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2012年8月30日(木)付

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野田首相問責―無節操もきわまった

苦い現実に向き合い、不人気な政策でも与野党が歩み寄って前に進める。社会保障と税の一体改革をめぐる民主、自民、公明の3党合意は、そんな政治への一歩にみえた。それが一転して[記事全文]

南海トラフ―できることはある

震度7の揺れが10県を襲う。最悪で東日本大震災の17倍の32万人が命を落とす。東海沖から九州沖を震源域とする、南海トラフ巨大地震の被害想定は、桁違いに大きい。[記事全文]

野田首相問責―無節操もきわまった

 苦い現実に向き合い、不人気な政策でも与野党が歩み寄って前に進める。社会保障と税の一体改革をめぐる民主、自民、公明の3党合意は、そんな政治への一歩にみえた。

 それが一転して全面対決に逆戻りである。

 野田首相の問責決議がきのうの参院本会議で可決された。自民党など野党側は今後の法案審議を拒否し、国会は来月8日の会期末まで空転する。

 一体改革の設計も、予算執行に必要な赤字国債法案も、原発の安全を担う原子力規制委員会の人事も、道筋のつかないままの政争である。

 政治の無責任、無節操ぶりにあきれるほかはない。

 とくに驚くべきは自民党の対応だ。国民の生活が第一などが提出し、自民党が賛成した決議は問責の理由として「国民の多くは今も消費増税法に反対」と明記。民・自・公の3党協議で決める手法についても「議会制民主主義が守られていない」と批判している。

 これでは自民党の自己否定にほかならない。

 公明党は「一体改革を否定する内容で賛同できない」と採決を退席した。こちらの方が筋が通っている。

 自民党がそうまでして問責決議を急いだのは、政権を揺さぶることで一刻も早く衆院解散に追い込みたいとの思惑からだ。

 だが、みずから進めた消費増税を否定する問責に賛成するというのでは、政策より解散が優先なのだと告白するようなものではないか。

 党利党略を優先するという点では、民主党も同じだ。

 支持率低迷に苦しむ民主党としては解散を先送りしたい。衆院の定数見直し問題で、民主党は自民党の反対する法案を衆院で強行採決した。一票の格差是正が実現して、解散の環境が整うのを防ぐためと勘ぐられても仕方あるまい。

 こんな不毛な対立を続けていても、国民に何の益もない。

 自民党は、解散を勝ち取れば政権に復帰できるかもしれないが、自公は参院で過半数を持たず衆参のねじれは続く。今あしざまにののしっている民主党と、そのとき手を組めるのか。

 一方、民主党政権は、解散先送りで政権を延命できても、自民党の協力がなければ政策を実現できない。

 ともに党首選を9月に控え、議員心理におもねって政治を停滞させているとすれば、こんな愚かしいことはない。

 政治家はみずから墓穴を掘っていることがわからないのか。

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南海トラフ―できることはある

 震度7の揺れが10県を襲う。最悪で東日本大震災の17倍の32万人が命を落とす。

 東海沖から九州沖を震源域とする、南海トラフ巨大地震の被害想定は、桁違いに大きい。

 起こりうる被害は重く見つめなくてはならない。

 ただ、これはあくまで千年に一度の地震と津波が起きたらという「最悪」の想定だ。

 数字だけを見て「とても逃げられない」とあきらめるのは、それこそ最悪だ。

 むしろ注目すべきは、すみやかな避難を徹底すれば、津波による死者を最大で8〜9割減らせる、という指摘だ。

 政府は数十年に一度レベルの津波には防潮堤などのハードで備える方針だ。しかし、巨大地震の大津波を、海沿いに高々と防潮堤をめぐらせて防ごうというのは現実的ではない。

 長い目で見れば、まちづくりを根本から見直す必要が出てくる。市街地を内陸に移すかどうか、それにかかる社会的な費用を災害の頻度とあわせてどう計るか、という問題に向き合わねばならない。

 では、あした地震が来たら?

 それでもできることはある。それが「避難」というソフト面の対策だ。

 どうすれば、みんなが地震後ただちに安全な場所へ逃げられるか。大切なのは、それぞれの地域で避難計画を練ることだ。

 津波からの避難は、車は渋滞するので徒歩が原則だ。だが、東日本大震災では5割以上が車で逃げた。自力で歩けない家族や、高台が遠くて歩きでは間にあわない人もいる。どんな家庭や地区は車を使ってもよいか、地域で話し合ってゆるやかな合意を作っておきたい。

 浜松市は3月11日に津波避難訓練をし、歩けない人を車に乗せて何分で何キロ逃げられるかを検証した。渋滞につかまる想定でも試した。毎年続ける計画という。こうした実証は避難計画づくりだけでなく、住民の「ただちに逃げる」意識を高める役にも立つ。

 市町村は、高台への避難路など逃げるための備えを急ごう。高台に代わる避難ビルの指定は東日本大震災後の半年で倍に増えたが、まだ足りない。

 怖いのは津波だけではない。揺れによる建物倒壊でも数万人の死亡が見込まれる。しかし、これも住宅の耐震化率を今の8割から9割に上げることで、犠牲者を4割減らせるという。

 今できることを積み重ねる。

 それは、より現実的な「数十年に一度」レベルの地震への備えにもなる。

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