神の武具の行方
6/21 勇者支援生活52日目
いつも通り大臣執務室で光点を探る。シュミットは無事進行中、ガイラとアレフは城に戻っている。・・・んっ?いつの間に戻った?俺は挨拶もそこそこに退室した。小走りに換金所へと急ぐ。いたっ!冷静な体を装って話しかけた。
「なんだ戻っていたのか。結構速かったな。」
「只今戻りました。ケルテンさん。」
「おう!学者、戻ったぞ。頼みがあってきた。」
よく見るとアレフのが魔法の鎧を着ている。よく金があったな?
「アレフ、その鎧どうした?手持ちの金では足りなかっただろう。・・・ああ、もしかしてガイラが出したのか?お前甘やかしすぎだぞ。」
「残念、外れだ。俺の懐からは1Gも出していない。」
「じゃあ、どうやって?」
「金のゴーレムを倒しました。それから取れた金塊で購入しました。」
金のゴーレム、かつて金塊を安全に運ぶために作られた儀式魔法。金塊で人型を作り魔法の儀式で仮の命を与える。その一部が野生化したと言われてる。大変レアな魔物で倒した者は一生遊んで暮らせると、平和な時代には一部のトレジャーハンターが探していた。
「なるほどね、よく倒せたな。」
「お前の言った弱点を潰したら一発だった。流石学者だ。」
そういえばそんなこと教えたな。それでも額の魔術文字を消すのは簡単ではないはず。俺が不思議に首を傾げているとアレフが得意げに語る。
「僕が正面から気をひいて、後ろからガイラが転ばしました。そこからこれで一撃です。」
そう言って腰の鋼の剣を軽く抜いた。
「OK!よくやった。君達のレベル評価を2ずつ上げておこう。」
「そんなのはどうでもいい。俺が戻ってきたのは一つ相談があったからだ。」
「相談?俺にできることか?」
「そうだ、お前にしかできないことだ。南の集落の爺さんなんだが、学者、お前さん顔見知りだったな?」
そういえば昔ガイラを連れて行ったことがあったな。
「顔見知りも何もあそこが俺の先生だ。あそこに出入りする為に二週間毎日日参して許可を得た。」
「その爺さんだが勇者の証明無き物に貸す力はないと追い出された。お前さんなら口利きしてもらえると思って戻ってきた。」
「なるほどねー。それはちょっと違うんだ。」
「何がですか?勇者の証明と言われましてもこの城での認定しかありませんよ。」
「そうだね。あの爺さん、つまり賢者の末裔の言いたいことは勇者に託された神器の一つを渡すのにふさわしい力量があるかどうか。そういうことだ。」
「でもお前さん、出入りしてたじゃないか?」
「それは目的が違う。俺の目的はあそこに偉大な魔法使いがいると聞いたから弟子にしてもらおうとしつこく通い詰めた。それで根負けした爺さんが入れてくれただけだ。」
アレフとガイラがものすごく嫌そうな顔をする。
「それはそれはしつこそうだな。まあそれはいい。なら勇者の証明はどうすればいい?」
「分からん、その証明を見つけること自体が試練じゃないかな・」
「よく分かりました。僕達の力の証明とあらば自ら探します。それでいいですよね、ガイラ。」
「お前も真面目だな。OK、それで構わん。スポンサーの仰せだ。」
「スポンサーね、言いえて妙だ。でこれからどうする?」
「北の集落に行く。お前さんが地面を這いつくばっていた場所をこいつに見せに行く。」
「なんだ、覚えていたのか。あそこに精霊神のいた塔があった。残念ながら大魔王にその身は滅ぼされ、精神だけが封印されていた。あそこにはその基礎が残っている。」
「なるほど、ガイラがつけた戦う考古学者というのも頷けます。」
アレフ、感心するところが違う。俺に関心するのではなくて内容に関心してほしい。
「まあ行けばいいさ。それとは別だが一つ問題ができた。」
「問題?なにかあったのか?」
「ああ、もう一つの勇者のパーティーだが全滅、いや消滅した。場所は海底洞窟東の自然窟。今は絶対に行くな。まずはできる限りの戦力の充実、それを目指すべきだ。」
「何がいるんだ。教えろよ、知っているのだろう?」
知らない。だから教えられない。例え知っていたとしても今は行かせるわけにはいかない。
