中国から夜逃げした韓国企業の裏事情

 中国江蘇省無錫市にある韓国企業が最近、10日間にわたり「無政府状態」に陥った。先月19日、この企業に資材を供給してきた地元業者が押し掛け、大型トラックと乗用車で会社の出入り口を封鎖したため、工場の操業がストップした。地元業者が動員したデモ隊約70人が工場内をうろつき、工場の従業員が片側3車線の道路を占拠してデモを繰り広げた。地元業者は代金の支払いを、従業員は未払い賃金の支払いをそれぞれ要求した。このうち工場内のパソコンや器具、資材を勝手に持ち去った人もいたが、それを制止する人はいなかった。事態の拡大を受け、当局が介入し、工場への立ち入り禁止措置が取られ、全ての資産が差し押さえられた。現在工場には持ち去られずに残った設備だけが無秩序に放置されている。

 問題の企業は、サムスン電子の下請け会社「世信科技」だ。借金を踏み倒して夜逃げした悪徳企業として批判にさらされた同社は「事態の責任はサムスン電子の中国法人にある。全責任を我々になすりつけられた」と主張。これに対し、サムスンは「支援しようとしただけで、責任はない」と反論している。双方の間で一体何が起きたのか。

■差し押さえられた工場

 世信科技は、31年にわたりサムスン電子に納品してきたセストが1988年に中国に設立した現地法人だ。サムスン電子が江蘇省蘇州市に現地法人を設立したのに伴い進出した1次下請け会社で、冷蔵庫、洗濯機など家電製品の外装材、包装材を供給してきた。しかし、2008年の金融危機以降、累積赤字が200億ウォン(約14億円)を超えるなど、世信は経営難に直面していた。

 世信は昨年3月、サムスン電子の現地法人に支援を要請した。サムスンからの受注拡大と資金支援がなければ、工場の操業は不可能だとして、支援を受けられないなら、工場を買収してほしいと申し入れた。サムスン現地法人の調達担当幹部は「追加発注も資金支援も困難だ。サムスンが下請け企業を買収した例はない」とあっさり要求を拒否したという。

 世信は当時、銀行から借り入れた債務150億ウォン(約10億5000万円)に加え、未払い賃金、資材代金など合計250億ウォン(約17億5000万円)の債務を抱えていた。これに対し、面積3万5000坪の敷地など工場の資産価値は300億ウォン(約21億円)近くあった。このため、世信は資産と負債をまるごと引き継いでもらえれば、現金30億ウォン(約2億1000万円)で工場を売却する方針だった。世信が操業を中断すれば、サムスンの生産にも支障が出るため、サムスン幹部は1カ月後、「世信を買い取る企業を探すから、工場を売却してもらいたい」と述べ、仲介役を務める意向を表明した。

無錫(中国江蘇省)=姜訓(カン・フン)記者
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