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国会会期末まで2週間を切ったというのに、2大政党の常軌を逸したふるまいが続く。民主党がきょう、赤字国債発行法案と衆院選挙制度改革法案の衆院採決を強行する構えだ。[記事全文]
消費増税に伴う低所得者対策の一つとして、「給付付き税額控除」の検討が民主党などで始まった。所得税を減免(控除)して支援することを基本に、納税額が少なくて控除しきれない人[記事全文]
国会会期末まで2週間を切ったというのに、2大政党の常軌を逸したふるまいが続く。
民主党がきょう、赤字国債発行法案と衆院選挙制度改革法案の衆院採決を強行する構えだ。
自民党はこれに反発し、あす野田首相に対する問責決議案を参院に出すという。
そうなれば国会は空転する。両法案をはじめ、多くの法案や条約が成立しなくなる。
なのに2大政党は、衆院解散の時期をめぐる政局の駆け引きばかりに精を出している。
まるで駄々っ子どうしのけんかのような幼稚さだが、うんざりしてばかりもいられない。
2大政党に、改めて強く求める。互いに頭を冷やし、一歩ずつ歩み寄る。政治を前に進めるには、それしかない。
まず、民主党に対してだ。
衆院選挙制度改革法案で、自民党の小選挙区「0増5減」法案を受け入れることだ。
民主党の案は生煮えだ。小選挙区、比例代表、連用制の三つの制度が混在する、複雑怪奇、理念不明なしろものである。
これを無理やり参院に送っても、野党としては否決するか廃案にするしかないだろう。
わざと無理筋の案を出し、解散を阻むことが狙いなのか。それは違うというなら、多くの野党が同意する「0増5減」の自民党案を受け入れるべきだ。
その代わり、自民党は赤字国債発行法案に賛成すべきだ。
自民党は予算に反対した。だから予算と一体の法案にも反対が筋だ、という理屈は分かる。
だが、この法案が成立しなければ、今年度当初予算90兆円のうち44兆円の財源の裏付けがなくなる。国民のくらしや日本経済への影響は甚大だ。
政権批判は当然だが、政権を追い込むために国民生活を人質にとるやり方に大義はない。
もう一つ、自民党は首相への問責決議も断念すべきだ。
谷垣総裁は首相と「近いうち」の解散で合意したが、時期の明示は引き出せなかった。なのに今になって「今国会中に解散しないなら問責だ」という主張は説得力を欠く。
自民党には、竹島や尖閣問題での不手際を問責の理由にあげる声もある。だが、一連の領土外交で問責に値するほどの非が首相にあったとは思えない。
そもそも参院での問責決議には、衆院での内閣不信任とは異なり、法律上の根拠がない。それをテコに首相に解散や退陣を迫る政治は終わりにしよう。
2大政党は幹事長会談や党首会談などあらゆる手立てを尽くし、接点をみいだすべきだ。
消費増税に伴う低所得者対策の一つとして、「給付付き税額控除」の検討が民主党などで始まった。
所得税を減免(控除)して支援することを基本に、納税額が少なくて控除しきれない人には残額を給付する。これが代表的な仕組みだ。所得が課税最低限に及ばず、もともと納税していない人には給付だけを行う。
税制の一部である控除と社会保障の給付を一体で考えるべきだ、との視点に基づく。
日本では、税制を仕切る財務省と社会保障を担当する厚生労働省の縦割りのため、制度間の矛盾や効果の乏しい対策が少なくない。省庁の垣根を越えた取り組みとして、給付付き控除の検討を急ぐべきだ。
消費税には、所得の少ない人ほど負担割合が高くなる「逆進性」がある。これをどうやってやわらげるか、政府は2段階で対策を考えている。
2014〜15年に段階的に消費税率を引き上げる際には「簡素な給付」を行う。対象者や期間を絞って現金を戻す案が有力だ。15年度以降に、より本格的な対策をとる。その一つとして給付付き控除があがっている。
海外で、付加価値税(日本の消費税に相当)の負担軽減策としているのはカナダぐらい。子育て支援策のほか、目立つのは就労促進策としての位置づけで、米国や英国、フランスなどが導入済みだ。
年金や生活保護には給付額を物価に連動させる仕組みがあり、消費増税で物価が上がれば反映される。本格対策は、こうした「安全網」の対象にならない低所得・無所得者を中心にすえるべきだろう。
非正規労働や無職の人たちがしっかりした職に就き、より多くの所得が得られるよう後押しするために、給付付き控除を使えないか。
米国は、所得が増えたからといって給付額をすぐには減らさず、一定の所得までは給付額も並行して増やし、その後少しずつ減らしていく仕組みにしている。働く意欲を起こす工夫として参考になろう。
ただ、給付付き控除の導入には、課題が山積している。
まず、対象者の所得をしっかりつかむことが必要だ。15年の導入を目指し、国会で法案が審議中の「マイナンバー」(社会保障と税の共通番号)が不可欠だが、それをどう活用していくか。生活保護や失業保険など、既存の制度とも整合性をとらなければならない。
幅広い検討が必要になる。時間を浪費している余裕はない。