ヒント。 3
2012.08.30 14:40|日記|
言いたいことを全て爆発させ、しばし沈黙を続けていたホノオ。黙っていると、ほんの少し不安になる。自分はさっき、あんなことを言って良かったのだろうか?
しかし、あれは正論なんだ。そう思い、心を落ち着かせた。
そんなとき、セナの準備が整う。セナはそっと息を吸い、ポツリと言葉を発した。
「ゴメンな」
静かで穏やかなセナの口調を聞いて、ホノオは顔を上げる。
「お前も不安だったんだよな。怖かったんだよな……。お前の気持ちもわかってやれなくて、本当に、ゴメン」
極力笑って、あっさりと言ったつもりだった。
しかし、さすがにまだ“心を捨て、強くなる”ことが様になっていなく、わずかに悲痛な感情が伝わってくる。
ホノオには、それが辛かった。
ホノオの心から、刺々しい感情が抜けてゆく。
「あのさ。僕は、何があってもお前を守る。絶対に死なせない。……だから、安心してくれ。お前は死なないよ」
あ……。
オレは、取り返しのつかないことをしてしまった……。
セナの言葉を聞き、これまでのやりとりを振り返ってみると、ホノオは恐怖に駆られた。
常に、自分の存在意義を考えて、時にはそれを“作って”いた。
過去の罪悪感をかき消すために、それまで以上に人に優しくなった。
誰かに必要とされることで、彼の心は成り立っていたのだ。
そんな少年、瀬那(セナ)の心を、オレは踏みにじってしまった。
お前が悪いんだ。
お前のせいで。
もし、セナのように不安定な心を持つ少年が、こんな──存在意義を否定するような──ことを言われたら。
どうなってしまうかはよく分かっていたのだ。オレは、セナがそれで傷つくと知っていて、それでも傷つけようとした。
取り返しの、つかないことをしてしまった……。
「ごめん、セナ……」
心から詫びる。ホノオは真っ直ぐにセナの目を見た。目が合うと、セナの瞳が揺れた。
「すごくイライラしてて、あんなこと言っちまって……。本当に、ごめん。
オレはお前がいなきゃ駄目だよ。だから、さっきのこと、忘れてくれ」
忘れたはずの心が、戻ってきて揺らぐ。僕は今まで通りのオイラでいいのかな……?
酷く葛藤した。僕は、どうあるべきなのか。
ホノオの目をよく見た。コイツと、これからどう付き合うべきだろうか。
これまでに彼と交わした言葉が、鮮明に蘇る。暖かな言葉もあった。彼のおかげで乗り越えた壁もあった。
しかし、この言葉が脳裏をよぎると、戻りかけた心が壊れた。
お前のせいで死ぬのはまっぴらだからな!!
──あ、やっぱり無理だ。こんなことを言われて、辛くないはずはない。
この時、セナは心底ホッとした。せっかくさっき悟った“素晴らしい”生き方を忘れてしまうところだった。
そしてセナは完全に、冷たくなった。“強く”なった。
ホノオの謝罪に返答する。
「いいよいいよ。気にしてないから」
うまく、言えているだろうか? まだ少し、余計な感情が混じっているかもしれない。
「ごめん、本当に……」
ホノオは深々と頭を下げる。セナが許すか許さないかなんて関係なかった。ただ、やはりオレは酷いことを──。
ホノオはさらに続けた。
「オレのことなんか守らなくていいよ……。今日みたいに暴走しないように極力気をつけるからさ。また、いつも通り、助け合おうぜ。……な?」
悲痛なホノオのセリフ。だがそれは、セナに一切の影響を与えなかった。別に辛くない。とても楽だった。
すごいや、僕。心をなくしただけで、こんなにも強くなれたんだ。
今の自分に、満足だった。このままの自分でいたいと思った。
セナはホノオの顔を見ると、ニッコリと微笑む。そして、彼の言葉に返事をせずに、切り出した。
「今日は疲れたな。もう寝ようか」
「…………」
じわりと涙があふれた。セナに、オレの言葉は届かない。
頭が凍り付くような恐怖を感じた。
必死に涙を隠そうとするホノオを見ても、別にセナは辛くなかった。心がなくてもよいのなら、彼を慰めようとした。
「泣くなよ、ホノオ。お前は悪くないんだぜ? 悪いのは全部僕なんだからさ……」
「お前は、悪くねえよ……」
震えた声で、ホノオは反論する。
「本当に、お前は悪くないんだよ。オレが……、オレが、あんな酷いこと言ったから!」
感情的になるホノオを見て、再びセナは思う。やっぱり、感情が──心があると、辛いんだよな。
ホノオが哀れに見えた。
「大丈夫だよホノオ。僕、気にしてないし、傷ついてもいない。
僕を笑わせるのがお前の役目じゃなかったん? お前がそんなに泣いてちゃ駄目じゃん。……な?」
セナを見ると、きれいな笑顔を向けられる。でも、それは眩しすぎて少し鋭く、わずかにホノオの心を突き刺した。
