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太平洋の東海沖から四国沖まで延びる「南海トラフ」沿いで巨大な地震が発生した場合、津波などによる死者が最大で32万3千人にも達するとの被害想定を、内閣府が発表した。 東日本大震災の死者・行方不明者約1万9千人の17倍にもあたる衝撃的な数字である。 考えうる最大の地震と津波が前提であり、発生確率は千年に一度程度と低いが、東日本大震災では「想定外」の被害が続出した事実を忘れてはならない。ハード、ソフトの両面で防災、減災対策を強化する必要がある。 死者数のあまりの多さに、沿岸の自治体や住民から戸惑いや不安の声も聞こえる。注目したいのは迅速な避難で人的被害を大幅に減らせるという点だ。 被害想定は、東日本大震災を教訓にして震源域の広さや地震の規模を見直し、震源や風速、発生時間帯を組み合わせて48通りのケースで推計している。 死者数が最多となるのは、冬の深夜に最大級の地震が発生し、駿河湾から紀伊半島の広い範囲を大津波が襲うケースだ。津波による死者が7割にも達する。 多くの人が自宅で就寝中で、避難が遅れたり、ためらいがちになることから、避難が2割にとどまった場合を想定している。 しかし、対象地域の住民が地震発生後、すぐに避難を開始して、津波避難ビルなどを効果的に活用した場合、死者数は9割近く減るとしている。 地震の規模が小さければ、効果はさらに高くなるだろう。「強い揺れが起きたら逃げる」という意識を徹底したい。最悪の想定にとらわれて避難を諦めることがあってはならない。 政府や自治体は、人命を最優先にした避難計画や避難訓練、防災教育により力を入れるべきだ。情報伝達手段や避難場所の確保、津波の到達を遅らせる防潮堤や水門の点検も必要だ。長期的には公共施設や集落の高台移転の検討も視野に入れなければならない。 一方、地震による被害も忘れてはならない。津波の恐れのない内陸部でも、建物の倒壊、火災による死者が京都900人、滋賀500人などと想定されている。建物の耐震化など従来の対策を着実に進めたい。 中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)付近には、同社が建設中の高さ18メートルの防潮堤を越える最大19メートルの津波が押し寄せると推計された。再稼働の議論以前に、停止中の原発や燃料プールの冷却を確実に継続できる安全性が必要だ。早急に対策を求めたい。
[京都新聞 2012年08月31日掲載] |