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子を連れて西へ西へと逃げて行く愚かな母と言うならば言え(俵万智)−はい、愚かです。そこから始まる放射能パニックの清算 - 石井 孝明

アゴラ

2012年08月28日 09:59

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写真は福島産農産物を食べるキャンペーンをするタレントグループTOKIOの皆さん。福島民報ホームページより。芸能人という人気を気にする仕事で、非難の可能性のある福島の農作物を守る行動をする彼らに敬意を持つとともに、こうしたキャンペーンが必要のなくなる日が来ることを心から願う。

異常行動者の懺悔?

福島原発事故を受けて広がった放射能パニックの沈静化が進んでいるようだ。

千葉麗子氏というタレントがいる。同世代だが詳細は知らない。原発事故で不正確な情報を流し、騒ぎ続けた人だ。この人はミニブログ、ツイッターで以下のことを言った。

事実は、事実と伝えろ。でも、そこにまだ暮らす皆がいるのだから。カルトやとんでもや陰謀論者は、要らない。


これは削除されてしまったが千葉氏には「何を今さら」「まず謝れ」「お前が言うな」といった批判が広がった。当然である。(togetterのまとめ
私はたいして影響力がない無名の記者だが、「現状では福島の原発事故で普通に生活する限り健康被害を受ける可能性は少ない」と訴えてきた。それが彼女には不快だったようで、私は次のことを言われた。(参考私のコラム

「逃げられる」と思うなよ、逆だよ。追い詰めてやるwww」
「 一回死ね!と、妹分が出ましょうか(笑)?」


また千葉氏は8月に中学生の息子と次の会話をしていたと公表していた。原発事故の被災者に失礼だし、家庭教育の恐ろしさを感じる。
茨城県常陸太田市〜に行ってた息子っち「どうよ、ベクレた(笑)?」「ベクレた(笑)!たぶん、ビミョーに(笑)…」とか


異常な行動を続けてきた千葉氏でさえ、もしかしたら今のパニックをおかしいと思いはじめたのかもしれない。本当に改心したかは不明だが。

これだけではない。最近、放射能をめぐるデマの数が減ってきたし、その広がりも小さくなってきた。そして福島についての正確な情報が、目に止まるようになってきた。(写真)

そろそろ、私たち一人ひとりが原発事故後の行動について、立ち止まって考えるべきときではないだろうか。

一時的なパニックは当然だが、続くのは問題だ

福島原発事故以来、放射能をめぐる恐怖が広がった。当然である。私たちには放射能についての知識がなかった。3月12日に原発の水素爆発があった後で、東京在住の私は恐怖を飲み込んだ後で、仕事を一時的に止めてつたない英語を使って、米英の防衛関連サイトをネットでめぐって核戦争の民間防護マニュアルを入手した。そして知識と行動で自分と家族を守ろうとした。

東京電力は混乱の中で、なんとか事故の拡大を止めた。それは後知恵で、3月時点で普通の人がパニックになるのも当然である。特に母親たちが、自分の子供を守ろうとするのは当たり前だ。

ところが秋ごろまでには、事故による情報が公開された。すでに低線量被曝に関する膨大な医学的研究はあった。それに福島・東日本の現状を当てはめて解釈すればよかったのだ。

福島の事故によっての被曝の増加は、日本で初年に数ミリシーベルト(mSv)だ。即座の被曝で健康被害がでるのは、おそらく1000mSv以上。これから判断すれば、おそらく原発事故による健康被害の可能性はないし、これからもないだろう。

しかし放射能をめぐる無知で社会が混乱し、個人の生活にも悪影響を与えた。大きな視点で見れば、福島の農作物は風評で被害を受けた。その回復は、おそらく長期にわたる。さらにエネルギー政策、福島復興の混乱の一因になっている。そして小さな視点で見れば、多くの人の生活が混乱した。

しかし、もう1年半経った。反省を含め、自分の行動を見直す必要があるのではないか。そして今でもパニックに陥っている人がいる。こうした人々は、被害者であるが、同時に被災地に対する風評被害や差別、さらには自分と家族に精神的な負担を与える加害者になる例も多い。上記の千葉氏は一例だが、騒ぐなら一人でやるべきだ。他人を巻き込んではいけない。

反省は自らの愚行に向き合ってこそ

原発事故をめぐる調査報告書が公表されている。政府、国会、民間、東電、著名経営者で原子力技術者だった大前研一氏が調査委員会をつくり作成している。私はいずれも読んでいる途中だが、作成者に敬意を持つほど、よくできている。いずれ分析を記事にするが、かなり学びを得られている。社会は冷静に事故を評価する段階に入っている。

個人でも同じことができないだろうか。「個人事故調査委員会」を心の中でつくり、自らについての原発事故を冷静に振り返るのだ。これは東日本大震災をめぐる行動でもできる。次のことをする価値はある。

■福島原発事故をめぐり、事故の前、昨年3月、その後の行動と心の動きを、一度振り返ること。個人の生活で、そして仕事などの社会活動で何を失敗し、何ができたのかを考えること。

■そこから教訓を導き、今後の生活に活かすこと。


私たちが今後に原発事故を経験する可能性は極小であろう。しかし東日本大震災クラスの地震は、おそらく日本人は生涯の中で再び体験する確率が高い。また人生で災害などの危機に直面することは必ずあるだろう。当たり前のことかもしれないが、こうした振り返りは必ず意味があるはずだ。

そしてその検証では自分の過ちを直視することが大切だ。私は事故を起こした政府や東電に怒りを持つが、声を荒げて糾弾することはできない。なぜなら、私は事故の関係者と同じ立場にいた場合に、自らが適切に行動できる自信がないためだ。おそらく同じように過ちを繰り返しただろう。

歌人の俵万智氏が、ツイッターで自分の歌を公表していた。新聞報道によれば、彼女は宮城県仙台市から放射能を恐れて沖縄県石垣島に引っ越したという。

子を連れて西へ西へと逃げて行く愚かな母と言うならば言え


彼女個人を糾弾するつもりはないが「愚か」である。「母の愛に感動」などと、焦点をぼやけさせてはいけない。この現実を自分も認め、また社会も「愚か」と指摘することから、原発事故の個人の検証は始まるだろう。

ちなみに、どこに行ってもリスクはある。石垣島の島民の方を批判するつもりはないが、日本の西では中国からの大気汚染リスクが増えているし、中国・台湾の原発にも近い。開き直ってはいけないし、子供のリスクが減ったとは言えない。子供が親のパニックに巻き込まれるのはかわいそうだ。

こうした避難者がはっきりしないまでも、全国で1000人近くいるらしい。同じようなパニックに陥った人もたくさんいたはずだ。これを含めて、事故後の愚行を社会でも、個人でもそろそろ終わらせなければならない。愚行は私も含めて、ほとんどの日本人が経験した。ここで言う「愚行」とは「合理的に行動しなかった」という意味だ。

現実を直視することから、今も残る放射能パニックを清算することが行える。そして未来でも私たちは愚行を繰り返すはずだ。しかし過去と今の過ちを直視することで、その数は減らすことができる。

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