。
↑感動的なキスシーン。やっぱり、止め絵といっても動きがわかると、その感動も倍増ですね。
―アニメーション部分ではいかがでしょう。
不破氏 後半で死神が消滅するようになるんですが、そのアニメーションが気に入っています。半日くらいで作ったんですけど、社内で使っているアニメーションツールの性能が結構良くて、その機能を使って納得が出来るものができました。
◆キャラデザ・イベントCG・アニメ以外に携わった部分
―『インフィニットループ』ではグラフィック全般に携わったとのことですが、まだお話を聞いていない部分についてお願いします。
不破氏 その他の部分としては、キーワードアイテムのドット打ちとか、コンフィグ画面のドット打ちとか、メッセージウィンドウのデザインとか、色々。なにしろ、デザイナーが2人しかいなかったので(笑)。開発期間の割に、2人で頑張ったな〜、としみじみ思います。
余談ですが、“ヴィーネ”の読書イベントは『シャイニング アンド ザ ダクネス』、改行アイコンは『ウルティマ』シリーズにオマージュをささげてみました(笑)。イラストを描き始めたころにハマったゲームなんですが、当時「パソコンサンデー」という番組があったんですが、その中で『ウルティマ』の画面のアイコンが渦巻き状にクルクル回っていたのが、すごく記憶に残っていたんです。なので、改行アイコンを『ウルティマ』にしよう! と誰にも相談せずにやりました(笑)。最初にデザインして提出した時は、出来上がったものは点滅するだけだったんですが、「すいません、これ回転させてください」と頼んだりしました(笑)。
↑こちらが例の改行アイコン。ぐるぐる。
―作業として大変だったのは、やっぱりアニメなんでしょうか。
不破氏 大変ではあったんですけど、『インフィニットループ』の前に開発していた『流行り神2』での経験が生かせたので、どうすればいいか、どのくらいの時間で出来るか、という見通しが立ったのが大きかったですね。すべてをゼロから作らずに、写真などの素材を加工して行けば早く作れるということがわかっていたので。
一番つらかったのは、ドット打ちですね。ドットは完全に我流で打っているので、社内の主流とは外れてしまっているんです。仲良しのドッターからは、「俺はキャラクターの周りに黒フチがついているのは、嫌いだな」とかやんわりと言われたり(笑)。それぞれこだわりがすごいんですが、僕は黒フチが好きなのでつけました(笑)。
―ドットについて、社内でも意見が分かれているんですね。
不破氏 そうですね、話を聞くと本当にこだわっているのが分かります。同じドッターでも、全然話が合わなかったりしますしね(笑)。
―ドット絵といえば日本一ソフトウェアさん! ですからね。
『インフィニットループ』を終えての感想などありますか?
不破氏 雑誌関係で好き勝手をやらせてもらったので、またこういう仕事があったらありがたいなと。開発期間が短かったので、かなり無理はしましたが(笑)。
今回パブリシティにかける時間がほとんどなくって、やばかったです。ゲームの開発が終わると、本来なら僕もデバックに入るんですけど、今回はそのままパブリシティのイラストを描いてました。こそこの描き込みのものを2日間で1枚を仕上げるペースで描いてました。入社前のフリーの時でも、2日でラフ描いて塗りまで仕上げるなんてことは生まれてこの方なかったので(笑)。
◆今後のお話
―言える範囲で結構ですので、現在携わっているお仕事についてお願いします。
不破氏 発表前なのでタイトルはまだ言えないんですけど、次は裏方です。『流行り神2』の時もそうだったんですけど、裏方として背景を描いたり、アニメーションをやったりしています。まぁ、アートディレクションとしての立場は変わらないので、グラフィック全般は見ていくつもりです。
『インフィニットループ』のディレクターの簗瀬がさらに次のソフトの企画を練っているので、その作品では自分がデザインを担当するか、または他の人間になるかはまだ未定ですが。どちらにしろ、面白いものを作っていきたいと思いますので、お楽しみに。
―なるほど。詳細は正式な発表をお待ちします(笑)。不破さんとしては、ゲーム以外のお仕事というのはどうなんでしょう。
不破氏 『インフィニットループ』のパブリシティ展開として、「電撃PS」さんに漫画を描かせてもらいました。会社内にトレース台とペンとインクを持ち込んで描くのは、なかなか無い経験でした。やっぱり漫画は描いていると楽しいので、広報業務としてぜひ今後も描きたいですね。僕には一銭も入らないんですが(笑)。
―せっかくの機会ですので、その他にこんなことをやってみたいということがあれば、表明していただければ(笑)。
不破氏 3DダンジョンRPGが作りたいです!
『世界樹の迷宮』の日向悠二さんの絵もすばらしいんですが、ゲームとしても昔親しんだ、すごくソリッドなRPGですよね。しかもゲームブックみたいなテキストが随所にちりばめられているんです。「君はここにとどまってもいいし、とどまらなくてもいい」みたいなね、ああいうテキストがたまらない(笑)。
『世界樹の迷宮』のようなRPGなら少人数でもなんとか作れるんじゃないかと……。一番うれしかったのが、モンスターもキャラクターもアニメーションする今の流れと真逆をいってるじゃないですか。イラストは用意されているけど、『ディスガイア』で言うところの汎用キャラという形で、うまく作っているなと。
―そのあたりも『ウィザードリィ』っぽくて、古いゲーマーとしては嬉しいですよね(笑)。こちらに想像の余地を残してくれているというか。
不破氏 会社的には、僕が所属している第3開発はADV専門となっているので、現実的ではないかもしれませんね。でも、第3開発としてはアイディア勝負でやっていきたいとは思っているので、やりたいですね。
―それでは、最後にファンの方へメッセージをお願いします。
不破氏 なかなか難しい質問ですね(笑)。
本来プロの開発者が言うことではないのかもしれませんが、自分が素人時代に感じていた感想や掲示板などで上がっている疑問などは、開発側もおそらく一回は考えていることだったんだなって、この仕事に就いて初めて知りました。
ちょっと言い訳がましいですが、いろいろな制約の中でユーザーのことを精一杯考えて、作っているということだけは、嘘ではないとお伝えしたいです。会社として作っていて、スケジュールというものに束縛されている以上、すべてを実現することは難しいのかもしれませんが、なるべく成し遂げる方向で取捨選択して作っています。ここが気になる、どうしてもここは直してほしかった、ということがあればアンケートハガキを送っていただければ、我々一同は喜んで読みます。逆にここが良かった、というのもすごく嬉しいですし(笑)。
心をこめてゲームを作っていますので、よろしくお願いいたします。
―ありがとうございましたっ!
インタビュー終了後、不破氏に「インフィニットループ」特典グッズにイラスト&サインを描いて頂きました。
こちらのグッズは、10月のGetchu.com会員プレゼントにて、抽選で3名様にプレゼントいたします。現在受付中ですので、奮ってご応募くださいな。
◆「インフィニットループ 〜古城が見せた夢〜」
メーカー:日本一ソフトウェア
プラットフォーム:PSP
ジャンル:ミステリアスファンタジーアドベンチャー
発売日:2008年7月24日
価格:5,040円(税込)
(C)2008 NIPPON ICHI SOFTWARE INC.
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この記事へのコメント
1. Posted by ウィリアム・ファイヤー 2012年04月10日 02:56
わかるよ、不破氏。
女の裏は、魅力的な満月さ。
女の裏は、魅力的な満月さ。
2. Posted by ll 2012年08月13日 21:42
もう退社されているのが残念だなー