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暗雲立ち込める
6/15 勇者支援生活46日目
 現在活動している勇者が2名しかいなくなったことを憂慮して、国務大臣から命令が下った。どこかで勇者に相応しき者をスカウトせよとの事である。それについて今シュミットと食堂でぼやいている。

「シュミット、どう考えても無理だ。」

「そうは言っても命令だ。探すしかないだろう。俺が知っている限り城下街、伝承、ラオフはすでに余地はない。お前はどうだ?」

「アウフヴァッサーは俺の故郷だが俺以上の腕利きは少ない。街の守備隊長は俺より剣技は上だが魔法はからっきし、なにより街の守備隊長を引っこ抜くわけにはいかない。魔法の使い手の心当たりもないことはないが、年齢の問題で推薦できない。」

「となると城塞都市か・・・あそこが攻められた時に脱出してきた者がいるが、魔法の翼を使って逃げてきた者でなんの役にも立たん。」

 思わず二人してため息をついた。

「いずれにせよ誰かが行かねばならん・・・か。」

「俺が行く。お前は残れ。お前はお前の勇者の面倒を見るべきだろう。」

「危険だ。無事に着けるとは限らないのだぞ。」

 なぜかシュミットが笑っている。荒げた声が続かない。

「俺はあの町にいる女の顔を見に行くだけだ。危険を犯す価値がある。まあ人材探しはついでだな。」

 魔法で送るべきか?失うには惜しい・・・どうする?思考が絡みつく。そんな俺に気づいたのかシュミットがさらに笑った。

「はははっ、聖水と薬草をたっぷり買い込んで行く。玉砕する趣味はないし、やばくなったら帰還の魔法でも魔法の翼でも使って逃げてくるさ。」

「そうか・・・だがどうやって町に入る。守護するゴーレムが無差別に攻撃してくると聞いている。」

「噂には聞いている。まあ壁をよじ登るなり裏口から入るなりするさ。」

 わざとらしくふざけてみせる。それが分かるだけに止めることができない。

「・・・なら途中まででも送らせてもらおう。砂漠都市までとは行かないがせめてその手前くらいまでなら・・・。」

「そうだな。そこから先は不眠不休に近くなるからな。それまでは楽させてもらおうか。」

「ああ、野営でも寝ずの番でも務めさせてもらうよ。」

 それが欺瞞なのは自分が一番知っている。それでもこの男にできることはしてやりたい。

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 俺達は各自馬に乗っている。更にもう一頭の馬を連れて駆ける。3頭ともかなりいい馬を無理言って借りてきた。野営の際にSignati Miasma(瘴気封印)を使って安全を確保する。この辺りの魔物ならこれで十分だ。

「明日は岩山の洞窟の手前位まで行こう。明後日には砂漠都市トロッケナーヴィント付近まで行けると思う。」

「無茶言うねえ。いやこの旅自体が無茶か。」

「そうだ。この馬は普通の馬より倍は速く走れる。更に持久力もある。それに明後日からはこっちの替え馬を使えば少しでも早く走れるだろう。」

「そこまで考えていたか。荷馬にしては速いと思っていたところだ。」

「ふん、今日はもう寝ろ。明日以降まともに寝れる保障はないぞ。」

「そうだな。お前さんがいる間は全部任せる。」

 それだけ言うとシュミットが眠った。俺も寝るとしよう。明日、明後日は不寝番は俺がやらねばなるまい。

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 それからさらに二日、予定どおりトロッケナーヴィントへの橋を越えた。夜は俺が不寝番をし、空が明ける頃から少し仮眠をとった。馬の休憩で停止した時も仮眠をとった。眠さで限界だがシュミットを笑顔で送る。

「では行ってくる。速ければ一週間で戻る。」

「任務なんぞ捨てていいから無事に戻って来いよ。あんたの死体を向かえに行くのは勘弁してくれ。」

「心得た。俺はそんなに任務に真面目じゃない。じゃあな。」

 シュミットが駆けていく。その姿が見えなくなるまで見守った。俺は何気に馬を引いて橋を戻る。さあ城に戻ろう。魔砲を詠唱しようとしてなぜか魔力が放出できないことにきづいた。しまった、signati magicae(魔力封印)か!周りを見渡す。橋を渡った向こうにに2体、後ろに2体の汚れた鎧が現れた。さらに橋の下に綺麗な漆黒の鎧の騎士。

