ACTAノート
2012,07/24(Tue)
「偽造品の取引の防止に関する協定」(ACTA)の知名度は、ネットの中に限ればだいぶ広まってきたようだ。それに伴い、議論には根拠と正確さがいっそう必要だと思う。ACTAを推進しているのは頭のいい人たちである。あやふやな議論に基づいて反対していると、最後に足元をすくわれることになりかねない。
ということで、思い付いた範囲でノートを作っていく。ぼくは法学者ではないので、プロがみたら用語が変なのはご勘弁を。また無理解から間違ったことを書いているかもしれないので、気が付いたら随時改訂を加えていくという態度になってしまうことをお許しいただきたい。後からどんどん書き足したり、状況変化に応じて訂正したりしているし内容に重複もある。
それから、ぼくの興味が著作権なので、特許や商標、意匠のことにはあまり触れないことも、ご勘弁を。
あ、それから最初に言っておくが、ACTAに書かれてあることのうち、これが合意された時点で日本で明らかに実現していなかったのは、第27条5項のリッピング規制の部分だけで、これについては不正競争防止法と著作権法を改正して対応済み。つまり、ACTAにある規制は日本の国内法では、だいたいすでにそうなっているということ。EUの市民がACTAは危険だといっているが、それは日本の社会はすでに危なくなっていますよと忠告されていると思えばいい。それはまた彼らの社会も危なくなっているということ。市民の目線で見ると危ないなと思える法律を整えた国同士が手を組んで、国際的な侵害も含めて法をしっかり執行しましょうという協定だといえる。ただし、内容的にはACTAよりもTPPのほうが、日本の知財分野への影響はずっと大きい。
(最終更新:2012年8月12日)
ACTAに対する意見(あえてコピペ禁止。ご自分の意見はご自分の言葉で語ってください。)
「偽造品の取引の防止に関する協定」(ACTA)批准案の審議が国会ではじまりました。この協定は日本が提唱し米国とともに交渉を進めたものです。ACTAは広範囲なネット規制につながる可能性のある条項など、各国の市民生活に大きな影響を与えるかもしれない協定であるにもかかわらず、その交渉が極秘裏に進められてきました。
本年1月にEUの22ヶ国が署名した後、ACTAは危険との見方が広まり、EU各国で市民レベルの反対運動が急拡大しました。欧州全域での3度にわたる一斉デモと280万人の反対署名を議会は無視できなくなり、EU議会は5つの委員会すべてで批准案を否決し、7月4日の全体議会でも 478対39の大差で否決しました。これによりEU22ヶ国はすべてACTAに加盟しないこととなりました。個別加盟国が署名済みの協定をEUとして否決したのは初めてのことであり、一連のことをシュルツEU議会議長は「欧州の民主主義にとって画期的な出来事」とまで評しています。
上記のようにこの協定は、国際的に大きな問題を巻き起こしています。個々の条文にはあいまいな表現もあることから、国会議員のみなさまにおかれましては、各条項の意図について担当責任者に質問し、慎重に審議をしていただけるようお願いします。7月31日の参議院外交防衛委員会で玄葉外務大臣は、同協定第26条が著作権侵害の非親告罪化にあたることを否定せず、そのうえでわが国は非親告罪化を行わないと答弁しました。著作権に関しては外務大臣ではなく文部科学大臣の答弁が必要です。刑事上の執行の対象としている「商業的規模」の判定基準についても未だ不明です。さらに、EU議会で否決されるという、提唱国であるわが国の国際的信用の失墜させる事態を招いたことについて、玄葉外務大臣は7月31日の参議院外交防衛委員会で「正しく私は理解されていない部分があるのではないかというふうに思っていまして」と答弁しています。それでは、どこが正しく理解されておらず、その原因は何だったのでしょうか。EUではACTAが秘密交渉であったことに強い批判があります。その交渉手法に問題はなかったのでしょうか。第38条によると今後の協議も秘密とされていますが、そのような姿勢で国民の理解が得られるでしょうか。衆議院ではこういった点を明らかにしていただけたら幸いです。
(2012年8月12日時点)
ACTA関連、過去のエントリもご覧下さい。
「日本ではわからないACTA:欧州各国での抗議デモについて」
「ACTAに対するEUの懸念とは」
「ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)はホントの所、何が問題なのか」
ACTA主要事項年表はこちら(@fr_toenさんブログ)。
参議院外交防衛委員会でのACTA関連のダイジェストはこちら。
ACTAは2012年8月3日に参議院本会議で賛成多数で可決(217対9)され、衆議院へ送られました。反対票を投じたのは、外山・主濱・森(生活)、亀井・行田・谷岡(みどり)、平山・横峯(大地)、米長(無所属)外山・主濱・森(生活)、亀井・行田・谷岡(みどり)、平山・横峯(大地)、米長(無所属)の各議員。投票結果はこちら。
ここもご覧を。
@tentam_goさんの記事「ACTAについて外務省に確認(国会答弁の疑問点含む)」。
@fr_toenさんブログ「海賊版対策条約(ACTA)に関するQ&A」
