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カロリー制限しても寿命は延びず

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 ある研究によると、サルを使った実験では、カロリーを制限すると健康にはなるが、その寿命は延びないことが示唆された。これは大幅なカロリー制限は寿命を延ばすとの、一部の人たちの考えを否定するものだ。

 過去数十年にわたるマウスとラットを使った各種の実験では、カロリーを制限すると、その寿命は30~40%延びた。カロリー制限が寿命を延ばすという考えは、2009年に発表されたアカゲザル―遺伝子的にマウスなどよりも人間に近く、同じように長期間生きる―を使った研究結果で、寿命が延びる傾向が見られたことで強まった。ただ、その研究結果は明瞭さを欠いていた。

National Institute on Aging

左がカロリーを制限されたサル。右がより通常に近い餌を与えられたサル。いずれも27歳

 こうした研究成果は、摂取カロリーを制限するだけで長生きできるのではないかという魅力的な考えが生まれ、何千人もの人は現在、寿命を延ばすために、典型的なカロリー量である1日2200カロリーを30%も下回る熱量しかとっていない。薬品会社は、ひどい空腹感を覚えることなく同様の効果を得られる薬品を研究している。

 科学者らは、カロリー制限がもたらす利点が適応反応につながっているのかもしれないと推測し、食料が不足すれば動物は繁殖できず、その老化プロセスも鈍ると考えた。これによって、食料が豊富になり、繁殖できるようになるまで時間稼ぎができるというわけだ。

 しかし、科学誌ネイチャー(電子版)に29日に掲載されたデータは、この理論は人間には簡単に適用できないかもしれないことを示唆した。メリーランド州ボルティモアの米国立老化研究所(NIA)の老人病専門家で、報告の中心執筆者となったラファエル・ドカボ氏は「明らかになりつつある一つのことは、カロリー制限は地球上を歩いている全ての生き物にとって寿命を延ばす聖杯ではないということだ」と指摘した。

 同氏らの研究ではサルを1~14歳と16~23歳の二つのグループに分けて、通常より30%少ない餌を与え、その結果を通常に近い餌を与えた2グループと比較した。少量の餌のサルはいずれのグループでも、通常の餌のサルたちより長生きすることはなかった。

 健康面への影響はまちまちだった。少量の餌を与えられた雄のサルのコレステロールは非常に低かったが、雌のサルにはこれは見られなかった。カロリー制限はガン発生率を低めたようだが、一方で、心臓血管疾患の発生率をわずかながら高めた。有望な結果は、さまざまな老化に関連した疾患の発生は少量の餌のグループでわずかに遅れたように見えたことだ。

 NIAでのサルの研究は、ウィスコンシン大学で同様の研究が始まった1980年代末にスタートした。アカゲザルは平均して30年近く生きるため、生存中の差異を調べるには長期間が必要になる。

 ウィスコンシン大学の研究は決定的な発見をもたらした最初のものだった。09年に発表された研究結果では、老齢に関連した原因による死亡を除外する限り、カロリー制限はサルたちの寿命を延ばしたことが分かった。ただ、一部の科学者らは、その方法論を疑問視した。これらの死亡を含めれば、寿命が延びたことは消えてしまうというわけだ。

 それにもかかわらず、同大学のデータはカロリー制限が霊長類の寿命に影響する可能性があるとの手掛かりを初めて提供した。ミステリアスなのは、NIAの研究ではなぜ違った結論が出たのかということだ。

 一つの理由は、これらの研究が異なった形で行われたことだ。ウィスコンシン大のサルたちにはNIAの場合よりもはるかに多くのスクロース(蔗糖)が与えられた。また、大学の対照群(カロリー制限のないグループ)は好きなだけ食べることができ、NIAでは一定の量しか与えられなかった。

 テキサス大学健康科学センター(テキサス州アンアントニオ)のバイオ老人病専門家スティーブン・オースタッド氏は「制約条件から見て、いずれの研究もうまく行われた」とし、「いずれも発見したことをどのように人間の条件に当てはめるかについての問題を提起した」と述べた。同氏はNIAの研究には参加しなかったが、この研究についてネイチャーに解説を書いた。

 人々はその遺伝子的組成と食事の構成によってカロリー制限への反応が異なる可能性がある。その結果も、制限を始めた時に太りすぎなのか、あるいは既にやせているのかによって異なるだろう。適正に制限すれば、心臓疾患のリスク低減など健康面での若干の利益は得られるようだ。ワシントン大学(ミズーリ州セントルイス)の科学者は6月、カロリー制限をしている人の心臓は実年齢より20歳も若い人のようだったとの研究結果を発表した。

 一方で、テキサス大のオースタッド氏は、激しいカロリー制限をしている男性はテストステロン(男性ホルモン)が少なくなり、骨密度維持に問題が生じる恐れがあると述べている。

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