金言:「慰安婦」対立広げるな=西川恵
毎日新聞 2012年08月31日 東京朝刊
<kin−gon>
竹島(韓国名・独島)問題での韓国に対する鬱屈した思いもあってか、一部の政治家から旧日本軍の従軍慰安婦問題について1993年の河野洋平官房長官談話を見直すべきだとの意見が出ている。しかし慰安婦問題で韓国との対立をこれ以上深めるべきでない。竹島問題で日本の主張の正当性を弱めかねない。
慰安婦問題について宮沢喜一内閣の官房長官談話は「総じて本人たちの意思に反し」「女性の名誉と尊厳を著しく傷つけた」として強制性を認め、「心からのおわびと反省の気持ち」を表明した。
安倍晋三元首相は28日、この談話を見直す必要があると述べた。松原仁国家公安委員長も閣僚間での見直し議論を提起する考えを示した。
保守系の政治家の間には「これまで韓国には一定の配慮をしてきた。なのに韓国大統領は竹島に上陸した。配慮はもう不要だ」との思いがある。それが今回の竹島問題の発端となった慰安婦問題に向けられている。
しかし対立をいたずらに慰安婦問題に広げることは、竹島問題自体の焦点をずらしてしまう。竹島問題についての日本の立場は、あくまで事実と国際法に即している。1905年に竹島を島根県に編入した。戦後、サンフランシスコ平和条約でも、米国は「竹島を日本が放棄すべき地域として条約に明記すべきだ」との韓国の主張を退けた。不服な韓国は54年に島を不法に占領した、というものだ。