ACTAの条文の日本語仮訳はここから公表されている。協定の正文は英語、フランス語、スペイン語なので、日本語はあくまでも仮訳という位置づけ。英語の原文はこちら。
まずは全体の構成から。
という構成で、ネット民に特に関係するのは、第2章の第2,4,5節あたりになる。
条文を読み進めるうえでのポイントを最初にいくつかあげておく。条文は、断定的な表現に訳されている文(英文では助動詞のshallで表現されている)と、「~できる」と訳されている文(英文ではmayで表現されている)とがある。前者は義務の規定、後者はそれよりも緩く、「~してもよい」という可能性の規定(その裏には推奨の意味あり?)と読める。
第2章第2節は民事上のことなので、ペナルティも損害賠償だけで刑事罰はかからない部分の規定である。警察も民事には不介入が原則。それに対して第4節は刑事上のことなので、警察が動くことになり、逮捕もあるし、懲役や罰金などの刑事罰がかかる。該当の条文がどちらの節に属するものかは、区別しておく必要がある。
また、個々の条文が物品に対象を限定したものなのか、デジタルデータのような無体物も含むのかも区別が必要。
ACTAは既存の協定で負う義務を無効にするものではない。ACTAよりも強い協定が存在する場合は、そちらが優先する。
「各締約国は、この協定を実施する」は「義務の規定」。第2文、第3文は「できる」で終わっているので、義務ではなく「可能であることの規定」と判断できる。以後の条文でも文末が断定的なのは「義務」、「できる」で終わるのは「可能」と読める。
ACTAは、締約国において保護されていない権利を、新たに設けるものではない。したがって、出版社への隣接権付与などとは無関係。ACTAは国内法で保護済みの権利の「執行」についての協定である。ACTAのための法改正として行われたリッピング規制は、「複製権」という既存の権利の「執行」を強くしたのだと理解できるだろう(要確認)。
権利侵害についての情報(ネットでいえばアクセス記録など)を、各国の法令の範囲内で締約国に提供し、情報の提供を受けた国はその国の法令に従って取り扱うようにと言っている。
「著作権及び関連する権利」「商標」「地理的表示」「意匠」「特許」「集積回路の回路配置」「開示されていない情報の保護」を指す。(参考→知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)ただし「特許」に関しては、第2章第3節「国境措置」からは除外される(第13条参照)。
司法当局が知財権侵害の発生を防止するための措置を取ること、司法当局が双方の言い分を聞くこと(双方審尋主義)なく、権利者の言い分だけを基にして暫定的な措置を取る権限を定める(義務規定)。当局に都合の悪いサイトを閉鎖できたり、ニコ動、ツイッター等が遮断されるという不安は、この条文から来ているものと思われる。この規定は民事上の執行に関するものなので、基本的には権利者からの訴えを受けて司法が判断する部分である。権利侵害をしている著作物「も」UPされていることを理由に、社会のインフラにもなっているサービス全体のシャットダウンを司法が判断するかというと、そこまでの心配はしなくてよいのでは(というか、したくない)。だが、違法ファイル専用と訴えられたサイトや、権利侵害があると訴えられた特定のブログを、即座に一方的に遮断を命じることができるよう、締約国に義務づけていると解釈することはできる。初期のYouTubeのような法的にグレーな新規サービスは、やりにくくなるだろう。また、これは大きなくくりでは民事上のことなので、この規定を理由に司法の独自判断でサービスを遮断できるとは考えにくい。ただし、特定のサイトを閉鎖させるために当局の側から働きかけて権利者に訴えを起こさせるような、恣意的な運用が起きないように注意が必要だろう。
侵害データが入っているパソコンなどを証拠保全のために司法の管理下に置くことであるが、これも民事の規定なので権利者の訴えが必要。著作権侵害事件で通常行われている手続きだといってしまえばそれまで。
侵害がシロだった場合に訴えた者に損害賠償を求められるようにすること。訴訟乱発に対する歯止め。
第3節は侵害品の水際での取締について定めている。第3節の規定によって、インドなどで製造された安価なジェネリック医薬品を発展途上国に輸入することが困難になるのではという心配がある。@tentama_goさんの外務省への電話取材によると、この注によって国境措置からは特許は除外されているので、そういう心配はないとの説明があった。ただし商標は除外されていないので、ジェネリック薬にオリジナル薬の商標を付けている「偽薬」の場合は取締の対象になる。外務省説明では、ACTAはジェネリック医薬品の流通を阻害しないという見解であるが、途上国での医療現場を知っている人の意見を聞きたいところである。
空港の税関で手荷物の中から出て来た個人用の海賊版DVDなどを没収する法律を作らなくてもよい(可能規定)。日本ではすでに没収できるようになっている。この条項は「少量の非商業的な性質の物品」を除外することなので、PCやiPodの中のデータをサーチできるような立法を求めてはいない。また、全体についていえることだが、その条文が「物品」に限定した規定なのか、デジタルデータのような無体物を含んでいるのかの区別が重要。
