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悪夢
「そうだろう、できるはずもない。高貴なる血の前にはお前らの武力など無力なのだ。さあ今のうちだ、愚か者の国王ライムント16世を捕らえよっ!」

 目の前でライムント16世に見知らぬ兵士たちが掴みかかる。止めなければ、間に合うか!

《俺は魔力を6消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ、
  おお、万能たる力よ、全てを拒絶す「ぐあっ!!!」

 全身を貫く電撃、仰け反った俺の後頭部にさらに強烈な打撃。闇から響くような声が聞こえた。

「ふっふっふ!無粋な真似はよせ、せっかくの晴れの舞台だ。」

 なんとか顔を起こすと捕縛されるライムント16世と、俺の前で踏ん反り返っているオットマーの姿が見えた。

「それでこの者はどうするのだ?」

「殺すな、まだ利用価値がある。とりあえず牢にでも入れておけ。」

「詰まらぬ真似はしない方がいい。世界の半分、それで満足しておくのだな。」

 闇の気配が消える。そう感じると共に俺の意識も消えた。

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 顔に何か冷たさを感じて意識を取り戻した。冷たく感じたのは頬に触れている石床、目を開いても暗くて禄に何も見えない。目を凝らすと鉄格子、ここは地下牢か。まだ全身に痛み、後頭部に鈍痛が残っている。

《俺は魔力を7消費する、魔力はマナと・・・「くそっ駄目か、マナが薄い。ここでは強い魔法は使えない。」

 癒せぬ痛みに冷静になってみると現実が見えてきた。俺の両手に枷、右脚に壁から鎖で繋がった足枷が嵌っている。俺ごときに大した待遇だ。いや、それどころではない、俺以外はどうなった?地下牢に響く誰かのうめき声。隣の牢からもうめき声が聞こえた。

「誰かいるのか?」
 
 俺の問いかけに壁の向こうから搾り出すような声が聞こえた。

「めっ目が・・覚めたのだな、ま・まさか弟があそこまで・・・堕ちているとは余も思わなんだ。」

「もしかして陛下ですか、大丈夫ですか?」

「もっ、もう余の命も終わる。それ・だけは余にも分かる。王家を滅ぼせ。それが最後の勅・・・・・・・。」

 それっきり声は聞こえなくなった。死に際の勅命だと、こんな状態でどうしろと言うんだ。武器も無い、魔法も使えない、仲間もいない。痛む体を起こして壁にもたれ掛かる、まともに動くのは頭だけか・・・。ならばできることをしよう。誰か一人でも生き延びていてくれたらなんとかできるかもしれない。

「誰か!誰かいるのだろう!取引をしたい、大臣を呼んでくれ!」

 あらん限りの声で闇に向かって叫ぶ。誰かが階段を降りてくる音がする。一人の兵士が明かりで俺を照らす。その表情は暗く沈んでいる。

「すでに国王陛下となられています。そのように対応なされますよう忠告します。」

「なんだと、あれから何日経った?アレフは、ガイラは、マギーはどうなった?」

「亡くなりました、最後まで抵抗されて・・・。我々近衛騎士も誓紙を盾に仕えることを強いられております。何人かはそれで殺されました。」

「嗚呼嗚呼ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 俺の心が裂ける、叫ぶ声が地下牢に響く。

「それでは陛下をお呼びしてきます。」

 その声は俺には聞こえていなかった。

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 数人の護衛に守られたオットマーが地下牢に降りてきた。残酷な笑みを浮かべたその顔が薄明かりに見えた。腹の底から怒りが込み上げる、こいつを絶望の彼方へと送ってやる。その感情を押し殺して悲壮な表情で語りかける。

「たっ頼む、命だけは助けてくれ。なんでもする、何でも教える、それで命は助けてくれ。」

 鉄格子を揺さぶって嘆願する。

「何でもするか、聞いてやらんこともない。だがその前に“助けて下さい、陛下”だろう。」

 残酷な笑みのまま、俺を見下ろす。

「助けてください、陛下!」

 石床に額を擦りつけ、哀れを誘う声で嘆願する。

「実にいい気分だ、やっとお前がひれ伏す姿を見れたぞ。そうか、そんなに命が惜しいか。ならばお前が秘匿している魔法を記せ。如何なる場所へとも転移する魔法、雷を落とす魔法、魔法を反射する魔法。そうだ、あの女が最後に使ったその場にいた者全てを絶命させる魔法もだ。それらの魔法を得られれば魔王など取るに足りん。」

