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地方
トキワ荘プロジェクト 成果出すも厳しい現実
漫画家を夢見て上京する若者を住宅面などで支援する「トキワ荘プロジェクト」。平成18年にスタートし、約20人がプロとしてデビューした。5月に書き下ろし単行本「僕にはまだ友だちがいない」を出した中川学さん(36)もチャンスをつかんだ一人。2作目の話も進んでおりキャリアアップしている一方、経済的成功には遠い。プロジェクトは漫画にかける夢と現実を映し出す。
中川さんが生活する古い木造一戸建てがあるのは、東京都練馬区の西武池袋線線路のすぐ脇。電車の通る音がうるさい。ここで漫画家志望の5人が共同生活している。トイレ、台所、風呂は共同だ。
部屋は4畳半一間で押し入れはなし。部屋の柱にはレシートが貼り付けてある。トイレットペーパーを買ったときのもので、「共有物はなくなっているのに気づいた人が買って、後で精算するんですよ」と中川さんは笑う。
トキワ荘プロジェクトはNPO法人「NEWVERY」(豊島区)の事業。同NPOが都内の一軒家を借り上げ、中川さんのような漫画家を夢見る地方の若者に斡(あっ)旋(せん)している。
共同生活になるが、家賃は電気、水道、ガス代込みで6畳間で4万8千円。都内で21戸あり、118人の定員は常にいっぱいだ。
「家賃の高い東京の1人暮らしは大変。家賃が安くなれば、バイトに当てていた時間を漫画に振り向けることができる」
NEWVERY副理事長、番野和敏さんはプロジェクトの意義をこう語る。このほか、アシスタントの斡旋や編集者の紹介などの支援もしている。
中川さんは22年11月、プロジェクトに応募して北海道から転居してきた。北海道では産休補助教員やアルバイトをしながら漫画を描き、雑誌の新人賞などに応募していたという。
「北海道では編集者と知り合う機会もない。上京しないと駄目だと思った」。動機をこう語る。
効果はすぐに表れた。この年の暮れにプロジェクトを通じて編集者と知り合いになり、とんとん拍子でデビューが決まった。「信じられなかった。北海道ではこんなことあり得ない」
中川さんは念願の漫画家として第一歩を記したが、現実は厳しい。
執筆に約5カ月かかり、この間は忙しくてアルバイトができなかった。そして、中川さんが受け取った印税は数十万円。「生活は苦しい」と話す。
漫画は当てれば大金を手にすることができるが、そんな人はほとんどいない。NEWVERYの調査では、連載を持っている漫画家187人の平均総年収は約660万円だった。
さらに、漫画業界そのものも先細っている。出版科学研究所によると、単行本と雑誌を合わせた漫画の推計販売金額は7年の5864億円をピークに長期低落しており、23年には3903億円になってしまった。
それでも中川さんの漫画への情熱は揺るがない。「描きたいことがある。止めようとは思わない」と前だけを向いている。
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