刑事上の執行については「故意」「商業的規模」という縛りがかかっている。「商業的規模」の判定基準は明かでない。個人が行う違法ダウンロードのように「商業的規模」ではない侵害は、ACTAのいう刑事犯罪には含まれないと解釈すべき。
これは第23条でいう刑事犯罪で、しかも締約国に刑罰の定めがある侵害に対して、「自国の権限のある当局」がPCなどを差押さえる権限を持つようにという規定である(義務規定)。ただし第23条でいう刑事犯罪は前述の通り「商業的規模」に限られるので、個人が行う小規模な侵害は問題にしていない。
小倉秀夫弁護士は、7月18日放送のJ-WAVE JAM THE WORLDで、これを著作権に当てはめると非親告罪化になると指摘した。「職権により行動」は確かにそのような解釈は可能であり、そうだとすれば日本の著作権法の原則に大きな変更を求めるものになる。ただし捜査当局が「職権により行動」するのは「商業的規模」の侵害に限られる。また、文末が「できる(may)ことについて定める(shall)」と構文がややこしいのだが、2012年7月31日の参議院外交防衛委員会での山本香苗委員に対する玄葉外務大臣の答弁では、この条項は非親告罪化にあたることを否定しなかったが実施の義務はなく、これを基に非親告罪化はしないとのこと。
ここに表現の自由やプライバシーへの配慮は観察できる。「その他の基本原則」が何を指すのか不明。刑事上の執行について規定している割には、人権への配慮は乏しい。
ACTAはネット監視を強化するといわれる一因になっている条文。プロバイダー責任制限法にある「発信者情報の開示」に相当する法整備を、締約国にうながしている(文末が「できる」なので義務ではない)。もちろん、法整備がされたらそれがその国のプロバイダーの義務になる。表現の自由やプライバシーへの配慮は、いちおうある。
いわゆるリッピング規制。2010年10月にACTA大筋合意文書が公開された時点で、国内法が対応できていなかった(おそらく)唯一の部分。2011年1月の文化審議会著作権分科会の報告書には、保護手段を「技術」ではなく「機能」で評価し、DVDの暗号はアクセス・コントロールとコピー・コントロールの両方の「機能」を持つので規制の対象にすべきとある。この部分でACTA大筋合意内容が言及されている。ただし、2011年1月の著作権分科会報告書と2012年10月施行の改正著作権法でのリッピング規制との関連については、その間の経過について精査が必要だと考えている。
協定の実際の運用はACTA委員会が行う。だが、これまでの経緯をみると、この委員会が民意を反映した動きをするとは思えない。
ACTAはその交渉過程での秘密主義が厳しく批判されている。そのうえ今後の協議も秘密なのだという。交渉当事者たちの感覚を疑わざるを得ない部分。
ACTAがどうなれば発効するのか(逆にいえばどうなれば終わるのか)を規定している部分。2013年5月1日まで「署名のための開放」が行われている。この日までに署名した国のうち6カ国の批准等があれば発効する。これまでに署名した国のうち、周知の通りEUがすべて落ちることになったので、残っているのはアメリカ、オーストラリア、カナダ、韓国、シンガポール、日本、ニュージーランド、モロッコ、メキシコ(2012年7月時点)。これらの国に加えて2013年5月1日までに新たに署名した国々の中から6カ国が批准等すれば発効。そうでなければ6カ国集まるまで棚上げになる。ACTAの終了条件は、2013年5月1日までに署名した国について、各国の議会で次々と批准案を否決され、批准国と未批准国の合計が5カ国以下になった場合、ということになるか(要確認)。
その他、よくささやかれることについて。
ACTAは2005年のグレンイーグルス・サミットのときに当時の小泉首相が提唱したもの。その後の交渉は秘密裏に行われたので詳細は知れないが、ウィキリークスに流出したアメリカ公電によると、日本の当事者たちは交渉の主要な部分をアメリカに委ねていたことがわかる。当該リーク文書の邦訳は、ここ(@fr_toenさんブログ)にある。ACTA交渉の実態を知るうえで一級の資料であり必読。
欧州でもっとも批判されたのがこの部分。ACTAは2007年1月から集中的な協議に入っていた。節目ごとに、交渉の進捗についての短いステートメントは発表されていたが、詳しいことの公表はなかった。各国のウオッチャーがその内容を知るようになったのは、ドラフトが2008年5月からウィキリークスに順次流出するようになってから。条文原案(英語)が公表されたのは2010年4月。大筋合意文書(英語)の公開は2010年10月。原案公表後もオープンな議論を積極的に進めなかったという点で、秘密交渉との批判はまぬがれない。実際に欧州で騒ぎがはじまったのは、欧州各国の署名直後の2012年1月末から。日本語の仮訳が公開されたのは、署名から半年が過ぎ、国会に批准を求めることを閣議決定した後の2012年4月で、公の場で国民の代表に向けて説明が行われたのは、2012年7月31日の参議院外交防衛委員会がはじめてだった。
国際協定は法律ではない。協定に合うように国内法を整備・運用しますと、国家として約束することである。