 まずい、挟まれたか。いつもの自己強化魔法も使えない。どうする?戦うか?いや、ここは逃げるべきだ。馬に飛び乗り、もう一匹の馬に鞭を強く当てる。尻をぶたれた馬が暴走する。前方の鎧が二手に割れた。馬をその間に向けて駆けさせる。馬体を強引にぶち当てて通り抜けた。しばらく駆けさせて距離をとる。懐を漁って魔砲の翼を天に投げた。護身用に一つ持っておけ、これはアレフに俺が言った言葉、それが身に染みて分かった。

 誰もいなくなった橋に男の笑い声が響き渡った。
ラダトームの入り口、馬ごと戻ってきた。落馬と見間違わんばかりに馬から降りる。衛兵が駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか?」

「ああ・・・ああ大丈夫だ。すまなが馬は返しておいてくれ。俺も落ち着いたら・か・・え・・・る・・・・・・zzz」
強烈な眠気に意識が途切れた。

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 橋の上にいた鎧が動きを止めた。漆黒の鎧を着た者がゆっくり上に上がってくる。兜の上には血のように真っ赤な房。

「くっくっくっくっ!やはり思ったとおりだ。やつめ、慌てふためいておった。俺が知っているやつならこれぐらいの敵を相手にするぐらいの腕はあるはず、それが魔法を封じただけでこれだ。逃がしたのは惜しかったがな、だが次は勝てるぞっ!ああっはっはっは・・・・・・・・・・・・・・・!」

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 はっ!いきなり意識が覚醒した。見慣れた部屋、ここは俺の部屋か。俺の額には冷たいかたく絞った布。ベッドのすぐそばにはマギー、椅子に座ったまま寝ている。額の布をとり上半身を起こした。

「マギー、そんなところで寝ると風邪ひくぞ。」

 マギーの顔に手を当てる。

「う、うん。何・・・・・ああ、ケルテン起きたのね、よかった。」

 マギーが目を覚ます。あまり慌てた様子はない。

「ああ、また心配かけた、すまない。」

「そんなに心配はしてないわ。ただの睡眠不足、疲労でちょっと熱があったくらい。」

「そうか、ずいぶんと冷静な判断だ。で、俺はどれくらい寝ていた?」

 マギーが立ち上がって窓へ歩き、カーテンを明ける。朝日が眩しい。

「そうね、まる一日にはちょっと足りないくらいね、ずいぶん寝坊なこと。それよりあなたの無茶には慣れたわ。」

 ベッドから降りる、少し体が硬い。ストレッチをして体を解しながら声をかける。

「それほど無茶するつもりはなかったんだけどな。最後に一つ誤算があった。」

「誤算?」

「ああ、シュミットを砂漠都市近郊まで送った帰りに魔物に襲われた。どうも狙われていたような気がする。」

「そんなこと分かるの?」

「ああ、不意打ちで魔法を封じられた。橋の上で2体ずつ両端から挟み撃ち、さらに橋の下でそれを指揮している奴がいた。漆黒の鎧に真っ赤な兜飾りの鎧・・・中身が空っぽの魔物とは思えなかった。」

