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有事前夜の空気の中で - マスコミが出すことと隠すこと
テレビ報道は映すことと隠すことをする。昨夜(8/28)のNHKの7時のニュース、NW9、テレ朝の報ステでは、丹羽宇一郎の公用車襲撃事件がトップで報道され、北京市東四環路上での悪質な走行妨害と日の丸強奪事件がCGで説明されていた。NHKもテレ朝も同じCG画像を使用しているように見えた。尖閣の領土問題が両国間で抜き差しならない緊迫した状況を迎えている中、きわめて深刻な外交事件の発生だが、であるからこそ、マスコミは国民への報道で細心の注意を要するはずである。ナショナリズムを煽る方向に導いてはならず、視聴者に相手国への不信や憎悪を掻き立てる報道にしてはならない。この点に関して、特にNHKのNW9の伝え方に問題があった。事件の捜査や対応について、中国当局が故意に不熱心であるかのように言い、恰も、そこに日本への不穏な政治的思惑を忍ばせているような認識を示していた。NW9のこの報道を聞くと、普通の日本人は、事件を起こした犯人と当局が裏で繋がっているのではないかとか、中国政府が事件を内々に容認して逮捕を遅らせるのではないかと邪推する心理になる。中国政府の日本への悪意を推し量ってしまう。報ステの方はこうした怪訝な見方を取らず、北京支局の記者が中国外交部を取材して得た感触(言葉)をそのまま伝えていた。三浦俊章が、ファナティックな報道にならないように自制している。


平素は朝日の凡庸なサラリーマン幹部の三浦俊章が、ここではナショナリズムの過熱にブレーキをかける役割を果たす立場となり、中国非難の言動を噴出させようとする古舘伊知郎を抑えている。おそらく、本番の前に打ち合わせがあり、三浦俊章が古舘伊知郎を窘めているのだ。古舘伊知郎は、「私たちも伝え方に注意しないといけまんせんね」と言いつつ、不満そうな表情を三浦俊章に向けていた。古舘伊知郎としては、視聴率や評判の都合上、大衆の反中感情にも迎合する姿勢を見せなくてはいけない。ともかく、昨夜(8/28)のテレビが大きく報じたのは、中国人による日本国大使への襲撃と侮辱の事件だった。一方、テレビ報道が隠して伝えなかった事実がある。それは、中国政府が決定したところの「尖閣をめぐる対日3条件」の動きである。時事の記事によれば、この中で中国政府は、「野田政権が表明している国有化を事実上黙認する一定の柔軟姿勢も示唆」したとあり、(1)上陸させない、(2)資源・環境の調査をしない、(3)建造物など開発行為をしない、の3条件を日本に要求する引き換えに、尖閣の現状維持を明言し、さらに日本政府の尖閣国有を認める譲歩にまで踏み込んでいる。従来の中国政府の原則的主張からすれば、この決定は大幅な譲歩(立場の移動)であり、尖閣をこれ以上紛争化させたくない意図を確認できる。グッドニュースだ。これは、政府の外交交渉の成果でもある。

この中国側の「尖閣をめぐる対日3条件」と国有化容認の譲歩は、東郷和彦がかねてから言い続けていたところの、尖閣について政府間で早急に協議して合意を得ないといけないという提言が、現場を動かして実を結んだものに他ならない。東郷和彦の危機感は私と共通するもので、8/26のサンデーモーニングでも、浅井信雄がこの提言を紹介して賛同を示す場面があった。産経文化人である東郷和彦の議論は保守反動そのものだが、尖閣をめぐる立場は石原慎太郎とは明らかに違う。外交官は戦争回避に全力を尽くすべきという立場であり、そのためには政府間の協議と合意が必須だと直言する。二国間の外交当局が領土問題をめぐって協議と合意をするのだから、当然、双方が妥協をしなくてはならない。外交交渉とは、畢竟、妥協して成果を得ることだ。これまでの国内の政治やマスコミや右翼的世論の尖閣論には、妥協という要素や感覚が皆無なのが特徴だ。全員が石原慎太郎と一致している。東郷和彦の議論が他と異なるのは、このままでは軍事衝突になるという判断が明確な点である。マスコミに洗脳され、石原慎太郎と同一化して、右翼ファナティシズムに染まった日本の世論は、中国との軍事衝突を想像するというリアリズムを欠いている。マスコミは開戦のリスクを言わない。日中が有事寸前である真実を言わない。危機を訴えない。むしろ、目前に迫った有事を想定したような報道や動きが続いている。

