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2012年8月29日(水)付

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近隣外交―挑発に振り回されまい

北京で丹羽宇一郎・駐中国大使の車が襲われた。背景などは不明だが、一国の大使の身の安全が脅かされるなど、あってはならないことである。中国政府には、真相究明と再発防止を強く[記事全文]

パラリンピック―あの熱気をもう一度

五輪の余韻が残るロンドンの街に、アスリートたちの躍動が戻ってくる。障害を抱える人たちのスポーツの祭典、パラリンピックが開幕する。障害者スポーツ発祥の地への里帰りだ。前回[記事全文]

近隣外交―挑発に振り回されまい

 北京で丹羽宇一郎・駐中国大使の車が襲われた。

 背景などは不明だが、一国の大使の身の安全が脅かされるなど、あってはならないことである。中国政府には、真相究明と再発防止を強く求める。

 日中関係はいま重要な局面にある。香港の活動家らが尖閣諸島に上陸したのに続き、中国各地で反日デモが起きている。こんなときこそ、両国の政治家には冷静な対応を望みたい。

 ところが、一部の政治家は逆に相手を挑発するかのような言動を繰り返している。

 石原慎太郎・東京都知事が、都が購入を計画している尖閣諸島への上陸を求めている。実現すれば、中国との緊張がいっそう高まるのは明らかだ。

 政府が、都の上陸申請を却下したのは当然である。

 政治家の無分別な言動は、日本に限ったことではない。

 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領の竹島上陸は、日韓両国を無用にきしませる行動だった。

 李大統領は、竹島上陸の理由に、旧日本軍の慰安婦問題に進展がないことを挙げた。これについても、石原氏は「(慰安婦は)いやいやじゃなくあの商売を選んだ。日本軍が朝鮮人に強制して売春させた証拠がどこにあるか」と、韓国国民の感情を逆なでするような発言をした。

 さらに松原仁・国家公安委員長は「(旧日本軍の関与を認め、謝罪した93年の)河野官房長官談話のあり方を閣僚間で議論すべきだ」と語った。

 非はまず李氏にある。だが、こんな挑発の応酬が両国の国益に資するとは思えない。

 日本政府はこれまで、民間主導のアジア女性基金を通じた償い事業などを通じ、この問題を乗り越えようと努めてきた。官民問わず多くの関係者が営々と心を砕いてきた。

 それでも克服できないのが歴史問題の難しさである。

 日本側の努力を粘り強く説明し、話しあいを通じて打開をさぐる。それが責任ある政治家のふるまいではないのか。

 もちろん、各国の政治家の大半は、日中、日韓関係のこれ以上の悪化を望んではいまい。

 国民の多くも心を痛めていることだろう。

 日中韓の3国の相互依存関係が、あらゆる分野で、もはや切っても切れない深まりと広がりをもっているからだ。

 偏狭なナショナリズムが燃え上がり、相互不信が広がらないよう目を配る。それこそが政治の役割である。

 お互い、一部の政治家の挑発に振り回されてはならない。

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パラリンピック―あの熱気をもう一度

 五輪の余韻が残るロンドンの街に、アスリートたちの躍動が戻ってくる。障害を抱える人たちのスポーツの祭典、パラリンピックが開幕する。

 障害者スポーツ発祥の地への里帰りだ。前回、1948年のロンドン五輪にあわせ、近郊の病院で開いた車いすアーチェリーの大会が始まりとされる。第2次世界大戦で傷を負った患者のリハビリがきっかけだった。

 障害者の自立と社会参加のために始まった大会はいま、競技志向が強まっている。

 先日の五輪で健常者とともに走った義足ランナー、オスカー・ピストリウス選手(南アフリカ)は、北京のパラリンピック大会で短距離3冠のスターだ。

 競技に打ちこむ姿が企業の共感を呼び、プロとして活躍する選手もいる。車いすテニスの国枝慎吾選手は北京大会で金メダルを取り、プロ宣言した。

 「車いすテニスでお金を稼ぎ、プロとして自立できる。そうした成功モデルを子どもたちに示したかった」。健常者と同じ会場で戦う車いすテニスの4大大会など、プロツアーを転戦し、優勝を重ねている。

 ただ、こうした恵まれた環境を享受できる選手は、まだひと握りだ。日本のパラリンピックの選手とスタッフが、個人で負担する活動費は年平均144万円に上る。ロンドンで活躍し、支援してくれる人の輪を広げたいと願う選手が多い。

 勝利至上主義が強まると、ドーピングの誘惑など、負の側面も顔を出す。3大会ぶりに復活の知的障害者の種目では、過去に健常者が偽って出場する不正が露見したことがある。

 技術の進歩がめざましい義足や車いすは、性能が良いものは高価になる。経済格差がそのまま実力差につながる。スポーツに欠かせない公平さをどう保つか。パラリンピックを健全に発展させるための課題だろう。

 国内で、五輪は文科省、パラリンピックは厚労省と、縦割り行政になっている。五輪選手の強化に使う文科省所管の国立スポーツ科学センターがパラリンピックの水泳陣に開放されるなどの改善はある。半面、代表選手への調査で国立スポーツ科学センターを訪ねたこともない選手が8割に上る。

 裾野をつくる一般の障害者をふくめ、スポーツに親しめる環境を広げる必要がある。

 今回は、166の国・地域から、さまざまなハンディを乗り越えた約4300人が集う過去最大規模の祭典となる。メダルラッシュに沸いた五輪に負けない声援を送ろう。

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