「よくそんな危機を逃れられたものね。」

「そうだな。連れていた馬を一頭突っ込ませた。暴走した馬で割れた隙間を強引に抜けた、後は魔法の翼。置いてきた馬にはかわいそうなことをした。」

「そう・・・でもよくそんな瞬間的に判断できたわね。」

「戦う気がなかったからね。すぐに逃げることしか思いつかなかった・・・それが幸いしたか、多分下手に抗おうとしたら命はなかっただろう。」

 マギーが俺に近づいて抱きつく。

「私を置いて死ぬなんて許さない。どうせ死ぬならあなたの全てを私に渡してからにして、それまでは死んでも死なせない。」

 呪詛のような言葉が耳の横から聞こえた。

「理不尽だな。俺も死にたいわけじゃない。」

「・・・・・・・・・・・・・」

 返事は無い。より強い抱擁、俺も強く抱きしめた。

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 国務大臣に報告するため、国務大臣執務室にいる。

「シュミットを城塞都市セントナーに向かわせております。現在位置を確認したいのでシュミットの誓約書をお貸し下さい。」

「そうか、何時に結果がでるか?」

 大臣が抽斗からュミットの誓約書を差し出す。相変わらず厳重だ。

「そうですね、最速で一週間といったところでしょうか。」

 俺は魔法の地図を起動させる。シュミットのマーカーは砂漠の西、動きはない。水晶球の映像で確認する。どこか薄暗い所で寝ている、休憩中か。

「無事を確認しました。必ず戻ってきます。」

「ふむ、だがそれだけでは困るのだがな。」

 頭に血が昇る。まるで個々の生命には興味が無いかのようだ。心を静める。何かを期待したのが間違いだ。

「そうですね、なんらかの結果を持ち帰ってくれます。それともう一つ報告したい事が!」

「なんだね?わざわざ報告せねばならぬことか。」

「昨日襲われた魔物についてですが。」

「そうか、そのような瑣末なことは現場である近衛と相談するがよい。」

「はっ!申し訳ありません。では近衛隊長に報告します。これは返却致します。では失礼します。」

 俺は不機嫌を隠さず、退室の挨拶をする。踵を反して退室、特に反応はない。

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「敵は魔物だけではないと言うのか?」

 俺の説明に近衛隊長が難しい顔で問いかけた。

「そうです。先の大戦で報告された鎧の魔物、鎧兵士、鎧戦士、鎧騎士、中身が空っぽの空っぽの彼等は明確な目的がないとされていましたね。」

「そうだな、名前は仮にこちらでつけたものだが、その認識であっている。それなりの腕はあるがただ戦うだけだった。」

「私が襲われたのは漆黒の鎧に真紅の兜飾り、まるで自己顕示欲が高い人間のよう。それが4体の配下を連れていました。」

「それが本当なら由々しきことだな。」

 ここは前に俺が考察したことを伝えておくべきだ。俺はより深刻な顔で問いかける。

「これは仮説ですが・・・それもかなり不愉快な仮説になりますがよろしいでしょうか?」

「聞こう。」

「ありがとうございます。骨や鎧の魔物についてですが、強さに個体差があるのはご存知ですか?」

「ああ、ある程度は把握している。それが何か?」

「弱い魔物に顕著に現れる現象があります。妙に素人っぽい動きをする固体と一応の戦闘訓練を受けた固体、そう急遽の募集兵のような動きです。これが立派な鎧を着たとになると正統な剣術を使用くる場合もあります。例外はありますが。」

「なるほどよく観察したものだな。それでそれが何か?」

「ここからが不愉快な仮説です。奴らは元々いた魔物ではありません。魔王の瘴気によって作られた魔物、その材料が死した人の魂かと。」

「なんとっ!」

 ここにきて近衛隊長の顔が青ざめた。

「まず砂漠都市を落とした際に死した者が魔物となってこの城を攻めた。さらにこの城の攻防戦で死した者が新たに魔物となった。先の戦いではかなりの近衛騎士、騎士がなくなったと聞きます。彼等は戦うことで軍勢を増強できると言うことです。」

 近衛隊長の顔は青を通り越して、真っ白だ。

「それが事実なら我らは死ねないと言うことだ。しかもこのことは公表できない。まさかかつての僚友と戦わなければならないとは・・・。」

「その通りです。この仮定を知っているのは勇者のガイラだけです。もしかしたらアレフにも分かったかもしれません。とりあえずこれに関しては隊長に預けます。」

「分かった。俺の心の内に留めよう。」

「それともう一つ、戦わなくてはならないのは死んだ者だけではないかもしれない。これが言ってはならないことだとは承知しています。ですが可能性として考えておかねばならないはずです。」

「ぐう・・・。」

 近衛騎士隊長が俺の仮定に黙り込んだ。もう話すことはないので隊長の部屋を辞する。敵愾心を隠そうともしない近衛騎士達に苛立った。


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