クセを知り、筋トレ!! 老化に待った
気がついたらポケットに手を入れている、座るとき、つい浅く腰掛ける、テーブルにひじをつく…。こんなクセを放っておくのは大問題。体の一部の筋肉の弱さをカバーするための習慣であることが多いからだ。また、格好いいと人の真似をして始めた動作がクセになり、その結果、筋肉の衰えを助長してしまうこともある。筋肉の老化は、疲れやすい体を作る。「たかがクセ」とあなどるなかれ。体のクセは筋力低下の兆候なのだ。
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あまり使わなかったり、年を重ねることで、筋肉の量は減少する。こうした筋力の低下を象徴しているのが動作をともなうクセだ。
“筋肉博士”として知られる東京大学大学院総合文化研究科の石井直方教授は「筋力が衰えると人間の体は楽な動きをしようとする。動作をともなうクセの多くは、楽だからと無意識にやっているものが多い」という。
中高年世代の男性に多いポケットに手を入れるクセも、「ケガをした腕を三角巾でつるのと同じ状態。腕の重さを自分の肩の筋肉の三角筋で支えきれなくなっているのが原因」(同教授)だ。映画の登場人物などの不良っぽい雰囲気がいいと真似するうちに、「背中をやや丸め、腰骨を前に出した姿勢になる。おなかの周囲の腹筋や背筋、首から肩にかけての筋肉の僧帽筋も弱くなっています」(同教授)という。
また、電車の中や職場の椅子に浅く腰掛け、足首やひざを組むのは、「お腹の深部にあるインナーマッスル(深部筋)の大腰筋と腸骨筋が衰えている証拠。姿勢を悪くし、お腹が出る原因にもなります」(同教授)。
こうしたクセを放置するとさらに筋力は低下していく。筋肉は、骨格を支える大切なもの。例えば、骨盤を支える大腰筋や脊柱起立筋など腰周辺の筋肉が弱ると、腰痛の原因となる骨盤の歪みにつながるほどだ。
とはいえ、いきなりクセをやめようと思っても、疲れてなかなかやめられない。まずは、「自分のクセから、どの筋肉が弱っているかを知り、それにあわせて筋力トレーニングをすることが大切です」(同教授)。
同教授がすすめるトレーニング法は別表の通り。運動するときは「中高年世代は筋肉の回復力が落ちているので無理をしないこと。筋肉痛で動けなくなるような運動はダメ」と同教授。
運動回数の目安は、最初は自分ができる回数の半分程度。腹筋なら「20回やって、まだ20回ぐらいはできそうだなと思ったらやめること」(同教授)と余力を残すこと。慣れてきたら、週末などに、「限界までやると、どのくらいできるようになったかの目安にもなります」(同教授)。
加齢は筋力を衰えさせるが、「実は加齢による衰えは全体の約3割。残りの7割は、運動不足が原因」と同教授。
まずは、筋力低下の兆候である自分のクセを認識。クセを見直して、筋肉の弱点を知ることが、若さを保つ秘訣なのだ。
【1日のゴロ寝で、筋肉は半年分老化する】
筋力の老化は30歳ごろから始まる。石井教授によると、「1年に1%ずつ筋力は落ちる。50歳なら、ピーク時よりも2割近く筋力が落ちている計算になります」。
ただし、これは適度な運動を続けていた人の場合。運動をしないと、筋肉の衰えに拍車がかかる。例えば、「週末の1日、ゴロゴロと横になってテレビばかり見ていると、体幹部や太ももの筋力が落ちる。1日約0・5%。週末をゴロゴロと過ごしていたら、たった2日間で1年分も筋力が衰えてしまうんですよ」(同教授)。
その結果、全体の活動量が落ちてくる。疲れないようにと筋肉を使わないようにするため、さらに筋肉の老化が進み、かえって疲れをためこむ体になる。「筋肉を意識して動かすことが大切。そうしているうちに、筋肉がつき、疲れにくい体になります」(同教授)。
【階段は、最高のトレーニング用具】
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)予防にウオーキングが人気だが、ウオーキングで使う筋力は意外に少なく、それだけでは筋肉の老化は防げない。「対策は、ウオーキング途中、歩道橋を見つけたら渡ること。階段は絶好の筋トレ用具です」(同教授)。
通勤途中や仕事中の階段昇降もおすすめで、「階段を上ると、加齢にともなって細くなるお尻の筋肉の大臀筋やウエスト深部の大腰筋、太ももの大腿四頭筋を鍛えられます」と同教授。
理想は、1段ずつ飛ばして上る方法で、「米国の五輪の陸上選手も取り入れているトレーニング。彼らは2段飛ばしで5〜6階分を上るのですが、一般の人は、1段飛ばしで1〜3階分でいい。走らず、筋肉を意識しながらゆっくり上ってください」(同教授)。
階段を下りるのも効果的で、「下りの方が、筋肉をブレーキとして使いながら運動することになるので、筋肉への刺激が大きくなる。大切なのはゆっくりと下りること。スピードをつけて下りるとひざを痛める危険性があるので、やめてください」と同教授。また、「糖代謝の改善に役立つ速筋線維を使う」(同教授)ため、糖尿病がある人にもおすすめだ。
クセを直して筋肉の老化を防ぐトレーニング法 |
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(クセ/弱っている筋肉/トレーニングの名称/方法) |
★ポケットに手を入れる/三角筋、僧帽筋、脊柱起立筋/シュラッグ=両手に同じ重さのもの(厚い本や水が入ったペットボトルなど)を持ち、肩を後ろから前に、前から後ろにと交互に各10回ずつ回す |
★同/同/アップライトロー=かばんを両手で持って、ひじを横に張り、あごの位置までゆっくりと持ち上げ、ゆっくり下ろす動作を20回繰り返す |
★同/背筋/グッドモーニングエクササイズ=両手にそれぞれ重りになるものを持ち、椅子に座って背筋をまっすぐに伸ばし、前屈。ゆっくり体を起こすという運動を10回行う |
★椅子に浅く腰掛け、ひざを組んだり、足首を交差させたりする/大腰筋、腸骨筋/ニートゥーチェスト=椅子に座り、胸を張って背筋を伸ばし、右足と左足を交互に20回ずつ足を胸に近づける。強度が弱いようなら、一方の足だけを連続して20回行う。さらに強度を上げるには、両足を同時に引き上げる |
★ひじをつく/三角筋、僧帽筋、背筋/シュラッグ、アップライトロー、グッドモーニングエクササイズなど |
★両手でつり革をつかむ/背筋、中臀筋/レッグアブダクション=椅子に座り、足を浮かせて両足同時に限界まで横に開く、閉じるを20回繰り返す。お尻の上の方を使っていると感じるまで開くこと |
★傘などを杖代わりに使っていることがある/大腿四頭筋/スクワット=足を肩幅程度に開き、手を前に出し、背筋を伸ばしてお尻を引き気味にしながらひざをゆっくりと曲げる。ひざを痛めてしまうので、ひざがつま先よりも前にいかないように注意。太ももが床と平行になるまで曲げるのが理想だが、できなければ、半分でもいい。回数は30回が目標 |