そういう証拠は知らない。上記のようにACTAは「商業的規模」の侵害しか刑事罰の対象にしていないので、違法DLのように個人レベルの軽微な侵害を問題にはしていないと考えている。したがって、違法DL刑罰化はACTAの要求水準を超えるものである。両者の背後にある思考パターン、つまり権利保護を強くしさえすれば経済と文化のためになるのだという思い込み、は共通しているといえる。
いまのところ、そうだと確信できる証拠を知らない。この説は斎藤やすのり衆議院議員がインタビューの中で述べているが(ここの開始後24分あたり)、「これはわたしの推測ですけども」と前置きしている。
日本国内に限っていえば、ACTAとは関係なく著作権を理由に自由な言論が奪われる状況がすでにあることに危機感を持つべき。流山市を批判するブログに市のHPから写真を「転載」した男が、名誉毀損などではなく著作権侵害で逮捕された2012年4月の事件が好例。正当な「引用」であっても、論文や著書への図版の引用許諾の際に権利者から文章の提出を求められ、内容が批判的だったりすると著作権を理由に図版の引用を拒絶されることは、珍しいことではなくなっている。
以上
ということで、思い付いた範囲でノートを作っていく。ぼくは法学者ではないので、プロがみたら用語が変なのはご勘弁を。また無理解から間違ったことを書いているかもしれないので、気が付いたら随時改訂を加えていくという態度になってしまうことをお許しいただきたい。後からどんどん書き足したり、状況変化に応じて訂正したりしているし内容に重複もある。
それから、ぼくの興味が著作権なので、特許や商標、意匠のことにはあまり触れないことも、ご勘弁を。
あ、それから最初に言っておくが、ACTAに書かれてあることのうち、これが合意された時点で日本で明らかに実現していなかったのは、第27条5項のリッピング規制の部分だけで、これについては不正競争防止法と著作権法を改正して対応済み。つまり、ACTAにある規制は日本の国内法では、だいたいすでにそうなっているということ。EUの市民がACTAは危険だといっているが、それは日本の社会はすでに危なくなっていますよと忠告されていると思えばいい。それはまた彼らの社会も危なくなっているということ。市民の目線で見ると危ないなと思える法律を整えた国同士が手を組んで、国際的な侵害も含めて法をしっかり執行しましょうという協定だといえる。ただし、内容的にはACTAよりもTPPのほうが、日本の知財分野への影響はずっと大きい。
(最終更新:2012年8月12日)
ACTAに対する意見(あえてコピペ禁止。ご自分の意見はご自分の言葉で語ってください。)
「偽造品の取引の防止に関する協定」(ACTA)批准案の審議が国会ではじまりました。この協定は日本が提唱し米国とともに交渉を進めたものです。ACTAは広範囲なネット規制につながる可能性のある条項など、各国の市民生活に大きな影響を与えるかもしれない協定であるにもかかわらず、その交渉が極秘裏に進められてきました。
本年1月にEUの22ヶ国が署名した後、ACTAは危険との見方が広まり、EU各国で市民レベルの反対運動が急拡大しました。欧州全域での3度にわたる一斉デモと280万人の反対署名を議会は無視できなくなり、EU議会は5つの委員会すべてで批准案を否決し、7月4日の全体議会でも 478対39の大差で否決しました。これによりEU22ヶ国はすべてACTAに加盟しないこととなりました。個別加盟国が署名済みの協定をEUとして否決したのは初めてのことであり、一連のことをシュルツEU議会議長は「欧州の民主主義にとって画期的な出来事」とまで評しています。
上記のようにこの協定は、国際的に大きな問題を巻き起こしています。個々の条文にはあいまいな表現もあることから、国会議員のみなさまにおかれましては、各条項の意図について担当責任者に質問し、慎重に審議をしていただけるようお願いします。7月31日の参議院外交防衛委員会で玄葉外務大臣は、同協定第26条が著作権侵害の非親告罪化にあたることを否定せず、そのうえでわが国は非親告罪化を行わないと答弁しました。著作権に関しては外務大臣ではなく文部科学大臣の答弁が必要です。刑事上の執行の対象としている「商業的規模」の判定基準についても未だ不明です。さらに、EU議会で否決されるという、提唱国であるわが国の国際的信用の失墜させる事態を招いたことについて、玄葉外務大臣は7月31日の参議院外交防衛委員会で「正しく私は理解されていない部分があるのではないかというふうに思っていまして」と答弁しています。それでは、どこが正しく理解されておらず、その原因は何だったのでしょうか。EUではACTAが秘密交渉であったことに強い批判があります。その交渉手法に問題はなかったのでしょうか。第38条によると今後の協議も秘密とされていますが、そのような姿勢で国民の理解が得られるでしょうか。衆議院ではこういった点を明らかにしていただけたら幸いです。
(2012年8月12日時点)
ACTA関連、過去のエントリもご覧下さい。
「日本ではわからないACTA:欧州各国での抗議デモについて」
「ACTAに対するEUの懸念とは」
「ACTA(偽造品の取引の防止に関する協定)はホントの所、何が問題なのか」
ACTA主要事項年表はこちら(@fr_toenさんブログ)。
参議院外交防衛委員会でのACTA関連のダイジェストはこちら。
