踏み板を設け、線路を渡れる「作馬道」。向こう側が奈良井宿=塩尻市奈良井で
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塩尻市奈良井の奈良井宿沿いのJR中央西線で、歩行者が慣習的に横断している「作馬道(さくばみち)」が、安全確保のために閉鎖される見通しになった。鉄道開設当時から農作業などの生活路として利用されてきたが、列車の高速化や観光客の増大に伴い、直前横断による列車の緊急停車が頻発。死亡事故も起きた。対策は地元住民、JR双方の積年の課題だったにもかかわらず、なぜ今日まで引きずる結果になったのか。
観光客でにぎわう盆期間中の奈良井宿。奈良井川沿いの駐車場を出た若い女性が、連れの男性に「ここ通れるの?」と、線路脇の踏み板を指した。柵はあるが、扉付き。五百メートルほど先の踏切を渡らず、線路向こうの宿場に着ける。「ああ、いいんじゃないか」。男性はうなずいた。
こうした作馬道は奈良井宿に四カ所。昔から家々の間の小路を抜け、裏の畑や川向こうの里山へ行く生活路だった。明治末期の鉄道開通で分断された後もそのまま使われた。
柵が設けられ「横断禁止」の看板も立つ=塩尻市奈良井で
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横断の危険性が問題になったのは、鉄道の複線化と高速化が進んだ昭和四十年代から。奈良井宿が人気を集め、観光客の横断も増えた。市楢川支所の資料によると、直前横断による特急などの緊急停止は二〇〇二〜一〇年の九年間に十一件。〇二年には住民が死亡する事故も起きた。特急の最高速度は時速百二十キロ。危険性は高い。
作馬道の安全対策は旧楢川村時代から論議されてきた。長年の経過から生活道路の確保を求める声が地元には根強かった。古老からは「木曽は国鉄、営林署、郵便局が頼りだった。三つとも姿を変え、国鉄も民営化後はローカル線を間引き、高速化を進めただけ」の反発も漏れる。
こうした住民感情もあり、JR東海は「線路内の立ち入りは不法」としながらも、作馬道は「赤線」と呼ばれる道路法の認定外道路のため、閉鎖は「地元自治体の協力を得て」(同社広報部)と、慎重に対応してきた。
奈良井区は昨年三月、作馬道四カ所を閉鎖し、うち一カ所に歩行者用踏切を新設すると意見集約。市はこの方向でJR側と協議を進めている。
市都市づくり課によると、踏切の増設は認められないため、近くの「橋戸踏切」を廃止する。この代替道路が必要で、この工事を含め、一連の対策は最短で三年後の一五年に実現する見通しだ。
奈良井区の大矢喜久男区長(67)は「JRに妥協するなと、いまだに叱られる。だが、そんな時代じゃない。観光地の安全・安心が第一で、決まった以上は一日も早い対策を望む」と話している。
(福沢幸光)
<作馬道> 「さくばどう」とも。JR東海広報部によると、県内の同社管内の作馬道は120カ所。うち30カ所は認定外道路の「赤線」が付いている。2007年以降、赤線14カ所を閉鎖した。奈良井宿のように踏切を新設する例は過去にないという。
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