老人ホームの営業などを担当しながら、ヘルパーの資格を取得するなど介護業界で経験を積んだ。その現場で、「寝たきりのお年寄りが背中の血行不良によって床ずれに苦しむ姿を何度も目の当たりにした」。いったん床ずれを発症すると、なかなか完治せず、壊死が進んで骨が露出するケースもあったという。
高齢者を助ける製品を自分の手で作りたい──。そう強く思った中村は、床ずれを防止するマットレスを開発するために起業を決意。05年にベネクスを設立した。
しかし、実用化までの道のりは苦難の連続だった。
コンサルティング会社在職時から、繊維を疲労回復に活用するアイデアは頭の中にあったが、素材に関する知識は皆無で開発する技術はなかった。
そこでまずは連日連夜、関係しそうな会社を調べ上げた。ナノ(10億分の1)メートル単位の先端材料を開発する会社を探し当てると、当時、先端材料の用途は産業用に限定されていたが、これを繊維に応用する共同研究を申し込んだ。
ナノ単位のプラチナは固まりやすく、繊維が切れやすくなる。この問題を解決するため、プラチナと数種類の鉱物の配合をさまざまな割合で繰り返す日々が始まった。
ただ、この作業は織機を酷使するため、試作品の製造を依頼した業者からは何度も断られた。何とか製造にこぎ着けても、機械が壊れることもしばしば。多額の修理代を請求されたこともあったという。
苦節1年余り、やっとの思いで、プラチナ効果による血行促進で床ずれを防ぐ介護用のマットレスを完成させることができた。特許も取得して満を持して売り出したが、10万円と高額だったこともあって「介護業界からまったく相手にされなかった」。1枚も売れることなく在庫の山が積み上がった。
万事休す、かと思われたが、救いの手が思わぬところから伸びてきた。
途方に暮れていたときに参加したとある展示会だった。