ACTAは2012年8月3日に参議院本会議で賛成多数で可決(217対9)され、衆議院へ送られました。反対票を投じたのは、外山・主濱・森(生活)、亀井・行田・谷岡(みどり)、平山・横峯(大地)、米長(無所属)外山・主濱・森(生活)、亀井・行田・谷岡(みどり)、平山・横峯(大地)、米長(無所属)の各議員。投票結果はこちら。
ここもご覧を。
@tentam_goさんの記事「ACTAについて外務省に確認(国会答弁の疑問点含む)」。
@fr_toenさんブログ「海賊版対策条約(ACTA)に関するQ&A」
ACTAの条文の日本語仮訳はここから公表されている。協定の正文は英語、フランス語、スペイン語なので、日本語はあくまでも仮訳という位置づけ。英語の原文はこちら。
まずは全体の構成から。
前文
第1章 冒頭の規定及び一般的定義
第1節 冒頭の規定(第1~4条)
第2節 一般的定義(第5条)
第2章 知的財産権に関する執行のための法的枠組み
第1節 一般的義務(第6条)
第2節 民事上の執行(第7~12条)
第3節 国境措置(第13~22条)
第4節 刑事上の執行(第23~26条)
第5節 デジタル環境における知的財産権に関する執行(第27条)
第3章 執行実務(第28~32条)
第4章 国際協力(第33~35条)
第5章 制度上の措置(第36~38条)
第6章 最終規定(第39~45条)
という構成で、ネット民に特に関係するのは、第2章の第2,4,5節あたりになる。
条文を読み進めるうえでのポイントを最初にいくつかあげておく。条文は、断定的な表現に訳されている文(英文では助動詞のshallで表現されている)と、「~できる」と訳されている文(英文ではmayで表現されている)とがある。前者は義務の規定、後者はそれよりも緩く、「~してもよい」という可能性の規定(その裏には推奨の意味あり?)と読める。
第2章第2節は民事上のことなので、ペナルティも損害賠償だけで刑事罰はかからない部分の規定である。警察も民事には不介入が原則。それに対して第4節は刑事上のことなので、警察が動くことになり、逮捕もあるし、懲役や罰金などの刑事罰がかかる。該当の条文がどちらの節に属するものかは、区別しておく必要がある。
また、個々の条文が物品に対象を限定したものなのか、デジタルデータのような無体物も含むのかも区別が必要。
第1章 冒頭の規定及び一般的定義
第1節 冒頭の規定
第1条 他の協定との関係
この協定のいかなる規定も、既存の協定(貿易関連知的所有権協定を含む。)に基づく締約国の義務であって他の締約国に対して負うものを免れさせるものではない。
ACTAは既存の協定で負う義務を無効にするものではない。ACTAよりも強い協定が存在する場合は、そちらが優先する。
第2条 義務の性質及び範囲
1 各締約国は、この協定を実施する。締約国は、この協定に反しないことを条件として、この協定において要求される知的財産権に関する執行よりも広範な執行を自国の法令において実施することができる。各締約国は、自国の法律上の制度及び慣行の範囲内でこの協定を実施するための適当な方法を決定することができる。
「各締約国は、この協定を実施する」は「義務の規定」。第2文、第3文は「できる」で終わっているので、義務ではなく「可能であることの規定」と判断できる。以後の条文でも文末が断定的なのは「義務」、「できる」で終わるのは「可能」と読める。
第3条 知的財産権の取得可能性及び範囲に関する基準との関係
2 この協定は、知的財産についての権利が締約国の法令によって保護されていない場合において当該締約国が措置をとる義務を生じさせるものではない。
ACTAは、締約国において保護されていない権利を、新たに設けるものではない。したがって、出版社への隣接権付与などとは無関係。ACTAは国内法で保護済みの権利の「執行」についての協定である。ACTAのための法改正として行われたリッピング規制は、「複製権」という既存の権利の「執行」を強くしたのだと理解できるだろう(要確認)。
第4条 プライバシー及び情報の開示
1 この協定のいかなる規定も、締約国に対し、次の情報を開示することを要求するものではない。
(a)その開示が自国の法令(プライバシーについての権利を保護する法令を含む。)又は自国が締約国である国際約束に反することとなるような情報
(b)その開示が法令の実施を妨げる等公共の利益に反することとなるような秘密の情報
(c)その開示が公私の特定の企業の正当な商業上の利益を害することとなるような秘密の情報
2 締約国がこの協定に従って書面による情報を提供する場合には、情報を受領する締約国は、情報を提供した締約国の事前の同意がある場合を除くほか、自国の法令及び慣行に従い、当該情報が提供された目的以外の目的で当該情報を開示し、又は使用することを差し控える。
権利侵害についての情報(ネットでいえばアクセス記録など)を、各国の法令の範囲内で締約国に提供し、情報の提供を受けた国はその国の法令に従って取り扱うようにと言っている。
第2節 一般的定義
(h)「知的財産」とは、貿易関連知的所有権協定第2部第1節から第7節までの規定の対象となる全ての種類の知的財産をいう。