「ふあぁ……。僕はもう眠いから寝るよ。おやすみ」
いつもよりもだいぶ早いが、セナはそう言って目を閉じる。
はじめは眠気が少しもこなかったのだが、しばらく呼吸を繰り返すと、次第に意識がなくなってゆき、眠りに落ちた。
とても穏やかな気分だった。
そんな彼の様子を、ホノオはただ見ることしかできなかった。
オレの声はセナには届かないだろうし、このまま眠るような心情ではない。
大きくため息をつき、自分の過ちを反省し始めた。
──どうしてあの時、セナにあんな言葉を言ってしまったのだろう。ためらう気持ちもあったはずなのに。
セナは、どんな気持ちであの言葉を聞いたのかな? 想像はつくが、その凄まじい衝撃は形容しがたい。
オレは、セナの“親友”のつもりだった。でも──これでは友達ですらない。事実、オレは今日、セナを敵視したのだ。
軽い気持ちで“親友”という言葉を連呼していたかつての自分が、どうしようもなく恥ずかしかった。
弱い立場の者を傷つけ、おまけに暴力まで──。最低だ、オレ。これじゃ、大嫌いだった親父と同じじゃん。
こう思ったとたん、ホノオの頭の中を思い出が駆ける。
酒が大好きでそれに多額の金を使う父親。それを注意した母親は、殴られる。焔(ホノオ)が母親を守ろうと立ち向かったこともあったが、まだ幼い彼はかなわなかった──。
ホノオは今日、殺意を込めて”敵”に攻撃した。それを注意したセナは、殴られ、首を絞められた。そして、言葉の暴力でとどめを刺された──。
比較してみると、自分の方がよほど酷い気がした。
セナの過去の辛さを知った上で、セナにとって一番辛い言葉を平気で浴びせた。
その後のセナの顔なんか見ずに、あっちが謝るまで、気持ちを考えることすらしなかった。
セナの手助けの名目で”ここ”にやってきたのに、結局セナの心をズタズタに“破壊”したオレは、“魔王”のようだ……。
セナ……。
謝って済むことじゃないってわかってるよ。
でも、ごめんなさい。
言う資格はないってわかっているけど、お願いします。
もう一度オレに、本物の笑顔を見せてください。
目を閉じて、心の中で謝罪の言葉を呟くと、涙が頬を伝うのがわかった。
体を激しく動かし、思い切り怒鳴り、大粒の涙を流したこの1日。精神的にも疲れがたまり、眠気がホノオを襲う。
セナ、ごめんなさい。悪いのはオレです。ごめんなさい……。
何度も何度も謝りながら、やがてホノオも眠りについた。
しかし、あれは正論なんだ。そう思い、心を落ち着かせた。
そんなとき、セナの準備が整う。セナはそっと息を吸い、ポツリと言葉を発した。
「ゴメンな」
静かで穏やかなセナの口調を聞いて、ホノオは顔を上げる。
「お前も不安だったんだよな。怖かったんだよな……。お前の気持ちもわかってやれなくて、本当に、ゴメン」
極力笑って、あっさりと言ったつもりだった。
しかし、さすがにまだ“心を捨て、強くなる”ことが様になっていなく、わずかに悲痛な感情が伝わってくる。
ホノオには、それが辛かった。
ホノオの心から、刺々しい感情が抜けてゆく。
「あのさ。僕は、何があってもお前を守る。絶対に死なせない。……だから、安心してくれ。お前は死なないよ」
あ……。
オレは、取り返しのつかないことをしてしまった……。
セナの言葉を聞き、これまでのやりとりを振り返ってみると、ホノオは恐怖に駆られた。
常に、自分の存在意義を考えて、時にはそれを“作って”いた。
過去の罪悪感をかき消すために、それまで以上に人に優しくなった。
誰かに必要とされることで、彼の心は成り立っていたのだ。
そんな少年、瀬那(セナ)の心を、オレは踏みにじってしまった。
お前が悪いんだ。
お前のせいで。
もし、セナのように不安定な心を持つ少年が、こんな──存在意義を否定するような──ことを言われたら。
どうなってしまうかはよく分かっていたのだ。オレは、セナがそれで傷つくと知っていて、それでも傷つけようとした。
取り返しの、つかないことをしてしまった……。
「ごめん、セナ……」
心から詫びる。ホノオは真っ直ぐにセナの目を見た。目が合うと、セナの瞳が揺れた。
「すごくイライラしてて、あんなこと言っちまって……。本当に、ごめん。
オレはお前がいなきゃ駄目だよ。だから、さっきのこと、忘れてくれ」
忘れたはずの心が、戻ってきて揺らぐ。僕は今まで通りのオイラでいいのかな……?
酷く葛藤した。僕は、どうあるべきなのか。
ホノオの目をよく見た。コイツと、これからどう付き合うべきだろうか。
これまでに彼と交わした言葉が、鮮明に蘇る。暖かな言葉もあった。彼のおかげで乗り越えた壁もあった。
しかし、この言葉が脳裏をよぎると、戻りかけた心が壊れた。
お前のせいで死ぬのはまっぴらだからな!!
