数多くの国内企業が動画サービスに手を出したものの、YouTubeなどには到底かなわず、死屍累々といった惨状が続いていた。にもかかわらず、ニコニコ動画がここまで躍進した理由は何なのか。
黒字化の最も大きな要因は、プレミアム会員（有料会員）の増加だ。有料登録をすれば「専用回線で動画の読み込みが速くなる」「アップできる動画の容量が増える」「生放送を優先的に視聴できる」などの特典が得られる。
プレミアム会員制度を導入した2007年は10万人ほどだったが、爆発的に増え続けて3年後の2010年に90万人を突破。さらに会員数は増加し続けており、今年6月末には169万人を記録している。有料会員は月額525円なので、これだけで単純計算で1ヶ月に8億円以上の売上が見込める。
今まで失敗してきた国内動画サービスは、広告収入を売上のメインに据えてきた。しかし、ニコ動は質の高いコンテンツを提供することで、利用者の「お金を払ってでも快適に使いたい」という気持ちをくすぐり、ユーザーから定期収入を得るという道を開拓したといえる。これが今までの動画サービスとは大きく違う点だ。
また、親会社ドワンゴが優秀なエンジニアを多く抱えているため、システムを全て自社で開発できるというのも大きな強みである。「ニコニコ超会議」などのイベントや、東京・六本木のイベントスペース「ニコファーレ」が足を引っ張っているという指摘もあるが、テレビCMを打つよりも宣伝として費用対効果が高いという見方がある。ユーザーを飽きさせない展開ができるという意味で、こういったイベントもプラスに働いているようだ。
これだけ成功してしまうと、国内他社が競合として名乗りを上げてきそうなものであるが、なぜか新規参入は少なくニコ動の一人勝ち状態が続いている。
この理由について、ドワンゴ取締役の夏野剛氏は「回線容量の大きさ」を挙げている。「サイトにつながりにくい」「動画の再生が遅い」といった批判を受け続けてきたニコ動は回線増強を繰り返し、現在は400Gbpsという驚異的な回線になった。これについて夏野氏は「一企業で400Gbpsの回線を引いているアホな会社は我々くらい」と語っている。サービスのフォーマットは真似できても、同じレベルのサーバーや回線などを用意することは難しく、これが最大の参入障壁になっているようだ。
競合他社が存在しないからこそ、実験的な試みがしやすくなっているニコ動。今月21日には動画サービス「niconico」で有料メルマガを配信する「ブロマガ」を開始し、政治家の小沢一郎氏やアニメ監督の押井守氏、ミュージシャンのGACKT氏らが書き手に名を連ねている。
どんなに楽しいサービスであっても、赤字続きで終了してしまえば元も子もない。ニコニコ超会議のように「赤字覚悟の無謀イベント」を開催しつつ、黒字運営を達成できたニコ動は、今後も動画サービスとして独走を続けていくのかもしれない。（佐藤勇馬）