出口の見えない電力不足が日本の企業や消費者に重くのしかかるなか、圧倒的な省エネをもたらす技術革新が静かに進んでいる。炭化ケイ素(SiC)を使った次世代パワー半導体がそれだ。エアコンから自動車、発電システムまで幅広く使われる半導体で、すべてを次世代品に切り替えると原発7~8基分の電力消費を削減できるとの試算もある。電力危機を防ぐ救世主となるか。
東京メトロ銀座線で“超省エネ”車両の試験運行が今年2月から続いている。新車両は電力を制御する大型インバーターに三菱電機が昨秋開発したSiCパワー半導体を用いた。従来の車両システムに比べ30%の省エネを実現している。
SiCは従来のシリコンに比べて大電圧・大電流に耐えられ、動作時に電力が熱として失われる電力損失を大幅に削減できるのが最大の特徴だ。
三菱電機は熱が出にくいSiCの性質を生かして放熱フィンなどを小さく設計、インバーター全体の体積を40%減らすことに成功した。もともと電力損失が小さいうえに軽量化で省エネ効果を引き上げた。省エネ車両は電車がブレーキをかけた際にモーターを発電機として作動する「回生ブレーキ」も利用。従来のシリコンは大きな電力を与えると焼けてしまうため回生ブレーキ作動時の充電能力に限界があったが、大電力に強いSiCは回生電力量を増やせる利点もある。
交流・直流の変換や変圧など電力を効率よく制御するパワー半導体。その用途は環境対応車(ハイブリッド・電気自動車)、産業機器、鉄道、太陽・風力発電システム、送変電装置、白物家電など幅広い。環境対応車の成長や中国でのインバーター搭載エアコンの普及などで世界市場規模は拡大しており、民間調査会社の矢野経済研究所は2017年に261億2000万ドルと11年比67%増加すると予測する。
日本各地で発電した電力は、電力網内や電機製品などで交流から直流へ変換したり電圧を上げ下げしたりする度に、無駄な熱としてエネルギーが徐々に失われてしまう。SiCパワー半導体が幅広く普及すれば、こうした膨大な電力ロスを抑制できるわけだ。
新機能素子研究開発協会の試算では、国内のシリコン製パワー半導体をすべてSiCに置き換えた場合、20年時点での省エネ効果は原油換算で724万キロリットル(100万キロワットの原発7~8基分)にのぼるという。
将来の電源構成をいまだに定められず、電力会社による節電要請が年中行事となってきた日本列島。原発存続の是非や比率とそれを代替する発電手段の行方ばかりに焦点が当たりがちだが、実用化フェーズに入りつつある革新的な省エネ技術を育てることも国家的課題と言える。普及を阻むのは、他の多くの新技術と同様、コストの厚い壁だ。
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