例えば、8/28に奥尻島で行われた陸自による「住民避難訓練」がそうだ。NHKの報道を見たが、通常、この訓練は自治体の要請を受けて自衛隊が地元と計画して実行するところ、今回は特別で、初めて自衛隊が呼びかけて実施したのだと言う。何で、この時期に自衛隊の要請なのか。また、NHKがわざわざ撮影して放送するのか。このところのNHKの報道は、すべて戦争が近づいていることを教えるもので、不気味なことこの上ない。有事前夜の空気になっている。さて、もう一つ、最近のテレビ報道で見せているものと隠しているものがある。それは、橋下徹に関する問題だ。昨夜(8/28)も、NHK-NW9は橋下徹を持ち上げる小特集を組んで流した。これまでは、永田町の諸勢力や面々が「人気のある」橋下徹にスリ寄って、選挙を前に連携に奔走というお決まりの政局ネタの報道だったが、昨夜のNW9は、これまでの橋下徹の「実績」を紹介するという筋立てで、何と、あの思想調査のアンケートを「規律」というキーワードの下に称賛するという中身だったのである。唖然とさせられたが、思想調査や入れ墨調査、公務員の政治活動の禁止問題について、日弁連などから厳しい抗議が寄せられ、憲法違反の疑いで批判が上がっていることなど、全く考慮に入れず無視するという処理だ。NW9は、石原慎太郎や橋下徹の発言を映像で見せるときは、「この人は」という前振りのナレーションを入れ、国民的なご意見番の意見だから聞けという演出に仕立てる。

そして、「この人は」というイントロで石原慎太郎や橋下徹の発言に誘導する前は、必ず民主と自民の永田町のゴタゴタ話を出し、政党政治の崩壊の惨状を嘆く論調になっている。既成政党の無能と堕落とのコントラストで、橋下徹がヒーローとして浮かび上がる構図となり、大衆の期待が集まる政治宣伝に仕組まれている。これは、NHKだけでなく民放も同じで、昨夜(8/28)の報ステも既成政党批判のプロパガンダを繰り返していた。選挙が近づき、マスコミが橋下徹を勝たせる政治宣伝にアクセルを入れ始めている。こうして、既成政党批判の音量を上げて維新に風を吹かせることで、選挙の争点を原発や消費税やTPPから逸らし、憲法や教育や道州制の方向に切り換え、官僚の政策の継続を守ろうとするのである。マスコミと官僚は一体だ。テレビ報道で映る橋下徹は常に善玉であり、次の選挙の主役であり、「国民的正論」の政策発信者の位置付けだ。ところが、テレビが報道から隠す橋下徹の事実がある。それは、8/21の慰安婦問題での発言であり、河野談話を否定する愚劣な挑発だ。実は、慰安婦問題と河野談話をめぐる問題は、今週、日本の政治できわめて重要な問題として動いていて、日韓関係でも重大な争点となって炎上している。竹島から慰安婦に問題が移っている。橋下徹の発言に対して韓国の主要各紙は一斉に反発、一方、日本では、8/27、国民の生活が第一が橋下徹を援護して河野洋平の参考人招致を求め、河野談話を否定する動きが与野党で本格化する展開となる。

同じ8/27、参院予算委で閣僚の松原仁が河野談話見直しを言及。それに対して、8/28、韓国政府は外交通商省の趙泰永が9月の国連総会でこの問題を提起することを示唆して反撃。同日、韓国議会の外交通商統一委でも日本政府に公式の謝罪と賠償を要求する決議案を採択した。日韓で激動の事態が続いている。ところが、日本のテレビはこの事実を一切電波に乗せない。橋下徹の8/21の発言も紹介せず、その後の日韓の動きも報道から隠している。それ以前から、テレビを含めたマスコミは慰安婦問題の説明を避けてきたが、今回の無視の措置は異常としか言いようがなく、まるで韓国など存在しないかの如くだ。マスコミは、8/10から始まった日韓と日中の問題について、現在は尖閣と日中に報道を絞り、日韓関係については竹島と李明博の「愚行」に集中させ、韓国では日本批判が峠を越えたかのようなポーカーフェイスで済ましている。慰安婦問題を無視し、歴史問題と領土問題を切り離し、竹島と李明博の「愚行」で片づけている点、池田香代子と同じである。日本が竹島問題を単独で国際司法裁判所に提訴する以上、韓国も、その対抗措置として、慰安婦問題を国連総会に提起するだろう。その際は、入念にオバマ政権に働きかけ、例えば、大統領選の投票権を持つ在米韓国人の集票をバーターにするとかの動きに出るだろう。竹島問題でオバマ政権は日韓の中立でも、慰安婦問題では中立ではなく、民主党にはこの問題に関心を持つペロシが重鎮でいる。そして何と言っても、国連事務総長は韓国人だ。

韓国においては竹島問題は歴史問題であり、仮に国際司法裁判所に提訴されて外交戦になったとしても、慰安婦問題から攻略して歴史問題で日本を包囲し、特に第三者のキーである米国を動かして、国際社会の支持を調達できるという自信があるのだろう。


by thessalonike5 | 2012-08-29 23:30 | Trackback | Comments(0)
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