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清き瀬戸内?魚去る…「貧栄養化」国が実態調査水がきれいになり過ぎて、魚がすめない?――。瀬戸内海で魚介類の漁獲量が減り続け、漁師らから、こんな声が上がっている。水質改善が進んだことで、植物プランクトンを育てる窒素やリンなどの「栄養塩」が減り過ぎたことが一因と分析する研究者もおり、国も実態解明に乗り出した。 「もうけがない」関西空港に近い泉佐野漁港(大阪府泉佐野市)。瀬戸内海での8時間の底引き漁から戻ってきた大伍健一さん(38)は、浮かない表情を見せた。この日はカレイやヒラメ、エビなどが取れたが、数はどれも少ない。 「10年前は1日に7〜8万円分の水揚げがあったのに、今は2万円程度。船の燃料代も高いし、ほとんどもうけはない」 農林水産統計などによると、瀬戸内海の漁獲量は1982年の46万トンをピークに減少し、2010年は17万5000トンまで落ち込んだ。80年代に比べ、カレイ類が2分の1、イカナゴは6分の1に。アサリ類は約190分の1に激減した。 漁師の多くは船やエンジンの買い替えを先延ばしし、夜間、アルバイトで収入を補う若手もいる。大阪府内24漁協が加盟する府漁業協同組合連合会の松林昇会長は「このままでは瀬戸内海の漁業は終わってしまう」と危機感を募らせる。 窒素量6割減漁獲量減少の原因として、漁師が口をそろえるのは「海がきれいになり過ぎて、魚がいなくなった」ということ。兵庫県立農林水産技術総合センター・水産技術センターの反田実所長は「海水中の栄養塩が減り、海が『貧栄養化』してきたためでは」と指摘する。 瀬戸内海では高度成長期、工場排水や生活排水に含まれる栄養塩で富栄養化が進み、赤潮の被害が頻発。このため国は、79年施行の「瀬戸内海環境保全特別措置法」(瀬戸内法)で工場排水制限や下水道整備などを進め、01年には窒素やリンの総量規制も定めた。 その結果、83年に1リットルあたり0・34ミリ・グラムだった海中の窒素量は、昨年は0・14ミリ・グラムにまで減少。海水の透明度も大阪湾で3メートルから6メートルに広がった。 因果関係は明確ではないが、漁獲量の減少は水質改善と並行して進む。窒素などを吸収して育つ養殖ノリが、栄養塩不足で黄色く変色する「色落ち」が兵庫、岡山、大分県などで頻発。大阪府南部では、魚のエサ場や産卵場になる海藻類が生えず、岩場がむき出しになる「磯焼け」もみられる。 危機感沿岸自治体も危機感を強め、13府県20市で作る「瀬戸内海環境保全知事・市長会議」は昨年12月、総量規制の見直しなど「栄養塩の削減から適正管理への転換」を環境省に要望した。 同省は「栄養塩と漁獲量の相関関係ははっきりしない」としながらも、栄養塩の流れの把握や管理を目指す「海域の物質循環健全化計画(海域ヘルシープラン)」策定に向け、播磨灘北東部をモデル地域に指定。汚水浄化センターの処理能力を弱め、窒素の流入量を増やす実験を行っている。 昨年12月からは、13府県の漁業関係者や専門家へのヒアリングを実施。水産庁も、栄養塩の流れや循環の実態を瀬戸内海東部海域で調査している。 栄養塩 窒素やリンなど富栄養化の原因となる物質の総称で、ノリやワカメなどの海藻類や植物プランクトンを成長させる。増えすぎると赤潮が発生し、逆に不足すると植物プランクトンが減少して、二枚貝類や稚魚などの生育に影響する。 (2012年8月24日 読売新聞)
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