堕ちた神
だが俺の返事は違う。
「魔王ドラゴンロードよ、お前の誘いに答える前に聞きたいことがある。わざわざ光の宝玉を奪ったのは何故だ?正当なる権利がある。そう言えばよかっただろう。」
「ふん、先に奪ったのはそちらだ。なぜこちらが譲歩せねばならん。」
「確かにお前の言う通りだ。だが残念ながら人間の寿命は短い。その宝玉の真なる所有者のことは歴史に埋もれて伝わっていなかった。そのことについては人間を代表して詫びよう。だがもう一つ疑問がある、なぜ光の宝玉が自分の物と知っている?それが貸与された時にはまだ生まれていなかったはず。」
「なんだと?・・・いったいお前は何を言っているのだ?」
魔王が声を荒げて立ち上がった。先ほどまでの余裕は感じられない。
「ならば教えてやる。お前はこの世界の者ではない、その証拠にここノイエラントには六肢を持つ生物はいない。同種に見えるドラゴンに翼は生えていない。空を飛べる飛竜には前足がない。それが証拠だ。」
俺は魔王を指差して断言する。
「ありえん、わしはこの世界で生まれ、この世界で育った。お前の言うことは戯言だ!」
「信じようが信じまいがこれは事実だ。お前の真なる姿はは異界の竜の神。かつて現れた大魔王を倒す為に勇者に力を貸し、その為に力を失って一度卵に戻った。孵ったお前が新たな魔王になるとは本末転倒」にも程がある。」
魔王が俯き何かぶつぶつ言っている。あまりのことに押しつぶされたのか?
「くくく・・あはは・・・うわはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ・・・・・・!!!」
突然、魔王が大声を上げて笑い始めた。
「なるほど、わしの長年の疑念が今解けたぞ。そうか、わしが漠然と感じていた怒り、猛りは恩義を忘れた人間に対するものだったのだな。人間を滅ぼす。わしはその為に生まれ変わった。」
「待てっ、そうじゃない。思い出せ、お前の中には暖かい光の力があるはずだっ!」
「黙れ!わしは光を暖かいと思ったことなど一度もない。光など要らぬ、わしは闇の中より響く声を子守唄に長い時を過ごしてきたのだっ!」
「闇の声?なんだそれは、いったいどういうことだっ!」
「お前の知ったことではない!わしは闇に生まれ闇で育った、今更光など要らぬ。この世界を全て闇で覆い我が物としてくれるわっ!!!」
魔王の背後を覆う暗き闇が生き物の様に動く。
「ウワハハハッ!全ての命を我が生贄とし、絶望で世界を覆いつくし、お前達を貪り喰らい、その苦しみを我が力としてやろう」
人型の魔王の姿が内側から裂け、翼の生えた漆黒のドラゴンの本性が現れた。その背中を闇が覆い、更に禍々しく見せる。まるで闇の衣を纏っているようだ。
闇の衣?そうか、竜の神を魔王とするべく導いたのは大魔王の怨念だったのか。勇者によってその身が滅ぼされても、微弱ながらその怨念はこの地に留まっていた。それが今一つとなってしまった。俺は自らの失敗を悟った。もう説得するなど不可能だ、倒すしかない。絶望を感じながらも、俺の頭は冷静に戦況を考えている。ハンドサインでマギーにAirflow(気流)の使用を促す。俺は俺の魔法を詠唱する。
《俺は魔力を20消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ。》
「愚か者め、思い知るがいい。」
魔王ドラゴンロードの口から炎の息が叩きつけられる。完成したマギーのAirflow(気流)によってその威力は押さえられてはいるが、灼熱の息が身体を焼く。その痛みに耐え俺の魔法を完成させる。
《おお、万能たる力よ、血、肉となり、我等を癒せ!Spatium Sanitatem(空間治癒)!》
俺達が光に包まれ火傷が癒されたが、全快はしていない。次の指示を送る、こちらから攻撃をするのはまだ早い、まずできるかぎりの強化魔法をかける。アレフとガイラには防御専念、マギーにはMagicae Scutum(魔法の盾)のサインを送る。
竜の爪がアレフを、大きな開いた顎がガイラを襲う。アレフは足を踏ん張り勇者の盾で受け止め、ガイラは掻い潜ってミスリルナックルを叩きつける。その一撃は硬い鱗の手前で弾かれた。
「おかしいぞ、当たる前に何かに威力を抑えられたようだ、お前の防御の魔法みたいな感じだ。」
「分かった、次は武器を強化する。」
俺とマギーの魔法が完成した、これで少しは楽になるはずだ。次はAcutos Ensis(鋭き刃)!、俺がガイラ、マギーがアレフへとかける。魔王の巨大な体が1回転し、反動で尾が大きく振られる。アレフは尾の先端を盾で受け流し、より近くにいたガイラは飛び上がって避けた。
Acutos Ensis(鋭き刃)が完成してアレフとガイラの武器がより強く輝く。さあここから反撃だ、ガイラのミスリルナックルが魔王の左脚を打ち、アレフが踏み込んで、剣をがら空きの魔王の腹に斬り付ける。攻撃が弾かれたアレフとガイラが怪訝な顔をしている。俺と二人の視線が交差した。
おかしい、あの攻撃ならいかにドラゴンの鱗が硬くとも傷を与えることぐらいできるはずだ。戸惑う俺達の目の前で魔王の巨大な体が浮き上がった。空中から叩きつけられる激しい息、先ほどよりは威力は落ちている。これなら気流の魔法で十分に軽減できる。
そう思った俺はまともにその炎を受けた。気流が効果を成していない?俺達を覆っているはずの気流がない。俺達の周りを覆っているのは暗き闇、その闇が晴れた後に感じたのは魔法効果を失った違和感。これはいったい?
「くそ、全部やり直しだ。マギー、回復を頼む。」
「どういうことよ!」
「魔法の効果を消されたっ!」
投げつけるように説明をする。ドラゴンロードに取り付いた大魔王の怨念、大魔王が得意としたのは異世界の扉、その魔力で異世界への移動を可能とし、さらに自らに向けられた力を異世界へと移す。その能力が不完全ながら発揮されているのか。この能力を取り除くのに勇者は光の宝玉を使った。今ここにはない。
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