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2012年8月27日(月)付

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穀物高騰―投機を抑える目配りを

米国を襲った「56年ぶり」という記録的な干ばつで、穀物相場が高騰している。特にトウモロコシはシカゴの先物市場で過去最高値を記録し、小麦も引きずられて値上がりしている。こ[記事全文]

水道事業―節水で過剰投資を防げ

家庭などの節電が効果をあげている。7月は全国で前年から12%余り販売電力量が減った。原発事故を起こした東京電力管内では、やはり節電を呼びかけた昨年より14%も少ない。暑[記事全文]

穀物高騰―投機を抑える目配りを

 米国を襲った「56年ぶり」という記録的な干ばつで、穀物相場が高騰している。特にトウモロコシはシカゴの先物市場で過去最高値を記録し、小麦も引きずられて値上がりしている。

 このままでは、食料を輸入にたよる途上国の人々の生活が脅かされると、世界銀行のキム総裁が声明を出した。

 それだけではない。中国など新興国で食料が値上がりすると景気対策が打ちにくくなる。経済成長をリードするこれらの国の変調が深まれば、世界景気の足を引っ張りかねない。

 G20(主要20カ国・地域)は農業担当者による緊急会合の招集を検討している。輸出規制などの動きが市場の疑心暗鬼を生み、高騰がさらに助長されることがないよう、国際的な結束をはかるべきだ。

 高騰の震源地・米国では、環境保護局がトウモロコシの生産量の4割を使うバイオ燃料向けを減らせないか、検討に入った。こうした供給拡大の手立てを積み上げ、相場の行き過ぎを封じることも欠かせない。

 とはいえ、今回は2007〜08年の高騰のような深刻な状況には至っていない。世界の他の産地を見渡せば、トウモロコシをふくめ供給が絶対的に足りないわけではないからだ。

 むしろ、米国の作柄をめぐる思惑から投機的な動きが相場を押し上げている面が大きい。

 そもそも米農務省はトウモロコシの豊作を予想していた。これが米国などでの在庫圧縮を招き、急激な値上がりの伏線になった。さらに相場の動きを増幅しているのが、日米欧の金融緩和で商品相場に流入するファンドなどの運用マネーだ。

 世界的な景気低迷で、主要国は金融緩和にますます頼っている。これが穀物高騰を招き、逆に景気回復を妨げることになりかねない。

 G20はこの際、商品市場で進む「金融化」に後れをとらないよう、需給の統計や予測の精度を高め、規制監督を強化するなど課題を総点検すべきだ。

 新興国などで食料需要が増しているなか、中長期的には、穀物増産に向けた投資を促すことも必要だろう。先進国で食料が大量に廃棄されている問題にもメスをいれねばなるまい。

 今回の高騰が日本におよぼす影響は限定的とみられる。円高や船賃の下落で価格が相殺されるからだ。

 だが、無関心では済まされない。国内で廃棄される食料は年間2千万トン、熱量換算で全体の4分の1にもなる。私たちに何ができるかも考えたい。

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水道事業―節水で過剰投資を防げ

 家庭などの節電が効果をあげている。7月は全国で前年から12%余り販売電力量が減った。原発事故を起こした東京電力管内では、やはり節電を呼びかけた昨年より14%も少ない。

 暑さをしのぎ節電に取り組んだたまものではあるが、裏を返せばこうも言える。「電力の安定供給」を掲げる電力会社任せにしてきた結果、必要以上の過剰な投資がされてきた――。

 自治体が供給する水道も、同じことが言える。

 最大の水道事業者である東京都はこの春、9年ぶりに需給予測を見直した。人口減をみすえて全体を下方修正し、初めて右肩上がりの予測を改めて将来の減少を見込んだ。

 とはいえ、需要のピークは「2020年度の1日あたり約600万トン」。これに対し、10年度の実績は490万トンにすぎず、78年度の645万トンから減少傾向が続いている。見直しは全く不十分だ。

 過剰な予測に基づく投資は利用者の負担増につながる。今後、既存の浄水場などの更新だけで1兆円かかるという。社会構造や利用者の意識の変化をとらえて節水を促し、コスト削減への取り組みを強めるべきだ。

 水道の需要予測は、次のような手順を踏む。

 生活、工場など用途別に1日あたり平均使用量の見込みを出す。漏水分を考慮し、使用のピーク時に備えた修正をする。平均に対してピークを何倍と見込むかがカギだ。

 高度成長期以降、東京都の最高値は77年度の1.25倍。倍率は低下傾向にあり、昨年度は1.11倍。夏場の需要がかつてほどふくらまなくなった。

 東京都は今回の推計で77年度の1.25倍を使った。「災害対策も意識し、より長期的に見込んだ」という。

 対照的なのは、大阪府が3年前に行った見直しだ。

 大阪でも倍率は低下傾向にある。その原因を分析し、通年で使う屋内プールが増えたこと、エアコンの普及で夏場のシャワーの回数が減ったことなどを全国的な傾向として指摘。「倍率の上昇は考えにくい」とし、直前5年間の平均である1.14倍とした。

 渇水による給水制限は、東京では平成になってからも5回あった。安定供給は欠かせないが、だからといって八ツ場(やんば)ダム(群馬県)など国が開発中の施設からさらに水を買う、という発想はとるべきではない。

 今こそ節水を呼びかけ、需要を抑えて安定供給につなげる好機とすべきではないか。

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