城塞都市攻防戦①
7/25 勇者支援生活86日目
ドンドンドンッ!ドンドンドンッ! 部屋の扉が多いな音を立てている。寝ぼけ眼で外を見るがまだ暗い。
「すみません!すみません!起きてください!大変です。」
扉の向こうで慌てた声がする。誰だよ、まだ起きるには早いぞ、あと1時間は寝れるはず・・・。
「魔物の襲撃です。すみません、起きてください!」
ガバッ!魔物の襲撃だとっ!俺は飛び起きた。
「分かった。すぐ行く!」
慌てて扉の向こうに返事をすると着替える。最低限の装備をつけると部屋を飛び出した。ロビーへ向かう、そこには青い顔のホテルの支配人と役人風の男が立っていた。
「朝早く申し訳ありません。長より至急お越しいただけるよう申し付かっております。」
「ああ構わない、緊急時だその言葉遣いもいらない。詳しい説明は歩きながら聞こう。あと支配人さん、うちの勇者が起きたら、区長の屋敷に来る様伝えて下さい。」
それだけ言うとさっさと歩きだした。慌てて俺を呼びにきた役人もついてくる。
「何が起きた?」
「はい、街の外に続々と魔物が結集しています。その数100は下らないと聞きます。」
「一大事だな。ゴーレムを倒したことの弊害がもう出たか。」
もう歩いている場合ではないので区長の屋敷まで走る。その玄関には十数人の兵隊が立っている。青い顔をして各々が武器を手入れしている。応接室まで案内されると、そこにはメルキド自治区長ともう一人偉そうな人が座っていた。やはりその顔色は青い。
「お待たせして申し訳ありません。」
「あ、ああ、こちらこそ朝早く起して申し訳ありません。紹介しておきます、こちらがノイエブルク王家ヘンドラー駐在弁務官のブルーメ伯爵です。こちらは国務大臣付き特務隊士デルテン殿です。」
俺の視線が一瞬そっちに泳いだのに気付いてボーメル区長が互いに紹介した。一応一礼するが反応は薄い。
「緊急のようですので簡潔にお願いします。私は何の為に呼ばれたのでしょうか?」
「何を暢気なことを言っておる!魔物が攻めてくるのだ。勇者を率いて迎撃せよ!」
弁務官とやらがなんか偉そうに横から命令する。かちんときたので言い返す。
「失礼ながら伯爵、敵の数は100を越えると聞きます。まさか勇者2名、私を含めて3人だけで迎撃せよと仰るのですか?」
「なんだとっ!こういうときの為にそなたらの様な者が飼われておるのだっ!つべこべ言わんとさっさと行ってこい!」
口から泡を吹き出して怒鳴る。横の区長が苦い顔をしている。
「区長殿、失礼ながら弁務官殿は興奮しておられる。どこか安静にできるお部屋にご案内されてはどうですか?」
「そのようです。弁務官殿、ここは我々に任せて頂きましょう。あちらにお部屋を用意させますので、どうかそちらへ。」
右手を軽く挙げ執事に促す。執事が小声で弁務官に話しかけ退室させた。
「これでやっと話ができます。私としてはたった3人で対抗させるつもりはありません。魔物との戦闘の専門家としてアドバイスして頂きたい。できれば指揮をとって頂きたいとも思っています。先の責任とやらを果たしていただけるものと理解しております。」
「率直な意見で結構です、お受けせざるを得ませんね。」
ボーメル区長が明らかにほっとした顔をする。
「では現状を整理しましょう。敵の数、種類、編成。それと守備の人員を教えてください。」
「では魔物に関しては、斥候に出した者に説明させますのでしばしお待ちを。その間にこちらの陣営について説明します。現状この街で登録されている兵隊は50名、あとは私の私兵が10名です。」
この街の人口は5万人、妥当な人数だな。だとすると後はこれから募集するしかない。
「それはすぐに召集して下さい。しかしそれでは圧倒的に足りませんね。」
そこに一人の兵士が入ってきた。区長に一礼して俺の方に向き直る。俺が口を開くのを待っている。
「報告は簡潔にお願いします。形式的な挨拶はいりません。」
「はい、では敵の陣容を説明します。ドラゴン3、金色のローブを着た魔法使い1、赤い魔法使い10、獣人が50、飛竜が50。まだまだ集まってきています。」
「大体は分かりました。金色の魔法使いは大魔道士、赤いのは魔道士、獣人、飛竜の中にはおそらく赤い個体もいるはず、それは赤飛竜とします。まず全員に固体名を徹底させて下さい。よろしいですか?」
「す、すいません。一度では覚え切れませんでした。もう一度お願いします。」
「では書きましょう。紙とペンをお願いします。」
執事が紙とペンを用意して俺に渡す。俺がそれにさっき言ったことを記述して渡した。
「では急いで伝えてください。誤った認識は敗北に繋がりますので徹底してください。」
礼もそこそこに兵士が飛び出していった。
「私の部下が失礼致しました。それで後はいかが致しましょう?」
「それでは至急民兵を招集して下さい。この街の危機ですので強制的に集めて下さい。」
「強制と言われましても、こちらの言うことを聞いてくれるかどうか。」
区長が額の汗を拭く。召集する自信がないようだ。
「できないのならこの話はなかったことにしましょう。我々は城に帰還します。あなたがたも命が惜しければ魔法の翼ででも使って逃げるといいでしょう。まあ財産の持ち出しは難しいと想いますけどね。」
「そっ、それは困る。しかしどうやって集めればいいのか。」
「まず町の存亡の危機だと認識させて下さい。先も言いましたが逃げるという選択肢も伝えて結構です。ただし砂漠都市からの流民が、幸せに暮らしているとは思わないで下さい。」
「そこまで酷いのですか?それを私に伝えろと!」
「城下街の片隅に流民街ができています。それはそれはひどいものです。生きるか死ぬか、地を這って生きるか、それともこの街を守る為に戦うか、その選択をしてもらいます。」
「・・・・・・・・・・。」
「集める民兵は最低で500。半数は20歳以上の男性を、残りは女性でも構いません。」
「しかし、戦えるものを集めるにはどうすればいいか・・・」
「ではまず狩人を弓兵として使います。多分得意分野ですので召集に答えてくれるでしょう。次に各家庭から男手を出させてください。ただし男が一人しかいない家庭からは召集しないこと。父一人、子一人の家庭なら父一人を招集、子が二人以上いる家庭は下の子を召集すること。これを徹底させて下さい。街が助かっても人がいなくなっては意味がありません。もちろん十分な報酬をだすことも伝えてください。それでも足りない場合は女性でも構いません。戦う意志のない兵士は要りません。」
「・・・わかりました。そうします。」
「先日の指摘した備蓄品は用意してますか?」
「まだバリスタや投石器は完成を聞いていません。ですが油、大鍋、薪、杓、矢、木盾は十分に用意させました。」
「結構です。では兵の指揮権限をもらいます。今ある兵員で2時間魔物を止めます。2時間経って応援が来ない場合は撤収します。よろしいですね。」
「お任せします。こちらも急いで集めますのでそれまでお願いします。」
「では行きます。」
俺が屋敷の玄関をでるとガイラとアレフが兵士に紛れて立っていた。すでに戦うつもりのようだ。
「では皆さん、行きましょう。大丈夫、心配はいりません。我々だけではない、じきに区長殿が民兵を連れてきてくれますよ。」
俺を中心にガイラ、アレフが左右につく。その後ろに兵士30名ほどが続いた。
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