 その場にいた者を絶命させる魔法だと。死出の道連れか異世界の扉だ、マギーはそんな物を使ったのか。そうか、だったら教えてやる。それがお前の滅びの唄となろう。

「でっでは全てお教えします。ですがここは薄暗く書に記すには向きません。それにこの体を癒さねばいつ命が失われないとも限りません。ぜひともお慈悲を!」

 オットマーがニヤニヤしながら俺を見下ろしている。ここはさらにこいつの自尊心を満たしてやる。床に擦り付けていた頭をさらに叩きつける。何度も何度も、痛みは感じない、アレフの、ガイラの、マギーの無念を思えばこんな屈辱などなんでもない。

「まあよい。部屋を用意させよう。だがおかしな真似はするな。逃げ出そうとしたり、記された魔法が偽りであったり場合にはお前の命はない。それだけでは済まさん、そうだお前の故郷を灰燼としてやろう。」

「そっ、それだけは勘弁してください。決して偽りなど申しません。」

「そうだ、それでよい。初めからそうすればよかったのだ。」

 俺の痴態に満足したのかオットマーが地下牢から去る。一人の騎士が鉄格子を開けて、俺の枷を外す。

「失望しましたぞ、例え命を失おうともこんな痴態を見せる方とは思いませんでした。」

「お前達にそんなことを言われたくない。」

 何とでも言え、俺は奴に復讐するまでは如何なる屈辱にでも耐えてやる。

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 城の一室を与えられて魔法の書を記している。部屋の内外には屈強な兵士が立っていて、俺がおかしなことをしないか見張っている。ここ数日でいくつかの魔法を記して献上した。ここから出られない俺は知らぬことだが、それらの魔法が発動するところを見てご満悦だそうだ。だが一つだけ本当の魔法と違えてある、中級、上級魔法については消費魔力を倍にしておいた。

 この部屋にいていくつか分かったことがある。ここにはマナがあるので魔法は使用できる。だが壁や床に魔法を無効化する処理がされているようで、外部に影響を与えることはできない。ここで強力な魔法を使用しても自身がその影響を受けるだけだろう。それに窓もないから転移の魔法も脱出の魔法も使えない。

 脱出の機会を探していたある日、ご機嫌なオットマーが現れた。当然護衛の兵士と魔術士に囲まれている。

「お前の記した魔法は実に素晴らしいな。これならばもっと早く教えれてくれればよかったものを、そうすれば臣下として望める栄華を手に入れられただろう。それがこんな所で軟禁とは実に皮肉だのう。」

「陛下の仰る通りでございます。今は改心してこの様に記させております。これが残りの全てでございますれば、ここより開放していただきたく存じます。」

 俺の手の魔法の書を護衛の一人に渡す。あくまで卑屈に下手にでて油断を誘う。

「ふむ、これで最後か、なるほど幾つか記してあるが、どれも膨大な魔力を必要とするようじゃ。しかもこれらの効果は一軍に匹敵しよう。」

「流石は陛下、そこまでご理解していただけるとは。こんなことならもっと早くお教えすればよかったと今痛烈に感じております。」

「ふふふっ、だがもう遅いな。これで全てと言ったな、ならばもうお前は不要だ。」

「なっ、なんですと!陛下、それでは約束が違います。」

「ふん、お前のような下賎な者との約束など知らぬ。自分の馬鹿さ加減を後悔して死ぬがよい。」

 やっぱりそうか、こうなることは予想の範囲内だ。俺が絶望の淵に落ちるのをわざわざ見に来たというわけだ。だがそれこそが俺の好機になる。

《俺は魔力を12消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ、
  おお万能たる力よ、鏡となりて、彼の者の姿を我に映せ!transmutatio(変身)!》

 魔法の発動と共にオットマーの護衛に体当たりをする。護衛諸共オットマーが倒れこんだ。

「「何をしておる、早くその者を取り押さえろ!」」

 倒れたオットマーが二人同じ台詞を同じ口調で叫ぶ。護衛の兵士が困惑している。

「何たることだ!陛下が二人いるぞ。」

「馬鹿者、余が本物だ!余が分からぬか!」
「何を言う、この者は偽者じゃ、はよう捕らえよ!」

 二人のオットマーが互いに掴みかかって、護衛の兵士に怒鳴り散らす。困惑した護衛の兵士は手を出しかねている。そうしている間に出口が近づいてきた。本物のオットマーを掴んだまま転がり出る。武を修めていないこいつなど取り押さえるのは簡単だ、馬乗りになって殴りつける。喉をつぶしてまともに話せなくしておく。

「こいつが偽者だっ!もう一度牢に放り込んでおけ!」

 うなり続けているオットマーを強く殴りつけて離れる。兵士が慌てて取り押さえた。

「遅い、何かある前に取り押さえられなくて何が護衛だ!然るべき処罰を覚悟せよ!」

 曲者を取り押さえている護衛に罵声を飛ばす。その勢いに恐れ入った兵士がまだ暴れ続けているオットマーを殴りつけている。

「気分が悪い、戻るぞ!」

 護衛の兵士を残したまま立ち去る、俺の剣幕に誰もついて来ない。そのままの姿でずんずんと城の中を進む。大広間を通り抜け、国王の部屋に入る。多分あいつのことだから、手に入れた俺の武具はどこかに置くているはず。あった、これ見よがしに飾ってある、これを見て俺の醜態を想像していたのか。

