日本で河野談話の見直し・撤回議論が持ち上がったのは、極右派の安倍晋三氏(自民党)が首相を務めていた2007年だった。日本政府は当時「旧日本軍が慰安婦を強制連行したことを裏付ける文書形式の証拠や旧日本軍の証言はなかった」と発表した。
藤村修官房長官は同日の予算委員会で「日本側に直接の証拠はなかったが、韓国側の(元慰安婦による)証言と当時の日韓関係を総合的に考慮し、政府の責任を認めた」と答弁した。証拠がなかったにもかかわらず、韓日関係に配慮して強制連行された慰安婦の存在を認めたと言っているわけだ。野田佳彦首相も、河野談話を踏襲する考えを示す一方、慰安婦の強制連行に関する証拠はないと主張した。
日本が河野談話に神経をとがらせているのは、クリントン米国務長官が先ごろ「慰安婦」の代わりに「性奴隷」という言葉を使用することを主張し、さらに米国で慰安婦の追悼碑が建立されるという事態に負担を感じているためとみられる。日本政府はこれを阻止するために「ロビー活動」を試みたが、あまり効果がなく、日本の一部政治家の間では「全ては河野談話のせい」というムードが広がった。
安倍元首相は07年、河野談話の撤回を進めようとして国際社会の批判にさらされると「苦痛を受けた人々に申し訳なく思う」と、やや姿勢を改めた。当時のトーマス・シーファー駐日米国大使は日本政府に遺憾を表明し、オランダの首相だったヤン・ペーター・バルケネンデ氏も、日本政府を強く批判した。元慰安婦が「強制連行」の実態を具体的に証言しており、国連人権委員会や米下院なども認めているにもかかわらず、日本政府だけが強制性を裏付ける証拠がないと主張しているわけだ。