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二つの冒険
6/25
 ラオフの村から東、橋を渡った先の小集落。アレフが地面を鋼の剣で突付いている。

「本当ですね。ここの下は固いです。どう見てもただの草原ですけど。」

「ああ、学者がそう言っていた。ここの周りにある巨石は崩れた塔の石材だと・・・俺には風化した岩にしか見えんがね。」

「そうですね。でもここから・・・・

 アレフが言葉の途中で走り出し、50mほど先で止まる。

 ・・・ここまでずっと堅い石畳が埋まっています。やっぱり何かあったんですよ。」

「まあそうだろうが今は何もない。俺にはそれだけでいい。過去の探求はあいつに任せる。」
 
 ガイラがちょっとうんざりした顔をする。前に来たときはここで3時間待たされた。そんな苦い思いが蘇る。アレフが走って戻ってきた。この程度では息はきれない。

「じゃあ今やるべき探求を続けましょう。そこの集落ですよね、行きましょう。」

 アレフが馬を引く。安堵の表情を浮かべたガイラも続いた。

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「ここが長のいる祠か、ずいぶんとボロいな。」

「そんなこと言っちゃ駄目ですよ。聞こえます。」

 思わず愚痴ったガイラをアレフがたしなめる。その祠の地下から声が聞こえた。

「外で騒いでいるのはどちら様ですか。どうぞお入り下さい。ここはいかなる者も迎えます。」

「ほら、大丈夫じゃねえか、入ろうぜ。誰でもウエルカムだとよ。」

 ガイラが遠慮なく階段を下る。この祠の上部分は飾りで地下に人が入れる空間がある。二人が階段を降りると広い空間が現れた。中央の祭壇に年配の女性が立っている。

「勇者に連なる者ですね。近々ここに来られると神託がありました。」

「いっ、いえっ!そんな大層な者ではありませんが、勇者とは呼ばれています。」

「俺もだ、血なんぞ関係ない。だがここにはあの島に渡る為に必要なものがあるのだろう。それを受け取りにきた。」

「率直な方ですね。ですが今すぐにお渡しすることはできません。」

「なんでだよっ!」
「止めてください。失礼ですよ!」

 ガイラが激高し一歩踏み出す。アレフが止める。

「渡したくとも私の手元にはないのです。ある場所に安置してありますが、それを持つに相応しい力量があるか、その道中にて試されることになるはずです。」

 ガイラがさらに何かを言おうとして、アレフに睨まれた。

「それでそれはどこでしょうか?」

 老婆は優しい笑顔を浮かべた。アレフは自らの記憶にその笑顔がある気がした。

「そうですよ、私は勇者の友。心優しき僧侶の末裔。勇者の願いを叶える為に代々ここを受け継いできました。」

「ここ?」

「そうです。ここがその試練の場、かつての神の塔の地下部分に当たる場所にそれは安置されています。」

「アレフ、さっさとその試練とやらを受けに行こうぜ。」

 ガイラがアレフに声をかける。さっきまでの不機嫌はすでにない。

「ガイラさん。あなたのその率直さは好感が持てます。ですが突っ走るだけがあなたの役割ではありません。どうかご自愛なさいますように。」

「分かった、分かっている。で、その入り口とやらはどこだ?」

「ガイラっ!」

「構いません。あなた方に比べれば老人と言ってよい年齢であることは間違いありませんから。では私について来てください。試練の門まで案内致します。」

アレフとガイラは先導する老婆の後に続く。暗い祠の通路の先に封印された扉があった。

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 6/25 勇者支援生活56日目
 シュミットがメルキドに到着したようだ。マーカーが動いていない。映像で確認する・・・ベッドで爆睡している、隣には心配そうに看病している女性。これ以上は見ないでおこう。

 とりあえず心配材料がなくなったので任務と知的好奇心を満たすのと両立させるべく、伝承の町の勇者の墓へ行くことをマギーに告げた。一石二鳥、いや三鳥か、マギーのご機嫌伺いも兼ねているからな。

「マギー、やっと手が空いた。勇者の墓に行くぞ!準備はいいか?」

「何を今更、準備なんて2日も前に済んでるわ。何なら今すぐにでも発てるわよ。」

「それはそれは申し訳ございませんでした。ではわたくしも準備を致しますので1時間後にそちらの屋敷に伺います。それでよろしいでしょうか?」

「何、その気持ち悪い言い方。別に怒ってないから・・・」

 一時間後、俺はマギーの屋敷に来ていた。挨拶をして敷地内に入る。旅装のマギーの隣の執事が礼儀正しく声をかけてきた。目が敵意で厳しい。

「ケルテン=アウフヴァッサー殿ですね。ひとつよろしいですか?」

「シャッテンブルグ!失礼でしょう。」

「構わない。私を試すつもりですね?」

 激昂するマギーを手で制するとシャッテンブルグなる執事に向かって問いかけた。

「その通りです。私は先代、先々代よりお嬢様を託されています。伯爵家の当主になられましたお嬢様は、然るべき相手を迎えてこの家を盛り立てていかねばなりません。それがどこの馬の骨とも分からない者であってはならないことです。」

