「ロンドン五輪の聖火、テムズ川にドボン/ギリシャからやり直し」
「政府、大飯原発に祈祷(きとう)師200人を派遣へ」
見出しを見て「え、マジ?」とつい読み始め、途中で「ん? なんか変だ」と感じ、最後まで読むと「なんだ、うそか」と分かる。そんな記事ばかりのニュースサイトがある。
その名も、虚構新聞(http://kyoko-np.net)。
ホームページによると、同紙は「虚実の狭間(はざま)を行き交うニュースサイト」、だそうだ。ニュースの風刺、皮肉を通じ、世の中の出来事に関心を持ってもらうことが目的で、2004年から約600本の記事を掲載してきた。記事にだまされるのは記者だけではない。そんな虚構新聞の記事が、ある騒動を引き起こした。
「橋下徹・大阪市長が小中学生にツイッター利用を義務化」(5月14日)
市内の小中学生に使い方を学ばせ、1日1回のツイート(つぶやき)を義務づける、という記事はツイッターなどを通じてまたたく間にネット上に拡散した。
1日1.5万件の同紙サイトへのアクセスも10万件に急増。サイトが見られなくなる「炎上」状態に。
「橋下氏の売名行為だ」と記事を真に受けた怒りや、「デマを拡散させるな」「ウソならウソと書け」との同紙への批判のほか、「ジョークが分からない人が多すぎる」「釣られる(だまされる)方が悪い」との意見もあり、賛否両論が渦巻いた。
3日後、虚構新聞は、「当たりさわりのない無難な記事では、期待されている役割を放棄することになる」と、今後もうそ記事を発信し続ける方針を表明、沈静化していった。「張本人」の橋下市長からは抗議はなかった。
虚構新聞の社主と名乗る「UK(ユーケー)」氏を取材した。滋賀県に住む30代前半の塾講師の男性だった。「何でこの記事が騒動になるのか意外だった」と振り返る。騒動直後は「滝のように流れるツイートをただ眺めるしかなかった」と、心労から食欲が落ち、体重が減ったと明かす。騒ぎを起こすつもりはなかったという。
8年前のサイト開設当時のアクセスは1日数百人。「仲間うちでジョークを言い合って楽しむような感覚」で、記事を読んだ人にくすりと笑ってもらえればよかった。
だが、ツイッターが普及してからはそうもいかなくなった。騒動のあった3日間のアクセスは計16万件。昨年4月にもツイッターに関する記事を掲載し、炎上した。自分の知らないところで、情報が広まっていく怖さを感じることもある。だが、「ネット言論を萎縮させないためにも、書きたいことをつらぬく。騒動で有名になったので、きわどい記事も載せやすくなるのでは」とUK氏。
虚構新聞は、ネット上の情報を読み解く教材にもなっている。札幌旭丘高校(札幌市)の高瀬敏樹教諭は4年ほど前から、「情報」の授業で取り上げている。記事を見た生徒たちは、種明かしをするまで本当だと信じていた。「ネット情報をうのみにせず、発信元を確かめる重要性を学ぶことができる。メディアリテラシーを学ぶ格好な教材だ」と話す。(北林晃治)
■過去に虚構新聞に掲載された重大記事
・エイプリルフール法が今日から施行(2004年4月1日)
・10桁で終了、円周率ついに割り切れる(05年2月9日)
・「おとなの日」制定を、都内で大人がデモ(06年5月5日)
・夏の甲子園、来年から総当たり方式に(09年7月31日)
・鳩山首相が年頭所感「お年玉、今年はもらいません」(10年1月2日)
・4月から 17文字に ツイッター(11年3月25日)
・ユッケ、よく焼いて食べて、消費者庁呼びかけ(11年5月4日)
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「ニュース圏外」は今回で終わります。