──あ、やっぱり無理だ。こんなことを言われて、辛くないはずはない。
この時、セナは心底ホッとした。せっかくさっき悟った“素晴らしい”生き方を忘れてしまうところだった。
そしてセナは完全に、冷たくなった。“強く”なった。
ホノオの謝罪に返答する。
「いいよいいよ。気にしてないから」
うまく、言えているだろうか? まだ少し、余計な感情が混じっているかもしれない。
「ごめん、本当に……」
ホノオは深々と頭を下げる。セナが許すか許さないかなんて関係なかった。ただ、やはりオレは酷いことを──。
ホノオはさらに続けた。
「オレのことなんか守らなくていいよ……。今日みたいに暴走しないように極力気をつけるからさ。また、いつも通り、助け合おうぜ。……な?」
悲痛なホノオのセリフ。だがそれは、セナに一切の影響を与えなかった。別に辛くない。とても楽だった。
すごいや、僕。心をなくしただけで、こんなにも強くなれたんだ。
今の自分に、満足だった。このままの自分でいたいと思った。
セナはホノオの顔を見ると、ニッコリと微笑む。そして、彼の言葉に返事をせずに、切り出した。
「今日は疲れたな。もう寝ようか」
「…………」
じわりと涙があふれた。セナに、オレの言葉は届かない。
頭が凍り付くような恐怖を感じた。
必死に涙を隠そうとするホノオを見ても、別にセナは辛くなかった。心がなくてもよいのなら、彼を慰めようとした。
「泣くなよ、ホノオ。お前は悪くないんだぜ? 悪いのは全部僕なんだからさ……」
「お前は、悪くねえよ……」
震えた声で、ホノオは反論する。
「本当に、お前は悪くないんだよ。オレが……、オレが、あんな酷いこと言ったから!」
感情的になるホノオを見て、再びセナは思う。やっぱり、感情が──心があると、辛いんだよな。
ホノオが哀れに見えた。
「大丈夫だよホノオ。僕、気にしてないし、傷ついてもいない。
僕を笑わせるのがお前の役目じゃなかったん? お前がそんなに泣いてちゃ駄目じゃん。……な?」
セナを見ると、きれいな笑顔を向けられる。でも、それは眩しすぎて少し鋭く、わずかにホノオの心を突き刺した。
「ふあぁ……。僕はもう眠いから寝るよ。おやすみ」
いつもよりもだいぶ早いが、セナはそう言って目を閉じる。
はじめは眠気が少しもこなかったのだが、しばらく呼吸を繰り返すと、次第に意識がなくなってゆき、眠りに落ちた。
とても穏やかな気分だった。
そんな彼の様子を、ホノオはただ見ることしかできなかった。
オレの声はセナには届かないだろうし、このまま眠るような心情ではない。
大きくため息をつき、自分の過ちを反省し始めた。
──どうしてあの時、セナにあんな言葉を言ってしまったのだろう。ためらう気持ちもあったはずなのに。
セナは、どんな気持ちであの言葉を聞いたのかな? 想像はつくが、その凄まじい衝撃は形容しがたい。
オレは、セナの“親友”のつもりだった。でも──これでは友達ですらない。事実、オレは今日、セナを敵視したのだ。
軽い気持ちで“親友”という言葉を連呼していたかつての自分が、どうしようもなく恥ずかしかった。
弱い立場の者を傷つけ、おまけに暴力まで──。最低だ、オレ。これじゃ、大嫌いだった親父と同じじゃん。
こう思ったとたん、ホノオの頭の中を思い出が駆ける。
酒が大好きでそれに多額の金を使う父親。それを注意した母親は、殴られる。焔(ホノオ)が母親を守ろうと立ち向かったこともあったが、まだ幼い彼はかなわなかった──。
ホノオは今日、殺意を込めて”敵”に攻撃した。それを注意したセナは、殴られ、首を絞められた。そして、言葉の暴力でとどめを刺された──。
比較してみると、自分の方がよほど酷い気がした。
セナの過去の辛さを知った上で、セナにとって一番辛い言葉を平気で浴びせた。
その後のセナの顔なんか見ずに、あっちが謝るまで、気持ちを考えることすらしなかった。
セナの手助けの名目で”ここ”にやってきたのに、結局セナの心をズタズタに“破壊”したオレは、“魔王”のようだ……。
セナ……。
謝って済むことじゃないってわかってるよ。
でも、ごめんなさい。
言う資格はないってわかっているけど、お願いします。
もう一度オレに、本物の笑顔を見せてください。
目を閉じて、心の中で謝罪の言葉を呟くと、涙が頬を伝うのがわかった。
体を激しく動かし、思い切り怒鳴り、大粒の涙を流したこの1日。精神的にも疲れがたまり、眠気がホノオを襲う。
セナ、ごめんなさい。悪いのはオレです。ごめんなさい……。
何度も何度も謝りながら、やがてホノオも眠りについた。