【相双地域の医療再生】医師、看護師不足深刻 派遣、採用が難航 住民帰還の障害に
■診療制限
厚生労働省が相双地域の医療再生を目指し南相馬市に設置した「相双地域等医療・福祉復興支援センター」は7日で開設から4カ月を迎える。常勤医師の確保など一部で成果は出ているが、地域全体の医師不足解消という目標達成には程遠いのが現状だ。医療関係者には「安心して医療を受けることができなければ、避難した住民が戻って来ない」と住民帰還への懸念が広がっている。看護師不足も依然、深刻で、診療態勢に影響が出ている。
「相双地域等医療・福祉復興支援センター」は昨年10月、相双地域医療従事者確保支援センターとして開設された。1月に現在の名称に変更し、常駐職員を2人から3人に拡充した。
これまでに、センターの取り組みが実り、福島医大から南相馬市立総合病院に3人、精神病患者の受け皿となる市内の雲雀ケ丘病院に1人の医師が勤務するようになった。しかし、南相馬市内の常勤医師は現在、30人程度で、震災以前の54人には遠く及ばない。震災前より4人少ない10人で対応している南相馬市立総合病院では、産婦人科や小児科などが診療制限されている。
センター職員は連日、県内の自治体や医療機関を訪問し、相双地域への医師派遣の調整を進めている。だが、受け入れ側の医療機関が求める医師の人数や専門科目、派遣期間など要望項目は多岐にわたり、派遣元との調整が難航するケースが相次いでいるという。
センター職員の町田宗仁さんは「医療機関ごとに求める医師のタイプが異なる。1件ごとの要望に合う人材を見つけ出すのは容易ではない」と打ち明ける。一方、南相馬市立総合病院の金沢幸夫院長は「医師不足で地域医療は限界に近い。このままでは相双地域で住民は安心して暮らせない」と危機感を募らせる。
■再募集
県の調査によると、震災に伴い、県内で休職中の看護師は311人。このうち、305人が震災前に相双地域の医療機関に勤務していた看護師だ。看護師は子どもを抱える女性が多く、震災と原発事故の影響で、県内外に避難するケースが相次いだためとみられる。
南相馬市の旧緊急時避難準備区域にある民間の大町病院では、震災前に96人いた看護師が震災後、約半数の46人にまで減少した。病床数は188床だが、看護師が足りず59床の受け入れにとどめている。
病院側は、職場を離れた看護師の避難先を訪れて復帰を呼び掛けるなど確保に懸命だが、「原発事故に不安がある」との理由から復帰するケースは少ないという。市内の他の民間病院についても経営悪化を懸念する声が上がっている。
南相馬市立総合病院は昨年12月から今年1月25日にかけて看護師18人を募集したが、応募は採用予定人員に満たなかった。期間を31日まで延長し、年齢制限を40歳から45歳に引き上げた。それでも、締め切り時点での応募は予定人員の8割程度で、あらためて募集することも検討している。
市の担当者は、子育て中の女性の看護師は放射線の影響を心配し、相双地域での勤務を敬遠する傾向があると指摘。「医師は短期勤務なら応じてくれるが、看護師は、それすら難しい」と嘆く。
【背景】
県の調査によると、昨年12月1日時点の県内138病院の常勤医師数は1942人で、東日本大震災前の同3月1日時点に比べ71人減った。このうち、相双地域は120人から61人に半減した。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故により、医師の県外流出が進んだことが要因と考えられている。一方、看護師は県内116病院で1万3119人から170人減少した。医師、看護師とも県北地域は増えており、県は相双地域から流入したとみている。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)