三井物産戦略研究所・新事業開発部の永島学プロジェクトマネージャーは「SiCのコストをシリコンと比較すると実質的に8~12倍ある」と話す。理由の1つが、ウエハー(結晶)製造の難しさ。高品質なウエハーの製造技術が確立できておらずシリコンに比べ歩留まりが極端に低い。加工温度が1500度以上とシリコンより約500度も高いため設備費用がかさむことも一因だ。
発電・送電分野 | 太陽光発電、風力発電、変電設備など |
情報分野 | データセンターなど |
運輸分野 | 電気自動車、ハイブリッド自動車など |
産業分野 | 汎用インバーター、モーター駆動制御 |
民生分野 | エアコン |
三菱電機で20年にわたりSiC開発に携わった大森達夫パワーデバイス製作所副所長は、「コストはまだまだ高いが、今後の(普及)カーブの傾きがどうなるか今年1年でわかるだろう」と話す。同社は鉄道用インバーターに続き、家電・産業用のSiCパワー半導体のサンプル出荷を今夏に開始。様々な顧客企業の声を吸い上げ、市場性や開発の方向性を見極めようとしている。
今年に入り、日本メーカーが相次ぎSiC半導体の量産などに着手、新製品の開発ラッシュが続いている。東芝と日立製作所は三菱電機と同様に鉄道用インバーターを開発・製品化。富士電機やロームも新製品開発に力を入れている。
もともとパワー半導体は三菱電機、富士電機などの日本勢とインフィニオンなどドイツ勢が市場を二分しており、SiCの開発・実用化でも日本勢は今のところ競争優位を維持している。
アジア勢に追撃されたDRAMなどと同じ道をたどるのではないか。そんな疑問に大森副所長は反論する。「確かに彼らも力を入れているが、パワー半導体はアナログ的な擦り合わせが必要なので(後発組にとって)ハードルは高い」。大電圧・大電流で作動させるパワー半導体はどうしても高熱が発生。このため、チップの性能を長期間維持するには、半導体だけでなく材料、接合方法などの組み合わせが極めて大事という。
過去20年にわたり技術者が流した汗の蓄積はとてつもなく大きい。ただ、「この分野でもOB技術者が韓国メーカーなどに協力している」(大手国内メーカー)のも現実だ。
それだけに、市場黎明(れいめい)期にどれだけスタートダッシュできるかは日本勢が逃げ切るうえで重要な意味を持つ。「産官学の共同研究は今も多数動いている。だが、これから国に求めたいのはユーザーの負担を軽減し普及を促す支援策だ」。イノベーションを起こそうともがくエンジニアたちの声である。
(産業部 佐藤昌和)
SiC、三菱電機、省エネ、ハイブリッド、グリーンイノベーション、東京メトロ、日立製作所、三井物産戦略研究所、東芝、インフィニオン、富士電機、ローム
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