2012年8月16日(木) |
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沖縄県の尖閣諸島・魚釣島に上陸し、逮捕された香港の活動家ら14人は、17日にも強制送還される見通しとなった。日本の関係当局は、過去の尖閣上陸や漁船衝突事件を踏まえたシナリオ通りに対処した。領土問題で新たな火種を抱えたくない野田政権と、最重要事項を決める秋の共産党大会を控え、国内情勢や外交を安定させたい中国。スピード決着の背景にはそれぞれの国内事情と思惑が透けてみえる。 ▽接触 「漁船衝突事件の時とはレベルの違うルートを通じ、お互いに迅速な幕引きを望んでいるのが分かった」。抗議船が香港を出港した12日前後から中国、香港、台湾の関係当局と接触を続け、事態の早期収拾を模索した外務省のある幹部は自信をのぞかせた。 2010年9月、日本の領海で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件で、船長の刑事処分をめぐり日中は激しく対立。政府はこの二の舞いだけは避けたかった。 李明博大統領の竹島上陸や天皇訪韓に絡む謝罪要求発言で、日韓関係が悪化しているのに加え、今回の対応を誤り尖閣問題がこじれれば、野田政権は「弱体化に拍車が掛かる」(民主党幹部)。 一方の中国も、最高指導部が交代し、長期的な政策を決める共産党大会を控え、反日世論の拡大や外交の不安定化を望んでいないとされる。9月の国交正常化40周年も、両国の関係が先鋭化しない要因になっているとの見方もある。 ▽痛手 「中国におもねったわけではない。前例と法に基づき対処する」 警察庁幹部は不法入国以外に犯罪容疑がない限り、身柄を入管当局に引き渡せる入管難民法65条による事件処理の適正さを強調した。 04年3月に中国人活動家ら7人が魚釣島に上陸したケースでは、入管難民法違反(不法入国)容疑で逮捕しながら、2日後には入国管理局に身柄を引き渡した。島内のほこらを壊した容疑もあったが、65条を適用するために送検を見送った。 一方、10年の漁船衝突事件では、公務執行妨害容疑で中国人船長を逮捕、送検しながら処分保留で釈放し、結局は起訴猶予処分となった。日本政府への「弱腰」批判が強まったのに加え、中国の軍事管理区域に侵入したとして日本人が拘束され、日本へのレアアース(希土類)の輸出が滞るなど大きな痛手を受けた。 今回逮捕した14人については、04年と同じ入管難民法65条の適用を前提に対応。速やかに逮捕するため、海上保安官や警察官らが上陸の約3時間前に魚釣島で待ち構えた。別の警察庁幹部は「(抗議船が)どんな場合にどう対応するか事前に想定できた」と話した。 ▽成功体験 活動家らは海保の巡視船にれんがを投げ付けるなど抵抗したが、捜査当局は公務執行妨害に当たらないと判断。刑事手続きを進めず、強制送還で幕引きを図る方針だが、「弱腰外交」との批判が再燃する恐れがある。 政府内では「強い姿勢で臨まないと、増長した中国の反日グループによる第2、第3の上陸を許すことになる」(官邸筋)と疑問の声も漏れる。 早期決着の思惑とは別に、中国政府は当初から野田政権が強硬姿勢を貫けないとみていた節もある。漁船衝突事件で船長が起訴されなかった「成功体験」(北京の外交筋)があるからだ。 「日本は強制送還するつもりでしょう。それが日中関係にとっても最も良い形ですね」。中国外交筋は見透かしたように話した。 (共同通信社) |