「著作権及び関連する権利」「商標」「地理的表示」「意匠」「特許」「集積回路の回路配置」「開示されていない情報の保護」を指す。(参考→知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)ただし「特許」に関しては、第2章第3節「国境措置」からは除外される(第13条参照)。
第2章 知的財産権に関する執行のための法的枠組み
第2節 民事上の執行
第12条 暫定措置
1 各締約国は、自国の司法当局が次のことを行う権限を有することについて定める。
(a) 当事者又は、適当な場合には、関係司法当局が管轄権を行使する第三者に対し、知的財産権の侵害の発生を防止すること、特に、知的財産権を侵害する物品の流通経路への流入を防止することを目的として迅速かつ効果的な暫定措置をとることを命ずること。
(b) 申し立てられた侵害に関連する証拠を保全することを目的として迅速かつ効果的な暫定措置をとることを命ずること。
2 各締約国は、自国の司法当局が、適当な場合、特に、遅延により権利者に回復できない損害が生ずるおそれがある場合又は証拠が破棄される明らかな危険がある場合には、他方の当事者に意見を述べる機会を与えることなく、暫定措置をとる権限を有することについて定める。各締約国は、他方の当事者に意見を述べる機会を与えずにとられる手続において、自国の司法当局に対し、暫定措置の申立てに速やかに対応し、不当に遅延することなく決定を行う権限を与える。
司法当局が知財権侵害の発生を防止するための措置を取ること、司法当局が双方の言い分を聞くこと(双方審尋主義)なく、権利者の言い分だけを基にして暫定的な措置を取る権限を定める(義務規定)。当局に都合の悪いサイトを閉鎖できたり、ニコ動、ツイッター等が遮断されるという不安は、この条文から来ているものと思われる。この規定は民事上の執行に関するものなので、基本的には権利者からの訴えを受けて司法が判断する部分である。権利侵害をしている著作物「も」UPされていることを理由に、社会のインフラにもなっているサービス全体のシャットダウンを司法が判断するかというと、そこまでの心配はしなくてよいのでは(というか、したくない)。だが、違法ファイル専用と訴えられたサイトや、権利侵害があると訴えられた特定のブログを、即座に一方的に遮断を命じることができるよう、締約国に義務づけていると解釈することはできる。初期のYouTubeのような法的にグレーな新規サービスは、やりにくくなるだろう。また、これは大きなくくりでは民事上のことなので、この規定を理由に司法の独自判断でサービスを遮断できるとは考えにくい。ただし、特定のサイトを閉鎖させるために当局の側から働きかけて権利者に訴えを起こさせるような、恣意的な運用が起きないように注意が必要だろう。
3 各締約国は、少なくとも著作権又は関連する権利の侵害及び商標の不正使用について、自国の司法当局が民事上の司法手続において、侵害の疑いのある物品、侵害行為に関連する材料及び道具並びに少なくとも商標の不正使用については侵害に関連する証拠書類の原本若しくは写しを差押えその他の方法で管理の下に置くことを命ずる権限を有することについて定める。
侵害データが入っているパソコンなどを証拠保全のために司法の管理下に置くことであるが、これも民事の規定なので権利者の訴えが必要。著作権侵害事件で通常行われている手続きだといってしまえばそれまで。
5 暫定措置が取り消された場合、暫定措置が申立人の作為若しくは不作為によって失効した場合又は知的財産権の侵害がなかったことが後に判明した場合には、司法当局は、被申立人の申立てに基づき、申立人に対し、当該暫定措置によって生じた損害に対する適当な賠償を支払うよう命ずる権限を有する。
侵害がシロだった場合に訴えた者に損害賠償を求められるようにすること。訴訟乱発に対する歯止め。
第3節 国境措置
第13条 国境措置の範囲
注 締約国は、特許及び開示されていない情報の保護がこの節の規定の適用を受けないことに同意する。
第3節は侵害品の水際での取締について定めている。第3節の規定によって、インドなどで製造された安価なジェネリック医薬品を発展途上国に輸入することが困難になるのではという心配がある。@tentama_goさんの外務省への電話取材によると、この注によって国境措置からは特許は除外されているので、そういう心配はないとの説明があった。ただし商標は除外されていないので、ジェネリック薬にオリジナル薬の商標を付けている「偽薬」の場合は取締の対象になる。外務省説明では、ACTAはジェネリック医薬品の流通を阻害しないという見解であるが、途上国での医療現場を知っている人の意見を聞きたいところである。
第14条 小型貨物及び手荷物
2 締約国は、旅行者の手荷物に含まれる少量の非商業的な性質の物品については、この節の規定の適用から除外することができる。
空港の税関で手荷物の中から出て来た個人用の海賊版DVDなどを没収する法律を作らなくてもよい(可能規定)。日本ではすでに没収できるようになっている。この条項は「少量の非商業的な性質の物品」を除外することなので、PCやiPodの中のデータをサーチできるような立法を求めてはいない。また、全体についていえることだが、その条文が「物品」に限定した規定なのか、デジタルデータのような無体物を含んでいるのかの区別が重要。
第4節 刑事上の執行
第23条 刑事犯罪
