【ソウル】韓国サムスン電子と米アップルとの特許訴訟で、米連邦地裁はサムスンに10億5000万ドル(約826億円)の支払いを命じる評決を出したが、これはサムスンが戦略的な賭けに失敗したことを如実に示す例だ。
韓国の裁判所が別件で示した判断はサムスンに有利な内容だったものの、米裁判所の判断は、サムスンに金銭的に多大な打撃をもたらし、スマートフォン(多機能携帯電話)とタブレット端末の特許をめぐる9カ国での法廷闘争でサムスンをより弱い立場に追い込むとみられる。
米連邦判事は賠償額を3倍に増やしたり、一部のサムスン製品の米国での販売を差し止めたりする可能性がある。サムスンは上訴するとしているが、他にもダメージを食い止める措置を講じる必要があるのは明らかだ。
サムスンの崔志成副会長と同社通信部門の申宗均社長は26日、本社で緊急の会合を開き、同社の代理人、弁護人、それに広報担当者との話し合いに大半の時間を費やした。同社は同日中に声明を出すと発表したが、その後撤回された。
米カリフォルニア州サンノゼの連邦地裁の陪審団は、問題となったアップルの特許7件のうち6件をサムスンが侵害し、一方のアップルはサムスンの特許を一切侵害していないとの判断を示した。今回の評決は、ソウル中央地裁がアップルによる2件の特許侵害と、サムスンによる1件の特許侵害を認める判断を示してから1日もたたないうちに出された。
アナリストたちは、今回の米連邦地裁の評決が当面はサムスンの財務面に影響しないし、同社がスマホ市場でアップルをしのいで世界首位に立っている現況に影響しないだろうと指摘している。サムスンは今回特許侵害を認定されたスマホとタブレット端末の販売を開始して以降、170億ドルの営業利益を計上しているほか、210億ドルの手元資金を有していると最近報告した。また同社は今年、過去最高の180億ドルの利益を計上する見込みだ。
サンフォード・バーンスタイン(香港)のアナリスト、マーク・ニューマン氏は、「サムスンには10億5000万ドルの賠償金を支払うに余りある資金を持っているため、それほど大きな問題にならないだろう」と述べた。同氏は「同社が評決から受ける最大の影響は、評判やブランドのイメージが傷つくことで、米国だけでなく世界中でダメージを受ける可能性もある」と付け加えた。
このダメージは、同社が悪い賭けに出なければ、回避できたであろう。
裁判の証言では、スマホやタブレット端末の特許ライセンスを1台当たり24ドルで売り渡すというアップルの申し出をサムスン幹部が断ったことが明らかになった。サムスンが米国で特許侵害を認定されたスマホを2130万台、タブレット端末を140万台販売していることから考えると、サムスンはアップルの申し出を受けていれば、これまでに5億4500万ドルを支払っていたということになる。これはサムスンが現在置かれている状況よりずっとましだ。賠償額が3倍に増えたり、一部の製品の販売が差し止められたりする恐れがあるほか、訴訟コストが多額になることが確実なことを考えるとなおさらだ。
サムスンは他のケースではライセンス契約を結ぶ意向を示しており、昨年9月にはマイクロソフト(MS)とスマホ技術に関するライセンス契約を締結した。
サムスン幹部は、ライセンス契約の申し出を含め、アップルとの交渉の詳細を明らかにしていない。
アナリストたちは、サムスンとアップルの幹部が持つ各自の特許の価値についての見解は食い違っていたと指摘した。また、訴訟が拡大するにつれて互いの感情が解決の障害になってしまった可能性も挙げられている。
あるアナリストは「アップルとサムスンの双方にこの解決を望む理由があるが、短期的に見ると人間らしい感情問題になっている」と話した。