お宝万年筆の第3回目は、モンブラン・ルイ14世です。
金ピカの万年筆は、正直言って、あまり好きじゃありません。
どちらかと言えば、スターリングシルバーの、地味で、渋いデザインの万年筆が好きなのですが、このモンブラン・ルイ14世だけはなぜか心惹かれてしまいました。モンブランの限定万年筆では、最初の金ピカモデルなので、モンブラン社も相当気を使ったようです。
写真をご覧になっていただければわかりますが、ボディーは、草のパターンを彫り、金張り加工をしているので、絢爛豪華な万年筆に仕上がっていますが、落ち着いた金色を採用しているので、いやらしさや安っぽさが感じらません。さすがはモンブラン! 発売は1994年で、発売本数は4810本だけのレアものです。
この万年筆は、入れるインクを決められず、机の引き出しの中にしまったままになっていました。紙に触れたときに硬い書き心地だったことも気になってしまったのです。軟らかな書き味じゃないなら頻繁には使わないことになりそうだなあ、と。
定期的にメンテナンスをしてはいましたから、ボディーがくすんだり、曇ったりすることはありませんでしたし、インクの代わりに水を入れておきましたのでインクを吸入するシステムが壊れることもありませんでした。あっという間に時間が過ぎて、気がつくと丸10年ものあいだ、一度もインクを入れて使ったことがありませんでした。これじゃぁ、宝の持ち腐れ!
つい先だって、ペン先調整の名人がいらっしゃるということで、ペン先をみていただきました。
「ペン先の中央にハート型の穴があるでしょ。この穴がモンブランの限定万年筆の中で一番大きい穴なんです。この穴の大きさを活かして調整すれば、心配しなくてもソフトな書き心地になりますよ。お任せいただけますかな」
調整をしていただいて、さっそく試し書き。万年筆の重さを感じさせないくらい気持ちよく筆記ができます。そして、軟らかい書き味。ペン先の弾力をはっきりと感じます。う〜ん、ペン先調整というのは、奥が深い。
「軟らかくなったでしょ。せっかく書く道具として生まれたものなんだから、使ってやってください。万年筆は使うことがメンテナンスですから」
ペン先調整の名人に、毎日使っていくことを誓ったのですが、インクがなかなか決まらない。黒、青、ブルーブラック、どれもピンと来ません。
従弟に万年筆が好きなのがいてアドバイスをしてもらうことにしました。
「ルイ14世にふさわしいインクねぇ…」
しばらくいくつかのインクの名前が出たように思います。
「モンブランの“ジュ・テーム・インク”はどうかな。あれがいいよ。ルイ14世だし」
「ジュ・テーム? ルイ14世だし?」
初めて聞くインクの名前。新製品なの? 何色のインクなの?
「モンブランが今年のバレンタインデーの直前に発売した限定品でね、紅いバラの色をしたインクなんだ。モンブランにボルドーっていう赤ワイン色のインクがあるけれど、あれをもうちょっと明るくした色でね。テストの採点で使われるような赤じゃないから、いいんじゃないかなぁ。このインクの最大の売りは、香りがするんだよ。バラの花の香りが。ベルサイユ宮殿を造ったのがルイ14世だし、ベルサイユ宮殿といえばバラの花。ピッタリなんじゃ…」
話をきいていて、これだ!と思いました。赤ワイン色のインク。バラの香りのするインク。いやぁ使ってみたい。
「ジュ・テーム、手に入る?」
「普通にはもう売っていないよ。噂では、エディーとアマネイという2人の外国人が都内のジュ・テーム・インクを買い占めたって話だよ。探してはみるけど、どうしてもほしいならヤフーのオークションで手に入れるしかないと思うよ」
その夜、ヤフーで落札しました。
3日後、小さな箱にはいったかわいらしいインクが届きました。
ふたを開けると、バラの香りが広がります。
ゆっくり、慎重に、インクを吸入。この万年筆にとって最初のインクです。
縦、横に線を引いてみました。つづいて住所と名前を書いてみました。鮮やかな赤ワイン色。紅色のバラの花びらの色をしています。たしかにバラの花の香りがします。金色に光り輝く、絢爛豪華な万年筆と、バラの香りたつ紅色のインク。最高の組み合わせのように思います。
妻が部屋に入ってきました。
「あら、いいにおいがするわ。お花の香り…」
「バラの香りがしない? 実はねぇ、インクのにおいなんだ。キャップをはずしてごらんよ」
「インクのにおいなの? 不思議ね。バラのにおいのするインクがあるなんて」
「インクの色もバラ色なんだよ」
「まあ本当だわ。素敵な色合いねぇ。この万年筆を使えば、バラ色の人生ね」
すっかり妻にも気に入られたジュ・テーム・インク。またの名をラブレターインクといいます。久しぶり妻にラブレターでも書いてみようかと思いました。ラブレターというよりもサンクスレターです。しかし…。
インクがなくなってしまったら、このルイ14世がまたまた使えなくなってしまうことにハタと気づき、あと2.3本インクを確保してから書くことにしました。
妻よ、必ず書くから待っててね。
まずはエディーとアマネイを探さなきゃ。このブログを読んでトラックバックしてくれないかなぁ。
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