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細かいことで騒いでいるのは少数派ですよ

楽天・三木谷社長、Kobo騒動を語る

 7月19日に電子書籍端末「kobo touch(コボタッチ)」を発売した楽天。7980円と破格の価格を設定し、テレビCMを含む大々的なプロモーションを展開した。しかし、初日から「初期設定ができない」「アプリケーションが動かない」「英語と日本語の書籍が混じっている」など、様々な苦情が殺到。同社は急遽、サポート人員を増強し、対応時間を24時間に拡大するなど、事態の収拾に追われた。
 「読書革命」を謳い、成功を疑わなかった楽天の三木谷浩史会長兼社長は今、何を想うのか。単独インタビューで語った。
(聞き手は原 隆)

――色々トラブルが起きましたが現状は。

三木谷:いや、いいですよ。初期設定の問題で細かいトラブルはあったけど、2日以内に解消できたし、コールセンターも24時間対応にしたし。アクティベーション(利用できる状況にセットアップすること)した人が購入者全体の95%を超えていますからね。そして、何よりコンテンツが売れまくっている。出版社の人に聞いてみたほうがいいですよ。僕は出版社の驚きように驚いている状況です(笑)。

 販売台数は10万台弱程度で、年内目標は100万台。だいたいそこまでいけそうです。やはりユーザーインタフェースがいいんですよね。直感的にできるし、変なボタンもないし、分かりやすいし。評判が非常にいいんです。

「kobo touch」の騒動について答える楽天の三木谷浩史会長兼社長(写真:都築 雅人)

――初日のトラブルについてお伺いしたい。

三木谷:我々としては予期していない問題でした。大きな問題としては2つあります。

 1つはパソコンのOS(基本ソフト)、ウィンドウズのバージョン問題。バージョンが色々あり、一部のパソコンに対応できていませんでした。まさか漢字をユーザーアカウント名にしている人がいるのかと思ったし、漢字のアカウント名を許しているウィンドウズにも驚きました。これは米アップルのMacでは許可されていません。つまり、2バイト対応していなかったんです。

 もう1つはコンテンツ配信ネットワークがキャッシングサーバーに行き渡るまでに想定よりも時間がかかったという問題です。これは日本からの購入者の多くが漫画だったという点が原因です。

 この2つの問題がありましたが、すぐに解消できました。100点ではない。けど95点くらいでしょうか。

――三木谷社長自身も対応に追われたのか。

三木谷:僕は24時間対応ですよ。あとは近くにチームがいますので、ローンチ(立ち上げ)時に起きた細かい問題の整備やコールセンターの24時間対応、機能改善など、アップルのスティーブ・ジョブズ氏じゃないけど、直接指揮を執りました。

 経営トップとしてこういう問題が発生したときは2つの処理の方法があります。1つは抜本的問題解決をする、もう1つは暫定処理して次のフェーズにいくというもの。実際には95%が初期設定を終えているのに、インターネット上では騒いでいる。こういう方々とどううまくコミュニケーションを取るかといういう問題はありました。しかし、実際にはうまくいっているユーザーの声のほうが多いんです。ご迷惑おかけした人もいるかもしれない、それは十分認識しています。しかし、根本的で致命的な問題でもない。とりあえずスピーディに対応してほしいという指示を現場に出しました。

――三木谷社長が謳う「読者革命」を起こすには幅広い人がとまどい無く使える環境が必要では。

三木谷:その通り。だから家電量販店に社員を200名派遣しました。今、店頭に立って商品説明を徹底しています。インターネット時代といえども、IT(情報技術)リテラシーがそこまで高くない方は実際に手に取って買うと思います。コールセンターの24時間対応も同じです。詳細な取扱説明書を入れたとしてもそういう人は片っ端から読んでくれる訳でもない。だからやってて分からないときは電話していただき、使い方などを懇切丁寧に伝えるようにしています。

 コストはかかります。とはいえ、昔、自分が楽天市場を興したときには、(出店者のために)パソコンの設定から何までやりましたからね。まあ、それを考えると、設定まですべてこちら側からやって送ったほうがいいのかもしれない。その辺まで含めて考えています。

 ITリテラシーがそこまで高くない人に対する環境をもっと整えておくべきだったとは思います。

 ただ、このコボは使い続ければすぐに使い方が分かるようになるはずです。すべてをアイコン化しているので直感的なんです。最初は分からないかもしれませんが、慣れてくると非常に使いやすく感じるはずです。

 思い出して下さい。ウインドウズが出てきたときにはあまりにも使ったことがない人が戸惑いました。初心者にはボタンに「設定」とはっきり書いていないと何をするボタンか分かりません。一方で、上級者にはダサく見える。まだ発売して1週間です。そのうち手足のように使えるようになるでしょう。私もまだまだ知らない機能を発見してびっくりしたところです。

(写真:都築 雅人)

――販売を急ぎ過ぎたということはないか。

三木谷:いや、それはありません。基本的に事前のテストは終えていたし、致命的な問題もなかったのでリリースしました。あるとすれば特殊な環境での実験ができなかったということ、コンテンツ配信ネットワークの基本的な部分ができなかったというところだけ。当たり前のことですが、トラブルが起きない前提で出しました。

 重要なことは致命的なトラブルを起こさないこと。細かい修正はスーパースピードで直す。これは実現できたかなと思います。24時間以内にほとんどの対応は終えましたし、例外的な細かい処理についても23日までにすべて終えました。

 だからプロモーションも一切ブレーキをかけていません。繰り返しになりますが、95%の人が初期設定を終えているのです。初期設定の難しさを除けば、後はまったく問題ないと思っています。5%の人は誰かって?途中で難しくて諦めちゃった人はいるでしょう。ただ、致命的な理由で設定できていないという人は基本的には残っていません。ハードウエアにもしかしたら不良があったというのはゼロではないかもしれないけど、これもまた非常に少ない事例です。

――対応を終えた後もインターネット上での騒ぎが収まっていない。

三木谷:時間の問題じゃないでしょうか。実際に騒いでいる人の数を数えると、まずたいしたことないと思いますよ。騒いでいるのはせいぜい2000〜3000人でしょう。致命的な問題があった訳でもないし、コンテンツの売り上げは「超」がつくほど順調ですし。反省すべき点がゼロとは決して言いません。しかし、問題点にきちんとスピーディに対応できたし、これは大成功だったと思います。

――どのくらいのコンテンツが売れているのか。

 うーん、私の本は1000冊以上売れていますね(笑)。恐らく1人が月間で4〜5冊は買うだろうなというペースです。月間で30万冊くらいでしょうか。始めたばかりということも加味した上での数字ですが。とりあえず出版社に取材してみてくださいよ。彼らは(始める前と後で)180度感触が違うから。「こんなに売れているのになんでみんな細かい話で騒いでるんだよ」という感じでしょうね。楽天市場の売り上げも非常に好調。これはシナジー効果が非常に高いんだなと感じています。

――日本の電子書籍市場でアマゾンには絶対に負けられないという発言を過去にしている。

 アマゾン?いやいや真面目な話、(彼らがいつ参入するのか)まったく分からないし、気にしていないし、気にしても仕方がない。アマゾンを意識して何かをやるということはないですよ。いいサービスをさらに良くして面白い機能を付加していく。これをどんどん進めていきます。負ける気がしないという訳じゃないけど、非常にいい状況だということだけは言えます。