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地上波の韓流ドラマ禁止について――チキンレースではなく日韓関係の不均衡を正常化する作業として

宮島理

2012年08月26日 07:00

もし日本における韓流の制限が行われるようなことがあれば、韓流好きは断固反対するべきだ。外交上の摩擦を理由に、民間の経済活動を制限するようなことがあってはならない。ただし、日本における韓流開放が韓国における日本文化開放と均衡されることが条件である。

 日本が韓流の制限をするのではないかと一部報じられたことで、韓流好きの間に動揺が広がっているようだ。
「大阪市の会社員永野泰子さん(27)は『領土問題と芸能界は関係ない。政治的問題をエンターテインメントやスポーツに持ち込まないでほしい』と強い口調で訴えた。(略)福岡・北九州市の50代主婦は『竹島問題で韓流ドラマやK-POPまで影響して、韓国の俳優や歌手の活動が制限されたらかわいそう。そんなことになったら、韓流好きのおばさんたちのデモが起こる可能性もある』と興奮気味に話した」(日刊スポーツLink より)
 韓流好きによる「政治的問題をエンターテインメントやスポーツに持ち込まないでほしい」という発言はまったくその通りである。外交上の摩擦があり、国民感情が悪化していても、市場メカニズムに基づいた民間の活動は円滑に継続されるというのが、あるべき状態と言える(準戦時には経済制裁が行われるが、日韓関係は準戦時ではない)。もし、日本における韓流の制限が行われるようなことがあれば、韓流好きのおばさんたちは断固反対するべきだと思う。

 もっとも、日韓関係は最悪だが、日本の対応は冷静である。対抗措置として検討されているのは政府レベルでの人的交流や経済協力の制限であって、民間の経済活動は今のところ制限される気配はない。韓流もこれまで通り自由に日本国内で流通し、韓流好きは思う存分楽しむことができるだろう。

 普通は、外交上の摩擦を理由に、民間の経済活動を制限するようなことは起こらない。その意味で、「このままでは日韓の経済にも悪影響が出て国益を損なうから日本は冷静になろう(韓国に譲歩しよう)」という意見はおかしい。現に、過去の日韓関係では、外交上の緊張が高まった時でも、経済活動はますます自由に行われてきた。

 ここで、念のために解説しておくが、韓国は昔から日本文化の流入を制限している。その根拠は日本統治時代などの歴史問題とされているが、実質的には幼稚産業保護政策の一種である。韓国の経済発展とともに幼稚産業保護の必要性も薄れ、1998年に日本文化開放が初めて行われた。その後、1999年、2000年、2004年と段階的に開放が進められている。

 特筆すべきは2004年の開放(第4次開放)である。小泉首相の靖国参拝で日韓関係は緊張し、日本国内のリベラルメディアが「このままでは日韓の経済にも悪影響が出て国益を損なうから日本は冷静になろう(韓国に譲歩しよう)」と連呼していた時期だ。日韓は外交上の摩擦を抱えていたが、そんな中でも日本文化開放は行われ、この第4次開放によって「韓国国民が対価を払って楽しむタイプの日本大衆文化は基本的に開放された」Link のだった。

 このことからわかるように、日本は「友好」や「(リベラルメディア的な意味での)国益」という表面的な言葉に惑わされずに、韓国に対してはあくまで冷静に日本の立場を最優先して外交関係を構築していくべきである。一方、経済活動については市場メカニズムに委ね、必要なものがあれば交易をする(日本嫌いの韓国人でも日本製品は買う)。いずれにしろ、外交においても経済においても、日韓の好き嫌いの感情が入る余地をどんどんなくしていく必要がある。

 私は今回の件をきっかけに、日韓関係がある意味で正常化したと考えている。これまでは好き嫌いの感情(ただし「好き」は日本から韓国へ、「嫌い」は韓国から日本への一方通行)により、外交が大きく歪められてきた(日本は譲歩し、韓国は要求を増幅させる)。これからは、あくまでもそれぞれの国の立場を最優先して、外交では対等に激しくやり合いながら、(朝鮮半島情勢など)必要な時には手を組む。民間は勝手に自由に経済活動を行う。好き嫌いの感情を抜きにした、真の意味での「冷静な日韓関係」とはそういうものだ(「冷静に、冷静に」と言いながら、好き嫌いの感情に基づいた悪しき友好外交へと引き戻そうとするリベラルメディアは間違っている)。

 ただ、文化流入については日韓間で不均衡がいまだに存在する。韓国では、地上波テレビ放送分野などで日本文化の制限が続いているからだ。ユーザーが直接対価を払わずに見ることができる地上波テレビ放送で日本のドラマが垂れ流しになるのは「文化帝国主義」や「洗脳」につながるということなのだろうが、だったら、日本の地上波テレビ放送で韓流ドラマが垂れ流しになっているのはどうなのか。

 韓国は、今こそ日本文化開放をさらに進めるべきである。韓国の地上波テレビ放送では日本のドラマが流れ、日本の地上波テレビ放送では韓流ドラマが流れる。視聴率が悪ければ市場メカニズムで淘汰される。文化流入においてもそうした正常化が必要だ。

「政治的問題をエンターテインメントやスポーツに持ち込まないでほしい」と考える韓流好きなら、韓国のさらなる日本文化開放についてもきっと賛同してくれることだろう。本来なら、韓国における日本文化が制限されている現状で、日本が地上波テレビ放送での韓流ドラマを禁止したとしても、韓国も韓流好きも何の文句も言えないはずなのだ。日本政府も、これまでのような日韓友好の観点を捨てて、あくまでも「韓流開放を日本文化開放並みにする」と宣言した上で、文化流入の正常化を目指すべきである。



【追記】韓国の政府高官は「日本が冷静になり、何もなかったようにすればいい」Link と考えているようだ。つまり、彼らの中で今回の件は偶発的に起きた日韓両国によるチキンレースであり、いつものように日本が譲歩して静かになればレースは終わると考えているのだろう。

 しかし、残念ながら今回は“落としどころ”など存在しない。韓国がこれまで何百回、何千回と一方的に自己主張してきたように、(日韓友好が幻想だったと気づいて)日本もようやく自己主張を始めたというだけだ。これから日本は、何百回、何千回と自己主張をしていく。双方がすれ違いになったとしても、それはずっと続いていく。(それでも問題ないというのは上述した通り)

 同時に、日韓関係の不均衡を正常化する作業が進められていくだろう。日本は日韓友好のために、韓国の一方的な自己主張を黙って聞き入れてきた。その結果、客観的事実に基づかない歴史認識問題の処理、文化流入における障壁など、さまざまな不均衡が発生している。

 韓国は「また出来レースで日本を叩いて得点を稼ぐか」と軽い気持ちで始めたのかもしれないが、日本はもうそんな出来レースに付き合うつもりはない。ただ、日本は別に韓国を嫌いになったわけではなく、日韓友好にほとほと疲れ、諦めるようになっただけだ。日本の自己主張を「感情的な過剰反応だ」Link と受け止める韓国は、むしろ日本が一時の感情(友好)に流されるのを止めて、真剣に外交を始めたということを理解する必要がある。

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