Updated: Tokyo  2012/09/01 04:42  |  New York  2012/08/31 15:42  |  London  2012/08/31 20:42
 

日産が切り開いた輸出の新戦略-デフレ深刻化の副作用も

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  8月30日(ブルームバーグ):日本株式会社には新たな輸出先がある。日本だ。

日本の産業界には1世紀にわたって、国内で売るものは国内でつくるべきだというモットーがあったが、円高や労働者の高齢化、海外労働者の技能向上などを背景に、日本に輸出する目的で海外生産する企業が現れた。

日産自動車は2010年、日本企業ではいち早く海外生産車の逆輸入を決めた。今では資生堂東芝なども同様の戦略を取っている。政府のデータによると、日本メーカーが海外工場でつくった製品の逆輸入はこの10年で2倍余り増え、過去最大となった。特に過去2年間では31%増えている。輸入全体の過去10年の伸びは61%だ。

デロイトトーマツコンサルティングのパートナー、佐瀬真人氏は「日産の決定は画期的だった」と語る。

メーカーが以前ほどナショナリズムにこだわらずに事業拠点を設ける「メード・バイ・ジャパン」モデルは企業の競争力を高める一方、日本の雇用を犠牲にし、デフレ圧力を強める可能性がある。

日産のディーラー、大洋日産自動車販売の芝浦中央支店で営業を担当する柿沼志郎氏は、「海外でつくった車を国内に売るということは当たり前とも言えないが、時代の流れというかやっぱりグローバル化だ」と述べた。店舗で扱っているタイ生産の小型車「マーチ」については、発売当初こそ一部雑誌が品質に疑問を投げ掛けたりしたが「今はそういう声は全くない」という。

収益向上

資生堂は来月、台湾とベトナムで生産したスキンケア・メーキャップブランド「Za(ジーエー)」を日本で発売する。同社が海外で生産した自社ブランドを逆輸入するのは初めて。農機のクボタは昨年、中国で生産した田植え機と米国製の芝刈り機の日本での販売を開始した。

東芝は前期(2012年3月期)に液晶テレビ「レグザ」の国内生産を終了。約半世紀続いた日本でのテレビ生産が終わった。パナソニックは携帯電話端末の全ての生産をマレーシアと中国の工場に移した。

国際協力銀行(JBIC)が昨年12月に発表した調査結果によると、日本メーカーの海外生産比率は15年3月末までに過去最高の39%に達する見通し。2年前は33%だったという。

円相場が過去5年間で45%値上がりする中、企業経営者は、技能が向上し、低コストの労働力を提供する国での生産を再び増やしつつある。

JPモルガン証券のイェスパー・コール株式調査部長によれば、TOPIX構成企業にとって、海外生産の利益率は国内生産に比べて平均2.5-3倍高いケースが多い。同部長は「産業の空洞化は、日本株式会社の収益性が構造的に向上することを意味する」と述べた。

消費者への恩恵

日産は自動車の4台に3台を海外で生産しており、海外生産比率は国内大手8社の中で最も高い。12年3月期の純利益は3414億円で、初めて国内自動車業界の首位に立った。株価は過去2年で15%上昇。トヨタ自動車は8%上昇。トヨタの12年3月期の海外生産比率は、同社ウェブサイトによると54%。

リクルートは、海外への生産シフトで日本国内ではこの10年で製造業と建設業で400万人分の職が失われると予想する。

日本銀行にとっては、海外で生産されたモノへの消費割合が増えることで、デフレ収束が困難になる恐れがある。6月の全国の消費者物価指数(生鮮食品を除いたコアCPI)は前年同月比0.2%低下した。

アジア開発銀行研究所のエコノミスト、邢予青氏は「逆輸入はデフレを一段と悪化させる」と指摘。「海外生産を進めればコスト削減余地が拡大し、物価水準はさらに下落する」と述べた。

消費者にとっては問題ではないかもしれない。日産によれば、大洋日産で扱うマーチの最低価格は100万円を少し上回る程度。同社が日本で生産する小型クロスオーバー車「ジューク」は160万円以上する。大洋日産の柿沼氏は、タイで生産するようになってからマーチの販売が伸びたと話す。

モルガン・スタンレーMUFG証券のロバート・フェルドマン経済調査部長は、「消費者はどこで生産されているかを以前よりもだいぶ気にしなくなった」と指摘。「タイでつくられても日産車は日産車だ」と語った。

原題:Nissan Ships Cars Home as Yen Erodes Century of Made-in-Japan(抜粋)

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 アンディ・シャープ asharp5@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Paul Panckhurst ppanckhurst@bloomberg.net

更新日時: 2012/08/30 10:13 JST

 
 
 
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