「それで、あなたがその審判役ですか?」

「そうです。これでも先々代から魔法の手ほどきは受けています。家人を守るに必要な武術もです。」

「結構です。ではお相手させて頂きましょう。試合のルールは如何しましょうか。魔法戦に有利な20m?それとも接近戦の5m?」

「私はどちらでも構いません。」、

「では間を取って10m、剣も魔法も何でもありで。」

 俺の提案に執事の男が頷いた。心配するようなマギーの視線の中、庭園の空いた空間にて距離を取る。俺はいつもの装備だが、執事は黒の執事服で目立った武器は身に着けていない。

「マギー、合図を頼む。」

「でも・・・。」

「大丈夫、だから早く合図を。」

 マギーは一枚のコインを振るえる手で懐から取り出す。放り投げられたコインが俺と執事の間に落ちた。執事と俺が同時に魔法の詠唱に入った。

《俺は魔力を8消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
 おお、万能たる力よ、不可視の鏡となりて我を守れ!》

『Incursu(電撃)』

 俺の魔法よりほんの少し早く執事の魔法が完成していた。突き出された手から電撃が向かってくる。

『Magicae speculum(魔法の鏡)!』

 目に見えない鏡を目の前に展開する。角度は調整してある。反射された電撃が執事の1m前の地面に落ちた。砂煙が上がる。間合いを詰める為に一気に駆ける。刀の間合いのギリギリで足を止め、刀を抜き打った。

ガギッ!金属同士がぶつかる嫌な音。砂煙が収まった時には、俺の刀をソードブレイカーで止めている執事の姿があった。執事がニヤリと笑みをうかべるとその手が捻られた。ボキッ!何かが折れる音、次に地に落ちたのはソードブレイカーの先端であった。

「俺の武器はミスリルでできている。その程度の武器では折れない。」

「大変失礼を致しました。お嬢様をよろしくお願いします。」

 武器を納めた執事が丁寧に頭を下げてそう言った。どうやら合格したようだ。」

「もう、2人とも余計な心配させないで!行くわよ、ケルテン!」

 マギーが俺の腕も引っ張る。後ろで執事がもう一度丁寧な一礼する。俺も軽く会釈をする。多分マギーには分からないだろう男同士の会話があった。

「全く、私はもうヴィッセンブルン家の当主なんですけど、いつまでもお嬢様扱いは止めて欲しいわ!」

「さあね?俺は平民だし、貴族のしきたりやお約束は知らないな。さあ急ごう、馬を使っても伝承の町まで2日はかかる。」

「じゃあ急ぎましょう。馬が苦手なんて言ってられないわ。」

「苦手ね、じゃあ俺が先行してペースを取る。馬に任せて無理に手綱は使わないように!」

「分かったわ、任せます。」

 城下町でも貴族が住む高級住宅街を馬の手綱を引いて歩く。一般の人は使えない東門から外に出てから馬に乗って野を駆けた。

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 伝承の町までの半分ぐらいの所で簡易のテントを張る。火を炊き持ってきた簡素な食事を取る。流石に狩りに出るような真似はしない。

「ねえ、さっきの魔法は何?」

 食事の最中、マギーが突然質問してきた。

「さっきの魔法って?」

「ほら、シャッテンブルグとの試合で使った魔法のことよ。ずっと聞きたかったけど馬に乗ることに必死で聞けなかったの。」

「ああ、あれね。あれはMagicae speculum(魔法の鏡)。光が鏡で反射されるように魔法を反射する鏡を作る魔法だ。うまくやれば術者に跳ね返すことも可能だ。」

「もしかしてわざと外したとか?」

 マギーの指摘の通り、元々当てる気はなかった。だが実際には狙って当てる程の余裕ができなかっただけだけで外れたのは結果論にすぎない。

「さあ、どうだか。それより彼、結構できるね。消費魔力が少ないとは言え、俺より早く魔法を発動させるとは驚かされたよ。君さえよければ勇者に推薦してもいいぐらいだ。」

「駄目よ。シャッテンブルグは当家の執事長、彼がいなくなったら誰が当家を切り盛りするのかしら?」

「残念ん、諦めるとするか。それより疲れただろう。夕食を取ったらすぐに寝るといい。俺はしばらく起きている。」

「ええ、お言葉に甘えて寝させてもらうわ。こんなに長い間、馬に乗っていたのは初めて、股擦れに治癒魔法をかけたのもね。」

 そう言った通り、食事を終えるとマギーはさっさとテントに入った。しばらくすると規則正しい寝息が聞こえた。


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