金言:「慰安婦」対立広げるな=西川恵
毎日新聞 2012年08月31日 東京朝刊
一方、韓国にとって独島問題は歴史問題である。1905年は日本が韓国を保護国とした年で、韓国が外交権を奪われた中で竹島が不当に島根県に編入された。これは1910年の日韓併合に向けた「日本の邪悪な植民地主義」を象徴する出来事なのだ。
国際法と事実から判断しようとする日本と、歴史問題から見る韓国。立場は交わりようがなく、日本は日本のやり方で正当性を主張していくしかない。この時、慰安婦問題に対立を広げることは、歴史問題の脈絡の中に竹島問題を置こうとする韓国の主張にはまることになる。
また慰安婦問題に国際社会の注目が集まれば、いくら事実と国際法に基づき竹島問題の正当性を主張しても、国際社会は歴史問題の絡みでとらえるだろうし、日本の守勢は明らかだ。
慰安婦問題は非常に微妙な問題である。まだ生存している当事者もいる。幸い玄葉光一郎外相は官房長官談話の踏襲を確認した。安倍元首相の発言は内政の保守連携も念頭にあってのようだが、慰安婦問題を安易に政治の具にすべきでない。(専門編集委員)