 鎧を身に着け金目の物をポケットに突っ込んでから、転移の魔法で湖上都市に跳ぶ。そこには灰燼と化し、多くの兵によって行なわれている略奪が見えた。押さえきれない怒りに気付いた時はすでに生きている者はいなかった。

 もう俺には何もない。城塞都市に跳び、たくさんの紙と筆記用具を購入する。読んだ者が分かり易く簡単に魔法を修得できるように記してばら撒く。これでいかに王家が兵を派遣しようが簡単には負けることはないはずだ。各地を離れる前に転移の魔法が使えない様に転移基準石を破壊しておくことも忘れない。これで一方的に襲われるのはノイエブルクだけだ。

 最後の仕上げだ、魔王の城へと跳ぶ。城の最深部へと続く迷路を並み居る魔物を、片っ端から倒して進む。怒りで感覚が麻痺している俺が刀を振るい、あらゆる魔法を使って魔物をなぎ倒す。魔力が切れる前に適当な魔物から奪う。もう穢れた魂の叫びも俺には届かない。常時、あらゆる自己強化魔法のかかったエンペラータイムのまま進む。

 最深部にある伏魔殿、その一番置くに王座が見えた。様々な魔物が俺を遠巻きに囲む。

「よく来た。わしが王の中の王、魔王ドラゴンロードだ。わしは待っておった。そなたのような若者が現れることを・・・もしわしの味方になれば世界の半分をや」

「黙れ!なにが世界の半分だ、そんなもの俺には要らぬ。俺が欲しかったのはそんなちっぽけな物じゃない。つまらぬ事を言うなら今すぐ殺してやろうか。」

 魔王の台詞をぶった切って、言いたいことを叩きつける。周りにいた魔物達が俺に向かってより強い怒りを表す。その中央に大爆発を起こしてやる。吹き飛ぶ魔物、血が、肉が飛び散り、悲鳴が上がった。

「ぬう、何たる魔力だ。そなたは本当に人間か?」

「いつまでも大物ぶるな。お前などいつでも殺せる、そう言ったのを忘れたか!」

 俺の剣幕に恐れおののいている魔物の集団に向かって手を振りかざす。俺の手から放出された冷気によって多くの魔物が氷の棺に閉じ込められる。

「よかろう。今のわしではそなたには敵わぬようだ。何が望みだ、言ってみよ。」

「まず一つ、いつまでその人を舐めた格好のままでいるつもりだ。さっさと本性を現せ!」

「なぜそこまで知っておる。分かった、これでどうだ。」

 人型を取っていた魔王が本性の双翼を持つ直立した竜の姿を現す。まだ残っている魔物がどよめく。その集団に向かって手を突き出す。必死で何かを避けようとする魔物から魔力を奪った。

「初めからそうしろ、次は大魔道士を出せ。金色のローブを着たやつだ。」

 魔王の眼が魔物の集団に大魔道士の姿を探す。魔物の中から大魔道士が姿を現した。

「お前のせいで俺は全てを失ったぞ、こうなることがお前の望みだったのか?」

「一部の愚か者を操って、王家を分断することまでは成功した。だがお前にここまでの力があるとは想像だにしなかった、私の負けのようだ。」

「いい覚悟だ。ならばこれをくれてやる。」

 残った最後の魔道書を放り投げる。足元に落ちた魔道書と拾った大魔道士の双眸が輝いた。

「貴様、何を考えておる。こんなことに何の意味があるのだ。」

「要らぬのなら捨てろ。それと同じ物を各地にばら撒いておいた。もうこの世界がどうなろうと知らん、せいぜい滅ばぬように励むのだな。」

 もうここには用はない。脱出の魔法を唱えて脱出する。さてどこへ行こう・・・もう俺の行く場所も行きたい場所もない。

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 1年の後、ノイエブルクは廃墟と化していた。城無き城下町となった町もすでに秩序はなく、血で血を洗う地をなっていた。同じ様に魔王の城も内部より破壊され、すでに威風を誇った姿は見られない。地方の都市も似たようなものだ。

 暗き闇の中で男が一人。

「うぐおぉぉぉ・・・!私には何も分からぬ・・・。何も思い出せぬ・・・。しかし何をやるべきか、それだけはわかっている・・・。ぐはあぁぁぁっ!!もう何も無いこの世界に未練はない。この世界に生きる者全てを滅ぼしてくれるわっ!!」


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