「同じ特務隊士のシュミットと現場近くまで行った。その魔物は見なかったが半分溶けた鉄の盾を見つけた。それだけでもどれほどの脅威があるか想像できるだろう。」
「鉄の盾をですか?それはすごい。どうやればそんなことになるのか、想像できません。」
「そうだ、アレフ。分かっている危機には備えなくてはいけない。ガイラ、お前も理解してくれ。」
「分かったよ、具体的には?」
「城塞都市へンドラーで売っているミスリルの盾を手に入れる。」
「買う方は町にさえ入れれば買えるが、ゴーレムはどうする?」
「それはまた考える。金のゴーレムを倒せたのなら方法はあるだろう。」
「簡単に言うねえ。金のゴーレムは全高5m、ヘンドラーのゴーレムは10mはあった。簡単にいくとは思えんぞ。」
「まだ先の話だ。まずは近いところから行ってこい。」
「了解。アレフ、行くぞ。」
「はい。」
ガイラがアレフを連れて出て行った。どうやら仲良くやっているようだ。
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6/22 勇者支援生活53日目
アレフとガイラが北の集落へ旅立った。ラオフの村経由で集落を目指すそうだ。戻ってくるまでにゴーレムを倒す方法でも考えるか。こんな時に伝説の勇者の装備でもあればいいのに・・・そうか、そこから調べればいいじゃないか。とりあえず勇者の日記から探ることにしよう。あの日記は外に出したくないから図書館からは持ち出さないことにしている。
「マギー、アレフ達は挨拶に来たか?」
「ええ、さっき来たわ。すぐに旅立つから顔を出しただけだって、あなたと同じで失礼な話よね。まあ元気そうだったからいいけどね。」
うへっ!薮蛇だった。
「い、いや、その・・なんだ・・・しばらくは城に居れると思うんだ。調べたいこともあるしね。」
「ふ~ん・・・そうなんだ。何時まで居ることやら?」
「だったら、次に出かけることがあったら一緒に行かないか?まあ危険じゃなかったらだけど。」
「ケルテン、あなたの旅に危険じゃないことってあったかしら?」
・・・ありません。現状では危険じゃない場所を数える方が早いな。俺の沈黙を読んだのか、マギーが笑った。
「ほら、何も言えないじゃない。もういいわ、なんでこんな人に惹かれたんだろう?・・・で今日は何の用?」
なんか言葉の途中がよく聞こえなかったが、まあ怒りの矛先を避けることはできたらしい。
「ああ今日は勇者の装備について調べようと思ってね。元々は王家に伝わる3種の神器だ。」
「そうね。異世界より召喚した勇者に王家から贈られた武具と言ってたわね。今は所在不明、それが何か?」
「見つけられれば強力な力になると思ってね。なんとか探してやりたい。」
「ふ~ん、それで手がかりでもあるの?」
「実はない。だから勇者の日記からでもヒントを探そうと思ってね。」
それだけ言うと俺は勇者の部屋の扉の前に行く。ここは以前と同じく荷物が置いてあるが動かしやすい様に台車の上においてある、カモフラージュは完璧だ。もしこれに気づいても鍵は開かないから秘密がばれることはない。ロトの日記を持ち出し図書館の開いた椅子に座る。
「マギー、勇者の装備の本当の名前を知っているか?」
「知らないわ。存在すらこの前に聞いたばかりよ。」
「じゃあ、今日はその話からだ。そこから何かヒントが出てくるかもしれない。神器、そう言われるのには理由がある。その名の通り神に捧げられた武具だ。」
「でもなんでそんな大層な物が王家にあるの?」
「それはまあ御伽噺や伝説のレベルの話になるがね。まず神々に愛されたある国があった。その国は神の御技によって繁栄した。だがその恩寵に溺れ、その技術で作られた武具で周辺の国を侵略した。この所業におこった神々はその技術を取り上げ、その国を滅ぼした。ここまではいい?」
「ええ、だから神々に恥じぬ行いをしましょうっていうよくある童話ね。それが何の関係あるの?」