1 各締約国は、刑事上の手続及び刑罰であって、少なくとも故意により商業的規模で行われる商標の不正使用並びに著作権及び関連する権利を侵害する複製について適用されるものを定める。この節の規定の適用上、商業的規模で行われる行為には、少なくとも直接又は間接に経済上又は商業上の利益を得るための商業活動として行われる行為を含む。
刑事上の執行については「故意」「商業的規模」という縛りがかかっている。「商業的規模」の判定基準は明かでない。個人が行う違法ダウンロードのように「商業的規模」ではない侵害は、ACTAのいう刑事犯罪には含まれないと解釈すべき。
第25条 差押え、没収及び廃棄
1 締約国は、第23条(刑事犯罪)1から4までに定める犯罪であって自国が刑事上の手続及び刑罰を定めるものに関し、自国の権限のある当局が、不正商標商品又は著作権侵害物品であるとの疑いがある物、申し立てられた犯罪のために使用された関連する材料及び道具、申し立てられた犯罪に関連する証拠書類並びに申し立てられた侵害活動から生じ、又はその活動を通じて直接若しくは間接に取得された資産の差押えを命ずる権限を有することについて定める。
これは第23条でいう刑事犯罪で、しかも締約国に刑罰の定めがある侵害に対して、「自国の権限のある当局」がPCなどを差押さえる権限を持つようにという規定である(義務規定)。ただし第23条でいう刑事犯罪は前述の通り「商業的規模」に限られるので、個人が行う小規模な侵害は問題にしていない。
第26条 職権による刑事上の執行
各締約国は、第23条(刑事犯罪)1から4までに定める刑事犯罪であって自国が刑事上の手続及び刑罰を定めるものに関し、適当な場合には、自国の権限のある当局が捜査を開始し、又は法的措置をとるために職権により行動することができることについて定める。
小倉秀夫弁護士は、7月18日放送のJ-WAVE JAM THE WORLDで、これを著作権に当てはめると非親告罪化になると指摘した。「職権により行動」は確かにそのような解釈は可能であり、そうだとすれば日本の著作権法の原則に大きな変更を求めるものになる。ただし捜査当局が「職権により行動」するのは「商業的規模」の侵害に限られる。また、文末が「できる(may)ことについて定める(shall)」と構文がややこしいのだが、2012年7月31日の参議院外交防衛委員会での山本香苗委員に対する玄葉外務大臣の答弁では、この条項は非親告罪化にあたることを否定しなかったが実施の義務はなく、これを基に非親告罪化はしないとのこと。
第5節 デジタル環境における知的財産権に関する執行
第27条 デジタル環境における執行
2 1の規定を適用するほか、各締約国の執行の手続は、デジタル通信網における著作権又は関連する権利の侵害(侵害の目的のため広範な頒布の手段を不法に使用することを含むことができる。)について適用する。このような手続は、電子商取引を含む正当な活動の新たな障害となることを回避し、かつ、表現の自由、公正な手続、プライバシーその他の基本原則が当該各締約国の法令に従って維持されるような態様で実施される。
ここに表現の自由やプライバシーへの配慮は観察できる。「その他の基本原則」が何を指すのか不明。刑事上の執行について規定している割には、人権への配慮は乏しい。
4 締約国は、自国の法令に従い、商標権又は著作権若しくは関連する権利が侵害されていることについて権利者が法的に十分な主張を提起し、かつ、これらの権利の保護又は行使のために侵害に使用されたと申し立てられたアカウントを保有する者を特定することができる十分な情報が求められている場合において、オンライン・サービス・プロバイダに対し当該情報を当該権利者に速やかに開示するよう命ずる権限を自国の権限のある当局に付与することができる。このような手続は、電子商取引を含む正当な活動の新たな障害となることを回避し、かつ、表現の自由、公正な手続、プライバシーその他の基本原則が当該締約国の法令に従って維持されるような態様で実施される。
ACTAはネット監視を強化するといわれる一因になっている条文。プロバイダー責任制限法にある「発信者情報の開示」に相当する法整備を、締約国にうながしている(文末が「できる」なので義務ではない)。もちろん、法整備がされたらそれがその国のプロバイダーの義務になる。表現の自由やプライバシーへの配慮は、いちおうある。
5 各締約国は、著作者、実演家又はレコード製作者によって許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない行為がその著作物、実演及びレコードについて実行されることを抑制するための効果的な技術的手段であって、著作物、実演及びレコードに係る権利の行使に関連してその著作者、実演家又はレコード製作者が用いるものに関し、そのような技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める。
いわゆるリッピング規制。2010年10月にACTA大筋合意文書が公開された時点で、国内法が対応できていなかった(おそらく)唯一の部分。2011年1月の文化審議会著作権分科会の報告書には、保護手段を「技術」ではなく「機能」で評価し、DVDの暗号はアクセス・コントロールとコピー・コントロールの両方の「機能」を持つので規制の対象にすべきとある。この部分でACTA大筋合意内容が言及されている。ただし、2011年1月の著作権分科会報告書と2012年10月施行の改正著作権法でのリッピング規制との関連については、その間の経過について精査が必要だと考えている。
第5章 制度上の措置
第36条 ACTA委員会
2 委員会は、次のことを行う。
(a)この協定の実施及び運用について見直すこと。
(b)この協定の発展に関する事項について検討すること。
協定の実際の運用はACTA委員会が行う。だが、これまでの経緯をみると、この委員会が民意を反映した動きをするとは思えない。
第38条 協議
2 協議(協議を行う締約国がとる特定の立場を含む。)は、秘密とされ、かつ、世界貿易機関協定附属書2紛争解決に係る規則及び手続に関する了解に基づく手続を含む他の手続においていずれの締約国の権利又は立場も害するものではない。
ACTAはその交渉過程での秘密主義が厳しく批判されている。そのうえ今後の協議も秘密なのだという。交渉当事者たちの感覚を疑わざるを得ない部分。
第6章 最終規定
第39条 署名
この協定は、2011年5月1日から2013年5月1日まで、交渉に参加した国及び当該国がコンセンサス方式によって同意する他のWTO加盟国による署名のために開放しておく。
第40条 効力発生
1 この協定は、6番目の批准書、受諾書又は承認書が寄託された日の後30日で批准書、受諾書又は承認書を寄託した署名国の間において効力を生ずる。
ACTAがどうなれば発効するのか(逆にいえばどうなれば終わるのか)を規定している部分。2013年5月1日まで「署名のための開放」が行われている。この日までに署名した国のうち6カ国の批准等があれば発効する。これまでに署名した国のうち、周知の通りEUがすべて落ちることになったので、残っているのはアメリカ、オーストラリア、カナダ、韓国、シンガポール、日本、ニュージーランド、モロッコ、メキシコ(2012年7月時点)。これらの国に加えて2013年5月1日までに新たに署名した国々の中から6カ国が批准等すれば発効。そうでなければ6カ国集まるまで棚上げになる。ACTAの終了条件は、2013年5月1日までに署名した国について、各国の議会で次々と批准案を否決され、批准国と未批准国の合計が5カ国以下になった場合、ということになるか(要確認)。
その他、よくささやかれることについて。
ACTAを主導したのは日本なのか。
ACTAは2005年のグレンイーグルス・サミットのときに当時の小泉首相が提唱したもの。その後の交渉は秘密裏に行われたので詳細は知れないが、ウィキリークスに流出したアメリカ公電によると、日本の当事者たちは交渉の主要な部分をアメリカに委ねていたことがわかる。当該リーク文書の邦訳は、ここ(@fr_toenさんブログ)にある。ACTA交渉の実態を知るうえで一級の資料であり必読。
ACTAは秘密交渉だったのか。
欧州でもっとも批判されたのがこの部分。ACTAは2007年1月から集中的な協議に入っていた。節目ごとに、交渉の進捗についての短いステートメントは発表されていたが、詳しいことの公表はなかった。各国のウオッチャーがその内容を知るようになったのは、ドラフトが2008年5月からウィキリークスに順次流出するようになってから。条文原案(英語)が公表されたのは2010年4月。大筋合意文書(英語)の公開は2010年10月。原案公表後もオープンな議論を積極的に進めなかったという点で、秘密交渉との批判はまぬがれない。実際に欧州で騒ぎがはじまったのは、欧州各国の署名直後の2012年1月末から。日本語の仮訳が公開されたのは、署名から半年が過ぎ、国会に批准を求めることを閣議決定した後の2012年4月で、公の場で国民の代表に向けて説明が行われたのは、2012年7月31日の参議院外交防衛委員会がはじめてだった。
ACTAは法律なのか。
国際協定は法律ではない。協定に合うように国内法を整備・運用しますと、国家として約束することである。
違法ダウンロード刑罰化はACTAに入るための準備だったのか。
そういう証拠は知らない。上記のようにACTAは「商業的規模」の侵害しか刑事罰の対象にしていないので、違法DLのように個人レベルの軽微な侵害を問題にはしていないと考えている。したがって、違法DL刑罰化はACTAの要求水準を超えるものである。両者の背後にある思考パターン、つまり権利保護を強くしさえすれば経済と文化のためになるのだという思い込み、は共通しているといえる。
ACTAはTPPへの参加条件なのか。
いまのところ、そうだと確信できる証拠を知らない。この説は斎藤やすのり衆議院議員がインタビューの中で述べているが(ここの開始後24分あたり)、「これはわたしの推測ですけども」と前置きしている。
ACTAが発効すると自由な言論が奪われるのか。
日本国内に限っていえば、ACTAとは関係なく著作権を理由に自由な言論が奪われる状況がすでにあることに危機感を持つべき。流山市を批判するブログに市のHPから写真を「転載」した男が、名誉毀損などではなく著作権侵害で逮捕された2012年4月の事件が好例。正当な「引用」であっても、論文や著書への図版の引用許諾の際に権利者から文章の提出を求められ、内容が批判的だったりすると著作権を理由に図版の引用を拒絶されることは、珍しいことではなくなっている。
以上