「ああ大有りだ、神々の中でも穏健派に当たる神が全ての人を滅ぼすのはどうだろうか?ならば心清き者のみ助けようと提案した。まあ天罰推進派はそんなことをする気がなかったから、不可能な試練を与えることにした。それがオリハルコンの剣、ミスリルの鎧、ミスリルの盾の献上だ。どうだい、話は繋がっただろう?」
「いいから続けて!」
「そう結論を急ぐなよ。これらの金属の加工には神の技術が必須、だがその技術はすでになくまさに不可能な試練だった。それでも力を合わせることができる人々によってそれは成された。影で穏健派の神の手助けはあったけどね。」
「それで神に神器として献上して、それからどうなったの?」
「それでも天罰は行なわれた。しかしその力を合わせる事のできる心清き人々を別の世界に移住させることにした。それがノイエラント、新しき大地と名付けられた。そしてその中心にいた人物が王家の始祖だ。ノイエブルク、新しき城と名乗った彼等が今もずっと続いている。それでこの時に神々から改めて3種の神器が下賜された。」
「なんとも見てきたような嘘というか・・・。」
「嘘か本当かは自分で検証してくれ。それから時がたってノイエブルク家に王家として権威ができた頃、大魔王が現れた。このとき大魔王によって神器が盗みだされたが勇者が奪還した。これは勇者の日記からも読み取れる。」
「また自分で検証しろと言いたそうね。」
「当然、教えられただけの知識だけじゃこの国一の賢者は名乗れないな。話を戻そう、勇者の足跡を辿る。ノイエラントに来た勇者はまずノイエブルクを訪れ、盗まれた神器の話を聞いた。そしてこれを集めることにした。」
「当然ね。大魔王が恐れてわざわざ盗ませたぐらいだからすごい力があったはずよ。」
「ああ、俺もそれに期待している。現存している都市、町、村は当時とそれほど変わらない。勇者の墓が集落から町になり、砂漠都市は滅ぼされたがつい先日まではあった。」
「他には怪しいところはないの?」
「ちょっと待ってね。勇者の日記をすべて読み解くから・・・。」
勇者の日記はノイエラントとは異なる言語で書かれている。前に見た時は気になる所だけを読んだだけ、今回は全てを翻訳する。しばらく俺が本を捲る音とペンを走らせる音だけが図書館に響き渡った。
「いくつか分かったことがある。海底洞窟はその当時繋がってなかった。必要に応じて工事がされ始めたのが当時だった。・・・あとは城塞都市の南に精霊の園があったらしい。後は砂漠都市の東、海に近い辺りに遺跡があったともある。」
「遺跡?」
「崩れ去る大魔王の城からそこに脱出したと書いてある。魔界に繋がっていたとも書かれている。」
「もしかして砂漠都市に突然魔物が現れたのはそこから?」
「あり得るな。他には勇者の遺言らしき言葉、神の武具によって後の災いを封印する。大魔王の城と魔界の門、そして私が眠る場所とある。」
俺の言葉にマギーの目が輝いた。なにか企んでいる顔・・・。
「大魔王の城は今の魔王の城、魔界の門ってのは砂漠都市の東の遺跡のことね。私が眠る場所とは勇者の墓のこと、伝承の町なら安全だから私にも行けるわね。まさか学術的調査に王宮図書館司書官を連れて行かないなんてないわよね。」
「止めても無駄だよね・・・はあ、分かったよ。しかしやはり何か考えを整理するのに、誰かと会話をするのは役に立つようだ。自分では当たり前で過ごしたことが、ふと質問として返ってくる。そこから新しく見えることもある。まあ相手の知的レベルにもよるが、マギーはよい対話の相手になるな。」
「それ褒めてるの?馬鹿にしてるの?」
「いや、素直に褒めている。サイモンやガイラじゃ駄目だ、途中で面倒だと騒ぎ出す。アレフもいいけどちょっと素直すぎる。他の人は考えられないな。やっぱりマギーが一番いい。」
「じゃあもっと大事になさい。」
マギーが冗談めかして言う。大事にしているつもりなんだけどな。口には出さない、多分薮蛇だから。
しばらく他愛の無い会話をする。とりあえずやるべきことは決まった。新しい発見があるかもしれない、そう思うと心が躍る。
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